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望月 或
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Novels by 望月 或

後悔?そんなの勝手にすればよろしくて?〜悪女と呼ばれた公爵令嬢は絢爛に返り咲く〜

後悔?そんなの勝手にすればよろしくて?〜悪女と呼ばれた公爵令嬢は絢爛に返り咲く〜

「ようやく……ようやく、ずっと待ち望んでいたこの時がきましたわ」 バセロルト公爵家の長女アーベリアに、ユグドール王国の王太子ライラックとの婚約の打診が届く。 昔から彼との婚約を望み、夢見ていたアーベリアは、その話に二つ返事で承諾する。 しかし王城は、王妃と王妃派が牛耳る『魔の巣窟』だった。 息子を溺愛する王妃に目をつけられたアーベリアは、城の者達から冷遇される。 さらに王太子と親密な関係の伯爵令嬢が現れ、念願だった彼の婚約者としての立場が危うくなり…… それでも彼女は、胸に秘めるただ『ひとつ』の思いのため、いくつもの危機に立ち向かっていく。 「――愚かな皆様へ。さぁ、御覚悟はよろしくて?」
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Chapter: 41.惨めな最後
 アーベリアの言葉に、センダンとルマーサは目に見えてホッとした表情を浮かべる。 しかし、続けられた彼女のそれに、二人は再び〝絶望〟を味わうことになった。「あなた方をそう簡単に死なせはいたしませんわ。【打ち首】なんて苦しむ暇もないではありませんか。死んで楽になるなんて、わたくしが絶対に赦しません。あなた方には、この国のために死ぬまで働いてもらいます。娯楽もなく自由もなく、おしゃれも買い物もできない、毎日地獄のような過酷な環境の中で、朝から晩まで年中無休、汗水流しながら一生労働してください。牢にいる時間が勿体ないですし、判決後すぐに働いてもらいます。泣いても喚いても無駄ですわ。この国の元王族として、国民の皆様のお役に少しは立てるのだからありがたく思いなさい」 いつも穏やかに微笑んでいた彼女の、今まで見たことのない冷めた表情と冷えたエメラルドの眼差しが、センダンとルマーサを無意識に凍えさせる。 二人は、当たり前だが一度も働いたことはない。もちろんライラックもだ。 国の最高位である自分達が、一般民と汗を垂らしながら働く―― それは、彼らにとって〝屈辱〟以外の何ものでもなかった。「……ふ……フザけるなっ! 誰がそんなことするかっ! 生意気な小娘――いや、〝極悪女〟め! この国の王であるワシがここで成敗してくれるわ!!」「アナタ、アタクシも加勢するわっ!」 センダンが咆哮したかと思うと、隠し持っていた短剣を取り出しアーベリアに襲いかかった。 ルマーサも懐から扇子を取りそれを広げると、鬼の形相で掴みかかってくる。「……本当に馬鹿な奴らだ。手に負えないな」 イグニスが小さく息を吐く。 彼は動こうとしなかった。これから起こる彼らの〝末路〟を知っているからだ。「――ねぇ? アンタ達さぁ、ボクの可愛い義妹に刃を向けてるの? あぁ……いけないなぁ。いけないねぇ、そんなことしちゃ。そんないけない愚か者には、オシオキが必要だねぇ?」 センダンとルマーサのすぐ後ろで低音の声が聞こえ、二人は心臓が飛び出るほど驚き足が止まった。 瞬間、強烈な回し蹴りが二人に直撃し、その身体が見事に吹っ飛ぶ。「グェッ!」「ギャッ!」 カエルが潰れたような声を出した二つの身体は、バルコニーの手すりの上を軽々と飛び越え――「ギャアアァァッ!!」「ヒイイィィッ!!」 センダンと
Last Updated: 2026-09-20
Chapter: 40.再会
