LOGIN仕事に疲れ果て、ベッドに倒れ込んだ青年が次に目覚めたのは、見知らぬ中世風の木造小屋――そして、自分の姿は10歳ほどの子供になっていた。 混乱する彼の目の前に突如現れたのは「ステータス画面」と「初期設定」の項目。半信半疑で触れてみると、能力・属性・所持金……すべてが自由に設定可能だった。 これは夢なのか?それとも現実? 最強チート少年となった彼は、森の中で試行錯誤しながら、魔法やアイテムを駆使してサバイバル生活を開始する――! 過酷だけどちょっぴり自由な異世界。少年は果たしてこの世界で生き抜けるのか? 規格外の力で挑む、異世界リスタートの冒険物語!
View More深夜近く、二十代半ばの青年は、ようやく仕事を終えた。全身から力が抜け落ちたような疲労感が体を支配し、アパートへ向かう足取りは重い。まぶたは鉛のように重く、こじ開ける気力すら湧かないまま、寝室へ直行する。ベッドに身を投げ出すと、うつ伏せのまま、意識は急速に遠のいていった──まるで深い水底へと沈み込むかのように。
しかし、次に彼が目を開けたとき、そこは馴染みのアパートではなかった。視界に飛び込んできたのは、木造の小屋と見紛うばかりの広々とした部屋だ。壁は重厚な石のブロックで築かれ、見慣れたものは何一つ存在しない。
「……今、寝たばかりだったよな……もう目覚めたのか? もう……朝なのか? はぁ……仕事に、行かないと……。ツラいが……起きないと……」
まだ夢の続きを見ているのだろうか。そう思いながら、彼はゆっくりと周囲を見回す。部屋全体から漂うのは、中世を思わせる古めかしい雰囲気。埃っぽい匂いが鼻腔をくすぐり、湿気を含んだ空気が肌にまとわりつく。ベッドの他には、空っぽの棚がぽつんと置かれているだけだった。
困惑が胸に広がる中、ベッドから降りようと足を床に伸ばす──だが、足は届かない。
「……え?」
視線を下げると、そこには見慣れない小さな手が二つ。腕も、体全体も……まるで幼い子供のようだ。驚きと混乱が入り混じった感情が、胸の奥で渦巻く。
「なんだこれ……夢なのか? ……夢、だよな? 寝たばかりのハズだし……」
半信半疑のまま外へ出てみると、そこは深い山の中だった。見渡す限り、果てしなく広がる鬱蒼とした森林と、威容を誇る大きな山々。鳥の声だけが木々の間で響き渡り、人の気配は、どこを探しても見当たらない。
頬を撫でる穏やかな風は、春か秋のような心地よさをもたらす。寒すぎず、暑すぎず、まさしく過ごしやすい気候だ。木々の葉擦れの音が耳に心地よく響き、土の匂いがふわりと香る。ふと近くを見ると、ちょうど腰を下ろすのに都合の良さそうな倒木が目に留まった。
そよ風が頬を撫でるように触れ、土と草の香りと降り注ぐ太陽の日差しの眩しさに温かさを五感に感じる、この感覚が妙に現実味を帯びて生々しい。
深い溜息を一つ吐き、彼はそこに腰を下ろす。混乱しきった頭で、状況を整理しようと試みた。
まず、ここは一体どこなのだろうか。
薄汚れた鏡で自分の姿を確認したときから薄々気づいていたが、やはり外見は幼い子供──おそらく十歳くらいだろうか。金髪に近い茶色の髪と、吸い込まれそうな金色の瞳。顔立ちは、美男子というよりは、誰もが振り返るような可愛らしい印象だ。
「……元の世界だったら、間違いなくモテモテだっただろうな」
自嘲気味に苦笑しながら、再び周囲を見渡す。この世界の治安も全く分からない。いくら考え込んでも、現状を打開する術は見つからないだろう。不安が胸をよぎるが、今はそれよりも目の前の現実をどうにかするしかない。
喉の渇きを感じた。思考を一旦中断し、彼は井戸か川を探すべく立ち上がった。
周囲を見渡しながら歩き出した、その一歩を踏み出した瞬間──空間に突然、ステータス画面が透明な光と共に現れた。
「……なんだ、これ?」
視線を動かすと、そこにはアイテムボックスのアイコンが浮かんでいる。試しに意識を集中させてみると、画面がスッと開いた。
中に入っていたのは──水袋、食料、ナイフ。必要最低限というべきか、たいした持ち物はない。
水袋をイメージすると、次の瞬間には彼の手の中に、革製の袋が確かに現れていた。その感触は、本物と寸分違わぬものだ。
「……おぉ!」
革製の袋なので、得体の知れない臭いや変な味がしないかと警戒しつつ、彼は慎重に口をつける。ゆっくりと喉を潤してみると──それは、何の変哲もない普通の水だった。口の中に広がる冷たさが、渇ききった喉を癒していく。
