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望月 或
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Novels by 望月 或

後悔?そんなの勝手にすればよろしくて?〜悪女と呼ばれた公爵令嬢は絢爛に返り咲く〜

後悔?そんなの勝手にすればよろしくて?〜悪女と呼ばれた公爵令嬢は絢爛に返り咲く〜

「ようやく……ようやく、ずっと待ち望んでいたこの時がきましたわ」 バセロルト公爵家の長女アーベリアに、ユグドール王国の王太子ライラックとの婚約の打診が届く。 昔から彼との婚約を望み、夢見ていたアーベリアは、その話に二つ返事で承諾する。 しかし王城は、王妃と王妃派が牛耳る『魔の巣窟』だった。 息子を溺愛する王妃に目をつけられたアーベリアは、城の者達から冷遇される。 さらに王太子と親密な関係の伯爵令嬢が現れ、念願だった彼の婚約者としての立場が危うくなり…… それでも彼女は、胸に秘めるただ『ひとつ』の思いのため、いくつもの危機に立ち向かっていく。 「――愚かな皆様へ。さぁ、御覚悟はよろしくて?」
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Chapter: 13.嘲笑う令嬢
 そんな中、イグニスはジューンメリーに対し呆れた眼差しを向けていた。(本来は姉上と王太子だけの茶会なのに、遠慮をまったくせず居座り、姉上を無視し王太子とばかり話す、か。この娘、非常識にも程があるな。普通は遠慮して、王太子が許しても自ら離れるものだが) そのイグニスの思いが通じたのか、ジューンメリーは「あっ」と声を出しアーベリアの方を向いた。「ごめんなさいっ。あたし、ライラックさまとずっと話しててっ。あたしもう行きますねっ」 「うん、わかったよ。またね、ジューンメリー」 素直に頷き別れを告げたライラックに、ジューンメリーはあからさまにムッとした表情を浮かべた。   (引き止めてほしかったようだな。面倒臭い娘だ) ジューンメリーは椅子から立ち上がり歩きかけたが、その身体がフラリと傾き、座っているライラックの胸にもたれかかった。「おっと……大丈夫かい?」 「うぅ、ちょっとめまいが……。あたし歩けないかも……」 「あぁ、それは大変だ。医務室に連れていくよ」 ライラックが手を上げ護衛を呼ぼうとしたが、それをジューンメリーが即座に制止した。「あたし、ライラックさまがいいの。ライラックさまがあたしを抱っこして連れていって?」 桃色の目を潤ませながら自分を見上げてくるジューンメリーに、ライラックはすぐに頷いた。「アーベリア、すまないけど……」 「わかりましたわ。わたくしのことは気にせずいってくださいませ」 「ありがとう。来週のお茶会も楽しみにしているよ」 ライラックはジューンメリーを横抱きにすると、護衛と共にその場から去っていった。  ジューンメリーはライラックにギュッとしがみつき、その表情を窺い知ることができなかった。 しかし、彼女の顔に満面の嘲笑が浮かんでいることは、イグニスには容易に想像できた。 アーベリアは侍女達にお茶会の片付けをお願いすると、イグニスの方を振り向く。「いきましょうか、イグニス」 「……大丈夫か」 あんなあからさまに婚約者と伯爵令嬢の仲睦まじげな光景を見せつけられたのだ。  イグニスが問いかけると、アーベリアは切なそうに眉尻を下げた。「わたくしもあんな風に甘えることができたのなら、愛する人の心をもっと掴むことができるのでしょうね」 「…………」 悲しみを含んだその言葉に、イグニスが眉間に皺を寄せた時