「ごめんね、二人とも。心配かけちゃったわね」 そう言って目を細めて笑うコノーテの表情は、昔と変わっていなくて。「お姉様……っ!」「コノーテッ!」 アーベリアとディーンは堪らず叫ぶと、コノーテのもとへと走った。 勢いのまま胸の中に飛び込んだアーベリアを、コノーテはしっかりと抱き留める。「大きくなったわね、アーベリア。お母様に似ているわ。美人さんに成長したわね」「お姉様、生きておられたのですね! 良かった……本当に良かった――」「あぁ、本当に……。本当に良かった……」 目尻に浮かんだ涙を何度も指で拭ったディーンは、気になったことをコノーテに訊いてみた。「だが、今までどこにいたんだ? 私は……その、てっきり――」「ディーン、あなた声がガラガラで酷いじゃない。喉を傷めちゃったの? あとで喉によく効く薬草を処方してあげるわ」「あ、ありがとう……」 コノーテは頷くと、言葉を続ける。「あのね……実は私、今までずっと記憶喪失だったの」「記憶喪失っ!?」 コノーテは、目を見開き驚く二人を見て苦笑する。「えぇ。十二年前のあの時、崖に追いつめられた私は、護衛騎士さん達の声を聞いたの。『勇気を出して、崖から飛び下りて。大丈夫、必ず助かります』って。確かに頭に響いたその声に、私は迷わず崖から飛んだわ。そして川に落ちたの。その衝撃で記憶を失ったみたいで、川岸に倒れていた私を助けてくれた老夫婦のもとでお世話になって暮らしていたの」「そんなことが……」「護衛騎士さん達は、最後の最期まで私を助けてくれたわ……。記憶喪失のまま暮らしていたけれど、一か月前くらいかしら……この子が私のもとへ飛んできたのよ。その懐かしい姿を見て、今までの記憶をすべて取り戻したの。この子のお陰ね」 コノーテの肩の上で、氷の鳥が恥ずかしそうに羽根の先で頭を掻いた。「十二年前の子と大きさが違っていたから、ディーンがまた私を想って作ってくれたんだ、生きていたんだってわかって、本当に嬉しかった。すぐに連絡したかったけど、村の人達の薬草作りに忙しくて連絡できなかったの。あの村、年配者ばかりだから……。そんなある日、ラハンさんが村にやってきたのよ。私が昔作ったクッキーを持ってね」「まぁ、お義兄様が?」「うん、そうだよー。毒草に関しては、専門家の『薬草師』に訊いた方が早いと思ってね。そしたら
Last Updated: 2026-09-16
Chapter: 39.舞いおりた希望
「は……はぁっ!? 何をフザけたことを……!」「ユグドール王国はセインウッド王国の従属国です。そして、セインウッドはユグドールの宗主国。セインウッドの王族が誰もいなくなればその関係は消滅いたしますが、一人でも残っていた場合、関係は持続いたします。ですので、わたくしがこの国の〝女王〟になることはまったく問題ございません」「じょ……女王だとっ!? 馬鹿なことを言うな! この国はワシのものだ! 誰にも渡しはしないぞ!!」 唾を飛ばしながら怒鳴るセンダンに、アーベリアは冷たい目線を送った。 その冷酷な眼差しに、ビクリとセンダンの身体が震える。「あなたがなんの罪も犯していない場合は、このまま王でいられたでしょう。ですが、あなたは沢山の罪を犯しました。救いようがない大きな罪まで。あなたに王を名乗る資格はございません。本日をもって【廃位】です」「なっ……わしがなんの罪を犯したというのだ! ワシはなんにも悪いことなどやっておらん!!」 センダンの言葉に、アーベリアは馬鹿にしたように声を立てて笑った。 今まで見たことのない彼女の嘲笑に、周りにいた者は唖然とする。「まったく……どの汚い口がそう言っているのかしら? あまりにも愚かで笑ってしまいましたわ」「なっ……なんだとっ!?」「まずはユグドール王。貴族との贈収賄や、気に食わない貴族への圧制、自分に歯向かった者に対し、何の罪もない者を処罰。国民に対して必要以上に高い納税の要求。そのお金で豪遊。国民が貧しい思いをして訴えてもまったく耳を傾けない。王とは名ばかりの、ただの愚者ですわ。バセロルト公爵家と、公爵家に賛同する貴族達の力がなければ、この国はとっくに潰れていたでしょうね」「……っ!!」「続いては、王太子と王妃」 アーベリアから鋭い視線を向けられ、ライラックとルマーサは大きく肩を波打たせる。「王の贈収賄や貴族の圧制を知っていながらも見て見ぬ振りをし、そのお金で豪遊。闇賭博にも手をつけている。そのうえ王妃は何人かの貴族と不倫。自分と夜を共にした貴族の要求に応え、国庫金を使いたい放題。そして殺人未遂と殺人教唆。どれも立派な犯罪ですわ」「そんな……そんなことはしておらんっ! とんでもない法螺(ほら)を吹く〝悪女〟めがっ! 護衛ども、その悪女を斬ってしまえ!!」 センダンの命令に、護衛騎士達は剣を抜きアーベリ
Last Updated: 2026-09-12
Chapter: 38.御覚悟はよろしくて?
