そう言うと、今さっき返したばかりの時計に目をやった。
「2時半か。この後、時間はある? 4時までには終われるけど」
「よ、予定はないですけど……」
「今日撮ってみて、どうしてもいやだったら無理強いはしない。約束する」
そう言うと、ふと思いついたように小指を立てて、わたしの目の前にかざした。
「ね、指切りしよう。そうしたら、嘘つけないだろう」
飽きれてる? 子供っぽいやつって、と言いながらすこし首をかしげてこっちを見る。
その仕草があまりにもチャーミングで、思わず小指を差し出していた。
彼は嬉しそうな顔で自分の小指を絡めてきた。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます」
指にぎゅっと力を込められたとき、気取られてしまうのではないかと思うほど、心臓が高鳴った。
「なつかしいね、指きりなんて。小学生以来かな。でも針千本飲ますっておそろしいよね、よく考えたら」
「……本当に、試すだけですね。断ってもいいんですね」
「うん。針千本、飲みたくないもん」
また、この笑顔。
本当にずるい人。
自分が彼の術中に完全にはまっている自覚はあったけれど、わたしはどうしても抗うことができなかった。
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若い女性が鮮やかな手つきでメイクを施してくれた。
それにしてもすごい。
ほんの30分で別人に生まれ変わってしまったようだ。