横山 やすしの漫才スタイルの特徴は何ですか。

耳で真似してみると、やすしの声の抑揚とアクセントの置き方がよく分かる。私は若い頃、繰り返し舞台の録音を聞いて研究したが、彼は一拍置くことで期待値を操作するのが非常に上手かった。普通の早口やリズムだけで笑わせるのではなく、言葉を削いで空白を作ることで観客の想像力を刺激するのだ。

また、関西弁の強さや俗語を臆せず使う点も技術の一部だと感じる。下世話な言葉が出ても、それが人物像の厚みとなり、場のリアリティを高める。私が学んだことの一つは、台本に忠実であることよりも、「その場で生まれる真実性」を優先する勇気だった。

さらに、やすしのボケは即興性が多く、相方の反応で形を変えるところが面白い。私が真似するときは、セリフそのものよりも“変化を受け止める力”を意識するようにしている。これが彼の漫才の技術的な核だと思う。

声そのものが武器になっていると感じる。やすしは低めの太い声を主に使い、ざらついた語り口で日常の言葉を切り裂くように放つ。私が最初に惹かれたのは、その一声で場の温度を変える力だ。

さらに、彼の笑いには“わざと崩す美学”がある。言葉尻を切る、文法を逸脱する、語彙を粗くする──こうした手法が観客の予想を裏切り、その瞬間に笑いが生まれる。私は練習で彼の息遣いや言い回しの崩し方を真似たが、真似るほどにそれが技術と度胸の両方を求める表現だと分かった。

最後に、やすしの魅力は台本の強さではなく生々しさだと思う。演じ抜く姿勢が観る者を引き込み、結果として独特の笑いを生み出していた。

目の前でやすしが台本を破る瞬間を想像すると、笑いの空気がほんの少し緊張するのが分かる。私はその緊張と緩和のダイナミクスが、彼の表現の核心だと考えている。舞台上のルールを一度壊してみせることで、聴衆に“今ここでしか起きないこと”という特権感を与えていたのだ。

文化的な視点から見ると、やすしのやり方は伝統的な上方漫才の枠組みとぶつかり合いながらも、新しい笑いの地平を切り開いた。私は若い頃に笑いの歴史を調べて、この衝突が後続の芸人たちに与えた影響の大きさに驚いた。彼の芸は、規範を揺さぶることで観客の共感を得る、いわば“反復される逸脱”だった。

観客との関係性も重要で、やすしは相手（客）をあえて試すような言動で反応を引き出す。そのやり取りが生む即時性と危うさこそが、私が彼の漫才を忘れられない理由だ。

あの独特の間合いを思い出すと、すぐに顔の表情や小さな沈黙が浮かんでくる。私の目には、やすしの漫才は“荒々しさを味に変える料理”のように見える。台本どおりに進める瞬間もあるが、彼が一言、予定を外すだけで場が変わる。そのズレを利用して笑いを引き出す技術が肝だと思う。

身体の使い方も見逃せない。肩や顔のわずかな動き、時に大声で鋭く突っ込む一言、逆にぽつんと残す沈黙――これらを私自身は“間の強奪”と呼んでいる。相方である西川きよしさんとの掛け合いでは、やすしが危うげなボケを振っておいて、相手が収めることで笑いが成立する。そのバランス感覚は、現代のテンポ重視の漫才とは異なる余韻を残す。

笑いのネタとしては、俗っぽさや暴言に近い率直さを臆面もなく出す点が特徴だ。観客はその危うさにドキドキし、同時に解放される。私にとってやすしの漫才は、緩急の付け方と人間の不安を笑いに変える強烈な表現手段に感じられる。