その「普通の飲める水」が、今の彼にとってはあまりにも貴重で、ありがたすぎる。
安堵の息を漏らしながら、彼は再びステータス画面を確認する。何か他に役立つ情報はないだろうか……。
そのとき、「初期設定」というアイコンが彼の目に留まった。ためらいながらそれを開いてみると──画面には、レベル、力、魔力、属性といった項目が整然と並んでいる。
「初期設定って……え?」まさか、自分の能力を設定変更できるというのか? 彼の心臓が、微かに高鳴った。
画面の説明を見る限り、一度設定すると変更はできなくなるらしい。ならば、当然、すべてを最大にするべきだろう。
とはいえ、本当にそんなことが可能なのだろうか? 半信半疑のまま「決定」を押してみると──
「……え?」
信じられないことに、すべての項目を最大値に設定できてしまった。彼の目が見開かれ、驚きが顔に貼り付く。
「マジか……」
これは、どう考えてもチート能力ではないか。こんな力を手にしてしまって良いのだろうか?さすがにやりすぎではないか? ……いや、これはきっと夢だ。夢の中なら、何をしても問題ないだろう。彼はそう開き直り、次に属性の設定に目を向けた。
「よし、全部取得っと。もちろん属性レベルも最大値に設定だ」
「……わたしも好きです。ですから、わたしもお隣で一緒に寝ますわ」 そのブロッサムのまっすぐな告白に、エルは驚きと悔しさを滲ませる。「えぇ!? なんでぇ~! ずるいよー! とぉーっても、ずるぅぅぅいよぅ!」「早い者勝ちですわ」 ブロッサムは、勝利を確信したかのように、わずかに口元を緩ませた。 急展開だな。そんな素振り、まったくなかったと思っていたのに……。そらは、戸惑いながらも、急速に変化する彼女たちの感情の動きに、胸の奥がざわつくのを感じた。 ふと、ブロッサムがこちらを見つめてきて、ほんの少し微笑んだ。その微笑みは、昼間のお風呂での照れ隠しの表情とは打って変わり、どこか挑発的で魅力的だった。「今日は、ぷにぷにはないのですか?」 えっ!? そらは予想外の言葉に、驚いて聞き返す。「……いいの?」「はい。もちろんですわよ」 ブロッサムは目を逸らすことなく、静かに断言した。その返答は、彼女の内面の変化を如実に物語っていた。 すると、エルがまた大きな声をあげる。その声には明確な嫉妬が込められていた。「えぇ!! もっとズルイ! すごくズルイよ!」 エルが抗議する間にも、ブロッサムはそっと顔を近づけてくる。薄い紫色のサラサラとしたウェーブのかかった髪が、そらの頬をかすかにくすぐった。大きな紫色の二重の瞳が、近くでそらを見つめる。 キレイだな。 そらは、間近にあるブロッサムの美しさに、思わず見とれた。 そっとブロッサムのほっぺをぷにぷにっと触ると、その柔らかく温かい感触が指先に伝わった。 同時に、エルがギャーギャー騒ぎ出す。「ちょっとぉ! ずるいってばっ! わたしも! わたしもなの!」 仕方ないので、そらは片手でエルの頬もぷにぷに。エルは抗議の声を上げながらも、気持ちよさそうに目を細めた。一瞬、納得いかない顔をしていたが、満足げな表情に変わり、静かになった。 そこ
そらは思わず笑みをこぼす。うん、知ってた。この返事は想定内だよ。 怒られなかっただけ、優しさが増した……のかもしれない。彼は、ブロッサムの微妙な変化を嬉しく感じていた。 たしか、ブロッサムも貴族なんだよな。あんまり表に出さないけど、所作の一つひとつに品がある。湯船に浸かっている姿でさえ、どこか優雅な雰囲気を纏っている。普段は気づかないけど、実は同年代よりスタイルいいし、可愛いし……。 そらが泡を流しながらふと彼女の横顔に目をやると、ブロッサムは湯船の縁に肘をついて、頬杖をつきながらぼんやりと湯気の向こうを見ていた。その長い髪は湯に濡れて肩に流れ、色白の肌を際立たせていた。けれど、その視線は時折そらの方へと揺れていて、何かを言いたげな気配があった。 ……明日も一緒に入ってくれるかな。 そらは、満たされた温かい気持ちと共に、淡い期待を抱いた。 そんなことを考えていたら――「皆ずるーいっ! 居ないと思ったらお風呂にいたぁー!」 脱衣場の戸が勢いよく開け放たれ、明るい声と共にエルが突撃してきた。