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母よ、来世で愛を

母よ、来世で愛を

By:  朝焼けにきらめく雪山Completed
Language: Japanese
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Synopsis

幽霊目線

ひいき/自己中

偽善

冷酷

家族もの

後悔

物心ついた頃から、母さんが僕を憎んでいることは気づいていた。 三歳の僕に睡眠薬を飲ませ、五歳の僕に殺虫剤を飲ませようとした。 だが、僕はしぶとく生き延び、七歳の頃には、いつの間にか母さんと正面から立ち向かう術を身につけていた。 食事を抜かれたら、家の食卓をひっくり返して、誰も食べられないようにした。 母さんに棒で殴られ、僕が床を転げ回っていた。その仕返しに、僕は母が溺愛している弟の顔を殴りつけた。 僕は十二歳になるまで、そうやって意地を張って母さんと対立し続けた。 それが、一番下の妹が生まれた時までだ。 その生まれたばかりの、ふわりとした妹のおむつを、不器用な僕が替えた時、母さんは僕を壁にガツンと叩きつけ、その目は憎悪と恐怖で歪んでた。 「このクソガキ、うちの娘に何すんのよ! やっぱり、あのレイプ犯のクソ親父の血筋ね!あんたも一緒に死ねばいいのに!」 その瞬間、ようやく理解が追いついた。母が僕を愛せない理由を。 頭から血を流しながら、初めて僕は母さんの暴力に抵抗しなかった。初めて心底思ったんだ。「母さんの言う通りだ」って感じた。 自分が生まれてきたこと自体が間違いなのだ。 僕は、死ぬべきなんだ。

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Chapter 1

第1話

物心ついた頃から、母さんが僕を憎んでいることは気づいていた。

三歳の僕に睡眠薬を飲ませ、五歳の僕に殺虫剤を飲ませようとした。

だが、僕はしぶとく生き延び、七歳の頃には、いつの間にか母さんと正面から立ち向かう術を身につけていた。

食事を抜かれたら、家の食卓をひっくり返して、誰も食べられないようにした。

母さんに棒で殴られ、僕が床を転げ回っていた。その仕返しに、僕は母が溺愛している弟の顔を殴りつけた。

僕は十二歳になるまで、そうやって意地を張って母さんと対立し続けた。

それが、一番下の妹が生まれた時までだ。

その生まれたばかりの、ふわりとした妹のおむつを、不器用な僕が替えた時、母さんは僕を壁にガツンと叩きつけ、その目は憎悪と恐怖で歪んでた。

「このクソガキ、うちの娘に何すんのよ!

