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撮影技法に寄せると、カメラの視点をめぐる実験が楽しい。
私のやり方では、視点を頻繁に切り替えて観客の心理を操作する。例えばイカの目線から見る一人称的ショットと、人間側からの俯瞰ショットを交差させることで、異種間の知覚差を映像で示すことができる。歪んだ広角レンズやアナモルフィックの光芒を利用すると、触手の伸びや曲がりが不気味に美しく映ることがある。
さらにインクを利用したトランジション表現にも注目している。実物インクを高速度カメラで撮って合成することで、画面分割や場面転換に自然な繋がりを作れる。こうした技術的工夫を通じて、単なる生物描写が物語的な意味を帯びる瞬間を狙っている。
光の層を積み重ねることで、深海の不思議さを画面に閉じ込められる。
俺は照明設計にかなりこだわるタイプで、特にボリューメトリックライトを使った粒子感の表現を好む。水中の微粒子やプランクトンを照らすことで、イカの触手が滑る空間に厚みが生まれる。スローモーションは動きのエレガンスを際立たせるし、逆に高速撮影で瞬間的な力強さを見せる選択もある。実写素材をベースにしたときは、ライトの色温度を細かく調整して生体発光や反射を自然に見せる。
また手作りのパペットや硝子模型といった実物素材を部分的に使い、CGとの境界を曖昧にするのが好きだ。例えばコミカルかつ象徴的な表現を狙う作品では、演出的にデフォルメした表皮や誇張した吸盤を取り入れることもあり、『侵略!イカ娘』のようなスタイライズ表現から学ぶ点は多いと思う。
最後は演出と素材の統合が鍵だと考える。
僕は映像表現を作るとき、CGと実写、照明設計、被写界深度、編集リズムを一体化させることを重視する。例えば触手がスクリーンに伸びる瞬間は、カメラの追従速度、被写体の質感、背景の対比、そして編集のカット割りが一斉に働いてこそ観客に強い印象を残す。物理的なプロップを使って触手の接触感を出し、その上でCGで微細な動きを付け足す手法が多用される。
また空間の負のスペースを活かして不在の恐怖を示す演出も効果的だ。触手が見えない部分に潜む脅威を音と共に示唆することで、映像はより豊かになる。視覚的には常に観客の想像力を刺激する余地を残すことを心がけている。
色の選択ひとつで生態感や感情が決まる場面がある。
僕はカラーパレットづくりを撮影前に念入りに行う。深海のトーンは単に暗くするのではなく、冷たい青緑と暖色の生体発光がぶつかる瞬間を設計することで、観客の視線を誘導できるからだ。補色関係を利用して触手を際立たせたり、墨の黒と淡い発光色のコントラストでドラマ性を強めたりする。色補正段階でも微妙なシアンやマゼンタの調整が生き物らしさを左右する。
撮影技術では被写界深度の使い分けが重要で、浅い被写界深度は接触感と臨場感を与え、深いピントは生態系の広がりを示す。ドキュメンタリー的なリアリズムを求めるなら、ドローンやROVの画角を模した安定した長回しが有効だ。僕はそこに生物の動線を組み込むことで、観客が「見る」から「体験する」へ移行すると考えている。
墨のうねりや触手の蠢きをどう映すかは、映像全体の印象を左右する。
僕はまず「質感」を最優先に考える。皮膚のぬめり、吸盤の微かな凹凸、光の受け方で観客の信頼感が生まれるからだ。マクロレンズや高解像度撮影で表皮の細かな皺や色むらを捉え、照明で湿り気や粘性を強調する。動きの滑らかさも不可欠で、触手が水中を切るときの抗力や慣性をCGで計算し、実写の素材と混ぜることでリアリティを維持する。
次にスケール感の演出を重ねる。巨大さを示すなら遠景に小さな人影や船舶を配し、カメラの視点を変えて比較を行う。逆に親密な視点を狙うなら、目線に近いクローズアップや浅い被写界深度で観客を引き込み、触手の先端が画面に迫る恐怖を演出する。こうした積み重ねが、単なる生物描写を超えた映像体験をつくると考えている。