考えてみると、「
海千山千」がサブカル界隈でネガティブに使われる理由は割とわかりやすい感情の混ざり合いだと思っています。元々この四字熟語は“経験豊富で物事に動じない人物”という意味合いですが、同時に「老練でずる賢い」「何でもやり切る術を知っている」といった含みも持ち合わせています。サブカルチャーの世界は感情や信頼に敏感な場所なので、経験が“知恵”として評価される一方で、それが“狡猾さ”や“搾取”的な振る舞いと結び付くと批判に変わりやすいのです。
特にオンラインのコミュニティや同人界隈では、ベテランと新人の力関係が明確になりやすい。私の経験上、長く関わってきた人がルールや慣習を巧みに利用して利益を得たり、情報格差を利用して特権的立場を作ったりすると、「海千山千」というラベルで片付けられることが多いです。たとえばイベントの顔ぶれをコントロールする人、限定グッズの回転術に長けたコレクター、あるいは炎上や話題作りのテクニックを熟知しているプロデューサー的存在――いずれも“経験による優位”が否定的に受け取られるケースです。
それから、サブカル特有の純粋さ・情熱重視の価値観も関係しています。新しく作品に触れたばかりの人は熱意をもって参加する一方で、長くやってきた人が利害や損得で動いているように見えると反発が強まる。つまり「海千山千」がネガティブに使われるのは、経験そのものが嫌われているのではなく、その経験が他者を傷つけたりコミュニティの信頼を損ねたりする形で行使されるためです。ただ、全ての熟練者が悪いわけではなく、知識やつながりを共有して場を良くする人もたくさんいます。経験値がコミュニティの資産になるか害になるかは、結局その人の態度次第だと感じています。