初恋を式に招いた婚約者
恋人の神谷奏也(かみや そうや)のもう一つの家を見つけたとき、中から激しい口論の声が聞こえてきた。
「結婚なんてさせたくないなら、七日後の結婚式に乗り込んで、俺を奪いに来いよ」
扉の向こうで奏也と向き合っていたのは、彼の初恋――早見美弥(はやみ みや)だ。
「奏也、あなた……自分が何を言っているのか分かってるの?」
「どうした、怖いのか?美弥、お前が本当に来るなら、俺はその場でお前を選んで、そのままお前と結婚するよ!」
美弥はしばらく黙り込み、やがて唇を噛みしめてうなずく。
「いいわ。式の日に、桐谷安奈(きりたに あんな)の手から、あなたをこの手で取り戻してみせる!」
次の瞬間、二人は抑えきれない想いに突き動かされ、抱き合って唇を重ねた。
その光景を見た私は、胸が締めつけられて息ができなくなった。
私たちは五年間も付き合ってきた、傾きかけた彼の会社を、私は必死で立て直した。そのうえ、自分の持てるものはすべて彼に差し出してきた。
それなのに彼は、初恋の女とこっそりもう一つの家まで構え、挙げ句の果てには、その女に私たちの結婚式を公然とぶち壊させようとしている。
拳を握りしめ、私は心の中で決意した──
七日後、彼らが式に押しかける前に、私は結婚式から逃げ出す。