Last Updated: 2026-08-06
Chapter: 12.新たな波乱
 侍女長ミモザが捕まり、彼女が盗んでいた侍女達の装飾品は、すべて持ち主のもとへ返された。 アーベリアに理不尽な要求をしていた重鎮達は、今回の事件を受けしぼんだように大人しくなり、彼女を見た途端目を逸らして離れていくようになった。 こうして、平穏な日々が訪れた―― ――と思った矢先、また新たな問題が生まれようとしていたのだった……✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼「先日の事件は災難だったね。犯人が見つかって良かった。僕は君が無罪だと最初から信じていたよ」「ありがとうございます、殿下。そのお言葉、とても嬉しいですわ」(何もせず王妃の言いなりになって傍観を決めていた男の言う台詞ではないな) ライラックとアーベリアの会話に、少し離れた場所で待機していたイグニスは心の中で横槍を入れる。 本日は一週間に一度の、庭園で行われる二人のお茶会だ。 しかしミモザの件があり、ある程度収束するまでお茶会は中止となってしまい、今回二人が会うのは二週間ぶりのことだった。 紅茶を嗜みながらライラックとアーベリアが談笑していると、向こうからこちらに駆けてくる影が見えた。 イグニスが即座に反応し、アーベリアの前へ守るように立ち塞がる。 段々と近付いてくる影の正体は、杏色のプリンセスドレスを着た小柄な女性だった。 ライラックの護衛はその女性に対し何も反応を見せなかったので、イグニスは敵ではないと判断し、握っていた剣の柄から手を離す。「ライラックさまぁっ」 肩まである桃色のふわふわした髪を揺らし、同じ色の瞳を輝かせながら、女性は笑顔でライラックの名を呼び―― 駆けてきた勢いのまま、ライラックに抱きついた。「おっと」 ライラックは笑いながら、さも当たり前のように女性を受け止める。 アーベリアとイグニスは、抱き合う二人の姿に、暫しの間身体が硬直してしまった。「ライラックさま、捜したんですよっ。あたし、ライラックさまに会いたくて仕方なかったんですからっ」「あぁ、ごめんよ。今日は僕の婚約者のバセロルト公爵令嬢とお茶会があってね。君が今日来るとは聞いてなかったから」「婚約者? お茶会?」 そこでようやく、女性はアーベリアの存在に気が付いたようだった。 「あっ、ごめんなさい! あたし、ライラックさましか見えてなくてっ」 慌てたように女性は
Last Updated: 2026-08-05
Chapter: 11.兄には逆らうな
「わたくしが重鎮達や侍女長の言うことを素直に聞き続け、王妃にわたくしを追い出す訴えができないことに、彼女達はやきもきしていたことでしょう。ですので、近いうちに何か行動を起こすのではないかと思っていたのです」「『作戦会議』の時に言っていたな。この金庫を使って何かしてくるかもしれないと。だから前もって俺に暗証番号を解読させた」「えぇ」 頷いたイグニスに、アーベリアは頷き返しながら言葉を続ける。「ですので念のため、金庫の中は毎日確認をしていました。そして昨日、金庫にブローチが入っていたのです。王妃がそれを胸につけている姿を何度か見たことがありましたので、これがすぐに彼女のものだとわかりましたわ。侍女長が本鍵を使って中に入れたのでしょう」「……! そんなことが――」 イグニスは昨日、王妃派の重鎮達に命令され、夜遅くまで雑務に付き合わされていたのだ。「わたくしが部屋にいない間に、初期番号で金庫が開かないことを確認していたのでしょうね。わたくしは、あの二人が実行しようとしている企みが予想できました。