 バルコニーから真っ逆さまに落ちるアーベリアの姿を見て、国民の間から一斉に悲鳴が上げられる。「――っ」 イグニスは瞬時に腰を落とし、一気に足を伸ばして地面を蹴った。 刹那、彼の背中から銀色の美しい翼が飛び出す。 その翼を大きく羽ばたかせ、イグニスは空を舞い上がった。 そして、落下するアーベリアの身体を両手でしっかりと抱き留める。「大丈夫か」「えぇ。ありがとうございます、イグニス」 陽の光でキラキラと輝く銀色の翼を見て、アーベリアはエメラルド色に変わった瞳を細めた。「相変わらずあなたの翼は美しいですわ」「よしてくれ。翼を出さない『浮遊魔法』もあるが、それは安定性がなく少ししか飛べないからな」「空から舞い下りた天使みたいで、わたくしは素敵だと思いますわよ?」「勘弁してくれ……」 その場にいた民衆もアーベリアと同じ感想を持ったようで、「天使だ……」「あぁ、綺麗だ……」 と、あちこちから感嘆の息と呟きが漏れていた。 イグニスはアーベリアを抱いたまま、バルコニーへと下り立つ。 そこにいた者達全員が、口と目を真ん丸くさせて呆然と固まっていた。 バルコニーに急いで駆けつけた城の重鎮達を見ると、イグニスの腕から下りたアーベリアは、ライラックに向けてニコリと微笑んだ。「殿下、わたくしの背中を押してバルコニーから突き落としましたね? 王妃陛下の命令だと仰っていましたが」「えっ、あ……ち、違うっ! 僕はそんなことしていないし、言ってないっ!」「そうよ! アタクシの息子になんてこと言うの! アナタが勝手によろめいて落ちただけじゃない! そんなフザけたことを言うのなら、【侮辱罪】で処刑するわよ!」 アタフタと否定するライラックを、ルマーサがヒステリックに援護の声を上げる。 「では、手すりが壊れた理由はどう御説明されるのですか? あの手すりはとても頑丈です。わたくし一人の身体の重みでそう簡単に壊れるはずがありませんわ」「そ、それは……そう、劣化していたのよ! この城も古いから――」「安全のため、巡回の騎士が定期的に確認しているはずですが。しかもその部分だけ壊れるなんておかしいですわよね?」「……っ、じゃあアタクシの息子がアナタを押したって証拠があるの!? ないでしょ!? ないなら適当なこと言わないでちょうだい!」 金切り声で言うルマー
Last Updated: 2026-09-09
Chapter: 37.生誕祭開催当日
「ちょっとアナタ! 一刻も早くあの娘を追い出してちょうだい! あの娘はライラックには不釣り合いよ。あの娘はダメだわ、アタクシ達王家の中に入れてはいけない女なのよっ!」 ルマーサの金切り声を、隣の玉座に座るセンダンは顔をしかめながら聞いていたが、大きく溜め息を吐いた。「はぁ……またその話か。あの娘はよくやっているじゃないか。ワシ達の言うことにハイハイ頷いて逆らわない。『首振り令嬢』とはよく言ったものだ。ライラックと結婚したあとも色々やらせて便利に扱えばいいだろ」「そういう問題じゃないのよ! あの娘は危険なの! 何かとんでもないことをしでかしそうな――」「フン、そんなの気にし過ぎだ。あんな小娘一人に何ができるというのだ。もうこの話はやめだ。ワシの生誕祭には、あの娘もワシ達と一緒に同行する。ライラックの婚約者としてな」「ちょっとアナタ……!」 面倒になったセンダンはルマーサの言葉に耳を貸さず、さっさと王の間から出ていってしまった。「――フンッ、何よ! 本当使えない男ね! 早くあの女を追い出さないといけないのに! ライラックまでその気になったら大変だわ。アタクシの可愛い息子とあの女との結婚は絶対に許さないわよ」 ルマーサは人差し指の爪をガシガシと噛みながら思案し――やがてひとつの結論に辿り着いた。「……そうよ。追い出すのがダメなら、〝始末〟してしまえばいいのよ。不慮の事故に見せかければいいわ。