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麻木香豆
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Novels by 麻木香豆

合縁奇縁、そんなふたりの話(BL)

合縁奇縁、そんなふたりの話(BL)

11月より本格スタートします!よろしくお願いします🙇!40歳童貞ダメダメSEの寧人と26歳配達員の一護。二人の出会いを描いたR18指定の作品です。 鳩森 寧人(はともりよしと)40歳 引きこもりネガティブSE、童貞。 パニック持ちの頼りないやつ。 菱 一護(ひしいちご)26歳 元美容師、オーナーであり現在フードジャンゴ社長。 裏ではメンズマッサージ店を経営していた。 ロン毛バリネコ。家事全般得意、お世話好き。 古田 倫悟(ふるたりんご)30歳 寧人の年上の上司で営業マン。バツイチ。 ドSと甘えん坊の二面性を持つ。 菱 頼知(ひし らいち)23歳 一護の異母兄弟。調子に乗りやすい。 人に好かれたい、甘え上手。
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Chapter: 番外編 第三話
驚いた四人はキャンピングカーを停め、慌てて外へ飛び出した。 「ちょ……みなさん……こんな夜に!」 「いやいや、社長を送り出すのに一部社員だけなんてありえないでしょう。あ、強制じゃないですよ。上層部が『送り出す』って言ったら、全社員の九割が集まって……家族連れもいますしね」 その言葉どおり、そこにいるのは社員だけではない。子どももいれば、明らかに高齢の人の姿もある。 想像以上の人数と好意に、寧人は思わず目頭を熱くした。 「……今回、キャンパーの皆さんには随分とわがままを言ってしまいました。修理も、改良も、提供品まで……」 一度、言葉を切る。 「だからこそ、全力で製品の良さを伝えます。必ず」 寧人の言葉に、一護と古田が力強く頷いた。 ただ一人――ドラゴンだけが、わずかに間を置いてからの頷きだった。 「ドラちゃん、どうしたんだい?」 一護が声をかけると、ドラゴンは大きな身体をさらにかがめ、フードを深く被った。 誰かの視線を避けるように顔を伏せ、いつもより明らかに覇気がない。 古田がさりげなく間に入り、寧人と一護を集まった人々の方へ促す。 そこにいる人々の表情は、ドラゴンとは対照的に明るかった。 一人の男が前に出る。 「寧人社長。私、先代の社長――父の時代のチャレンジを見て育った世代なんです。まさか、あの一視聴者だった自分が、今こうして新しい挑戦を支える側になるとは」 さくらキャンパー現社長、菅野宙。 その隣には、先代社長であり現在はグループ会社の理事となった父親が立っている。 「こちらこそ光栄です。キャンプ誌で拝見した宙社長の記事、とても刺激を受けました。同じ地元企業として、誇らしい限りです」 自然に口をついて出たその言葉に、一護は思わず目を細める。 ここまで来るのに、どれだけ手間と時間をかけたか――容姿を整える以上に、言葉と立ち居振る舞いを叩き込んできた日々を思い返す。 「ええ、こちらこそ」 宙はそう言って、寧人に手を差し出した。 若く、大きく、力強い手。 まめだらけの硬さに、寧人の柔らかな手が重なる。 その瞬間を、一護がスマホで逃さず撮る。 「あ、寧人社長、宙社長。もう配信、始まってますよ」 「えっ、もう? 早く言ってくれよ」 握手する二人は、満面の笑み。 寧人の意
Last Updated: 2026-01-20
Chapter: 番外編 第二話