昨日は王妃に一日中外出の用が入っていましたので、決行が今日だということも」「侍女長は自分が初期化をし忘れたことが脳から抜けていて、姉上が王妃に伝えず暗証番号を変更したと思い込み、この企みを思いついた。――いや、企んだのは恐らく王妃だな。短気ですぐ頭に血が昇る侍女長がそんなに頭が回るわけない」 イグニスの推察に、アーベリアは同意して首を縦に振る。「えぇ。それとは別に、侍女達のお喋りで装飾品がなくなる話を聞いていたわたくしは、侍女長が身に着けていた、彼女にまったく似合わないネックレスやイヤリングは侍女達から盗んだものではないかと推測したのです。現在お城にいる侍女から盗んだものは、自分の部屋でこっそりと身に着け悦に浸っていたのでしょう」「装飾具に興味がない姉上がそれを褒めた時点で違和感を持っていたが、やはりあの女のものではなかったか。美しいものへの異常な執着心には正直寒気がした。そんな女がよく侍女長をやっていられたものだ」「よほど隠すのが上手だったのでしょう。ちょっとやそっとでは馬脚を現さないと判断したわたくしは、早馬でラハンお兄様にお手紙を出しました」「兄上に……か?」 そこで予期せず自分の兄の名前が出たことに、イグニスは思わず目を見張ってしまった。「本来
Last Updated: 2026-08-04
Chapter: 10.尻尾は切られた
 使用人達の願いが通じたのか、王妃付きの侍女は程なくして戻ってきた。 ハァハァと息を切らしながら、侍女が片腕をバッと掲げる。 彼女の手には、なくなったはずのルマーサのブローチがしっかりと握られていた。「お部屋の隅に落ちていました! 丸い形ですので、恐らく机から落下した際に遠くへ転がってしまったんだと思われます。幸いにも傷ひとつ付いておりません!」 それを聞き、思わずといった感じで使用人達の間から安堵の息と歓声が漏れた。「そ、そんな……。嘘よ……そんなこと……そんなことあるはずがないわ……」 ミモザの顔色が死人のように真っ青になり、ガタガタと震えている。 そして彼女は救いを求めるように、ルマーサの方をバッと振り向いた。「……っ!」 ルマーサは、害虫を見るような冷淡な目つきでミモザを見下ろしていた。「……はぁ……。心底失望したわ、ミモザ。使用人の私物を盗んでいたなんて。そんなクズはワタクシの視界に入れたくないわ。罪人としてアナタを処刑します」 ルマーサの冷酷無比な言葉に、ミモザの全身から一気に血の気が引く。「そ……そんなっ! 元はと言えばルマーサ様が――」「お前達、何をグズグズしてるの! さっさとこの罪人を牢に連れていきなさいっ!」「は――はいっ!」 ミモザの言葉を遮るようにルマーサが叫ぶと、廊下で待機していた騎士二人が慌てて中に入ってきた。 そして、愕然としているミモザを取り押さえる。 突如、彼女が身をよじり暴れはじめた。「いやっ、嫌よっ! 離して――離しなさいっ! 美しいものを私のものにして何が悪いのよ! 美しいものは、それが一番よく似合う私が身に着けるのが道理ってもんでしょ!? 私はまだまだ美しいものを手に入れたいのよ! これだけじゃ全然足りないわ! だから処刑なんてされたくない! ルマーサ様、どうか御慈悲を……御慈悲をっ!!」「こらっ! 暴れるな、王妃陛下の御前だぞ! 静かにしないかっ!」 涙を流しながら喚くミモザを、騎士二人が引きずりながら部屋から連れ出していく。 静かになった部屋で、ルマーサの大きな溜め息が響いた。「はぁ、まったく……気分が悪いわ。部屋に戻ります。すぐにアタクシの好きなお茶を用意してちょうだい」「は……はいっ、かしこまりました!」 ルマーサは不快に眉をしかめ、扇子で口元を隠しながら、侍女と共に
Last Updated: 2026-08-03
Chapter: 9.犯人は誰?