その役目は……あの子にしましょ。アタクシの言うことなら何でも聞く、とても素直で良い子だから……ウフフッ」 ルマーサはニヤリとほくそ笑むと、いそいそと王の間を出ていったのだった――✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼ ユグドール国王生誕祭、当日。「アーベリア様、とてもよくお似合いです!」 サラサ、ナナカ、リラの三人は、支度の終わったアーベリアに元気良く声をかけた。「ふふっ。今回もありがとうございます、サラサさん、ナナカさん、リラさん。あなた方がいてくださって、本当に良かったですわ」「そ、そんな……。勿体ないお言葉です」 三人が顔を赤くして照れているのを見て、アーベリアはクスリと微笑む。 今回のドレスもカロリナが贈ってくれたものだ。 白をベースに、アーベリアの瞳の色と同じ翠がアクセントとして散りばめられた、美しいデザインのドレス
Last Updated: 2026-09-07
Chapter: 36.同じ瞳を持つ者
「すっかり遅くなってしまいましたね。誰かに見つからないうちに戻りましょう」「あぁ」 足早に歩くアーベリアの手には、小袋に入ったクッキーがあった。 氷漬けにはなっていない。ディーンが溶かしてくれたのだ。「この〝毒〟の判明はラハンお義兄様に頼むしかありませんわね。わたくしは自由にお城から出られませんし、〝毒〟に関しての知識はあまり深くありません。お義兄様には何度も甘えてしまって申し訳ないけれど……」「それは心配しなくていい。むしろ兄上は喜ぶだろう。姉上に頼られてな」 イグニスは首を振ると、アーベリアにスッと手を差し出した。「その菓子は俺が預かろう。これから『移動魔法』を使って兄上に届けてくる。兄上ならこの時間はまだ起きているだろうからな。この件は早い方がいい」「ありがとう、イグニス。助かりますわ」 アーベリアからクッキーの入った小袋を受け取ったイグニスは、少し逡巡したあと口を開いた。「……俺達が初めて会った時のこと、覚えているか?」「えぇ、もちろんですわ」「あの時、俺の髪のこと『きれい』って言ってくれただろう?」「えぇ。陽に照らされて輝くあなたの髪は、本当に綺麗でしたから。本物の〝天使〟だと思いましたもの」 微笑んで頷くアーベリアに、イグニスも微かに口の端を持ち上げて返す。「俺は、自分の髪と目の色が嫌いだった。『先祖返り』のせいで、俺だけ家族と違う色を持って産まれてしまった。だが、その言葉を聞いて、少しだけこの色が好きになった。今はもう嫌いじゃない」「ふふっ。髪や目の色が違っても、あなたは立派なバセロルト公爵家の家族の一員ですわ。わたくしはその銀色、とても好きですわよ」「……ありがとう。渡したらすぐに戻ってくる。気を付けて部屋に戻ってくれ」 アーベリアに背を向けたイグニスは、詠唱を唱えはじめた。 その姿が瞬時に消えたのを見届けたアーベリアは、彼の耳が赤くなっていたことを思い出し、クスリと唇を綻ばせたのだった。✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼「はぁ、ようやく着いたねぇ。この村で合ってる?」「はい、間違いないかと」 ユグドール王の生誕祭まで一週間を切った日、ラハンと〝影〟はセインウッド王国の隣国にある、辺境の小さな村に到着した。 クッキーにかけられていた白い粉を調べたところ、これは人工的に作られた〝
Last Updated: 2026-09-05
弟と婚約者に裏切られた不運の王子は、孤独な海の娘を狂愛する

弟と婚約者に裏切られた不運の王子は、孤独な海の娘を狂愛する