やっぱり、あのレイプ犯のクソ親父の血筋ね!あんたも一緒に死ねばいいのに!」

その瞬間、ようやく理解が追いついた。母が僕を愛せない理由を。

頭から血を流しながら、初めて僕は母さんの暴力に抵抗しなかった。初めて心底思ったんだ。「母さんの言う通りだ」って感じた。

自分が生まれてきたこと自体が間違いなのだ。

僕は、死ぬべきなんだ。

足を引きずりながら祖母の家に着いた頃には、すっかり夜になっていた。

祖母は、僕の血まみれの姿を見ても、驚く様子は全くなかった。

いつも手慣れた様子で救急箱を取り出して、僕の傷の手当てをしてくれた。

そして、ラーメンを一杯作ってくれた。

いつもの僕なら、ラーメンを噛み締めながら、「明日、仕返ししてやる」と吠えていただろう。

今回は、透き通ったスープを眺めながら、ポツリと呟いた。「なあ、おばあちゃん。僕って、父さんの子供じゃないんだよな?」

祖母は何も答えなかった。だが、その目に急に露わになった拒絶と嫌悪の感情が全てを物語っていた。

祖母は立ち上がり、さっき薬箱を置いたテーブルを雑巾でゴシゴシと拭き始めた。

ああ、分かった。

僕のこの血は穢れている。

僕は、レイプ犯の息子なんだ。

だから母さんは僕を憎んでたんだ。

今まで感じたことのない、強烈な吐き気がこみ上げ、僕は玄関を飛び出し、庭の塀に寄りかかって何度もえずいた。

夜風が、顔の傷にひりひりとした痛みを与えた。

以前、母さんに殴られたたびに、「この傷は母さんが払うもんだ、いつか必ず取り返してやる」と誓った。

でも今は、母さんの顔をまともに見る気力すら湧かなかった。

僕は祖母の家には戻らず、祖母も案の定、僕を探しには来なかった。

僕は足を引きずりながら街をさまよった。どこへ行けばいいのか、途方に暮れていた。

そんな時、あるレストランの外で、家族連れが楽しそうに誕生日を祝っているのが目に入った。

中央で囲まれているのは母親だろう。その幸せそうな笑顔が眩しすぎて、思わず体を引いた。

去年の母さんの誕生日。僕が顔を見せる前は、母さんもあんな風に幸せそうだったんだ。だが、僕が入ってきた途端、その笑顔は瞬時に嫌悪へと変わった。

そういえば、作文の課題で「私の母」ってテーマがあったっけ。

僕は母さんを「悪事を働く悪魔」だと書き殴った。

国語の先生が僕を職員室に呼び出して、その答案を指さしながら一時間も説教した。

先生が何を言ってたか、ほとんど覚えていた。

ただ一つだけ、耳に残っている言葉がある。

「この世に、自分の子供を愛さない母親なんていないのよ」

僕はそれを信じた。

換金できそうなガラクタを集めて作ったわずかな金で、母さんにケーキを買ってあげた。

ただ、弟のように、一度でいいから抱きしめてほしかった。

でも、母さんの冷たい視線が僕をまた傷つけ、僕は滑稽な道化師のように感じた。

僕の頭にカッと血が上った。皆が目を離した隙に、庭で捕まえたヒキガエルを数匹、ケーキに詰め込んだ。

ヒキガエルが飛び出した時の母さんの絶叫は、今でも鮮明に覚えている。あの頃は、歪んだ快感があった。「こんな母親、死ねばいい」って。

だが今、僕は理解した。僕こそが間違いだった。僕の存在そのものが、母さんへの苦痛だったんだ。

レストランのあの母親の笑顔を見て、僕は決意した。

今年の母さんの誕生日には、絶対に喜ぶプレゼントを贈ろう。母さんを完全に解放できるプレゼントを。

僕は、死ぬことにした。

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第1話
物心ついた頃から、母さんが僕を憎んでいることは気づいていた。三歳の僕に睡眠薬を飲ませ、五歳の僕に殺虫剤を飲ませようとした。だが、僕はしぶとく生き延び、七歳の頃には、いつの間にか母さんと正面から立ち向かう術を身につけていた。食事を抜かれたら、家の食卓をひっくり返して、誰も食べられないようにした。母さんに棒で殴られ、僕が床を転げ回っていた。その仕返しに、僕は母が溺愛している弟の顔を殴りつけた。僕は十二歳になるまで、そうやって意地を張って母さんと対立し続けた。それが、一番下の妹が生まれた時までだ。その生まれたばかりの、ふわりとした妹のおむつを、不器用な僕が替えた時、母さんは僕を壁にガツンと叩きつけ、その目は憎悪と恐怖で歪んでた。「このクソガキ、うちの娘に何すんのよ!やっぱり、あのレイプ犯のクソ親父の血筋ね!あんたも一緒に死ねばいいのに!」その瞬間、ようやく理解が追いついた。