「……二つほど、お伺いしてもよろしいでしょうか?」 おもむろに、アーベリアの薄紅色の唇から質問の言葉が紡がれる。「なんです? 言い逃れしようったってそうはいきませんよ?」「お時間は取らせませんわ。金庫の暗証番号の変更は、初期状態の『0』四つに番号を合わせ、扉を開いてから変更可能とお伺いいたしましたが、お間違いはございませんか?」「…………は?」 思いもよらぬ問いかけに、ミモザの勝ち誇った表情が怪訝なそれに変わる。「……そうですけど? 以前に私が説明したとおりです」「かしこまりました。続いて二つ目の質問をさせていただきますわ。ダイヤル錠の初期化は、どなたがされているのでしょうか?」「それは……責任ある作業なので、侍女長である私がしていますが……」「まぁ、ミモザさんが――あぁ、申し訳ございません。もうひとつ質問がございましたわ。初期化には本鍵を使用されますか?」「え? それは……初期化するには一度金庫を開ける必要があるので、王妃陛下からお借りして使いますけど……。――ちょっと、さっきから一体なんです? 意味不明な質問ばかりして! それでこの場をあやふやにしようという魂胆ですか!?」 ミモザが苛立ちを隠さず、質問を続けるアーベリアに言葉を投げつける。「そのようなことはいたしませんわ。先日、暗証番号を変更しようと『0』を四つ合わせたところ、扉が開かなかったのです。何度『0』に合わせて試しても開かず――そこでわたくしは考えました。初期化担当者がうっかり初期化をし忘れてしまい、前の暗証番号のままではないのかと」「っ!?」 アーベリアの見解に、ミモザの顔色がサーッと変わった。「え……うそ……。そ、そんな……。私が忘れるはずなんて……あ――」 心当たりがあるのか、青ざめ狼狽するミモザの様子に、ルマーサのこめかみがピクリと小さく動く。「暗証番号をひとつひとつ確かめようとも、組み合わせは一万通りもあるので多大な時間がかかってしまいます。それでしたら前の暗証番号をお伺いしようと、わたくしの前に殿下の婚約者候補だったホルトノ侯爵令嬢にお手紙を送りました。婚約者候補だった間、このお部屋を使用されていたとお聞きしましたから」 アーベリアは机に手を伸ばすと、印璽(いんじ)が捺された封蝋(ふうろう)で閉じられた手紙を取り、この場にいる皆に見せた。「こちら、ホ
Last Updated: 2026-08-02
Chapter: 8.ひとつの大事件
 時が経っても、重鎮達やミモザの無礼な態度は相変わらずだった。 そのうえ、王太子を誑かす〝悪女〟という噂の尾ひれまで付けてきたのだ。 しかし何を言われようと、重鎮達の頼みにアーベリアは決して首を横に振ることなく、笑みを絶やさず縦に振り続けた。 そして――そんなある日のこと、ひとつの大事件が起こった。「王妃陛下のブローチが盗まれた!?」 その話を聞き、城の使用人達が一斉にざわつく。 なんでも、ルマーサが本日つけるブローチを決めるために自室のテーブルに並べたあと、所用を思い出し部屋を離れた少しの間に、一番高級なブローチがなくなっていたというのだ。「王妃様のお部屋に忍び込むなんて……。そんな恐しいこと、私には絶対できないわ……」「まったくだ……。一体誰がそのような命知らずなことを……」 この事件を受け、城の使用人全員の所持品検査を行うことになった。 そこにはアーベリアも対象に含まれていた。「王族と重鎮達は検査除外らしい。それなら王太子の婚約者である姉上も除外していいはずだがな。あからさま過ぎて呆れる」 使用人の一人からその件を聞き、アーベリアの部屋に戻ったイグニスは、その旨を彼女に聞かせた。 ソファに座って紅茶を嗜んでいたアーベリアは、無表情の彼に穏やかな微笑みを向けた。「殿下の婚約者という肩書きは持てど、ここでは余所者ですから仕方ありませんわ。それにわたくしは盗んでいないのですから。堂々としていましょう」「あぁ。当たり前だ」 イグニスが息をつきアーベリアに頷いたと同時に、扉からノックの音が響く。 そして、こちらが返事をする前に乱暴に扉が開かれた。 