ラエスタッド王国の第一王子であるヴィクタールは、何者かに無実の罪を着せられ、更に弟と自分の婚約者に、不貞と言う名の裏切りを受ける。絶望し死を決めた彼は、二人の目の前で崖から落ちていった―― リントン侯爵家の使用人リシュティナは、侯爵家の姉妹に苛められる日々だったが、恋人になったロッゾに裏切られ、更に理不尽な理由で侯爵家を解雇されてしまう。 絶望し死に場所に決めた浜辺で、リシュティナは倒れている瀕死の男を発見し介抱するが、目覚めた彼から放たれたのは怒りと『拒絶』の言葉で――? これは、裏切られ絶望し死を求めた二人が運命的に出逢い、様々な困難に遭いながらも愛を深めていく、狂愛と純愛の物語。
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Chapter: 64.小話:幸せに向かって 5【終】
 リシュティナは二日間で基礎的なパーティーの作法やダンスを熱心に学び、あっという間に婚約披露パーティー当日を迎えた。「ふふっ、とても綺麗ですよ、リシュティナ様。皆の目が釘付けになる事間違い無しです!」 身拵えをしてくれた城の侍女の言葉に、リシュティナは慌てて首を左右に振る。「いえ、そんな全然……! こんなに素敵にしてくれたのは、皆さんの腕がとても良いからで……っ」「あら、うふふっ。そんなご謙遜を。ヴィクタール殿下もリシュティナ様の美しさに驚くと思いますわ」 そこで、リシュティナ達のいる部屋の扉がノックされた。「はい、どうぞ」 侍女の返事の後入ってきたのは、正礼装姿のヴィクタールだった。 いつも無造作に流している髪を整え、薄紫色に青の刺繡が入ったテールコートが高身長の彼によく似合っている。 服の色は、リシュティナのドレスに合わせてくれたのだろう。 リシュティナは、いつもと違う見目麗しさと気品さがある彼に思わず見入ってしまった。 そしてそれはヴィクタールも同じだった。 薄く化粧を施した彼女は、いつもより大人っぽく見え、とても美しくて。 綺麗に纏めた桃色の髪も、選んだ薄紫色のドレスも煌めく装飾品も彼女によく似合っていて。「……やべ、すっげー綺麗だ。無茶苦茶綺麗だ。堪んねぇ……」 惚けたようにそう呟いたヴィクタールに、リシュティナは慌てて言葉を返す。「ヴィ……ヴィルの方こそすっごく格好良いよ! とてもよく似合ってる! 絵本に出てくる憧れの王子様みたい――って、本物の王子様だったね……」「ははっ、忘れてたのかよ。けどありがとな」 ヴィクタールは嬉しそうに笑うと、リシュティナに向かって恭しく手を差し出した。「お手をどうぞ、マイレディ」「え……は、はい」 リシュティナは戸惑い気味にヴィクタールの掌に自分の掌を重ねると、彼はニッと笑って彼女の腰に手を添え歩き出した。「いってらっしゃいませ」 侍女達の言葉にリシュティナは感謝を込めてぺこりと頭を下げると、ヴィクタールと共に部屋を出る。 そして、緊張した面持ちでパーティー会場に向かって足を進めたのだった。******** 会場に入ると、皆の目が一斉に二人に集められる。 リシュティナの美しい姿にポーッとしながら眺める令息達もいたが、ヴィクタールはそんな彼らにギロリと鋭い眼光を向けて威圧
Last Updated: 2025-07-21
Chapter: 64.小話:幸せに向かって 4
 リシュティナが作った晩御飯を美味しく戴き、二人は一緒にいられなかった時間を取り戻すかのように、夜遅くまで語り合った。 二人の間に流れている空気は、とても穏やかで。 姿は見せなかったが、リシュティナには、母バレッタが自分達の後ろで微笑みながら会話を聞いている気配が伝わってきた。 もう叶う事は決して無いと思っていた親子三人の団欒に、リシュティナは何度も涙が滲みそうになりながらも、笑顔で父と談話したのだった。 ――そして、翌朝。 朝食を食べ終わり、リントンが仕事の準備をしながらリシュティナに声を掛けた。「リシュティナ。父さんは仕事へ行くけど、好きなだけここにいていいよ。