三浦しをんの『舟を編む』では、辞書編集部という特殊な環境にいる人々の心の襞が鮮やかに切り取られている。主人公の馬締光也だけでなく、
岸辺みどりの「言葉への畏敬とコンプレックス」や西岡正志の「軽薄さに隠された真剣さ」が、辞書作りの過程を通じて浮かび上がる。
食堂のおばちゃんや取引先の出版社員など、一見脇役的な存在にも「この語釈では足りない」と感じる瞬間の心理描写が施されている。辞書という無機質なものを作る人間たちの熱量が、周囲のキャラクター群の多様な反応によって立体的に構成されている点が傑出している。
最終的に「言葉」を媒介にした人間関係の変化が、どのキャラクターにも等しく深い影と光を与えている。