ここで何を思ったのかエリオットがブルリとその身を震わせた。
「ボク、見ちゃったんです」
「何を見た?」
「侯爵の秘密を。侯爵家には、侯爵様しか入ってはいけないとされる部屋があるのです。
そこのカギは侯爵のみがもっていて、誰もその中に何があるのか知らないのです」
アスナがコキリと首を慣らした。
「ヤバい匂いがプンプンするな」
その言葉にエリオットが心底嫌そうな表情をした。
「想像以上にヤバいですよ。ボク、あんなに気持ち悪いのを見たのは初めてです」
エリオットの語った内容はこういうものだった。
無理やり侯爵家の息子として引き取られたエリオット。
当然だが侯爵家での扱いは酷いものだった。
侯爵が居る時にはいいが、居ない時には正妻から使用人扱い。
「まあ、それはまだマシなんです。元々平民なので、家事手伝いは当たり前でしたから。
問題はそっちじゃない。ウジ虫のような兄弟の方なのです」
正妻の子は二人いて(ちなみに地位をかさに着た素行の悪さで、社交界の鼻つまみ者となっている。それぞれ25歳と23歳だったか?)そいつらに至っては、血のつながりがあるというのにエリオットに欲に満ちた目を向けてくるのだという。
正妻が居る時には、皮肉なことに正妻が二人の抑止力となっていた。二人とも両親の前では「良い息子」として振舞っていたから。
しかし、二人が居ない時には隙あらばエリオットに手を出そうとする。
飲み物に何か入れられ、這う這うの体で自室にカギをかけて閉じ籠ったことまであったそうだ。
身の危険を感じたエリオットは、二人に知られない場所を探し、侯爵の秘密の部屋に思い至る。
「侯爵しか入れない部屋」というのなら、侯爵不在の際の隠れ家としてちょうどよいのではないか?
エリオットは魔法に長けていた。力業に近いアスナとは違い、特に繊細な操作が得意なのだ。
そこで秘密の部屋の鍵を魔法で開けてみたのだという。
果たしてそれは成功した。
「その部屋の中に何があったと思います?……執念です。
アスカ様のお母様の肖像画が壁一面に並べられていました。おまけに、恐らくですが、アスカ様のお母様の使用された私物まで……」
思わず唾をのみ込む。
ゾッとした。寒くもないのに寒気を感じ、思わず腕をさする。
「それってストーカーじゃねえか!気持ちわる!」
何故か汚いものに触れてしまったかのように手をブルブルと振るアスカ。