バレッタ――母さんも喜ぶ筈だから」「うん、ありがとう。もうすぐヴィルが迎えに来ると思うから、それまでここでのんびりさせて貰うね?」「あぁ、分かったよ。お前がお世話になっているし、一度殿下に御挨拶したかったが――」 そこで、玄関の呼び鈴が鳴った。「あっ、ヴィルかな? 良かった、お父さんが出掛ける前に来てくれて……。はーい!」 リシュティナが玄関に向かって返事をすると、聞き慣れた声が返ってきた。「リィナ、オレだ。迎えに来た」「うん、今開けるね」 リシュティナは小走りで玄関に向かうと、カチャリと扉を開ける。 二人は目が合うと、ニコリと微笑み合った。「はよ、リィナ。親父さんとゆっくり話せたか?」「うん! ありがとね、ヴィル」「殿下、おはようございます」 リシュティナの後ろから、微笑を浮かべたリントンが歩いてきて、ヴィクタールは彼に頭を下げた。「御無沙汰しております、リントン殿。お元気そうで何よりです」「殿下もお変わりなく安心しました。いつも娘を守って下さり、心から感謝しております」「いえ、こちらこそ――」 ヴィクタールは顔を上げ――リントンの背後に視線を止めると息を呑む。 軽く目を瞠っていた彼は、やがてフッと微笑すると頷き、リントンの後ろに向かって礼をした。「……殿下、貴方も“妻”が視えたのですね。妻は何と……?」「『これからも娘をよろしくお願いします』……と。優しく微笑んでいました」 それを聞き、リントンは俯きグッと目頭を押さえる。「……これ以上の贅沢は望んではいけないのは分かっていますが……。私もいずれ……妻の姿が視えるようになるでしょうか……。『巫女
Last Updated: 2025-07-16
Chapter: 63.小話:幸せに向かって 3
 リシュティナはヴィクタールと店員に何度も礼を言い、二人はにこやかな店員に見送られながら衣類店を後にした。 暫く歩くと、リシュティナがヴィクタールを見上げ、思い切ったように口を開いた。「ね、ヴィル。お父さんの所に行って来ていいかな? お父さん、この城下町で一軒家を買って暮らしてるみたいなの。私の元気な姿を見せたいし、久し振りにお父さんに会いたいから――」「あぁ、勿論いいぜ。何なら一晩泊まってこいよ。二人で積もる話もあるだろうしさ。オレは明日、お前を迎えに行く時親父さんに挨拶するわ。荷物はオレが持って帰るから心配すんな」 ――リシュティナは、フェニクスが掛けてくれた『保護魔法』を常に身に纏っている。 あらゆる障害と攻撃を防いでくれるし、彼女にそういう事態が起きた場合、魔法を通じて瞬時にフェニクスが感じ取る事が出来るのだ。 城下町なら、すぐにリシュティナのもとへ駆け付ける事が可能なので、少しだけ彼女が一人で行動しても問題無いとヴィクタールは結論付けた。「……うん! ヴィル、ありがとう! 行ってくるね」「おぅ。親父さんによろしくな」「うん!」 笑顔で頷くリシュティナの細腰をヴィクタールは片手で引き寄せると、頭を屈めその耳元で低く囁く。「……今日は親父さんに譲るけど、明日の夜はお前を決して離さないからな。覚悟しろよ?」 鼓膜を擽る甘く腰に響く声音に、リシュティナは熟したトマトのような顔になりながらヴィクタールに向かって叫んだ。「な……っ。ヴィ、ヴィルのスケベッ!」「ははっ、そんなんもう十分分かってんだろ? それは『お前限定』だって事もさ」「〜〜〜っ」 リシュティナは両目を瞑ってヴィクタールの胸をポカスカ叩くと、くるりと背を向け走っていってしまった。「こけんなよー。明日の朝迎えに行くからな」 いつまでも初々しいままのリシュティナに愛しさを膨らませながら、ヴィクタールは緩んだ表情を隠さずに城への帰路に就いたのだった。********「元気そうで良かった、リシュティナ」「うん、お父さんも」 リントンの家を訪れたリシュティナは、中から出てきた父の言葉に笑みを浮かべて頷いた。 リントンは半年前と比べて顔色も良く、痩けていた頰に肉が付き目の下の隈も無くなり、目立っていた白髪も少なくなっていた。 あの頃よりも随分と若返ったようだ。 今は
