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第42話

Author: 神雅小夢
last update Last Updated: 2025-07-05 13:52:59

「おれ、おまえのこと……その……す……」

龍太郎の頬が赤い……。

……なに? なにを言おうとしてるの……?

私の胸も高鳴り始めた。

その時だった。私のスマホが鳴り出した。

「あ……、ごめん」

私は台所を離れて、リビングに置いてあるスマホの画面を見る。

母からだった。

なんだろう……。めったに電話なんてしてこないのに……。

「はい、もしもし? お母さん、どうしたの?」

『あんた、元気なの?』

母のいつも通りの愛想のない声だ。だが、なにか不安が混じったものを含んでいるのがわかった。

「……うん。元気だよ。お母さんは?」

入院したことと、仕事のことは落ち着いたら話す。

『私たちはいつもどおりよ。まぁ、あんたが元気ならいいのよ。実はね最近、家の固定電話に変な電話がかかってくるのよ』

母の声は明らかに|狼狽《ろうばい》していた。

「え? 変な電話? なにそれ……」

私の電話の内容を聞いて、洗い物をしている龍太郎の表情も少し硬くなった。

『……それが無言電話なのよ……』

「無言電話?」

『そう、しょっちゅうよ。ひどい時は夜遅くでもかまわず、電話がくるわ。まさかとは思うけど、あんた、身に覚えない?』

「……ないよ」

私はそう答えたが、絢斗のことが少し引っかかった。さっきの彼の粘着質な視線……、気持ちが悪かった。

絢斗と別れてから、電話がくることはないと思いながらも、着信拒否をしている。

でもあんなひどい喧嘩別れをして、向こうは結婚も決まっているのに、電話なんかしてくるはずもない。

今頃、幸せいっぱいだろう……。

『そう、ならいいわ。でも困ったものよねぇ』

母がため息をついた。

「……流行り病の時に詐欺とか、変なのが一気に増えたから、その|類《たぐい》なんじゃない? 相手がお年寄りか確認してるとか……。もうしばらく電話に出るのをやめたら? いっそ、固定電話を解約するとか……」

電話帳には当然載せていないはずだ。

『そうね。またお父さんと話をしてみるわ。あんた、たまには実家に顔出しなさいよ。お父さんがうるさいんだからね』

はいはい。また父か。母の会話はいつも父だ。どうせ、この電話も父がかけろと言ったんだろう。

相変わらず、父は働かずに朝から飲んだくれているんだろう。

母みた
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