母が僕を愛せない理由を。頭から血を流しながら、初めて僕は母さんの暴力に抵抗しなかった。初めて心底思ったんだ。「母さんの言う通りだ」って感じた。自分が生まれてきたこと自体が間違いなのだ。僕は、死ぬべきなんだ。足を引きずりながら祖母の家に着いた頃には、すっかり夜になっていた。祖母は、僕の血まみれの姿を見ても、驚く様子は全くなかった。いつも手慣れた様子で救急箱を取り出して、僕の傷の手当てをしてくれた。そして、ラーメンを一杯作ってくれた。いつもの僕なら、ラーメンを噛み締めながら、「明日、仕返ししてやる」と吠えていただろう。今回は、透き通ったスープを眺めながら、ポツリと呟いた。「なあ、おばあちゃん。僕って、父さんの子供じゃないんだよな?」祖母は何も答えなかった。だが、その目に急に露わになった拒絶と嫌悪の感情が全てを物語っていた。祖母は立ち上がり、さっき薬箱を置いたテーブルを雑巾でゴシゴシと拭き始めた。ああ、分かった。僕のこの血は穢れている。僕は、レイプ犯の息子なんだ。だから母さんは僕を憎んでたんだ。今まで感じたことのない、強烈な吐き気がこみ上げ、僕は玄関を飛び出し、庭の塀に寄りかかって何度もえずいた。夜風が、顔の傷にひりひりとした痛みを与えた。以前、母さんに殴られたたびに、「この傷は母さんが払うもんだ、
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第2話
「死ぬ」という考えが浮かんでから、足取りが妙に軽くなった。どうすれば迷惑をかけずに、痕跡も残さずに死ねるか、真剣にシミュレーションしてた。しかし、計画は途中で頓挫した。パトロール中のお巡りさんに補導されて、家に連れ戻された。ドアを開けたのは母さんだった。ドアが閉まり、僕は俯いたまま、母さんの目を見ないようにしていた。聞こえてきたのは、彼女の氷のような声だ。「どうして外でさっさと死ななかったのよ?」いつもの癖で言い返そうとしたが、言葉は喉の奥で詰まった。でも、人間ってのは、結局卑しいよな。母さんの背中を見ながら、僕はモジモジしながら尋ねたんだ。「もし、もしも、僕が本当に......死んだら、母さんはどうなるの?」少しでも、悲しんでくれるかな?「はっ、できるもんならとっくに死んでるわよ。私は嬉しくてたまらなくなるわ」母さんは振り返りもせず、弟と妹の部屋に入ってドアを閉めた。僕はリビングでしばらく立ち尽くした後、ボロボロの顔を拭って笑った。よし。今年の誕生日プレゼントは、母さんが絶対気に入ってくれる。一緒にゴミ拾いをしてた幼馴染の聡(さとし)は、あちこちで施しを受けて育った孤児だった。彼は頭が切れて、道端の些細なことからうまく金を稼ぐ方法を見つけるのが得意だった。だから、放課後、僕は彼にアイスキャンディーをおごった。路肩に座り込んで、声を潜めて聞いたんだ。「なあ、どうやったら、人を痕跡残さずに殺せると思う?」聡は怪訝な目で僕を一瞥し、食べかけのアイスを僕に押し付けた。「お前、俺から離れろ。犯罪に関わることなんて絶対やらないからな」僕は驚いて、二本のアイスキャンディーを掲げた。「は?何言ってんだ?えーっと、じゃあ、どうすれば『事故死』に見えるか、教えてくれよ。うん......できれば、あんまり苦しくないやつ。そいつ、痛いの嫌いそうだからさ」聡は息を呑み、立ち上がって逃げようとした。僕はアイスキャンディーを気にせず、彼を捕まえて離さなかった。「知らん!僕のアイス食ったんだから、聡は僕のモンだろ!どうにかして、方法を教えろ!」聡は抵抗できず、地面に座り込んで泣き言を言った。「おい、アニキ。頼むからやめろ!お前にはちゃんと親がいるだろ!なんでそんなこと考えるんだよ!確かに、よく殴られている
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第3話
