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撮影現場での安全対策はいつも僕の頭にあるテーマだ。
最初にやるべきは危険要素を書き出して優先順位をつけること。機械仕掛けの罠や閉所、落下、火の扱いなど、それぞれに専用のリスク評価を用意して、どこを誰が責任持つかを明確にする。スタントや特殊効果は必ず専門家を入れ、代替案としてカメラワークや編集、視覚効果で“危険を見せる”方法も検討する。
次にリハーサルと段階的な実地試験を重ねる。小さなモックアップで動作確認をし、本番では二重の安全装置やクイックリリースを必須にする。演者への説明は繰り返し行い、同意と心理的負担の確認も忘れない。救急体制、通信手段、非常停止手順をドキュメント化して現場全員に共有することが、事故を未然に防ぐ最も確かな方法だ。実際、視覚的に強烈なシーンでも、準備と配慮があれば表現の幅は十分に保てると確信している。
危険を伴う場面は、演出意図と安全の両立が肝心だと感じている。自分が現場にいるときは常に「どうすれば演者の負担を減らしてリアルに見せられるか」を考えている。例えば呼吸器具や拘束具を使うシーンは、医療スタッフの同席や事前の身体チェックが必須だし、拘束時間を最小限にするスケジュール管理も重要だ。
機材面では冗長性を持たせることが信条で、ワイヤーやウィンチは常に二本掛け、コントロール系統にも非常停止を設ける。演者の表情や体勢を壊さずに回避するテクニックとしては、レンズ選びや編集で“近さ”を演出する手がある。昔観た映画'エイリアン'の効果的な見せ方を参考に、実際の危険を最小化しつつ観客の緊張を作るやり方を磨いてきた。
感情の強さを損なわずに撮る工夫が腕の見せどころになると考えている。演者が本当に怖がっているように見せたい場面では、事前に安全な代替手段を用意しておき、最小限の実演で必要な表情を引き出す。身体的な拘束やワイヤーアクションは、演者の身体感覚を尊重して段階的に慣らしていくことが肝要だ。
また、危険な演出は現場の空気にも影響するから、雰囲気作りは演技指導や照明で補うことが多い。回転するセットや複雑な機構を使う場合は短時間で撮り切るスケジュールを組み、休憩を細かく挟むことで疲労による事故を防ぐ。以前観た'インセプション'の廊下回転シーンのように、入念なリハーサルと安全装置、それに対する演者の信頼関係があって初めて成立する演出法だ。ささやかな注意が大きな安心につながる。
道具やセットの設計段階で工夫するのが何より重要だと思う。実際に触れる部分はソフト素材で作り、構造的に破損しても人に当たらないようにフェイルセーフを組み込む。電動仕掛けや可動床のような装置はエンジニアと密に連携し、負荷試験や摩耗チェックをルーティン化するのが基本だ。
限られたスペースでの撮影では、カメラの配置と被写界深度で閉塞感を作ることができる。必ず演者に脱出ルートの確認をさせ、現場には必須工具と予備の締結具を置いておく。水や密閉空間を扱う場合は、監視係や潜水員、酸素計を配備し、タイムリミットを設けてその範囲内でしか撮らない。古典的だが効く対策として、機械仕掛けの代わりにミニチュアやCGを併用することで危険シーンを安全に作り替えられる。スリルを保ちつつも人命優先で進めるのが信念だ。
ちなみに'ジョーズ'の撮影で機械(ジョーズ)の不調が多発したことは有名だが、それで得られた教訓は未だに生きている。