台詞のアクセントやリズムをいじるだけで、キャラクターの心の位置が変わって見えることがある。短い台詞を早口にして畳みかければ動揺や焦りが出るし、あえてゆっくりとした間を作れば迷いや
諦念が滲み出す。ある回想シーンを演じたとき、過去を語るパートだけ声を少し遠くさせることで、まるで距離を置いて自分を見ているような冷静さを出すことができた。私はその方法で感情を二重化するのが好きで、同じ言葉でも“今”と“過去”で違う声のトーンを使い分ける。
具体的な発声の工夫では、喉の開き方を調整して声に粘りを持たせたり、歯茎に近い位置で子音を鳴らして冷たさを演出したりする。声を薄くしてささやくようにすれば親密さや秘密めいた感情が伝わるし、声帯をしっかり締めて低音を強めれば説得力や圧力が生まれる。台詞の最後を少しだけ落とすと諦めに聞こえ、上げると希望や抵抗になる。こうした細かな操作は場面ごとの心理的な裏書きをつくる助けになる。
演技の参考にする作品としては、感情を抑えた表現の対比が印象的な場面がある。抑制と爆発の間で声を微妙に揺らすことで、聴く側にキャラクターの内面を想像させる余地を残すのが狙いだ。'鋼の錬金術師'のある冷静な対話シーンを観ると、声の抑揚の作り方が学べると思う。