肺が焼けつくような痛みに襲われた瞬間、巨大な力が母さんを僕から引き剥がした。祖母の嗄れて震える声が響いた。「正気か!あいつのために、また一生を棒に振るつもりか!一回で十分だろ......!」母さんは祖母の腕の中で崩れ落ち、壊れたような嗚咽を漏らした。「お母さん!お母さん!もう耐えられない!こいつだって、あのレイプ犯みたいに悪い奴なの!?」祖母は母さんを強く抱きしめながらも、その目は僕の方を見ていた。一瞬、祖母が僕のわずかに開いた目を見たと思った。だが、祖母はただ静かに呟いた。「もう寝なさい」母さんの嗚咽は次第に遠ざかっていった。僕は横になったまま、大きく息を吸い込んだ。そして布団を被り、寝返りを打った。どれほどの時間が経っただろうか。夜明け前、祖母が大きな椀を持って部屋に入ってきた。中には、湯気の立つ熱々の鶏スープが入っていた。朝っぱらから鶏スープなんて、おかしい。でも祖母は、僕のベッドサイドにそれを置くと、顔の皺と同じくらい静かな声で言った。「飲みなさい」僕には分かった。なんて焦っているのだろう。あと数日待てば、僕は誰にも知られずに死ねたはずなのに。今こうしたら、僕が死んだ後、彼女たちはどれだけ面倒なことになるだろうか。だが、僕は何も言わなかった。手を伸ばし、重たい椀を掴んだ。椀の縁が熱くて焼けるようだ。僕は顔を上げ、その鶏スープを、ごくり、ごくりと、喉の奥へと一気に流し込んだ。スープの異様な苦味が、舌先から心臓の奥まで広がっていく。椀が空になった。僕はそれをテーブルに戻し、再び布団を被り、静かに最期の時を待った。祖母は空になった椀を手に、僕を数秒見つめた後、何も言わずに部屋を出て行った。薬の効き目は早かった。まず、腹の中で無数の手が引き裂くような激痛が走り、次に、全身を震わせるほどの底冷えが襲ってきた。歯がガチガチと鳴る。視界がぼやけ、聴覚も遠のいていく。祖母が部屋に出入りする足音、誰かが電話をしているような声。そしてやがて、耳障りな救急車のサイレン、混乱した人々の声、眩しいライトの光。病院の真っ白な光の下、胃洗浄のチューブが乱暴に喉に挿入され、僕は引き裂かれるように嘔吐した。涙と鼻水で顔中がぐちゃぐちゃだ。若い医師が僕と、顔面蒼白で立つ祖母を見て、眉をひそめた。「一
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第4話
水しぶきが上がり、細い腕をバタつかせたかと思うと、弟はそのまま水中に沈んでいった。ブクブクと泡が上がるだけだ。脳が思考するよりも早く、体が反応していた。僕は駆け寄り、そのまま水に飛び込んだ。冷たい貯水池の水が瞬間的に僕を包み込み、骨の髄まで凍てつかせるような冷たさが毛穴に染み込んだ。水中で必死にもがく弟の姿が見えた。見開かれた瞳には恐怖が満ちていた。僕は全力で泳ぎ寄り、全身の力を込めて、弟を岸の方へ押しやった。弟は、まるで命綱でも掴んだかのように、岸辺の泥を必死に掴み、咳き込みながら泣き叫んだ。一方、僕は反作用で、より深く、暗い水の中央へと滑り落ちていく。水が頭上を覆い、世界は一瞬にして静かでゆっくりとしたものになった。水面上の光は揺らめき、砕けたガラス細工のようだ。窒息の感覚は不快だが、肺が焼かれるようだ。それ以上に鮮明だったのは、岸辺から聞こえてくる音だった。母さんの、声を限りにした絶叫だ。僕は最後の力を振り絞り、かろうじて水面に顔を出した。ちょうど、母さんが岸辺に駆け寄り、僕のことなど一瞥もくれず、ようやく岸に上がったばかりの弟を、強く抱きしめる瞬間だった。「わが子よ!死ぬかと思ったわ!怖かった!」彼女の叫びには、失いかけたものを取り戻した安堵と恐怖が込められており、貯水池一帯に響き渡った。彼女は弟を強く抱きしめ、まるで世界全体を抱きしめているかのように見えた。彼女の視線は、ゆっくりと沈んでいく僕には、一度も向けられなかった。ほんの一瞬でもいいから。僕が見た最後の光景は、必死に弟を抱きしめる母さんの背中と、砕けた宝石のように揺れる水面の光景だった。やはり、答えは最初から決まっていたのだ。僕は抵抗をやめ、冷たい水に身を委ね、永遠の闇へと沈んでいった。これでいい。少なくとも、母さんは僕のことで悲しまなくて済む。僕の体が水から引き上げられるのを見た。水に浸り、少し膨らんだその無惨な肉体は、岸辺の泥の上に無造作に置かれていた。母さんは終始、弟を抱きしめながら、弟の頭を撫でた。母さんの顔には表情がなかった。僕は、母さんが少しでも自分のために悲しんでくれるかもしれないと、かすかに期待していた自分を、虚しく思った。だが、僕は結局我慢できなかった。誰も僕が見えないの
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第5話
