Chapter: 第21話:王弟パウロ①「ゲイルの胃に大きな穴を開けるかもしれないけれど、聞いてほしい」 「アルト、何をそんなに思い詰めた顔をしてるんだ? まさか……裏金の流れを掴んだのか!?」 「その通りだ、ゲイルさん。聞いて驚くなよ……裏金の最終地点は……王弟のパウロ・ジェームズだ」 「グエーーーいっそ殺してくれんンゴねぇ?」 「気をしっかりもって!? ゲイルさん!?」 椅子に座っていたゲイルがその場で崩れ落ちた。リリーもリアクションが大きかったが、ゲイルは彼女の10倍のリアクションを見せてくれた。 自分は王弟のパウロがどれほどの大物かがわかっていない。ある意味、自分は幸せ者なのもかもしれない。 しかし、相手が誰であれ、冒険者ギルドを手に入れるのは変わらない。邪魔をするというのであれば、王弟をぶん殴ってやるつもりである、こちらは。 鼻息をフンスフンス! と荒げていると、ようやくゲイルが復活して、椅子に座り直していた。「とんでもない名前が出てきて、つい情けない姿を見せてしまった」 「本当ですよ。てか、リリーもそうだけど、そこまで厄介な相手なんですか?」 「うむ……王弟のパウロ様は冒険者ギルドの庇護者なのだ」 「えっと? 庇護者がなんで裏金を受け取ってるんですかね!?」 「灯台下暗しとはまさにこのことだ。パウロ様を公然と非難すれば、間違いなく私とリリーは職を追われる」 「リリーは俺が幸せにするからいいけど、ゲイルさんは本当の意味で無職になりますね?」 「こいつぅ!」 ゲイルがこちらの身体を掴んできて、さらに前後にぶんぶんと揺らしてきた。こちらはまったく……とため息をつくしかない。 とりあえず、事情は見えてきた。王弟のパウロは冒険者ギルドの庇護者であることを良いことに、裏金作りの組織として、冒険者ギルドを利用している。 まさに癒着と言ってもよい|行《おこな》いをしている。そして、何のために裏金をせこせこ作っているかが問題となる。「俺の予想としては……国王への反逆ってところかな」 「あはは……私腹をただ肥やしてるってだけで勘弁願いたい」
Last Updated: 2026-07-25
Chapter: 第20話:ギルド会館④ リリーは未だに他の受付嬢にもみくちゃにされている。そろそろこの騒ぎを終わりにしたい。女子たちの波にズイッと身体を潜り込ませ、リリーと対峙する。「リリー。ギルド長のゲイルさんに会いたいんだ。取り次いでもらえるかな?」 「は、はいっ」 こちらを囲む受付嬢たちの目の色は好奇心でいっぱいだったが、それに応えている時間は自分にはなかった。 帳簿を調べたことで得た情報を一刻も早くゲイルと共有しておきたい。リリーが忙しなく動いている。それを目で追いながら、思案に暮れることになる。(王弟のパウロ・ジェームズ。俺が手にする冒険者ギルドから手を引いてもらわないとなっ) (しかし国王様の弟なのに冒険者ギルドと裏で繋がってるってのはどういことなんだ?) (まるでわからん。ただ金を受け取ってるだけならいいけど……俺の嫌な予感って悪い方に働くからなぁ) 頭の中は真面目なことを考えていた。しかし、だんだん身体が本能的にそれを嫌がり始めたのか、自分の目は忙しなく動いているリリーに釘付けになっていた。さらに言えば、リリーのお尻を注目してまくっている。(安産型だな) (健康な子を産んでくれそうよね) (うんうん。って、女神様ぁ!? 俺の脳内に直接話しかけてきてる!?) (アルトくんだって、エスパーとしての訓練を積めばできるようになるわよ?) (えっと……念話でしたっけ) (そうよ。ファミチキくださいって口に出さなくてよくなるわよ) (いや、それ、ただのエスパー能力の無駄遣いっ!) 女神アテナは遅れて、この場にやってきていた。周りの受付嬢たちがぺこぺこと頭を下げる中、女神は軽く手を振って応えていやがる。 それだけで「キャー!」という黄色い声が上がる。どんだけ人気者なんだとびっくりしてしまうしかない。(女神様って女性にも人気なんですね) (なんか棘がある言い方ぁ~) (俺もモテたいですよトホホ) (リリーちゃんって可愛い娘がいるのに?) (リリーとは別腹でモテたいってのは無しですか?) (男
Last Updated: 2026-07-23