Last Updated: 2025-07-12
Chapter: 62.小話:幸せに向かって 2
 フェニクスの背に乗り、あっという間にラエスタッド城に到着したヴィクタール一行は、門番の知らせを受けバタバタと走って来たウェリトの出迎えを受けた。「もうっ、兄さん遅いよ! 本当に来ないかと思ったじゃないか!」「よぉウェリト、久し振りだな。悪かったな、伝言を受けた精霊が伝え忘れていてさ。さっき聞いたばかりなんだよ。これでも急いで来たんだし許してくれ」「えっ、そうなの? じゃあしょうがないか。とにかく間に合って良かったよ」 先程まで両目を吊り上げ頭から湯気を出し怒っていたウェリトは、ヴィクタールの理由を聞いて目尻を下げすんなりと許した。「おやおやアナタ、お兄さんに似てますねぇ。嫌いではないですよ」「えっ? あ、ありがとうございます……でいいのかな?」「コイツは捻くれ者で好き嫌いが激しいからな。『気に入った』って意味に捉えていいぜ」「そっか。海の精霊様にそう言って貰えて嬉しいよ」「捻くれ者は余計ですよ。ワタクシに気に入られる事はそうそう無いんですからね。頭を深く垂れて光栄に思いなさい」「あ……は、はい……?」 ふんぞり返ってシルクハットが落ちかけているレヴァイに、ウェリトが戸惑い気味に返事をする。「ウェリト、真に受けんなよ。ったく、何様だお前は」「偉大で高貴な海の精霊様ですよ」「なーにが偉大で高貴な海の精霊だ。リィナの唄を聞いてピーピー泣き喚いてたくせに。なぁ“海の悪魔”サン?」「……アナタには特別に母なる海から抱擁をして差し上げましょう。光栄に思いなさい」「それ『海に沈めるぞコラ』って言ってんだろ」 ヴィクタールとレヴァイが言い合っている横で、リシュティナはウェリトに頭を下げ、言葉を紡ぐ。「ウェリト殿下、ご婚約おめでとうございます」「あぁ、ありがとう。リシュティナさんももうすぐ俺の“義姉”になるんだから、もっと気さくに接していいよ」「えっ!?」 ニヤリとするウェリトに、リシュティナの頬が一瞬で赤く染まった。「そうだぜ、リィナ? ウェリトはもうお前の“家族”みたいなもんだからさ、敬語は必要無いぜ」「そ、そうは言っても、心の準備が……っ」「ははっ。リシュティナさん、ゆっくりでいいよ。――兄さん、パーティーに着る彼女のドレスを準備しなきゃだよ。城下町にある王家御用達の衣類店で見てきたら? あそこなら種類も豊富だし、リシュティナ
Last Updated: 2025-07-08
Chapter: 61.小話:幸せに向かって 1
 「ウェリトの婚約披露パーティーが三日後にある? それに参加しろって?」 『美味しいものを食べる』旅に出てから半年以上経った、ある日。 宿屋で休んでいたヴィクタール達に、精霊界から戻って来たレヴァイからそんな情報が伝えられた。 数ヶ月前にウェリトは召喚魔法が出来るようになり、精霊を喚び出せるようになったのだ。 その喚び出した精霊にウェリトがヴィクタール宛に伝言をし、それを精霊から聞いたレヴァイはヴィクタールに伝えるという、所謂仲介役を任されていた。 「聖獣神サマのお守りで一杯一杯なんですが」と、本人は非常に不服そうだけれど。 その伝言は、「たまには城に戻って顔を見せろ」という類のものばかりだったが、今回は本人の婚約披露という、なかなか重要な内容だったようだ。「えぇ。だから、その日までに絶対に帰って来い、らしいですよ」「は? ちょっと待て、三日後ってかなり急な話だな。もっと前から準備していた筈だぜ?」「精霊が弟クンからそれを聞いたのは一ヶ月も前の事ですが、その精霊、うっかり屋さんでして。