カツカツと足音を鳴らし入ってきたのは侍女長ミモザで、その後ろから王妃ルマーサも姿を現す。 入り口には野次馬の使用人達が集まり、固唾を呑んで事の成り行きを見守っていた。「城の使用人達とその部屋からはブローチが見つかりませんでした。残りは貴女だけです。王妃陛下の許可は戴いているので、早速貴女とこの部屋を調べさせていただきます」「かしこまりました。では、わたくしの所持品検査からですわね」 アーベリアはスッとソファから立つと、躊躇なくドレスを脱ぎはじめた。 これにはミモザはもちろん、ルマーサも驚き両目を見張る。「…………」 イグニスは視線をアーベリアから外し、こちらをマジマジと見つめ
Last Updated: 2026-08-01
弟と婚約者に裏切られた不運の王子は、孤独な海の娘を狂愛する

弟と婚約者に裏切られた不運の王子は、孤独な海の娘を狂愛する

ラエスタッド王国の第一王子であるヴィクタールは、何者かに無実の罪を着せられ、更に弟と自分の婚約者に、不貞と言う名の裏切りを受ける。絶望し死を決めた彼は、二人の目の前で崖から落ちていった―― リントン侯爵家の使用人リシュティナは、侯爵家の姉妹に苛められる日々だったが、恋人になったロッゾに裏切られ、更に理不尽な理由で侯爵家を解雇されてしまう。 絶望し死に場所に決めた浜辺で、リシュティナは倒れている瀕死の男を発見し介抱するが、目覚めた彼から放たれたのは怒りと『拒絶』の言葉で――? これは、裏切られ絶望し死を求めた二人が運命的に出逢い、様々な困難に遭いながらも愛を深めていく、狂愛と純愛の物語。
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Chapter: 64.小話:幸せに向かって 5【終】
 リシュティナは二日間で基礎的なパーティーの作法やダンスを熱心に学び、あっという間に婚約披露パーティー当日を迎えた。「ふふっ、とても綺麗ですよ、リシュティナ様。皆の目が釘付けになる事間違い無しです!」 身拵えをしてくれた城の侍女の言葉に、リシュティナは慌てて首を左右に振る。「いえ、そんな全然……! こんなに素敵にしてくれたのは、皆さんの腕がとても良いからで……っ」「あら、うふふっ。そんなご謙遜を。ヴィクタール殿下もリシュティナ様の美しさに驚くと思いますわ」 そこで、リシュティナ達のいる部屋の扉がノックされた。「はい、どうぞ」 侍女の返事の後入ってきたのは、正礼装姿のヴィクタールだった。 いつも無造作に流している髪を整え、薄紫色に青の刺繡が入ったテールコートが高身長の彼によく似合っている。 服の色は、リシュティナのドレスに合わせてくれたのだろう。 リシュティナは、いつもと違う見目麗しさと気品さがある彼に思わず見入ってしまった。 そしてそれはヴィクタールも同じだった。 薄く化粧を施した彼女は、いつもより大人っぽく見え、とても美しくて。 綺麗に纏めた桃色の髪も、選んだ薄紫色のドレスも煌めく装飾品も彼女によく似合っていて。「……やべ、すっげー綺麗だ。無茶苦茶綺麗だ。堪んねぇ……」 惚けたようにそう呟いたヴィクタールに、リシュティナは慌てて言葉を返す。「ヴィ……ヴィルの方こそすっごく格好良いよ! とてもよく似合ってる! 絵本に出てくる憧れの王子様みたい――って、本物の王子様だったね……」「ははっ、忘れてたのかよ。けどありがとな」 ヴィクタールは嬉しそうに笑うと、リシュティナに向かって恭しく手を差し出した。「お手をどうぞ、マイレディ」「え……は、はい」 リシュティナは戸惑い気味にヴィクタールの掌に自分の掌を重ねると、彼はニッと笑って彼女の腰に手を添え歩き出した。「いってらっしゃいませ」 侍女達の言葉にリシュティナは感謝を込めてぺこりと頭を下げると、ヴィクタールと共に部屋を出る。 そして、緊張した面持ちでパーティー会場に向かって足を進めたのだった。******** 会場に入ると、皆の目が一斉に二人に集められる。 リシュティナの美しい姿にポーッとしながら眺める令息達もいたが、ヴィクタールはそんな彼らにギロリと鋭い眼光を向けて威圧
Last Updated: 2025-07-21