早速スタートなのだが…… 「ねぇ、お見送りとかないのかい?」 ドラゴンが言う。 「あ、ドラちゃんには話してなかったか。さくらキャンパーに今から向かってスタートだよ」 ドラゴンは数日前にスケジュール調整をして参加のためあまり多くを知らなかった。 「でもこんな夜に……」 「まぁね、でも配信を見るのは仕事や家事や育児を終えた大人たちがメインだからね。今回は。それに周辺住人の寝る時間帯も考慮するとさくらキャンパーの従業員たちの見送り……いやあそこの社長とか一部社員のみかな。働き方改革ってやつだよ」 「静かにスタート……てやつだね。まぁたくさん来ても恥ずかしいからね」 と盛り上がってる最中、一護はドラゴンの表情を見ていた。何かを隠している顔。考えている顔。 流石に付き合っていた同士……雑誌やすい一護はすぐわかった。 「一護さん……どうしましたか」 古田が顔を覗き込む。 「いや、なんでもないよ……それよりもはやくさくらキャンパーに行かないと。どうやら旅に最中に宣伝してほしい商品も届いたとか言うし」 と切り返してその場を切り抜けた。寧人は反対に鈍感なので何事かわからず頷く。口にはプロテイン入りのナッツバー。 ドラゴンに薦められて何も疑いなしにボリボリと。その間抜けな顔に一護はやれやれと思いつつもキャンピングカーで出発するのであった。 今回は四人で移動もあってかキャンピングカーも大きめだがリムジンも運転けけんがある古田を始め寧人以外は全員練習を重ねた。 夜は基本専用の各場所のパーキングで停車して眠る。 ベッドは天井上のルームに二人、ソファーの部分で二人。 寧人は今からどこで誰と一緒に寝ることになるんだろうとよからぬことを考えている。 「まぁもちろん一護だけど……明日以降は自転車もやるからマッサージを受けると考えた気づいた時にはドラちゃんと寝てそうだし、どっかでリンをかまってあげたいし。狭いところ……どこか探して二人きりになったら……」 他のメンバーたちのいる中でニヤケがおを見られないようにタオルで顔を隠す寧人、だが……実のところ他の三人も……。 寧人の横でハンドルを握る古田は 「屋根部分よりもシャワー室の狭さが程よくよかったから……そこで寧人と……ああっ……でもマッサージしてもらいたいっ、ドラちゃ
Last Updated: 2026-01-19
Chapter: エクストラステージ 第一話
それは、本編からだいぶ時が経った、ある日のことだった。 「よし、寧人。久しぶりのチャレンジだな」 「……ああ」 二人はキャンピングカーに荷物を積み込み、自転車の最終点検を終えると、それも慎重に載せた。 「まさか、また挑戦するとはね。寧人もずいぶんチャレンジャーになったもんだ。出会った頃を思うとさ」 「一護、過去は振り返るなって言ってるだろ……特にネガティブなのは」 「はいはい」 一護は楽しそうに笑った。 笑うなよ、と言いたげに寧人は困った顔をする。 あれから会社の業績は右肩上がりだった。 もっとも、社会情勢の変化、多様性社会への対応、同業他社との競争激化――順風満帆とは言えない時期も確かにあった。それでも乗り越えられたのは、一護や古田の支えがあったからだ。 だが、近年は伸び悩みも見え始めていた。 そこで寧人が思い出したのが、社長就任前に行った自転車旅だった。 もう一度、あの挑戦を――今度は今の時代のやり方で。 金のかかることをなぜやるのか、という声は当然あった。 それでも、当時を知る者たちは違った。 「また見たい」 「次のチャレンジを楽しみにしてる」 そう言ってくれた。 以前のように放送局を通すことはできない。 だが今は、スマホ一台で世界と繋がれる時代だ。配信、投げ銭、すべて自前でできる。 「キャンピングカー、買っといて正解だったな。忙しくてほとんど乗れてなかったけど、やっと日の目を見る」 「スポンサーにさくらキャンパーが付いたからな。メンテナンスも万全だ。先々で追加スポンサーも狙いたい」 「野心家だね。……ほんと、この数年で寧人は変わったよ」 一護は目を細める。 寧人は少し得意げに笑った。 もう、ただの四十過ぎの男じゃない。 増え続ける社員たちを率いる社長だ。 ――だからこそ、今回の旅は失敗できない。 そう思うと、胃の奥がきりりと痛む。 年齢はごまかせない。身体は正直だ。 「そんな顔しないで。今回の旅には、心強い味方がいるだろ?」 「……まあ、ね」 寧人の視線の先に立っていたのは、一人の男。 「ご安心ください。社長の身体の外も中も、すべて僕が管理します。そのためにいるんですから」 「ドラちゃん、助かるよ」 かつてマッサージ店で働いていたドラゴンだ。
