カメラワークを決める前に考えるべきなのは、感情の“流れ”をどう映像で受け止めるかだと考えている。
トウヤの名シーンは台詞そのものよりも間や目線、呼吸の変化が核になることが多いから、過度な説明カットや過剰な動きでそれを消してしまわないよう注意する必要がある。僕だったらまず長回しや静止ショットを検討する。被写体の微かな表情を逃さないために、短いカットの連打よりもひとつのフレームに感情を留める時間を与えることが多い。そうすることで俳優の内面が画面に滲み出し、観客は言葉の裏側にあるものを読み取れるようになる。
描写のトーンを決める際には照明と色彩の扱いが重要になる。トウヤが孤独や決意を示す場面では寒色を主体にして硬めのコントラストで形を際立たせ、逆に救いや和解が訪れる瞬間は暖色を差し込んで柔らかくするといった具合だ。だが安直に色で説明するのではなく、色の移り変わりを小さなモチーフ(例えば窓の反射、衣装の一部、背景のネオン)に繋げると自然に感情が補強される。例として、クライマックスでのタイミングを丁寧に拾った'君の名は。'の演出手法を参考にすると、音と映像のズレを最小限にして観客の感情移行をスムーズにできる。
最後に役者とのやり取りについて。僕は台詞をそのままなぞらせるだけでは満足しない。トウヤの持つバックボーンを短いリハーサルで共有し、現場で即興的に小さな動きを加えてもらうことで、画面上のリアリティが格段に上がる。カメラ位置やレンズ選定はその延長線上で決めるべきで、例えば中望遠で圧縮して表情を強調するか、広角で空間の孤独感を出すかで見え方が全く変わる。音周りも忘れずに、台詞の前後に入る呼吸や衣擦れをしっかり収録すると、編集での“間”が生きてくる。こうした要素を噛み合わせれば、原作ファンも納得できる、かつ映画として強いトウヤ像が立ち上がるはずだ。