細かいあらすじを求める声を受けて、まず舞台だけ手短に伝えるね。'
リベルタ'は管理と秩序が極端に支配する国で、公式には『安定』が最優先とされる世界だ。その中で主人公のエリオは、かつて家族を奪われた過去を抱えながら図面や古地図を扱う仕事をしている。ある日、埃をかぶった地図の隙間から地下組織『リベルタ』の存在を示す暗号を見つけ、好奇心と復讐心が交差するかたちで関わりを持つようになる。
物語は外形的には“秘密結社に加わる青年の反乱”という筋立てだが、展開は心情の揺れに重心がある。潜入や情報戦、仲間の裏切り、そして勢力の中で理念が変質していく過程が丁寧に描かれている。私が特に惹かれたのは、戦術的な活動描写だけでなく、エリオが自分の痛みをどう扱うか、自由を手に入れるためにどれだけの犠牲を許すのかという葛藤に焦点が当たっている点だ。物語は極端な終局を迎えるが、その結末は完全な勝利でも敗北でもなく、登場人物それぞれの選択がもたらす“生活の再構築”を示す。
テーマとしては監視社会と個人の尊厳、記憶の継承が軸になっている。冷徹な統治の描写はどこか'1984'を思わせるが、感情の揺らぎや小さな共同体の温度感を忘れない物語だと感じた。全体としてはテンポの良いサスペンスと、静かなヒューマンドラマが両立している作品で、決して簡単に答えを出さない結末が心に残る。