翻訳作業を続けていると、問い詰める口調をそのまま別の言語に移す難しさに何度も直面する。声のトーンだけが違えば受け手の印象はがらりと変わるから、訳語とともにリズムや間の取り方を設計する必要があると感じることが多い。
私がまず意識するのは、問い詰める相手との関係性を文に反映させることだ。敬語やタメ口の選択、呼称(名前を呼ぶのか「お前」とするのか)で相手に与える圧力が変わる。例えば叱責寄りの
詰問なら短い疑問文を重ねて緊張感を積み上げ、文末の助詞や語尾を強めにする。逆に悲しみを含む問い詰めなら、ためらいを示す語尾や間を多めに入れて感情の揺れを残す。
翻訳ではしばしば、句読点や改行、ダッシュ、三点リーダーの使い方がトーンを決める。英語の“How could you?”をただ「どうして?」と訳すだけでは足りない場面がある。私なら「どうして、そんなことをしたんだ?」や「一体全体、何を考えているんだ?」のように語の選び方で詰問の鋭さを調整する。文脈と声の想定が合致すれば、原文の問い詰めるニュアンスは十分に伝わると信じている。