LOGIN「あ……っ」 「こんなに感じてくれてるんだ……。嬉しいな。でも、そんなに固くならないでリラックスしてごらん」 少し掠れたぞくっとする声でつぶやく。「文乃が行ったことのないとこまで、連れてってあげるから」 それから、指と唇でさんざん弄られて…… もう声を抑えることなどできずに、わたしは快楽の波に翻弄されるまま、あられもない声をあげていた。 頭が真っ白になって、気が遠のいていきそうになったとき、安西さんがわたしのなかに入ってきた。 「……はあっ、あや……の」 彼も抑えきれない欲望に声をあげてわたしを突き上げる。 好きという気持ちが心から溢れだして、わたしの全身に漲っていく。 その想いを注ぎ込みたくて、わたしは自分から彼の唇を求めていた。 「す、き……あなたが……好き」 発火しそうなほどの熱い口づけで、彼はその想いに応えた…… *** ふと目を覚ますと、窓の外が白んでいた。 新聞配達のバイクの音が遠くから聞こえてくる。 その音さえ、まるで祝福の鐘の音のように聞こえる。 隣で眠る安西さんの安らかな寝息も聞こえる。 わたしはそっと、彼の背中に口づけ、また微睡(まどろみ)のなかに引き込まれていった……〈the end〉*お読みいただきありがとうございました😊
ふわふわと宙に浮き上がっているような覚束なさに全身が支配される。 彼の唇はしばらくそこに留まっていたが、顔をあげて、今度はじっと見つめてくる。「頬が上気して薄紅色に染まってる。ああ、カメラに収めたいぐらい綺麗だ」 そんなことを言いながら、彼の手はわたしの足をさすりあげてくる。「でも……やっぱり誰にも見せたくない」 太腿に置かれていた手に力が加わって、左右にゆっくりと押し開かれた。 「あっ……いや……」 思わず閉じようをすると、さらに強い力で押さえられてしまう「そう? そんな蕩けそうな声出してるのに?」 そして、少し意地悪な口調でそんなことを言われる。 「……だって、恥ずかしい……です。そんなふうにじっと見られたら」 「商売柄かな。いつでも見ていたいんだ。美しいものは特にね」 安西さんはわたしを見つめたまま、内腿に舌を這わせていく。そして言った。「……今度は時間をかけて、たっぷり愛してあげるよ」 彼の舌がわたしのもっとも敏感な部分に触れた。「……!」 これまで味わったことのない快楽の波が襲ってくる。 「い、や……やめ……」 わたしは安西さんの髪をかき乱しながら、執拗なその舌を引き離そうとした。 彼の唇が離れた。 ほっと息をつくと、今度は彼の指がわたしのなかを弄りだす。
「ありがとう……。嬉しいです。そう言ってもらえると」 そう呟くわたしの髪を耳にかけて、露わになった耳たぶに戯れにそっと歯を立ててきた。 噛まれたと言っても、ほんの軽く触れられた程度だった。 でも、心も身体も敏感になっているわたしは、それだけのことでも思わず声をもらしてしまった。 「あ、うんっ……」 「……その声も好きだよ。そんな声を聞かされたら」 少しかすれた色めいた声で安西さんがつぶやく。「また……欲しくなってきちゃうじゃない」 安西さんの手がわたしの肩に触れ、静かに押し倒される。 彼の舌が首筋をさまよいはじめる。 そっと、舐めあげられたり、ときおり少し強く吸われたり。 そんなことをされると、背中がぞくぞくしてきて、思わず身をよじってしまう。 そんな反応が彼をまた刺激して、今度は指先が胸乳を弄りはじめる。 尖った先端をさすられると、身体の奥深くで得体の知れない何かが蠢きだす。 わたしは思わずびくっと身をこわばらせる。 「こうされると、気持ちいい?」 恥ずかしさに震えながらも、わたしは小さくうなずいた。 安西さんはふっと微笑みをこぼし、「じゃあ、これは?」と言って、 今度は右胸の乳暈を舌でやさしく舐めあげてきた。「……あん」 指とは違う湿った感触に、新たな快楽を掘り起こされて、自分とは思えないような声を出てしまう。
彼の部屋で、安西さんはありったけの情熱を注ぐかのようにわたしを抱いた。「安西……さん」 獣のようにわたしを貪る彼にこたえて、いつしか、わたしもあらぬ声をあげていた。 「まだ夢みたいだ。文乃とこうしているなんて」 「わたしも……同じこと、考えてました。今」 情事の余韻に浸ってぼんやりしているわたしに安西さんがつぶやいた。 彼の腕がわたしの身体の下に滑り込んできて、そのまま引き寄せられる。 背後から抱きしめられて、肩口にそっとキスされる。 こわれものを扱うように優しく。 そうした態度のすべてがわたしを幸福の極みに連れて行ってくれた。 あのときは、その幸福が怖かった。でも、今は違う。 そのことが心の底から嬉しかった。「なんで保育士になったの?」 わたしの髪をもてあそびながら、安西さんが尋ねる。「歌にかかわる仕事がしたくて。保育士になれば毎日子供たちと思い切り歌えるなと思って、それで通信で資格を取って……」「文乃らしいな。おれ、文乃の歌、好きだよ。とっても美しい澄んだ声をしてるから。子供たちが羨ましいよ」 そんなふうに褒められたのは初めてだ。 他でもない安西さんに言われたことも相まって、嬉しさがふつふつとこみあげてきた。