湯気が立ち込める浴室内に、眩しいほどの存在感を放つ。 遅れて来たエルは、いつものように無自覚で、何も隠すことなくそのまま浴室内へと足を踏み入れた。濡れて光る白い肌が、湯気の合間から視覚的に飛び込んでくる。彼女の健康的な肢体は、少女らしい弾力と丸みを帯びており、水滴を弾く様が鮮やかに目に焼き付いた。 ブロッサムは「きゃっ!」と小さな悲鳴を上げ、慌てて湯に身を沈めて顔を隠す。一方のエルは、そんな周囲の反応など気にする様子もなく、屈託のない笑顔を浮かべたまま、そらのそばまで無防備に駆け寄ってきた。その奔放な姿が、浴室の熱気と共に、そらの視界いっぱいに広がった。「ちゃんと声かけたよ?」 そらは、呆れたような表情を浮かべながら答えた。 エルがぷくーと頬を可愛く膨らませて文句を言ってきた。その仕草は、全く悪びれる様子がなかった。「聞こえなかったもんっ!」 そんなエルを軽
……でも、普通リビングにあんな大きなベッド置かないよね? いや、小さなベッドすら普通は置かないぞ? 彼の頭の中で、常識的な思考が警鐘を鳴らした。この家は、もはや彼の知る一般的な「家」の範疇を超えていると、改めて認識した。――そして夕方。 暖かな日差しが西に傾き、家の中がオレンジ色に染まり始めた頃、そらはすっきりとした声を上げた。「お風呂に入るよー!」 誰に言うでもなく、リビングにいる皆に向けて大きな声で宣言しながら、清潔なタオルを手に脱衣場へと向かった。新しく作ったばかりの広い風呂場は、彼にとって一日の疲れを癒す楽しみの一つだった。 お風呂に湯をためながら、そらは服を脱いでいた。温かい湯気が立ち込め始め、肌に微かな湿り気を感じる。そのとき――見慣れない気配にハッと振り向くと、脱衣場に新顔が立っていた。「……あれ? ブロッサム!? 一緒に入るの?」 そらが驚いて声をかけると、ブロッサムは真新しいタオルを胸元に大切そうに抱えながら、すっと顎を上げてこちらを見返す。その仕草はいつもの気高さを保っていたが、その瞳はわずかに揺れていて、頬にはうっすらと朱が差していた。湯気のせいだけではない、微かな緊張が彼女の表情から読み取れた。「いけませんか? お風呂、広くなったんでしょう?」 言葉は理路整然としていたが、裏腹に、彼女はタオルの端をぎゅっと握りしめている。その小さな指先の白くなっている様子からも、そらの視線を強く意識しているのが伝わってきた。彼女の淑やかな振る舞いと、内に秘めた恥じらいが、脱衣場の空気をほのかに甘くしていた。「いや、別にいいけどさ……目のやり場に困るんだよね」 そらが苦笑しながら、正直な気持ちを言うと、ブロッサムは一瞬だけ目を見開き、すぐにそっぽを向いて、長い髪をかき上げた。その仕草は、動揺を隠そうとする精一杯の虚勢だった。耳の先まで赤く染まっていて、照れ隠しの仕草が露骨だった。「では、目をお瞑りになって入ればいいのではなくて?」 その言
一通りの作業を終えたところで、エルが満足げな笑顔から一転、指をぴょこっと上げる。「ねぇねぇ。リビングに大きいベッド、ないのぉ?」 彼女は、純粋な疑問といった表情でそらを見上げた。「もう必要なくない? 各自の部屋にベッドあるでしょ?」 そらは、意図が分からず首を傾げた。個室とベッドを用意したのだから、リビングで寝る必要はないはずだ。「えぇ〜〜〜」 エルから、心底不満そうな声が漏れる。すると、アリアがすかさず勢いよく乗ってきた。「必要だと思うのです!」「うん、必要だと思うの」 と、ノア。二人は、エルに同調するようにそらに訴えかける。 まさかの……「必要だと思いますの」 と、優雅な口調のブロッサムまでが、きっぱりと賛同した。彼女たちの間には、強い結束が生まれているようだった。「……うん。必要……ですね……」 と、蚊の鳴くような声でステフまでが控えめに賛同した。彼女は、皆の意見に逆らうことができず、少し戸惑いつつも頷いたようだった。 え、マジで? そらは、予想外の全員一致に、驚きで目を丸くした。個室を用意したのに、まだリビングで一緒に寝たがっているという事実に、彼の思考は追いつかなかった。 (なんでだよ!?個室作った意味ないじゃん!)と内心で叫びつつも、そらは少女たちの純粋な眼差しに抗えない。彼女たちの「必要」という声には、抗いがたい説得力があった。彼の常識と、この幼い「家族」の理屈が、いつも微妙にズレている。でも、それがどこか心地よかった。このズレこそが、彼にとっての新しい日常であり、満たされた時間だった。 リビングはかなり広く作ったから、スペースに問題はないけど……みんな、部屋のベッドはどうするんだ。 そらは、深く考えるのをやめて、観念した。仕方ないので、魔法でさらに大きなベッドをリビングの隅にゆったりと設置した。そのベッドは