Last Updated: 2026-01-18
Chapter: 余談篇 ラブストレッチ
今日も麻婆丼を寧人に食べさせる一護。ホクホク顔でぺろっと食べてしまう。 二人休日が合えばサイクリングをしにいく。それには筋トレも必要。 ジムも行くが自宅で行う時に二人で組んでストレッチや筋トレもする。だが寧人が168センチに対して一護は182センチ。体格差がかなりあるものの、工夫している。 ミーチューブで配信されているカップルで行う筋トレ動画を見ながら二人は実践。チビな寧人を一護が抱っこしてスクワット。 「これ駅弁じゃねぇか」 「やだぁっ……」 「一護はしたことないだろ? 受け身しか」 「わたしより背が高くてガタイのいい人じゃないと無理っ……て、寧人も体重増えて結構きつい」 「ほれほれー頑張れー」 「んーっ!」 「いい顔してるなぁ……」 「もぉ、ちゃかさないでぇええ」 「よし、終わりー」 「重かったぁ」 とゆっくり寧人を床に置いて一護は汗だらだら。 「僕もやりたいけど腰やられるな」 「セックスなら気合で抱えられるんじゃない?」 「あー無理無理っ。立ちバックよりも無理」 「わたしあれ好きなのにぃ」 「悪かったな、短足で」 「必死になって爪先立ちして足つっちゃうもんね」 「るっせー」 次の動画は股関節のストレッチ。 「あら、お股広げるやつ」 「一護、お前がいうと卑猥」 「じゃあこれは寧人やろっかー」 「僕は硬いからな」 「あそこもね」 「バカ」 寧人は仰向けになり一護が彼の脚をゆっくりじわじわ広げていく。 「でも前よりも柔らかいよっ」 「風呂上がりにやるともっといいかな」 「うんうん、スッポンポンでやってあげるぅ」 「卑猥だな」 「なに? もうアレ勃ってる時点で卑猥っ」 寧人のアレはズボンの下で大きくなっている。 「じゃあ次は一護」 「うん、わたしは柔らかいんだから」 もうすでにガバッと股を開いてる。じわじわっと広げる。 「お前もでかくなってるぞ」 「へへっ、あー次は腹筋」 二人はストレッチを続ける。そして一時間かけて行い二人は汗まみれ。 シャワーもそれぞれ浴びる。そして全裸で二人はベッドに飛び込む。 「一護、1番のカロリー消費はセックスだって知ってたか?」 「一つの射精で50m走やったくらいだとか?」 「ならなおさらセックスがいちばんじゃん」 「もうあんな
Last Updated: 2026-01-17
Chapter: 余談篇 野放しの理由
二人で動画編集をしている。流石にこないだのモーニングルーティーンはお蔵入りであるがまた撮り直してアップしたら好評だったので、ナイトルーテイーンも無事に撮り終えて編集段階に至った。 「多分見てる人たちはナイトルーティーンの方が気になるよね」 「どんなエロいことしてるんだろってね。ってそうやって興味持たせて視聴者増やすって卑怯なことしちゃったね」 「全然卑怯じゃないって。そんなに毎日セックスしてたら私の穴もガバガバになるしね」 「十分ガバガバだろ」 「やだーっ、変態っ」 二人でひっつき合いながら、あーしてこーしての作業。 「そういえばさ、引きこもりだったときの寧人のルーティーンってどんなのだった?」 「聞かなくてもわかるでしょ」 「……腐ってそう」 「ふははっ」 パソコン操作はほぼ寧人。だいぶ編集効果も慣れてきたようだ。