研究史をひもとくと、
葛籠の起源に関して学界は大きくふたつの説明を並行して使っていることが分かる。ひとつは、考古学的・比較技術史的な観点からの「外来起源+技術移入」説で、もうひとつは地域の素材や生活様式から生まれた「土着的発展」説だ。遺跡から出土する編み構造の箱や、漆塗りの外装を持つ携行具が大陸や朝鮮半島との類似点を示すこと、さらには古い文献での記述が移入を示唆する点が、外来起源を支持する根拠として研究者の間でよく挙げられている。
材料面と機能面に注目すると、地域差の説明がより具体的になる。生えている植物、気候、加工技術の違いがそのまま形や仕上げに現れるのだ。たとえば竹が豊富な地域では細かな竹ひご編みが発達し、海岸地域では塩分や湿気に強い処理が施されることが多い。逆に内陸の寒冷地では藁や繊維質の蔓を使い、保持性を重視した構造が主流になったという報告がある。さらに、社会的要素――階層や交易路、宗教行事や旅の需要――が形態の多様化を促したとされ、都市圏に近い地域では装飾性や漆仕上げが洗練され、農村部では実用的で簡素な様式が残った。
私自身は、どちらか一方だけでは説明しきれないと感じている。外来の技術や形態が伝わったことは確かだが、それを受け止める地域ごとの素材選択、需要、職人間の知恵交換によって多様な葛籠が生まれたというのが最も説得力がある。研究者たちは考古資料、民俗記録、古文書といった異なる証拠を総合することで、起源と地域差が互いに影響し合って形成された過程を描こうとしているのが現状だ。