葬儀が終わると、家には再び静寂が戻った。僕という存在は、取るに足らないものだった。僕がいようといまいと、生活は何も変わらない。ただ違うのは、僕は幽霊のようにこの家に残り続けていることだけだ。僕は、母さんの忙しなく動く背中を見ていたが、以前と何かが違う気がした。だが、具体的に何が違うのか、僕には分からなかった。そんなある日の深夜、皆が寝静まった頃。母さんがそっと僕の部屋のドアを開けた。その時、僕は窓枠に座り、神様を呪っていた。こんな汚れた生を与えられ、死んでもなお安らぎを得られないなんて。母さんは灯りもつけず、影のように部屋に入ってくると、ゆっくりとベッドのそばまで歩み寄り、整えられたシーツにそっと手を触れた。そして、そのまま腰を下ろした。母さんは僕に背を向け、まるで凝固した彫像のように座り込んでいた。僕は影の中に隠れながら、思わず母さんをちらりと見た。泣いてはいなかった。目尻に赤みすら見えない。もう一度見た。母さんは相変わらず微動だにせず、ただ胸のわずかな起伏だけが、生きている証だった。ふん。僕は思わず下顎を上げ、心の中で重々しく鼻を鳴らした。意地を張って、母さんから目を逸らした。この女はとんでもなく薄情だ。彼女が一番愛する、その馬鹿な弟を救ったのだ!彼女が目玉のように大事にしているその最愛の息子を!僕の命と引き換えに、彼女の可愛い息子の命を救ったというのに。どんなに僕を嫌い、僕の出自を憎んでいたとしても、せめて、せめて僕のために一言泣いてくれてもいいだろう?一滴の涙さえ、僕のために惜しむのか。生きていた時でさえ、彼女の愛を得る資格がなかった。ましてや、こんなにも悲惨な形で目の前で死んでも、彼女の心を少しも動かせないなんて。冷たい怨念がツタのように僕の虚ろな意識体を絡め取る。憤慨し、思わず音を立てて彼女を驚かせてやろうかと思った、その時だった。「お母さん、私、間違ってたのかな?」僕はハッと振り返り、入り口を見た。いつの間にか、祖母が音もなく影の中に立っていた。この数日で、顔の皺がさらに深くなっている。母さんの声は茫然としていて、どこか夢見心地だった。「あの子......あの子は昔、すごく意地っ張りでね。殴っても罵っても、首を突っ張って私を睨みつけていた
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第6話
その時、母さんはちょうど、弟に食事を与えている最中だった。ドアが開けると同時に、聡は何も言わず、僕の弟を掴んで地面に組み伏せ、殴り始めた。聡の拳は重く、容赦なく、その声には泣き声が混じっていた。「全部お前のせいだ!この疫病神め!お前のせいで、アニキが死んだんだ!」殴られて呆然とした弟は、わんわんと泣き出した。母さんが手にした茶碗がガシャンと音を立てて床に落ち、粉々になった。母さんは聡を引き離そうとしたが、聡は母さんの手を振り払った。聡は涙と鼻水でグチャグチャの顔で、母さんを睨みつけた。「おばさん、俺たち、昔からあそこの貯水池で遊んでたんだ!あの日、あいつが水に歩いて入っていく時......俺を見たんだ!あいつ、俺を見たんだよ、おばさん!あの目つきは......あの目つきは......」聡の喉は詰まったようになり、息を切らしながら、ついに崩壊して叫んだ。「あいつは、あそこで死ぬつもりだったんだ!前に、俺にどうやったら人を音もなく殺せるか聞いてきたんだ!俺はてっきり、おばさんのこと恨んでるのかと思ったけど、違うんだ。あいつは自分を憎んでた。生きているのが嫌だったんだ!」時間はその場で凍りついたようだった。僕は母さんの体が激しく揺れるのを見た。彼女は無意識にテーブルの縁に手を伸ばし、体を支えた。顔にはまだ表情がなかった。「......出ていけ」母さんの声は、掠れて低かった。聡は荒い息を吐きながら、床で泣いている弟を恨めしそうに睨みつけ、手で顔を拭うと、そのまま家を飛び出し、ドアを乱暴に閉めた。家には、弟のしゃくり上げる音だけが残った。母さんは、床の惨状や泣いている弟を無視して、一歩一歩、洗面所に向かった。ドアはそっと閉められた。そして、中からは、極限まで抑圧された嗚咽が漏れ聞こえてきた。僕は洗面所には入らなかった。ただ、静かにダイニングテーブルの席に座り、窓の外の青空をぼんやりと見つめていた。今日の天気は相変わらず良い。良すぎて、僕は今すぐ魂が散り散りになってしまいたくなった。「あいつを憎んでるのに、私が一番自分を憎んでるなんて!あいつを見るたびに、あの時の遭遇を憎む」母さんは、祖母の胸に顔を埋めて泣き叫んだ。祖母の枯れ木のような手が、母さんの震える肩を何度も叩
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第7話