流石ずっとパソコンを触っていただけもある。 「僕は一護のルーティーン気になる」 「ほぼ家事だけど」 「だよな……いつもありがとうございます」 「いえいえ、昔から変わらずです。家事しないと死んでしまう」 実は一護は編集作業をしながらも洗濯機では乾燥、台所では明日の料理の仕込みをしているのだ。 「副社長なのにお忙しいこと……お手伝いさんつけてもいいんだよ」 「いやだ。僕がやらないと意味がないし、その人まで寧人のこと好きになったらどうするの……」 「おいおい、もう僕が誰でも構わず関係を持つってことか」 「……」 一護は無言である。 「まぁ病気持ち込んだりお金をつぎ込むほど入れ込まなければ構わないけど。少しは僕のお尻の負担減るし」 「そっちかいっ!」 「うん。だって言ったじゃない……毎日寧人のお世話したらガバガバになっちゃうって」 「あああああ……」 そんな思惑があって古田との関係をスルーされていたかと思うと心が痛い寧人。 「一護、僕は君一筋だから……ねっ」 寧人は一護の頭を撫でる。 「そう、それならいいけどね。全世界の人たちが僕らのことを見てるからオイタは程々にしてね」 寧人はヒヤリとした。実は過去のオイタはもう告白をしている。そして動画上に顔も名前も上がっていることでもう派手にはできない。古田は秘書であるため口は硬いし、お金をある程度積んで
Last Updated: 2026-01-16
Chapter: 余談篇 頼知の邪魔 
寧人はそろそろ髪の毛を切ろうと思い、古田に空いている時間があるかと尋ねる。 「次の会議終わったら3時間空いていますが」 「髪を切りたい……」 「かしこまりました、予約しておきますね」 古田は寧人の秘書になってから単発にしてピシッと固めている。 形から入るタイプらしい。心機一転すっきりさせたというが、寧人にとってはもともとイケメンの顔立ちだった古田のその姿に尚更どきっとする。そのイケメン面でセックスのときは完全にメスになるというギャップがたまらないようだ。 「僕もリンみたいにすっきりしようかなぁ」 「寧人はその天パを生かした髪型が一番だと思いますけどね」 「そうか? 昔からこのフワッフワが嫌でさ」 「欲を言うとツーブロックがそそりますね……」 「え?」 「ソフトモヒカンの時も実は好みでしたから」 と、寧人は一護に初めて切ってもらったときのソフトモヒカン姿の自分を思い出す。 「あれはやりすぎだったよな……それに若い奴の髪型だろ」 すると古田がジトッと寧人が見つめる。 「あれにしてくれたら僕嬉しいな……」 「いらっしゃいませ、寧人ーっ」 「急にごめん、すっきりしたくて」 「ううん、大丈夫っ。さぁ座って座って」 寧人は個室に通されて椅子に座る。頼知がいつも髪の毛を切って、一護が家で軽くメンテナンスすると言うスタイル。 「お兄ちゃんに頼めばいいのにー、なんてね。寧人と絡めるのこういう時だけだからー」 「一護も頼知の、腕を頼ってるんだよ。それに売り上げにもつながるし。弟想いだね、相変わらず一護は」 一護の話になると頼知は機嫌が悪くなる。彼は一護に過保護に世話されて嫌になってしまったというパターンであり、仲が悪い。でも一護は献身的に接している。 「今は僕のことだけ考えてて。仕事のこともリンのことも一護のこともぜーんぶ忘れて」 「相変わらずやきもちだねぇ、頼知は」 「そんなことないんだからっ、じゃあシャンプーしますねっ」 頼知のシャンプーはとても気持ちがいい。一護が前言ってたように女性のお客様は彼のヘッドスパの指遣いでオーガニズムに達するほど……男性である寧人もその気持ちがわかるくらい終わった後は自分のあれが勃起していて恥ずかしくなるのだ。 「あらやだぁ、寧人さんのアレが元気
Last Updated: 2026-01-15
恋の味ってどんなの?

恋の味ってどんなの?