Chapter: 64.小話:幸せに向かって 4
 リシュティナが作った晩御飯を美味しく戴き、二人は一緒にいられなかった時間を取り戻すかのように、夜遅くまで語り合った。 二人の間に流れている空気は、とても穏やかで。 姿は見せなかったが、リシュティナには、母バレッタが自分達の後ろで微笑みながら会話を聞いている気配が伝わってきた。 もう叶う事は決して無いと思っていた親子三人の団欒に、リシュティナは何度も涙が滲みそうになりながらも、笑顔で父と談話したのだった。 ――そして、翌朝。 朝食を食べ終わり、リントンが仕事の準備をしながらリシュティナに声を掛けた。「リシュティナ。父さんは仕事へ行くけど、好きなだけここにいていいよ。バレッタ――母さんも喜ぶ筈だから」「うん、ありがとう。もうすぐヴィルが迎えに来ると思うから、それまでここでのんびりさせて貰うね?」「あぁ、分かったよ。お前がお世話になっているし、一度殿下に御挨拶したかったが――」 そこで、玄関の呼び鈴が鳴った。「あっ、ヴィルかな? 良かった、お父さんが出掛ける前に来てくれて……。はーい!」 リシュティナが玄関に向かって返事をすると、聞き慣れた声が返ってきた。「リィナ、オレだ。迎えに来た」「うん、今開けるね」 リシュティナは小走りで玄関に向かうと、カチャリと扉を開ける。 二人は目が合うと、ニコリと微笑み合った。「はよ、リィナ。親父さんとゆっくり話せたか?」「うん! ありがとね、ヴィル」「殿下、おはようございます」 リシュティナの後ろから、微笑を浮かべたリントンが歩いてきて、ヴィクタールは彼に頭を下げた。「御無沙汰しております、リントン殿。お元気そうで何よりです」「殿下もお変わりなく安心しました。いつも娘を守って下さり、心から感謝しております」「いえ、こちらこそ――」 ヴィクタールは顔を上げ――リントンの背後に視線を止めると息を呑む。 軽く目を瞠っていた彼は、やがてフッと微笑すると頷き、リントンの後ろに向かって礼をした。「……殿下、貴方も“妻”が視えたのですね。妻は何と……?」「『これからも娘をよろしくお願いします』……と。優しく微笑んでいました」 それを聞き、リントンは俯きグッと目頭を押さえる。「……これ以上の贅沢は望んではいけないのは分かっていますが……。私もいずれ……妻の姿が視えるようになるでしょうか……。『巫女
Last Updated: 2025-07-16
Chapter: 63.小話:幸せに向かって 3
 リシュティナはヴィクタールと店員に何度も礼を言い、二人はにこやかな店員に見送られながら衣類店を後にした。 暫く歩くと、リシュティナがヴィクタールを見上げ、思い切ったように口を開いた。「ね、ヴィル。お父さんの所に行って来ていいかな? お父さん、この城下町で一軒家を買って暮らしてるみたいなの。私の元気な姿を見せたいし、久し振りにお父さんに会いたいから――」「あぁ、勿論いいぜ。何なら一晩泊まってこいよ。二人で積もる話もあるだろうしさ。オレは明日、お前を迎えに行く時親父さんに挨拶するわ。荷物はオレが持って帰るから心配すんな」 ――リシュティナは、フェニクスが掛けてくれた『保護魔法』を常に身に纏っている。 あらゆる障害と攻撃を防いでくれるし、彼女にそういう事態が起きた場合、魔法を通じて瞬時にフェニクスが感じ取る事が出来るのだ。 城下町なら、すぐにリシュティナのもとへ駆け付ける事が可能なので、少しだけ彼女が一人で行動しても問題無いとヴィクタールは結論付けた。「……うん! ヴィル、ありがとう! 行ってくるね」「おぅ。親父さんによろしくな」「うん!」 笑顔で頷くリシュティナの細腰をヴィクタールは片手で引き寄せると、頭を屈めその耳元で低く囁く。「……今日は親父さんに譲るけど、明日の夜はお前を決して離さないからな。覚悟しろよ?」 鼓膜を擽る甘く腰に響く声音に、リシュティナは熟したトマトのような顔になりながらヴィクタールに向かって叫んだ。「な……っ。ヴィ、ヴィルのスケベッ!」