今までスッカリ忘れていて、昨日ハッと思い出して慌ててワタクシに伝えに来たのですよ」「あぁ、そういう訳か……。ならしょうがねぇな」 それ以上追求せずすんなりと受け入れたヴィクタールに、レヴァイは両目を瞬かせた後、ニヤリと笑った。「そういうアッサリな所、ワタクシ嫌いではないですよ」「ありがとさん。――そっか、アイツが婚約か……。まだまだ子供かと思ってたけど、そういう年になったんだな……。けどやっぱり早いよな? それだけ逃したくなったんだろうな、あの彼女を」 兄の顔でフッと口の端を上げるヴィクタールに、リシュティナはクスリと笑って頷いた。「ふふっ、そうだね。ウェリト殿下に直接会って盛大にお祝いしなきゃだね、ヴィル」「あぁ、そうだな。アイツをうんとからかってやんなきゃだな」「もう、ヴィルったら……」 ヴィクタールとリシュティナは顔を見合わせ、微笑みを交わす。「フェニ、一旦食べ歩きの旅は中断だ。至急ラエスタッド城に行きたいんだが、お前の背中に乗って飛ぶ事は出来るか?」「本来は人を乗せて飛ぶ事はしませんけれど、そういう理由なら仕方ありませんわね。いいですわよ?」「じゃあ、私とレヴァイはここでお留守番しているね。殿下におめでとうって伝えてくれる? 気を付け
Last Updated: 2025-07-05
Chapter: 60.小話:二人きりの夜 3
 泣きそうなリシュティナを無言で見下ろしていたヴィクタールだったが、不意に彼女の両頬に手を添えると、そっと唇を重ねてきた。「っ!?」 突然の口付けに、リシュティナは大きく目を見開くと、アメジスト色の神秘的な瞳と至近距離でバッチリ目が合い、慌てて瞼を閉じた。  ……閉じたはいいが、ヴィクタールがなかなか唇を離してくれない。  息を止めていたので徐々に苦しくなり、息継ぎの為に無意識に開けた口からスルリと彼の舌が入ってきて、更に深く濃厚な口付けがリシュティナを襲う。(っ!?) 経験した事の無い初めてのそれに、彼女はフワフワとした気持ちでただ翻弄されていた。  何度も角度を変えながら口内を攻められ、ようやく唇が離れる頃には、リシュティナの顔は真っ赤に染まり、息がかなり上がっていた。  ヴィクタールは満足気に熱い息を一つ吐くと、リシュティナの頬を優しくなぞる。 「――言っとくけどな、その相手とは何も無かったぞ。裸を見ても何も感じなかったし、その気にもならなかったから帰って貰った。それを知った父上が他の相手を寄越してきたけど、やっぱ同じでさ。元婚約者には、自分から触る気が全く起きなくて。オレって既に枯れてんのかなって心配になってた」「え……」「けど、お前と初めて会った日の夜、お前を押し倒しただろ?  その時、初めて“欲”ってモンが出たんだよ。……あの時からもう既に、オレの心はお前に傾き始めていたんだな」  ヴィクタールはフッと目を細めて笑うと、再びリシュティナにキスをする。 「……こういう事をするのも、お前が初めてだ。ずっと触れていたいとか、キスしたいとか、抱きたいと思ったのも、全部お前が初めてなんだよ」「…………っ」  リシュティナの瞳から、ホロホロと透明な涙が溢れ出た。 「不安だったら何度でも言う。お前を誰よりも愛してる、リィナ。――抱いてもいいか?  多分手加減は出来ないが」  その問い掛けに、リィナは濡れたアクアマリン色の瞳を潤ませながら頷いた。 「私も愛してる、ヴィル。手加減なんていらないよ。……思い切り抱いて?」 その彼女の表情と言葉に、何とか踏み留めていた理性がプッツリと切れた。 彼女の寝衣を手早く脱がし、自分も素早く裸になる。「……綺麗だ、リィナ……すごく」 ヴィクタールは恥じらうリシュティナの身
Last Updated: 2025-06-09
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