百田藍里は転校先で幼馴染の清太郎と再会したのだがタイミングが悪かった。 なぜなら母親が連れてきた恋人で料理上手で面倒見良い、時雨に恋をしたからだ。 そっけないけど彼女を見守る清太郎と優しくて面倒見の良いけど母の恋人である時雨の間で揺れ動く藍里。 時雨や、清太郎もそれぞれ何か悩みがあるようで? しかし彼女は両親の面前DVにより心の傷を負っていた。 そんな彼女はどちらに頼ればいいのか揺れ動く。
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Chapter: 番外編 最終話
神奈川に戻って数日後、希望していた高校から連絡があった。 同系列の関東の高校でテストを受け、基準を満たせば二年生の夏休み明けに転校が可能だという知らせだった。 藍里はそれを聞いて、すぐに机に向かった。眠そうな目をこすりながらも、毎日必死に勉強した。 その努力が実を結び、無事に合格の通知を受け取ったとき、私は胸をなで下ろしながらも、娘の成長に目頭が熱くなった。 私自身も必死に働いた。神奈川の支店に戻ると、やはり愛知の方が活気に満ちていると感じたが、同時に長年の「マイホーム」に戻ってきた安堵もあった。慣れた土地、見慣れた景色。だが愛知の支部長の言葉通り、人事改革や設備改装は全店舗規模で動き始め、私もその渦中にいる。 忙しい合間にも、時雨くんとのメールや電話が支えになった。 「おつかれさま」「無理しないで」——その短いやりとりだけで心がほどけていく。 仕事の上では私は、誰かの性対象であり、恋人役であり、話し相手である。擬似的な愛を提供するのも役割のひとつであり、それを割り切らなければ成り立たない世界だ。 でも、時雨くんは違った。優しくて、素直で、まっすぐで……そんな彼の存在があるからこそ、辛い仕事も乗り越えられるようになった。 やがて夏休み。娘の新しい門出と同時に、私たちは愛知に引っ越した。 そして今日、仕事帰りに、久しぶりに時雨くんと再会する。 ……いろんな男を相手にした後で彼に会うのは、正直、気が引ける。彼は私の仕事を知らない。でも、きっと彼なら受け入れてくれる。そう信じたい。 待ち合わせは、最後に別れたあの駅だ。 外は雨。 頭の奥がずきずきする。けれど、不思議といつものように憂鬱ではなかった。むしろ胸が高鳴っていた。 「さくらさんー!」 ホームに響いた声。 電話越しではない、生の声。心が震える。 彼は傘を片手に、笑顔でこちらへ駆け寄ってきた。 私は傘を閉じて駆け出す。濡れてもいい。ただ彼の傘の下に飛び込み、強く抱きしめた。 人目もはばからずに。 時雨くんもまた、ためらわず私を抱きしめ返してくれた。 傘を叩く雨音。滴り落ちる雫。服に沁み込む冷たさ。 それでも、彼の体温に包まれていると不思議と平気だった。 ——雨も、悪くない。 少し、雨が好きになった。 終
Last Updated: 2025-09-28
Chapter: 番外編 第二十二話
 そして駅まで送ってくれた。「なんかさ、あったばかりで……僕の一目惚れで……なんていうかその……」「うん……」「でも今回限りにはしたくない」 彼の真剣な眼差しに射抜かれる。冗談でも軽い気持ちでもない、真っ直ぐな想いがそこにあった。私も胸が熱くなって、ただ黙って頷いた。 互いに連絡先を交換する。「また落ち着いたら連絡する」「神奈川だっけ……家」「うん。でも仕事でこっちに来れる……ううん、来てみせるわ」「やった」「ふふふ」「可愛い、ふふふって」 思わず笑ってしまう。けれどその笑いすら彼は愛おしそうに見つめてくる。 あ、そうだ……伝えなきゃ。そう思った瞬間、彼は両手で私の手を包み込んだ。「雨もいいよね。