箱を手に取ると、まずは表面の質感を手で辿ることに集中する。目で見て終わりにする鑑定は信用できないからだ。木味や竹の繊維、漆の光沢は時間の経過でしか出せない表情がある。私は長年の経験から、接合部の微かな隙間や釘跡、糸の残り具合から修理歴を見抜く癖がついている。補修が多いものは本来の価値が下がるし、逆に無名工の手仕事の妙や希少な材料が使われていれば評価は跳ね上がる。
鑑定の際には外観だけでなく内部も重要視する。ライナーや内張りの素材、古いラベルや落書き、収蔵履歴の痕跡を確認すると、由来が想像できる。例えば桐の
葛籠なら軽さと香り、虫喰いの有無、木目の揃い方が判断材料になる。一方、竹編みの葛籠では編み目の細かさや結び目の処理、芯材の残り方を見て職人の技量を量る。さらに、類似品のオークション落札例や博物館の所蔵品と比較して、流行や希少性も加味する。これは単純な美意識だけでなく、実際の市場価格を測るためのデータ集めでもある。
最後に私は真贋と価値の線引きを決定する際、専門家の意見と科学的裏付けを組み合わせる。表面的なラベルや刻印だけでは偽作と本物の差がわからないことがあるからだ。必要なら年代測定や塗装の分析を依頼して、修復の年代や材料の出所を確認する。こうした検証を経て初めて、手放すべきか保管するべきか、あるいは投資対象として適切かを判断する。感覚だけで惚れ込むこともあるが、コレクターとしての最終判断はいつも慎重だ。