禁欲の夫と決別する西園寺聖(さいおんじ ひじり)を数え切れないほど誘惑した。それでも初夜を迎えることに失敗した後、秋月鹿乃子(あきづき かのこ)は兄に電話をかけた。
「兄さん、私、離婚しようと思う」
電話の向こうで沈黙が流れ、やがて秋月臨也(あきづき いざや)の低い声が響いた。
「言っただろう。西園寺聖という男は、お前が俗世に引きずり下ろせるような相手じゃないんだ」
鹿乃子は赤い目をして笑った。
「そうね。私が身の程知らずだったわ」
「D国に来い」
臨也の声は明るかった。
「こっちにはいい男が山ほどいる。聖なんかに負けやしない。俺のこんなに可愛くて手のかかる妹を大事にしないなんてな。あいつについては、一生孤独のまま腐ればいいさ」