ミュージカル『レ・ミゼラブル』の2012年映画版で、アン・ハサウェイ演じるファンティーヌが歌う『I Dreamed a Dream』のシーンは、唇の動きが物語そのものになっている。涙でぐしゃぐしゃになった顔で、震える唇が「過去には美しい夢があった」と語りかけてくる。歌詞を知らなくても、あの唇の痙攣するような動きから、彼女の人生がどう転落していったのかが手に取るようにわかる。
映画音楽の力もさることながら、ハサウェイの演技が生み出す微細な口元の動きは、台本を超えた物語を紡ぎ出す。唇がかすかに震えるたびに、観客は彼女の飢え、寒さ、絶望を肌で感じ取る。特に『Then it all went wrong』の部分で上唇をわずかに巻き込む仕草は、言葉にできないほどの屈辱を表現していて、何度見ても胸が締め付けられる。これほどまでに唇の動きだけでキャラクターの過去と現在を同時に語れる作品は他にないだろう。