すると、エルが先ほどの「便利だね」発言のことを思い出した様子で、不安そうにそらを見上げて聞いてきた。「ねぇ……怒っちゃった? そらくん?」「怒ってないよ、大丈夫だよ?」 そらは、彼女の頭を優しく撫でて安心させる。そらの腕に寄り添うようにエルが近づき、にこっと顔を覗き込んでくると、甘えた仕草と声で甘えてくる。その表情は、まるで子猫のように可愛らしい。「じゃあ、ほっぺぷにぷにしていい〜?」 エルは、上目遣いでそらを見つめた。「意味が分かんないって……ほら、帰るぞ」 そらは、困ったように笑いながら、エルの甘えを軽くあしらった。しかし、その声には突き放すような冷たさはなかった。「ねぇ〜ねぇ〜、そ〜ら〜く〜んっ!」 エルは諦めずに、そらの腕にさらに体重をかけて、楽しそうに甘え続ける。その声は、まるで子守唄のように明るい響きを持っていた。 そらは、そんなはしゃぐエルをなだめつつ、後ろで微笑んでいるブロッサムとステフと共に、にぎやかに町を後にする。市場の喧騒を背後に、4人の影が並んで伸びていった。 周囲に不審な気配がないか探索魔法で慎重に確認しながら、そらは先導する。湿った土の匂いがする洞窟を抜け――無事に、彼女たちが待つ我が家へと帰ってきた。「「「「ただいまー」」」」 4人の声が揃い、家の中に温かい響きをもたらす。「お帰りなさいなのです」「お帰りなさいなの」 アリアとノアが、満面の笑みで、ぴょんと跳ねるように出迎えてくれる。その姿は、まるで待ちわびた小動物のようで、そらたちの帰宅を心から喜んでいるのが伝わってきた。「良い子にして、二人で待ってたのです」 アリアは、誇らしげに胸を張って報告した。 エルとブロッサムは、町やギルドでの出来事を、身振り手振りを交えながら楽しそうに話し始めた。新しい服の話、そしてそらが特大の判定石を粉砕した衝撃的な出来事まで。「スゴくスゴイなのです!」「いっぱい
「遠慮しなくていいよ。好きなものを買いなよ。……それ、ブロッサムに似合いそうだしさ」 そらの迷いのない一言が、彼女の心に響いた。 その瞬間、ぱあぁっと――彼女の顔が花のように綻んだ。まるで、諦めていた夢をそっと差し出された子供のように、その瞳が強い光を放ち、きらきらと輝く。これまで感情を抑えがちだった彼女の顔に、これほど純粋な喜びが浮かんだのは、そらが知る限り初めてかもしれない。「……ほんとに、いいのかしら……?」 ブロッサムは、信じられないといった様子で、もう一度そらに確認した。その声は期待に震えていた。「もちろん」 そらは、一切の迷いなく断言した。「……ありがとう、そらさん!」 彼女は、最高の笑顔と共に、心からの感謝を口にした。嬉しそうに、けれど神聖なものでも扱うように、ブロッサムはドレスをぎゅっと胸に抱きしめた。その小さな腕の中で、紫のドレスはまるで何にも代えがたい宝物のように見えた。彼女の全身から、満たされた幸福感が溢れ出していた。 そんな彼女を見ていると、こっちまであたたかい気持ちになる。ブロッサムがこんなにも無邪気に喜んでくれることが、そらの胸にも温かい光を灯した。彼女のキラキラとした瞳や、ドレスを抱きしめるその愛おしげな動作の一つ一つが、そらの心に深く染み込んでいく。 彼にとって「与える喜び」は、かつてないほど新鮮で、前世から抱えていた虚無感を埋める確かなものになりつつあった。それは、自身の圧倒的な力とは違う、穏やかで満たされた感覚だった。「さ、他の子の分も選ばなきゃだよっ」 そらに促され、ブロッサムは恥ずかしそうに頷いた。「……はいっ!」 満面の笑みで店に飛び込んでいくエルたち。ステフも控えめながらも、楽しそうに服を見て回っている。彼女たちは、まるで夢の中にいるかのように、次々と気に入った服を選んでいった。 気づけばあっという間に、服や小物が会計台の前に山ほど積み上がって
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