小さなコツを押さえると、異種の
交尾儀礼は読者の胸に自然に落ちていく場面になる。
まず、生態と機能を考えるのが手っ取り早い。相手を引き付けるための色、音、匂い、触覚のどれが重要かを決めて、それがなぜ進化したのか筋道を立てると納得感が出る。私はよく自分の創作ノートで“この器官は何のために残ったのか”と問い、互いの利益(あるいは騙し合い)を設定してから描写を組み立てる。どんなに奇抜な儀礼でも、エコロジーに根差していれば説得力が増す。
次に、直接的な表現を避けて行動で示すこと。触れ方の強さ、間合いの取り方、鳴き声の合図、交換される小物――そうした具体を積み重ねると読者は「そういうことか」と理解する。たとえば私が書いた短編では、'海鱗の宴'に登場する種が鱗を一枚ずつ差し出す描写で互いの駆け引きを表現した。言葉を減らして身体と言葉外の文化を見せると、読み手は勝手に背景を補完してくれる。
最後に倫理とトーンの配慮を忘れないで。種によっては同意や役割が複雑になるので、人間の価値観だけで判断せず、その種の常識を内部から示す手間を惜しまないこと。私はいつも結末で儀礼が関係性をどう変えたか、小さな余波を残して筆を置くようにしている。そうすると儀礼は単なる性的描写に留まらず、物語の深みを増す要素になる。