脚本を練るとき、まず気を配るのは“核”を見失わないことだ。
原作のおもしろさは人物の動機やテーマの強さにあるケースが多いから、表面的なエピソードを全部拾おうとすると全体がぼやけてしまう。だから私は重要な感情の山場や転換点だけを残して、それらをつなぐために場面を統合したり時系列を整理したりする。こうした削ぎ落としは“削除”を恐れず、むしろ原作が伝えたかったものを際立たせる作業だと考えている。
演出や台詞の言い回しは、映像の力で補える部分を見つけて置き換える。内面的な独白は、表情や音楽、カットのリズムで表現できる場合が多いからだ。例えば『ロード・オブ・ザ・リング』の映画化では、多くのエピソードが省略されたが、登場人物の目的や旅の意味が映像と音楽で強調されていた。原作に忠実であることと、別のメディアとして成立させることは必ずしも同義ではない。だから私は常に「この変更が主題を損なっていないか」を基準に判断していく。
最後に、関係者やコアな読者の声を取り入れる作業も欠かせない。原作者やファンの期待値を無視すると“
無粋な改変”と受け止められやすい。だが同時に、映画としての論理やテンポを守るための勇気ある選択も必要になる。そのバランスを保つために、脚本段階で何度も読み直し、必要なら差し替えや再構成を行う――そういう地道な手間を私は大切にしている。