そう言うと、今度はこれ以上ないほど真剣な表情に変わった。「会いたかったよ。文乃がどう思ってるかわからないけど、おれは今でも文乃が好きだ。その気持ちは少しも変わっていない」 もう、我慢できなかった。 堰を切ったように涙が頬を伝っていく。 店はほぼ満員だし、店員さんも近くにきそうだし、こんなところで泣いたらおかしいと、自分をいさめるのだけど、どうしても止まりそうになかった。「ご、ごめんなさ……い、お、おかしいですよね……こんなところで」 安西さんは優しい眼差しでわたしを見つめながら、ハンカチを差し出した。 そして、「出ようか」と言った。 それからすばやく立ち上がると、わたしをかばうように肩に手を回して歩き出した。 表に出て、駐車場に向かう途中の壁際で抱きすくめられた。「文乃……会いたかった……おれのあやの……」 そう言って、わたしの顎をすくいあげる。 懐かしい彼の唇の感触がわたしの心に灯りをともしていく。「文乃は? おれを好きでいてくれた? 今も変わらない?」 少し不安げにそう尋ねる彼の顔を、わたしは見あげた。「……変わって……ません。ずっと……ずっと好きでした。ずっと、会いたかった」 唇が重なる。 深く、激しく。 まだ、宵の口だし、誰か通りかかるかもしれない。 そんな考えが、ちらっと頭をよぎったが、それでもかまわない。 そう思った。 名残惜しげに唇を離すと、彼は切羽詰まった声音でささやいた。「もう、死んでも離さないから、覚悟して」
あのとき、自分は俊一さんへの罪悪感を少しでも薄れさせることしか、考えていなかった。 安西さんの、わたしを想ってくれる気持ちを軽んじたつもりはまったくなかったけれど、結果的に彼の気持ちを踏みにじってしまった。 結局、わたしは自分のことしか考えてなかった。 ひどいことをした。 安西さんの顔がまともに見られない。俯いたままで、わたしは言った。「ずっと、ずっと、あなたのことはもう忘れなければいけない、と思ってました。安西さんにとってわたしは、もう遠い過去になっているはずだって。 それに、本当に、わたし、安西さんみたいなひとには、ぜんぜんふさわしくないし……」 言葉が終わらないうちに、安西さんの手がわたしの頬に伸びてきて、軽くつねられた。 思わず顔を上げると、目が合った。 慈しみに満ちた表情でわたしを見つめている。 初めて会ったときから、わたしを惹きつけてやまない瞳。 その美しい瞳と見つめ、ようやくふたたび安西さんに会えたことの喜びが、わたしの心を満たしはじめた。「何言ってるんだよ。ふさわしいかどうかなんて、おれが決めることだろう」 そのまま、わたしの髪を優しく撫でながら、続けた。「おれが愛する女は、文乃だけだよ」 そう言ったとたん、安西さんはあわてた顔をして、自分の口を両手で押えた。 急にどうしたのだろうと思っていると……「うわ、やば。まじで歯が浮いてきた」と真面目な顔で言う。 本気であわててる姿が可笑しくて、思わず吹き出してしまった。 そんなわたしを見て、安西さんは嬉しそうに言った。 「やっと、笑ってくれたね。その顔が見たかったんだよ」
ただ、名が知られているといっても海外の雑誌なので、日本では思ったほど騒がれなかった。 ネットで一時期、「このモデルの正体は?」と話題にはなったが。 ニューヨーク在住の日系三世のスーパーモデルとか母親が日本人の香港の大財閥の令嬢とか、いろいろな噂がまことしやかにささやかれた。 でもネット上にはボウフラみたいに日々新しいニュースが湧いてでてくる。 数日後にはすっかり話題にのぼらなくなった。 この仕事をきっかけに、ファッション関係の撮影のオファーは格段に増えた。 海外からの依頼も増え、情けないことに、あいかわらず紗加に頼る日々が続いている。 でも、愛人関係のほうは解消した。 い
今でも、苦痛に歪んだ彼の顔が夢にあらわれる。 それでも、その話を聞いたときはすこしだけ背負っていた重荷が軽くなった気がした。 見るのは俊一さんの夢だけじゃない。 安西さんの夢もひんぱんに見る。 彼の評判はマスコミやネットを通して伝わってきていた。 以前に増して、引っ張りだこの人気らしい。 あれ以来、グラビアよりもファッション誌の仕事が増えているようだ。 たまに雑誌で彼の名前を目にすると、心が疼く。 いや、雑誌どころか、この春、カメラのCMにも出演していた。 その美しい容姿も話題になり、アイドルのように熱狂的なファンもいるらしい。
こんなふうに思うようになったのは、あの撮影の日がきっかけだった。 あの時のスタッフたちの姿、自分の仕事にプライドを持って生き生きと働く姿が、ずっと頭から離れなかった。 そして、自分も本当にやりたい仕事をしたいと強く願うようになった。「ねえ、せんせえは? すきな子、いないの?」 はぐらかしたと思っていたのに、このみちゃんはどうしても答えが聞きたいらしい。 彼女を抱きあげて膝に乗せ、甘ったるい汗の臭いがする髪の毛をなでながら答えた。「うん。いるよ。とっても好きなひとが」 「じゃあ、けっこんする?」 「ううん」「なんでぇ?」 このみちゃんはくりくりした目を大きく見開いて、
どこに勤めていたのかとか、実家はどこかとか、何も知らない。 興信所に頼むことさえ考えたが、文乃が家族や会社のひとに不審がられることになると気づいて断念した。 そのときは、テレビのニュースを見るのが怖かった。 アナウンサーが事件や事故の被害者として文乃の名を読み上げるのではないかと。 そして4日後、携帯電話のメッセージは〝現在使われておりません〟というものに変わった。 それでようやく悟った。 文乃が自分の意志で姿を消したってことを。 もうおれには会う気がないということを。 とてつもない虚脱感が襲ってきた。 結局、心が通じたっていうのも、おれのひとり合点だったって