Chapter: 第19話:ギルド会館③ 王弟だろうがなんだろうが関係ない「リリー安心してくれ。リリーの日常は俺が守る」 そう決め台詞を吐いた瞬間だった。バーン! というけたたましい音と共に資料室の扉が勢いよく開いた。「何を調べているかはわからないが、おとなしくしてもらおうか!」 低い男の声が響く。俺とリリーは同時に振り返った。そこにはメガネをかけた青年が立っていた。見た目の年齢は30後半といったところだろう。 その青年はこの部屋の奥へと入り込んできた。そして、リリーが手にしている帳簿を奪い取る。彼は帳簿とこちらを交互に見た後、ギリギリと歯ぎしりをし始める。「何故、帳簿を調べている? 答えようによっては……」 「答えようでは俺たちをどうするってんだ!?」 「警察に突き出す!」 「普通の反応すぎだろっ。しかも他力本願っ!」 早急にツッコんでやった。しかし、青年はクイッとメガネをかけ直し、眼鏡のレンズをキラリと光らせる。「ふっ。私はモブだ。そんなモブ男が実力行使でどうにかできるとでも?」 「自分からモブ発言しやがっただと!? こいつ、もしかしてただのモブじゃない!?」 「ふははっ。本当にただの一般人だよっ! 残念だったな!」 「ご退場願いまーす!」 エスパー能力で時間を止める。青年からメガネを分捕り、それをテーブルの上に置く。そして、時間停止が終わる。青年は「メガネ、メガネ!」と言いながら慌てふためくことになった。 その隙にリリーと揃って、その部屋から抜け出す。気づけば他の従業員が出社してくる時間となっていたのだろう。 リリーとこれからどうするか相談することにした。「私はそろそろ始業の時間なのですが」 「そういえばリリーの仕事って何? もしかして受付嬢?」 「はい! よくわかりましたね? ヒントも何も言ってないのですが」 「それは俺が占い師だからかな?」 「うふふ。そんなことまでわかっちゃうんですね? アルトさんには隠し事、できないかも」 もちろん、当てずっぽうで言ってみただけだ。ギルド会館で女性が勤
Last Updated: 2026-07-21
Chapter: 第18話:ギルド会館② リリーの案内で過去の帳簿が収められている資料室へとやってくる。古書独特の匂いが鼻につーんとする。「へっぷし! いっぷし! 俺、この匂い、苦手だな」 「クスクス。私は好きですけどね。アルトさんは私とは違うんですね?」 「お、おう!? 今からこの匂い、好きになりまーす!」 リリーにからかわれている。それが心地よい。にこやかな笑顔のリリーが「はい、どうぞ」と分厚い帳簿らしきものを手渡してきた。それを手に取るとゾクッ! と嫌な予感が背中に走ることになる。 今までのほんわかとした空気が一気に冷めた。見たくないものを渡されてしまったという気持ちになるが、後の祭りだ。「ほら、アルト。さっさと透視♪」 「ちょ、女神様! リリーの前でそれを!?」 「ん? まずった?」 「俺、占い師ってリリーには説明してるんで」 「あは~ん。アルトったら賢い♪」 肝が冷えてしまう。こちらがエスパーだということをリリーには知られたくない。あくまでも占い師として『視る』能力を持っているとリリーには説明している。 聖女の時の二の舞はごめんだ。追放されるのは一度だけでいい。 リリーは「トーシ?」ときょとんとした顔をしている。ホッと胸を撫でおろすしかない。この世界ではエスパーという職業はレアもレア、ウルトラレアなのかもしれない。 しかし、自分の横にはうっかり口を滑らせまくる女神がいる。安心してはいられない。さっさと帳簿を透視能力でじっくりと見る。 ページを1枚、また1枚とめくる。ついでに、ほんにゃらはんにゃらほわわ~と口ずさんでおく。占い師らしく、それっぽく振る舞っておく。「視えた。って、口にしていいのかわからないっ」 「アルトの知ってること、教えてほしい、そーれ♪」 「ぐははっ! ちょっと、女神様! わき腹をくすぐるんじゃない!」 「やめてほしかったら、視えたもの、教えなさいー?」 「わかりましたって。ちょっと、手をどけてくださいよぉ!」 透視で見えたもの。それは金の流れであった。数字を追っていると金色の砂粒が
Last Updated: 2026-07-18