また雨が降っても僕だけでなくて……おかみさんやスタッフさんや……一緒に来てくれた山上さん……ちょっとあの人はデリカシーないけどさ、心配してたから。みんなに優しくしてもらったことを思い出してほしいな」 私はただ頷く。事務長の名前まで覚えているなんて、やっぱりすごい人だ。さすが有名料亭の板前さんだと思った。「……本当はね、仕事で来たの。愛知に」「そうだったんだ……」 そう言って互いに見つめ合う。気づけば距離がなくなって、そっとキス。照れ笑いしながら、もう一度唇を重ねた。 けれど次に彼の舌が触れた瞬間、私は反射的に顔を離した。「ごめん」「……もうこれ以上しちゃうと、帰りたくなくなる」「そうだね……」 彼は笑ってごまかすように、トランクから荷物を出してくれる。「はい、どうぞ」 私はキャリーケースを受け取って、ようやく切り出した。「私さ……離婚したけど、子供いるのよ」「ああ、なんか話してたね。まだ小さくて、預けてもらってるとか?」「……ううん、高校生。女子高校生」「えっ」 彼の目がまん丸になる。その驚き方があまりにも素直で、私は思わず苦笑いした。やっぱり若いよなぁ……。「すごいなぁ、さくらさん……ますます応援したくなる」「ありがとう。私もあなたの仕事、応援してる」 電車のホームへ向かう私を、彼は最後まで手を振って見送ってくれた。笑顔のまま、何度も、何度も。 振り返るたびにその姿が小さくなっていくのが切なくて、胸にぽっかり穴が空いたみたいに感じた。 持っている傘はまだ雨で濡れているけれど、そのうち乾くだろう。 改
Last Updated: 2025-09-27
Chapter: 番外編 第二十一話
 ピンポーン。 ドアのチャイムが鳴った。「やべっ、先輩かも」「流石に二時間もダメでしょ……早く行かなきゃ。私も小雨になったし、行くわ」 そう言いながらも、時雨くんはまだ腕を解こうとしなかった。胸に回された腕は、私を逃がす気などないかのように力強い。 だめだよ、行かなきゃ。分かっているのに、体は彼に預けたまま動けなかった。「も少し、このまま。……ほら、雨の音、聞いて」 確かにさっきより小雨になってきた。けれどまだ窓を叩く細かい水の音は絶えず、しとしとと規則的に響いている。「どう? 雨の音、いいでしょ。僕は昔から雨音が好きなんだ。名前に“雨”がつくのもあるけどさ……」「……私は、嫌いだった」「でも今はどう? 耳澄ますと、けっこう落ち着く音だと思わない?」 彼の言葉に合わせるように意識して耳を澄ますと、不思議と胸のざわつきが少しずつ鎮まっていく。嫌いだと思い込んでいたはずの音が、こんなふうに柔らかく響くなんて――。 ピンポーン。 再びチャイムが鳴る。「おい、廿原! なにやってんだ!」 ドンドンと荒い音。重たい扉越しでも、低く響く怒鳴り声に体がびくりと震えた。喉がきゅっと詰まって、声が出ない。 時雨くんは私をぎゅっと抱きしめ直して、それから少しだけ離れた。「待ってて。話してくるから」 短くそう告げると、ためらいなく玄関へ向かっていく。その背中を呼び止めたかったのに、足は一歩も動かず、唇も開かなかった。 ……私がいけないのよ。引き止めてしまって、部屋にまで上げてしまって。 耳を澄ませる。「すいません、先輩。頭痛くって」「勝手に休むなよ。連絡しろ……て、そのヒール」 あっ、私の……。「ははん、女連れ込んでるのか。スーツケースあるってことは……お取込み中か?」 しまった……!「そ、そうです」 ――時雨くん……! 胸がぎゅっと締めつけられる。「はぁ、それはそれは。一時間後には戻ってこいよな。仮病じゃなさそうだから」「はい……すいません」 やがてドアが閉まる音。私は慌てて玄関へ駆け寄った。「ごめん、時雨くん」「さくらさん、謝ることないよ。……さ、今から駅まで送っていくから」 寮を出る頃には雨はすっかり上がっていた。雲の切れ間から差す光が濡れたアスファルトに反射して、街全体がきらめいている。ふと見上げると、薄く虹が架か
