訳していると、ひとつの日本語表現が英文で複数の顔を見せることに驚かされる瞬間が何度もある。'不甲斐ない意味'はその好例で、文字どおりの直訳よりも文脈に応じた感覚を重視する必要があると私は考えている。
作品の中で登場人物が自分の無力さや失望を嘆く場面では、ニュアンスとして『a sense of inadequacy』や『a feeling of helplessness』がしっくり来ることが多い。たとえば内面的な反省や自己嫌悪を描く文脈では、堅実に『a sense of inadequacy』を当てると英語読者に自然に伝わる。一方で他者への蔑みや嘲笑を込めた台詞なら、『pathetic』や『worthless』のような単語が生々しく効く。
翻訳のコツは、語感(恥ずかしさ・苛立ち・諦観)を見極めることだ。ナラティブ描写なら『a sense of failure』や『an overwhelming feeling of inadequacy』と長めにして温度を保つこともあるし、台詞なら短く『I'm useless』や『How pathetic』で衝撃を残すのが有効だと私は経験してきた。結局、正解は一つではなく、文体と登場人物の立場に合わせて最適な英語表現を選ぶことが肝心だと思う。