固有名詞の処理は意外と厄介だ。読者の頭に残る名前の響きと、原作が込めた意味やニュアンスの両方をできるだけ保ちたいから、個人的には三つの軸で判断している。
まず第一に、意味を伝えるべきか音を優先するかを見極める。例えば『転生したらスライムだった件』の「リムル」は音がアイデンティティの一部なのでローマ字表記の'Rimuru'を使って音の印象を残す。逆に「魔国連邦」のように政治的・概念的な語は意味を訳出して『魔国連邦(Demon Country Federation)』のように併記すると読者が世界観を把握しやすい。
次に統一性。シリーズ全体で一貫したルールを作り、用語集を用意する。たとえば種族名はすべてカタカナで統一するのか、英訳を与えるのかを決め、それを以降の巻で崩さない。注釈は最小限にし、どうしても説明が必要な場合にのみ使う。最後に読者層を意識すること。ライトノベル寄りの語り口なら柔らかめの訳語を選び、学術的な注釈は避ける。僕はこうした方針で訳し、結果として原作のユーモアも世界の重みも両立できたと感じている。