九十九通の離婚届小山宥一(こやま ゆういち)の初恋相手が離婚した。
その夜、彼は私の目の前に九十九枚目の離婚届を叩きつけてきた。
「恵が傷ついて立ち直れない。俺が支えてやらなきゃいけない」
七歳の息子まで、私に向かって言った。
「早く出てってよ。恵さんに住んでもらうんだ。お前みたいなお手伝いなんて、もういらない」
父子そろって、私が泣いて「追い出さないで」とすがると思っていたのだろう。
けれど、私はただうなずいた。
そして、そっと離婚届に署名した。
十年後。
息子は大学受験でトップ合格を果たし、テレビに映っていた。
記者が尋ねる。
「この数年間、勉強を続けられた原動力は何ですか?」
息子はしばし黙り、人前で目を赤くして言った。
「母さんに伝えたい。僕はもう大人になったから、帰ってきて。僕を見捨てないでって」