伝え聞いた制作秘話を思い返すと、いつも胸が温かくなる。現場での細かな配慮や、役作りにかけた工夫がいくつも語られていて、そのたびに声優という仕事の繊細さを改めて実感するからだ。例えば、
トウヤの感情の揺れを表現するために、台本にない“呼吸の間”を監督と相談して挿入したという話は印象的だった。演技の中で息遣いをどう使うかでキャラクターの年齢感や疲労感が変わってくる──それを徹底的に試したという点に、プロとしてのこだわりを見た気がする。
別のエピソードでは、収録が物語の時系列通りで行われないことに苦労したという。出来事の順序がバラバラだと感情の積み重ねを自分のなかで正しく保つのが難しい。そこでトウヤ役の人は、ノートにシーンごとの感情ラインを書き込んで、撮るたびに確認していたそうだ。たまにそのノートのメモが小さな“合図”になり、共演者との掛け合いで自然な間合いが生まれたとも聞いた。録音室の外で交わされる些細な会話や、休憩中の冗談がそのまま本番の空気に還元される瞬間が好きだと語っていたのも、現場の温度感を想像させてくれた。
最後に、意図せず生まれた小さなアドリブが結果的にキャラクターをより立たせたという話がある。台本通りに言うセリフと、ほんの一呼吸を変えた言い方が合わさって、視聴者に強い印象を残した場面があったらしい。作品を追いかけているとそうした“裏の工夫”が見えてくるたびに、声の一振り一振りが熟考の賜物だと感じる。そういう制作秘話を知ることで、作品を見る目がまた少し変わった。