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舞台上での説得力を最優先にした観点から、候補者の演技経験だけでなく即興での反応力を試す場面を設けた。僕は稽古場での一対一のやり取りや、他の配役との読み合わせで生まれる瞬間的な距離感の取り方を重視した。シエロという役には孤独や計算の匂いがあるため、表面上の魅力よりも微妙なズレを表現できる人が合うと考えたからだ。
声の質ではマイクを通したときの音の抜け方もチェックした。舞台では生の声と放送での響きが違うため、劇場での調整に素早く対応できる適応力が必須だった。舞台技術と演技が噛み合うことで、舞台版シエロは原作とはまた違う深みを持てる。私はそこを目指してキャスティングの判断を続けた。
キャラクターの年齢感や声質に重点を置きながら、台本を読み込んでから候補者の映像を何度も見た。私はシエロが持つ微妙な陰影――軽さと影の両方を同時に表現できるタイプの声を特に探していた。見た目の雰囲気だけで選ぶのではなく、話し方のクセや呼吸、息継ぎの位置といった細かい要素を審査項目に入れていた。
動きの面では所作の美しさと日常動作の自然さが両立できる人を好んだ。『刀剣乱舞』の舞台で見た、刀を扱う俳優が見せる細部の手つきにはいつも学ぶところがあるが、シエロの場合も同様に小さな仕草がその人物像を裏打ちするかが重要だった。声と動きが一致しているとき、観客はその人物に心を委ねられる。チケットを手にする観客の期待に応えるため、私はその整合性を何よりも優先した。
演出家の意向を踏まえてキャスティングを考えると、シエロに求められる核は「語る力」だと感じた。舞台上で台詞や歌が耳に残るだけでなく、目の動きや小さな仕草で物語を運べる俳優を優先したかった。僕は本番での間(ま)や呼吸の作り方を重視していたので、声量だけでなく声の色や語尾の揺らぎをチェックすることが多かった。
それからダンスや武器の扱い、照明による見せ方とも相性が良いかを必ず考慮した。『レ・ミゼラブル』で観たある配役がもたらした説得力を参考に、シエロも単に原作の外見をなぞるだけでなく、舞台固有の瞬間を作れる人物を選んだつもりだ。衣裳やメイクでの変化にも耐えられる体力と柔軟さ、長期公演で安定して魅せられる精神的タフさも見逃せないポイントだった。
最終的には共演者との化学反応が決め手になったことが多い。個人的に一緒に立ったときに“場が動く”と感じるかどうか、そこに全てを掛けてキャスティングしたと言っていい。
ファン視点でキャスティングを眺めると、キャラクターの本質を尊重しつつ新しい解釈を与えてくれるかが気になる。私は原作のシエロが持つ繊細さを壊さないことを条件に、舞台ならではの表現で観客を驚かせてくれる俳優を推した。顔立ちや年齢が近いかどうかだけで決めるのではなく、感情の起伏を身体全体で表せるかを見ていた。
また公演を重ねることを考えると、持続可能な演技プランが組めるかも大事な要素だった。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の舞台化を観たとき、少ない動作で豊かな内面を示していた俳優の力量に感心したが、シエロ役にも同じような節度のある表現力が求められる。結果的に私は、原作愛と舞台芸術の両方を届けてくれる人選が最良だと感じている。