Last Updated: 2025-09-26
Chapter: 番外編 第二十話
 私はベッドを離れてシャワーを浴びた。 熱いお湯が肌に当たるたび、少しだけ体の力が抜ける。外の雨はシャワーの水音に負けないほど激しく降り続けている。どうして雨が降るの。もう、ほんとうに嫌だ──胸の中で何度も繰り返す。 タオルで髪を拭きながら、ふとカーテン越しに彼の声がした。「ねぇ、さくらさん」 思わずハッとして、私は肩越しに声のする方へ振り向いた。カーテン一枚の向こうにいるだけなのに、その距離が妙に近く感じられる。彼の声は静かで、でも確かに私を見つめているのがわかった。「なんで雨が嫌いなの……」 その一言を聞いた瞬間、胸の奥にあった小さな針がぎゅっと押されるようだった。言いたくないことを引き出されるような、そんな不安。 雨が嫌いな理由は、綾人のことが絡んでいる。どこからどう話し始めればいいのかわからない。順序立てて話すには、積み上げられた年月をひとつずつひも解かなくてはならない。簡単に説明できるものではなかった。 シャワーを終えてタオルを肩に掛け、私は息をついて答えた。「……ごめん、あんまり言いたくないよね。会ったばかりだし、聞くのは失礼だったよね」 それを聞くと、彼は一呼吸置いて、柔らかく言った。「そ、それはないよ。話したいなら聞くよ」 言葉はありがたかった。けれど「話す」ということは、私にとっては重い作業だった。綾人と結婚してから始まった日々、子どものこと、逃げ出した頃、役所や相談機関、弁護士や警察にまで話したこと──それらすべてをまた一から語るのかと思うと、喉が詰まった。 何度も語ってきたはずなのに、語らなければ理解してもらえない不自由さがある。 私はシャワーから出て、バスタオルで頭を拭きながらゆっくりと話し始めた。「雨の日はね、夫を迎えに行かなきゃいけなかったの」 彼の目が驚きで大きく見開かれるのが見えた。反射的に彼は声を上げる。「……夫?!」 しまった。言葉が足りなかった。「ち、違うの。もう離婚してるから、“元夫”のこと」 彼は一瞬戸惑った顔をし、そのあとで苦笑するように息を吐いた。「あ、そうか……びっくりした。人妻とやっちゃったのかと」 そのトンチンカンな反応に、私は思わず眉を寄せてしまう。彼の慌てた言い方には救われる部分もあった。テンパって言葉が絡まる様子が、変に安心をもたらす。 私はあの日々の「ルール」
Last Updated: 2025-09-25
Chapter: 番外編 第十九話
 私は電車を遅らせることにした。 スマートフォンの時刻表アプリを閉じ、画面を伏せてベッドの脇に置く。帰ろうと思えばすぐにでも帰れる。けれど、帰りたくない。もう少し、ここで彼の声を聞いていたい。「……料亭はいいの?」「さくらさんこそ……もう帰りなんでしょ」 荒々しく、けれど優しさを含んでつづはらさん――時雨さんに抱かれてから、もう二時間が経つ。料亭のすぐ横にある住み込みの寮。彼の小さな部屋。再会して、預かってもらっていた服を受け取り、返して、最後にちょっとしたおみやげを買って帰るはずだった。ほんの数分のつもりだったのに、気づけば彼の部屋に誘われ、軽い冗談のように始まったキスが止まらなくなって、そして今の私たちがいる。「もう帰るなんて嫌だよ……もっとさくらさんを知りたい」 その言葉に胸がちくりとする。こんなふうになるなら、もっと早く会っていればよかったのかな、と一瞬思う。でも、それは現実にはなかったこと。遠回りして、傷ついて、ようやく今ここにいる。 窓を打つ雨音がまた強くなった。重くのしかかるような低い音。私は無意識に眉を寄せる。やっぱり雨は苦手だ。