「ははっ、そんなんもう十分分かってんだろ? それは『お前限定』だって事もさ」「〜〜〜っ」 リシュティナは両目を瞑ってヴィクタールの胸をポカスカ叩くと、くるりと背を向け走っていってしまった。「こけんなよー。明日の朝迎えに行くからな」 いつまでも初々しいままのリシュティナに愛しさを膨らませながら、ヴィクタールは緩んだ表情を隠さずに城への帰路に就いたのだった。********「元気そうで良かった、リシュティナ」「うん、お父さんも」 リントンの家を訪れたリシュティナは、中から出てきた父の言葉に笑みを浮かべて頷いた。 リントンは半年前と比べて顔色も良く、痩けていた頰に肉が付き目の下の隈も無くなり、目立っていた白髪も少なくなっていた。 あの頃よりも随分と若返ったようだ。 今は
Last Updated: 2025-07-12
Chapter: 62.小話:幸せに向かって 2
 フェニクスの背に乗り、あっという間にラエスタッド城に到着したヴィクタール一行は、門番の知らせを受けバタバタと走って来たウェリトの出迎えを受けた。「もうっ、兄さん遅いよ! 本当に来ないかと思ったじゃないか!」「よぉウェリト、久し振りだな。悪かったな、伝言を受けた精霊が伝え忘れていてさ。さっき聞いたばかりなんだよ。これでも急いで来たんだし許してくれ」「えっ、そうなの? じゃあしょうがないか。とにかく間に合って良かったよ」 先程まで両目を吊り上げ頭から湯気を出し怒っていたウェリトは、ヴィクタールの理由を聞いて目尻を下げすんなりと許した。「おやおやアナタ、お兄さんに似てますねぇ。嫌いではないですよ」「えっ? あ、ありがとうございます……でいいのかな?」「コイツは捻くれ者で好き嫌いが激しいからな。『気に入った』って意味に捉えていいぜ」「そっか。海の精霊様にそう言って貰えて嬉しいよ」「捻くれ者は余計ですよ。ワタクシに気に入られる事はそうそう無いんですからね。頭を深く垂れて光栄に思いなさい」「あ……は、はい……?」 ふんぞり返ってシルクハットが落ちかけているレヴァイに、ウェリトが戸惑い気味に返事をする。「ウェリト、真に受けんなよ。ったく、何様だお前は」「偉大で高貴な海の精霊様ですよ」「なーにが偉大で高貴な海の精霊だ。リィナの唄を聞いてピーピー泣き喚いてたくせに。なぁ“海の悪魔”サン?」「……アナタには特別に母なる海から抱擁をして差し上げましょう。光栄に思いなさい」「それ『海に沈めるぞコラ』って言ってんだろ」 ヴィクタールとレヴァイが言い合っている横で、リシュティナはウェリトに頭を下げ、言葉を紡ぐ。「ウェリト殿下、ご婚約おめでとうございます」「あぁ、ありがとう。リシュティナさんももうすぐ俺の“義姉”になるんだから、もっと気さくに接していいよ」「えっ!?」 ニヤリとするウェリトに、リシュティナの頬が一瞬で赤く染まった。「そうだぜ、リィナ? ウェリトはもうお前の“家族”みたいなもんだからさ、敬語は必要無いぜ」「そ、そうは言っても、心の準備が……っ」「ははっ。リシュティナさん、ゆっくりでいいよ。――兄さん、パーティーに着る彼女のドレスを準備しなきゃだよ。城下町にある王家御用達の衣類店で見てきたら? あそこなら種類も豊富だし、リシュティナ
Last Updated: 2025-07-08
Chapter: 61.小話:幸せに向かって 1
 「ウェリトの婚約披露パーティーが三日後にある? それに参加しろって?」 『美味しいものを食べる』旅に出てから半年以上経った、ある日。 宿屋で休んでいたヴィクタール達に、精霊界から戻って来たレヴァイからそんな情報が伝えられた。 数ヶ月前にウェリトは召喚魔法が出来るようになり、精霊を喚び出せるようになったのだ。 その喚び出した精霊にウェリトがヴィクタール宛に伝言をし、それを精霊から聞いたレヴァイはヴィクタールに伝えるという、所謂仲介役を任されていた。 「聖獣神サマのお守りで一杯一杯なんですが」と、本人は非常に不服そうだけれど。 その伝言は、「たまには城に戻って顔を見せろ」という類のものばかりだったが、今回は本人の婚約披露という、なかなか重要な内容だったようだ。「えぇ。