職人語りに触れるたび、作業場の空気まで伝わってくるような錯覚に陥る。私が学んだ再現法は、単に形を真似るだけでは終わらない。まず素材選びから始める。昔ながらの
葛籠には、しなやかで折れにくい繊維が欠かせないため、竹や藤、籐のような素材を季節と産地まで考えて選ぶようにしている。採取後は割く、晒す、蒸すといった前処理を行い、適度な柔らかさを引き出してから細く割いていく。割き方や幅、厚みは目分量で決めるのではなく、伝承されてきた寸法感を繰り返し測り直し、自分の手に馴染ませるのが大切だ。
編みは心臓部だ。基本の平編みや千鳥、斜め綾など複数の組み方を段階的に積み上げ、縁の始末や角の落とし方を昔の作例に倣って再現する。組み目の緊張感を一定に保つため、指先の力加減や繰り返しのリズムを体に染み込ませる工夫をする。縁の補強には薄手の竹片を挟んだり、天然の糸で縫い留めたりするが、その縫い目の位置や針の角度まで観察して忠実に再現している。仕上げは内張り、漆や蜜蝋による撥水処理などを施し、実用性と美観を両立させる。
技術を伝えるプロセスも重要で、古文書や断片、古い実物の観察と合わせて、年配の工人の手仕事を録画・図示してノウハウを再構築した。失敗を繰り返すことでしか得られない微妙な力加減や素材の“いき”を学び、その蓄積が最終的な再現性を生む。完成品を見るとき、昔の用途や持ち主の暮らしまで想像できる瞬間があって、そこに至るまでの細かな工程を丁寧に辿ることが、私にとっての再現の醍醐味だ。