ページをめくるたびに、風景が少しずつ色を変えていく様子が目に焼きつく。'
ハイドレンジア'の物語は、主人公の茜が故郷の町に戻り、祖母の庭に咲く紫陽花と向き合うところから始まる。幼い記憶と大人になった視点が交錯して、失われた時間や忘却の断片が少しずつ表出してくる構成だ。
物語の中盤では、町に伝わる古い言い伝えや謎の水源が重要な役割を果たす。茜は人間関係のひびや家族の秘密に触れるうちに、自分のアイデンティティと向き合い、過去の選択が現在にどう影響するかを学んでいく。サブプロットとして、地元の若者たちの世代間対立や環境問題が効果的に絡められている。
終盤は、記憶の修復と和解が主題として昇華される。象徴的な花である紫陽花が、色を変えるように登場人物たちの関係も変容する。私はこの作品を通じて、喪失と再生、共同体の記憶の重みについて深く考えさせられた。全体として詩的でありながら人間関係の機微を逃さない一作だ。