『紐帯』の魅力は何と言っても、緻密に描かれた1943年の東京の描写でしょう。空襲下の街並み、配給制度で苦しむ人々の様子、そして戦時下でも変わらない
市井の人々の日常が生き生きと描き出されています。
現代の主人公が驚くほど発達した当時の娯楽文化や、戦時体制と隣り合わせの普通の生活には、歴史の教科書では伝わらない生きた時代の息遣いが感じられます。雪子が勤務する陸軍病院でのエピソードは特に心に残り、戦争の非情さと医療従事者の
献身が対比的に表現されています。
時間移動ものとしては珍しくSF的な要素を控えめにし、あくまで人間ドラマに焦点を当てている点がこの作品の独自性と言えるでしょう。