だから、その日までに絶対に帰って来い、らしいですよ」「は? ちょっと待て、三日後ってかなり急な話だな。もっと前から準備していた筈だぜ?」「精霊が弟クンからそれを聞いたのは一ヶ月も前の事ですが、その精霊、うっかり屋さんでして。今までスッカリ忘れていて、昨日ハッと思い出して慌ててワタクシに伝えに来たのですよ」「あぁ、そういう訳か……。ならしょうがねぇな」 それ以上追求せずすんなりと受け入れたヴィクタールに、レヴァイは両目を瞬かせた後、ニヤリと笑った。「そういうアッサリな所、ワタクシ嫌いではないですよ」「ありがとさん。――そっか、アイツが婚約か……。まだまだ子供かと思ってたけど、そういう年になったんだな……。けどやっぱり早いよな? それだけ逃したくなったんだろうな、あの彼女を」 兄の顔でフッと口の端を上げるヴィクタールに、リシュティナはクスリと笑って頷いた。「ふふっ、そうだね。ウェリト殿下に直接会って盛大にお祝いしなきゃだね、ヴィル」「あぁ、そうだな。アイツをうんとからかってやんなきゃだな」「もう、ヴィルったら……」 ヴィクタールとリシュティナは顔を見合わせ、微笑みを交わす。「フェニ、一旦食べ歩きの旅は中断だ。至急ラエスタッド城に行きたいんだが、お前の背中に乗って飛ぶ事は出来るか?」「本来は人を乗せて飛ぶ事はしませんけれど、そういう理由なら仕方ありませんわね。いいですわよ?」「じゃあ、私とレヴァイはここでお留守番しているね。殿下におめでとうって伝えてくれる? 気を付け
Last Updated: 2025-07-05
Chapter: 60.小話:二人きりの夜 3
 泣きそうなリシュティナを無言で見下ろしていたヴィクタールだったが、不意に彼女の両頬に手を添えると、そっと唇を重ねてきた。「っ!?」 突然の口付けに、リシュティナは大きく目を見開くと、アメジスト色の神秘的な瞳と至近距離でバッチリ目が合い、慌てて瞼を閉じた。  ……閉じたはいいが、ヴィクタールがなかなか唇を離してくれない。  息を止めていたので徐々に苦しくなり、息継ぎの為に無意識に開けた口からスルリと彼の舌が入ってきて、更に深く濃厚な口付けがリシュティナを襲う。(っ!?) 経験した事の無い初めてのそれに、彼女はフワフワとした気持ちでただ翻弄されていた。  何度も角度を変えながら口内を攻められ、ようやく唇が離れる頃には、リシュティナの顔は真っ赤に染まり、息がかなり上がっていた。  ヴィクタールは満足気に熱い息を一つ吐くと、リシュティナの頬を優しくなぞる。 「――言っとくけどな、その相手とは何も無かったぞ。裸を見ても何も感じなかったし、その気にもならなかったから帰って貰った。それを知った父上が他の相手を寄越してきたけど、やっぱ同じでさ。元婚約者には、自分から触る気が全く起きなくて。オレって既に枯れてんのかなって心配になってた」「え……」「けど、お前と初めて会った日の夜、お前を押し倒しただろ?  その時、初めて“欲”ってモンが出たんだよ。……あの時からもう既に、オレの心はお前に傾き始めていたんだな」  ヴィクタールはフッと目を細めて笑うと、再びリシュティナにキスをする。 「……こういう事をするのも、お前が初めてだ。ずっと触れていたいとか、キスしたいとか、抱きたいと思ったのも、全部お前が初めてなんだよ」「…………っ」  リシュティナの瞳から、ホロホロと透明な涙が溢れ出た。 「不安だったら何度でも言う。お前を誰よりも愛してる、リィナ。――抱いてもいいか?  多分手加減は出来ないが」  その問い掛けに、リィナは濡れたアクアマリン色の瞳を潤ませながら頷いた。 「私も愛してる、ヴィル。手加減なんていらないよ。……思い切り抱いて?」 その彼女の表情と言葉に、何とか踏み留めていた理性がプッツリと切れた。 彼女の寝衣を手早く脱がし、自分も素早く裸になる。「……綺麗だ、リィナ……すごく」 ヴィクタールは恥じらうリシュティナの身
Last Updated: 2025-06-09
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