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第32話

Auteur: 神雅小夢
last update Dernière mise à jour: 2025-06-25 07:30:00
「龍太郎は本当に苦労人だよ。若い頃は勉強、勉強。医師になってからも、勉強。それに父からの過度な期待……」

え……? 龍太郎は苦労人なの? は? お金持ちの家で育った|御曹司《ボンボン》なんじゃないの?

「ん? なにも龍太郎から聞いてない?」

光太郎が怪訝な面持ちで尋ねてきた。

「……龍太郎先生と、きちんと会ったのは先日が初めてなんです。なので、そんな深い話はしていません……」

私はぐっすりと眠る、龍太郎のあどけない寝顔を見つめながら答えた。

どうみても苦労人には見えない……、そんな輝かしいオーラを放っていた。

私は龍太郎を見た目だけで判断していた……。彼にいろんなことを言って、申し訳ないことをした。

「……そうなの? 龍太郎は半年ぐらい前から、とある女の子の話は時々してたけど、あれ君のことじゃないのかなぁ?」

光太郎が首をかしげた。

半年も前? こっちは先日会ったばかりだ。しかも出会いも最悪。パンツから出会いが始まったようなもんだ、私じゃない。

「それは多分、私ではないと思います……」

おそらくメッセージのやり取りをしていた、既婚女性のことだろう……。

それにこれだけ美形なら、他にもたくさん女性は寄ってくるに決まっている……。

なんだろう……。なんか、もやもやする……。

チクリと胸が痛んだ。

「……そうなんだ。僕はてっきり鈴山さんのことかと……。話してみたい女の子がいるとは聞いてたけど、君のことではなかったか……。う~ん……」

光太郎は宙を見つめながら、顎に手を置いて、なにやら考え事をしているらしかった。

そしてそのまま会話を続けた。

「|龍太郎《おとうと》は、小町さんのために勉強しかしてこなかった、マジメな子だからねぇ……」

私は耳を疑った。小町さんってたしか……、龍太郎のお母さん?

え? その言い方は、まさか、お二人は腹違いの兄弟?

……なんか家庭が複雑な感じ?

ん? マジメ?? どこが?

隙あらば触ってくるイメージしかないんだけど??

「まぁ、ちょっとひととは違う不器用なところもあるけど、優しくて根は良い子だから。仲良くしてやってね」

光太郎はそういうと微笑んだ。

光太郎は龍太郎のことが大好きなんだ……。

いいお兄さんを持ったんだな、良かったな
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