数日後、小雨が降る朝、母さんは一人で僕の墓にやってきた。それは田舎の小さな土盛りで、あまりにも簡素で、ほとんど雑な造りだった。母さんはそこに立ち尽くし、長い間動かなかった。雨に髪と服を濡られても、全く気に留めていないようだった。やがて、母さんはゆっくりと腰をかがめ、震える手を伸ばし、冷たい墓石にそっと触れた。「ごめんなさい。あなたが私のお腹にいる時から、私はあなたのことが嫌いだったのよ」母さんの声はとても小さく、長年隠してきた秘密を打ち明けているかのようだった。「胎動が、まるで世の中をひっくり返す暴れん坊みたいに、一歩一歩、私の胸をかき乱して......私はあの時思ったの。こいつはきっと、私を苦しめるために来た借金取りだと」彼女の指が、墓石に刻まれた見覚えのある名前を、何度も何度もなぞった。「大きくなっても、相変わらず手のかかる子で、喧嘩しては怪我をして、傷だらけの体で帰ってきて、私を睨みつける......飼い慣らせないオオカミみたいに」そう言って、彼女は一度詰まり、肩を微かに震わせた。「でもね......でも、あなたが熱を出して、体がとても熱くて、私の腕の中でとても小さかった時......私は初めて気づいたの。あなたは、ただの子供だったのだと。私......あなたにケーキを買ってあげたことがあったのよ、覚えている?二回だけだけど......あなたが六歳の時と、十歳の時。十歳の時は、クリームをベタベタにして、私はあなたを叱ったわね......」彼女の額が墓石に押し付けられ、声は僕にはほとんど聞こえないほど低くなった。「あの時、もしあなたに笑ってあげられていたら、よかったのに......」僕が涙を流すと同時に、母さんも泣き出した。「どうして......どうして私は、自分の息子を......こんなところまで追い詰めてしまったの......」僕はしゃがみ込み、そっと顔を母さんの肩に重ねるようにした。母さんの体温は感じられないし、涙を拭ってあげることもできない。「大丈夫だよ、母さん。僕の運が悪かっただけなんだ。悪い人の子供に生まれてきちゃったから。母さん、これまでの嫌なことは忘れて。僕みたいな、最初から存在するべきじゃなかった子供のことも忘れて、母さんにはまだ、素晴らしく良い人生が残
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第8話
係員は呆然とした。「本気か?時空を逆行させても、生まれるのはパラレルワールドの新しい世界だ。今の世界の君とは無関係になるぞ。それに、現実が変われば、君は消える。使ったポイントは戻ってこないぞ」僕は真剣に頷いた。次の瞬間、目の前がチカチカと光り、僕は雑木林の前に立った。「どけ!助けてくれ!金ならやる!頼むから私を放して!」僕はよろめきながら、自分よりも背の高い雑草をかき分け、声のする方へ走った。やはり、見慣れた顔が目の前にあった。憎しみで目が真っ赤になりそうだった。僕は冥界から持ってきた特製の骨の杖を、背中を向けている男の頭に叩きつけた。何回叩いたか覚えていた。ただ、汗でべたついた手が震えながら僕の手を握ったのだけは覚えている。僕は息を切らし、頭に血が上り、視界はまだ真っ赤だった。下を見ると、驚愕に見開かれた瞳が僕を捉えていた。それは、若き日の母さんだった。彼女の服は乱れており、その瞳には命拾いした者の茫然とした感謝が浮かんでいた。「殴るの......やめて、人を殺してしまうわ......」彼女が握る僕の手は氷のように冷たかった。だが僕は無意識に、逆に彼女の手を強く握り返し、そっと呼びかけた。「母さん、あなたはこれから、ずっと幸せになるよ」彼女はますます不思議そうな顔で僕を見つめた。僕の鼻の奥がツンとしたが、いつものように無邪気に悪戯をしようとした。「なあ、覚えててくれよ。僕はあなたの未来の子供だ!一番愛する息子なんだからな!」僕は母が何も知らないことをいいことに、好き勝手に嘘を並べ立てた。「母さんは毎年僕にケーキを買ってくれるんだ。学校の送り迎えも、いつも僕の手を引いてくれるんだ――」だが次の瞬間、僕は不意に抱きしめられた。「どうりで、私にそっくりなわけだ」母さんの手が、僕の顔をゆっくりと撫でた。彼女の瞳は黒く、明るく輝いていた。何年も後の、麻痺したような目とは全く違う。僕は涙が出そうになり、慌てて視線を逸らし、地面で気絶している男を指差した。「あの人はどうするの?警察を呼ぶの?」母さんは僕を無視し、その明るい瞳を瞬かせることなく、突然尋ねた。「あなたは......たくさん苦しんだの?」僕は口を開き、いつものように、平気なふりをしようとした
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