メノン~徳(アレテー)について~とプロタゴラスの思想の違いは?

2025-11-28 17:14:28 15

3 Answers

Veronica
Veronica
2025-11-29 10:51:14
メノンとの対話でソクラテスが探求する『徳(アレテー)』の概念は、そもそも教えられるものなのか、それとも生まれつき備わっているものなのかという根本的な問いから始まります。ここでのソクラテスのスタンスは、徳が知識として伝達可能だとするプロタゴラスの相対主義とは明らかに異なります。

プロタゴラスが『人間は万物の尺度』と主張した時、彼は道徳的価値の絶対性を否定し、個人の感覚を基準にした真理の相対化を促しました。一方、ソクラテスは徳の普遍性を信じ、問答を通じて魂が既に知っている真理を『想起』させようとします。『メノン』後半の数学奴隷のエピソードは、知識が外在的に教え込まれるのではなく、内発的に導き出されるべきものだという彼の立場を鮮明に示しています。

両者の違いを最も際立たせるのは、教育観でしょう。ソフィストたちが技術としての徳を教授可能と考えたのに対し、ソクラテスは師弟関係の対話的営みの中にしか真の学習が成立しないと説きました。
Emma
Emma
2025-12-04 05:32:58
『プロタゴラス』対話篇で描かれるソフィストの教育論は、実利的でプラグマティックな色彩が強いですね。徳を政治的に成功するための技能とみなし、修辞学や弁論術と同列に扱うところに、当時のアテナイ新興階級の価値観が透けて見えます。彼にとって徳とは社会で勝ち抜くためのツールであって、絶対的な善というよりは相対的な適応能力に近い。

これに対して『メノン』におけるアレテー論は、むしろ人間存在の本質に迫る哲学的探求です。ソクラテスが提示する「徳は知識か」という命題そのものが、プロタゴラスの発想とは次元が違います。例えば、悪を意図的に行う者はいないという知的主義的主張は、道徳的価値を個人の利益計算から切り離す試みと言えるでしょう。

興味深いのは、両作品とも結局徳の定義に到達できないまま対話が終わる点です。しかしプロタゴラスがその曖昧さを教育的売り物にしたのに対し、ソクラテスは無知の知を出発点として尊んだという根本的姿勢の差が見て取れます。
Brooke
Brooke
2025-12-04 20:14:44
プロタゴラスの思想の核心は『真理の相対性』にあると言っていいでしょう。『雪はギリシャ人には冷たいがトラキア人には温かく感じられる』という有名な例えのように、感覚的主観を重視する立場からすれば、徳の内容も文化や個人によって変わり得ます。この点、『メノン』で追求される普遍的な徳の定義とは真っ向から対立します。

ソクラテスが数学的真理の不変性を例に挙げるのとは対照的に、プロタゴラスの世界観では善悪の基準さえ流動的です。面白いのは、両者とも伝統的倫理観への懐疑という点では共通していたのに、そこから全く逆の方向へ進んだこと。ソフィストが相対主義を梃子に教育ビジネスを展開したのに対し、ソクラテスは揺るぎない真理の存在を信じ続けました。

現代の視点で見ると、プロタゴラスの考え方には多文化主義的な先見性があったと言えますが、ソクラテスが指摘したように、この立場ではそもそも徳を教える意味そのものが問われてしまいますね。
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