Chapter: 第17話:ギルド会館① カジノ系列のホテルで一夜を過ごした後、朝食も取らずに急いで冒険者ギルドへ走る。リリーのことが心配でたまらなかった。 あまりにも早くギルド会館に来てしまったのか、入り口は開いていなかった。やきもきとしてしまう。 リリーが帳簿を集めると言ってくれたのは嬉しいが、リリーが危険に巻き込まれることを考慮していなかった。 リリーが行動に出る前に彼女を止めたかった。その願いが天に通じたのか、彼女の声が後ろから聞こえてきた。こちらは安堵して、腰砕けになってしまう。「おはようございます? って、なんでへたりこんでるんですぅ!?」 「よかったーーー。もう間に合わないかと思ってたから」 「よしよし。泣き虫さんですね、アルトさんは」 早朝からボロボロと涙を流してしまった。それくらいリリーのことを好きになってしまったのだろう。「ごめん。俺、浅はかだった」 「何がですぅ?」 「リリーが汚い陰謀に巻き込まれることをまったく考えてなかった。俺はバカすぎるっ」 「ああ。帳簿のことですね? 大丈夫ですぅ。何かあったらアルトさんに責任取ってもらうんで♪」 「天使や、天使様がここにおられるぞぉ!」 リリーに頭が上がらなくなってしまう。リリーは危険を理解しているというより、それでもやる覚悟を決めているようだった。危険を顧みずに今日もギルドへと出勤してきたのだ。 絶対に彼女を守らなければならない。男として当然の義務だと感じる。「リリー。俺がリリーを守るからっ」 「うふふっ。期待していいのぉ?」 「ああっ! 俺を信じてくれっ」 「じゃあ、私の騎士様……入り口に立たれると邪魔なので横にどいてもらえますぅ?」 「いきなり邪魔扱いされたぁ!?」 「私、今日の鍵開け当番なのですぅ」 「あっはい」 自分は横に移動する。すると、リリーが入り口に近づき、バッグから鍵を取り出す。そして、鍵穴に鍵を差し込み、入り口を開ける。 リリーが先にギルド会館へと入る。自分はリリーの後ろをこそこそとついていく。ギルド会館にひと気は無かった。そ
Last Updated: 2026-07-16
Chapter: 第16話:女神の採点 帳簿を見れば終わる。そう思っていた。 この時の俺はまだ知らなかった。 冒険者ギルドの腐敗が、想像より遥かに深刻だったことを。 ギルド長のゲイルたちと別れた後、自分はカジノ系列のホテルへと戻る。そこでは女神がにっこにこの笑顔で待っていやがった。「はい。アルトの初恋、ばっちりとのぞき見してたわよ♪」 「見られてたぁぁぁ!? いつから!?」 「闘技場の外に出てきたところくらいから」 「いやだぁ! 俺とリリーの仲は女神様が引き裂くんだぁ!」 「そんなことしないわよ、うふふっ」 女神はそう言うがこちらは生きた心地がしない。女神にとって自分は相当面白いおもちゃなのだろう。下手に歯向かえば、女神に人生をめちゃくちゃにされる気がしてならない。 ここは大人しく従順な振りをしておく。「俺、リリーとは本気なので、変なことしないでください、何でもしますから、お願いしますからぁ!」 「今、何でもするって言った?」 「どきり……」 「じゃあ、働いてばかりのお姉さんにマッサージをお願いするわっ」 「ええ!? それ、俺にとってはご褒美ですが!?」 「ふふっ。リリーへの感情を私へのマッサージで上書きしてあげる♪」 「こいつ、女神じゃない! 悪魔や!」 女というのは恐ろしい。他の女の存在を決して許してくれないようだ。嫌々ながらもマッサージの準備をする。女神はふかふかのベッドの上でうつぶせに寝ていた。 まずはふくらはぎからだ。女神のふくらはぎを丁寧に両手でマッサージする。つきたてのお餅をこねているような感触だ。 ごくりっ! と息を飲むしかない。ふくらはぎの次は太腿だ。むっちりとしており、手で触るとそのまま吸い込まれそうになってしまう。「うほっ! 女神様ぁ!」 「ふふっ。アルトくん、興奮してるぅ~♪」 「くあああ! 静まれ、俺のおちんちん! こいつは女神じゃない。悪魔だ!」 まさに地獄の時間だった。女神から見れば自分はペットにしかすぎないのだろう。身体を触らせようが、それはペットがじゃれつい
Last Updated: 2026-07-14