心までじわじわと湿らせてくる。「雨、嫌いなんだよね?」「……うん」 口に出すと、気持ちがじわっと溢れそうになる。だから話題を変えるように、少し笑いながら尋ねてみた。「そういえば“しぐれ”って、時の雨で“時雨”でいいのよね?」「うん、そうだよ。変わってるでしょ」 彼は照れくさそうに笑った。「弟の名前にも“雨”がついてるんだ」 そうなんだ。名前に“雨”がつくなんて珍しい。雨が嫌いな私からしたらちょっと不思議だ。でも、彼の口から語られると、なんだかそれも特別なもののように思えてしまう。「じゃあ、時雨……くんは雨は好き?」「うーん……」 困った顔をしている。質問が重たかっただろうかと不安になる。「……まぁ、時と場合によるよね。頭は痛くなる時と、そうでもない時があるし」「私は嫌よ。嫌い」「すこぶる嫌いそうだな、恨みつらみありそう」 彼の軽口に少し救われる。けれど私は静かに言葉を落とした。「そうね……嫌なこと思い出すから」 時雨くんに抱かれているのに、前の夫のことがふと頭をよぎる。優しかったはずが一変した綾人。あの恐怖が、雨の日と一緒に蘇る。そんなの嫌だ。だから、私はぎゅっと彼を抱きしめた
Last Updated: 2025-09-24
Chapter: 番外編 第十八話
 休ませてもらった後、がっつり仕事をした。 生活のため、娘のため。ほとんど毎日のように出勤した。週に一度は必ず休まなければならなかったけど、その休みさえも「休んだ気がしない」。 頭の中は常に、次の仕事と生活のことばかりだった。 でも、今回の件で知った。休むことは、やっぱり大事なんだと。 この五年間、私はがむしゃらに走り続けてきた。無理をして、それでも前に進むしかなかった。だけど――無理をしていた自分に、ようやく気づけた。 新天地での仕事は緊張したけれど、いつも通りのパフォーマンスを心がけた。数日分の遅れを取り戻すつもりで。正直、体はしんどかった。 だけど、終えた後のあの高揚感――あぁ、気持ちいい。 性を解放する場でもあるのよね、この仕事は。「すごいです、さくらさん。チップも多くて……。でも、今から休憩して夜からの稼げる時間まで回復してくださいね」「ありがとう……」 今日の調子が良かったのは――廿原さんのことを考えていたから。普段は俳優やアイドルをイメージして気持ちを上げていたけど、今日は彼。思い出すだけで体が熱くなって、自然と笑顔になれた。 あぁ、やっぱり私はちょろい。 昔からそうだった。少し優しくされたり、親切にされると……すぐに惹かれてしまう。綾人の時も、そうだった。あの優しさを信じてしまったから。 彼とはあれから会っていない。もちろん連絡先も知らない。神奈川の事務長は勝手に戻っていたし……。 ――そうだ、服を取りに行かなくちゃ。 ほんの少し親切にされただけで、ここまで気持ちをかき乱される自分が情けない。私は両手で頬を挟み、パシッと軽く叩いた。「まずは休む、休む!」 言葉にしないと、また無理をしてしまう。そう、自分に言い聞かせるように。 そして、最終日。「本当にお疲れ様でした。無理をなさらず……またここに戻ってきてくださることを期待しています」 社交辞令かもしれない。鵜呑みにしてはいけない。この業界では、と心のどこかで思いながらも……頑張った自分を労ってもらえるのはやっぱり嬉しい。 ――そう、労いの言葉。それが綾人にはなかった。「こちらこそありがとうございました。サポートがあって、ここまで頑張れました」「……早く娘さんの高校、決まるといいですね」 ……あぁ、忘れていた。まだ高校からの連絡は来ていない。胸が重くなる
Last Updated: 2025-09-23
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