5 回答
器用さよりも観察を先にすると、紙と墨の選択がぐっと簡単になる。
紙のポイントは吸水性と表面の摩擦感。吸水性が高ければ墨がすっと広がり、滲みを活かした表現が生まれる。逆に吸水性が低い紙では、墨の濃淡が鮮明に残り、輪郭のシャープさを出しやすい。和紙の種類だと、雁皮紙は繊維が細かくて光沢が出やすく、楮紙は繊維の表情が出やすい特徴がある。
墨の選び方では、制作目的を基準にするのが現実的だ。細密な墨線を多用するなら、濃度が安定している墨汁やよく磨られた固形墨の薄め方を工夫するといい。にじみや滲みを生かした大きな筆遣いを目指すなら、低めの濃度で水を多めに使うと効果的だ。
試験的なワークとして、同じ刷毛で三種類の紙に同じ濃度の墨をひと線ずつ引いてみると、紙ごとの反応が一目でわかる。そうして得た感覚が、のちの制作での判断基準になるはずだ。
道具の話を始めるとき、まず触って確かめることを勧めるよ。
紙は水の吸い込み具合が命で、薄い半紙はにじみやすく表現の幅が出やすい。反対に厚手の和紙は濃淡を保ちやすく、重ね塗りや墨のにじみを抑えたいときに便利だ。楮紙や雁皮紙は繊維が強く、擦りやすいので長く使えるが、最初は取り扱いが難しいこともある。
墨は固形墨と墨汁で性格が違う。固形墨は磨る手間が技の一部になり、墨の濃さを自分で調節できるから、濃淡のニュアンスを学ぶには最適だ。墨汁は手軽で安定するので、まずは表現の実験をたくさんしたい人に向く。どちらも一度に複数の濃度を用意して、紙ごとのにじみ方や筆の滑りを比較してみると理解が早い。
練習法としては、まず半紙で水量を変えた線を引き、次に厚手の和紙で同じ墨量を試す。そうして紙ごとの反応を体で覚えると、道具選びが自然にできるようになる。自分の目と手で確かめるのがいちばんだ。
細かい話をすると、紙の“目”と墨の粒子感が密接に絡む。
目の粗い紙は筆の毛先が引っかかりやすく、線が途切れたり墨が点々と残ったりするが、その不完全さが味になる場面もある。一方、目の詰まった紙は滑らかな線が引けるが、にじみで動きを出しにくい。まずは中厚の半紙で筆さばきを安定させ、慣れてきたら薄手や厚手の和紙で表現の幅を試すのが実践的だ。
墨の選び方では、固形墨でゆっくり磨ると粘りのある墨が得られ、線にコクが出る。急いでいるときや連続制作では墨汁が頼もしい。色調は油煙系と松煙系で差があるので、好みで使い分けるといい。手の感覚を優先して選ぶと、道具が自分に馴染んでくる。
短くまとめると、初めは単純に“試す”ことが最優先だ。
半紙と墨汁で基本の線をたくさん引いて、次に固形墨を少し磨って濃淡の違いを観察する。紙は楮紙、雁皮紙、半紙と順に変えてみて、同じ筆と墨でどう反応が変わるか記録しておくと後で役に立つ。筆先の返しや止めがどう出るかを意識しながら、紙ごとの扱い方を体得していくのが早道だ。
余談だが、古典の絵を模写して道具の違いを比較すると感覚が鋭くなる。自分の手で確かめるのが一番だ。
筆の感覚をつかむには、まず種類を分けて考えると楽に覚えられる。
半紙は表面がなめらかで墨がよく広がるから、筆運びの練習やにじみを生かした表現を試すのにぴったりだ。扱いに慣れてきたら、少し厚みのある楮紙に移ると、濃淡がくっきり出せる。紙の色味や繊維の粗さで同じ墨でも見え方が変わるので、いくつか試すのがコツだ。
墨は固形墨(すり墨)と墨汁のどちらかを選ぶ場面が多い。固形墨は磨る過程で墨の濃さを自由に調整でき、粒子の滑らかさや香りも楽しめる。反面、時間がかかるので短時間の制作では墨汁が便利だ。墨汁は濃度が一定で扱いやすく、教材やワークショップでよく使われる。
個人的には初めのうちは半紙と墨汁で筆運びに慣れ、表現の幅を広げたい段階で固形墨と楮紙を試す流れをおすすめしたい。こうすると道具ごとの違いが見えやすく、徐々に自分に合う組み合わせが見つかるからだ。