Chapter: 第75話 あれから煌は、順調に回復を見せた。桜が懇親的に看病したのも一因だと、私は思ってる。 「兄さんが退院したら、一緒に国に戻ろうと思うの」 「え!?」 病院の屋上に呼び出され、唐突に聞かされた衝撃の内容。 「因みに、これは兄さんの意思でもある。これ以上、貴女の側にいるのは自分にとっても良くないって」 「そんな……」 寂しい気持ちが強いが、私に引き止める術はない。仕事の方も、煌が受け持っていたものは私に引き継がれているので問題はない。 「別に今生の別れじゃないんだから、そんな顔しないの」 ちょっと前の私なら引き止めていたかもしれない。けと、今は笑顔で送り出せる。 「みんな新たな一歩を踏み出すのに丁度いい機会なのよ。新たな門出を祝いましょう?」 そう言う桜に「そうね」と笑顔で応えた。 新しい門出か…… 奏と一緒になる事を決めた柚は、奏のいるマンションへと引っ越す準備をしていた。 結花にも奏の事をすべて話して聞かせた。案の定、驚きもせず、すんなりと受け入れた。 初めて「パパ」と呼ばれた奏は、感動のあまり涙を流して喜んだ。その姿を結花と二人で笑い合ったのも、いい思い出。 思い出といえば、前に奏が言っていた『思い出作り』 約束を果たすために忙しい中、時間を見つけては三人でよく出掛けている。止まっていた家族の時間がようやく動き出した気がした…… 桜が屋上を出ようとした時、こちらを振り返った。 「兄に人を愛するとは奪うことではなく、手放すことだと教えてくれてありがとう」 それだけ言うと、屋上を後にして行った。 *** 一年後──……
Last Updated: 2025-12-29
Chapter: 第74話「桜!」 奏を連れて慌てて病院へと駆けつけた。 「煌は!?」 「落ち着いて。大丈夫よ。ほら」 桜の視線の先には、目を開けてこちらに顔を向けている煌の姿があった。 「~~~~~~ッ!!」 ICUの窓に手を当てて、泣きじゃくる顔を見せると「ふっ」と目が笑った気がした。 「彼の生命力には感服だね。目を覚ますとは思ったけど、こうも早いのは驚異的だよ」 「うちの兄を舐めてもらっちゃ困るわね。地獄に落ちても這い上がるような人よ」 ふんっと鼻を鳴らしながら得意げに言っている桜も、目が真っ赤になっていて泣いていたのがバレバレ。 「良かった……!本当に、良かった……!」 嗚咽混じりの声が廊下に響く。 桜と奏は微笑みながら、柚を抱きしめた。 *** 煌の回復力は医者である奏が驚くほどだった。 ICUに入っていたのは三日ほどで、すぐに一般病棟へと移された。 ようやく顔を合わせて会話が出来るようになり、ドキドキしながら病室の扉を叩いた。 「はい」 「煌、大丈夫?」 「あぁ、だいぶ良い」 ベッドの隣の椅子に腰掛け、見舞いの品を手渡した。 何から話していいか分からず、シーン……と静まり返り、重苦しい空気が漂う。 「……お前が無事で本当に良かった」 最初に口を開いたのは煌だった。 「お前が轢かれそうになった時、無我夢中で正直、自分でも覚えてない。ごめんな、腕痛かったろ」 「謝らなきゃ言わなきゃいけないのはこっちよ!」 自分の方が大怪我してるのに、こんな時でも柚の心配をする煌に柚が声を上げた。 「煌がいたから私は怪我ひとつしてない。本当にありがとう。……それと、ごめんなさい……」 「……それは、この怪我に対してか?それとも──?」 「両方」 もう泣かないと決め、真っ直ぐに煌の目を見ながら伝えた。煌も真剣な表情で見つめてくるが「ふはっ」と急に吹き出した。 「両方か。……まあ、分かってたけどな。俺じゃお前は幸せに出来ないって」 「……」 「そんな顔するな。キスしたくなる」 「──なっ!」 慌てて口を手で覆うと、更に笑われる。 「冗談だ」 「もう!そんな事言うならもう帰るから!」 頬をふくらませながら立ち上がり、扉に手をかけた時「柚」と声をかけられた。 「幸せになれ」 「……ありがとう」
Last Updated: 2025-12-29
Chapter: 第73話 柚は桜を見送った後、奏へ電話をかけた。 「少しだけ話したい」 すると、奏は近くの公園まで来てくれると言った。疲れているから電話越しでいいと言ったが、会いたいと言って夜遅いのに近くまで来てくれた。 「急にごめんなさい」 「いいよ。……今日はもう連絡ないと思ってたから嬉しい」 変らない笑顔を向けられ、顔が熱くなる。 「さっきね、桜に言われたの。一緒にいて気持ちが揺らぐらなら二人共切り捨てろって……」 「……」 顔を俯かせ、先ほどの桜との会話の内容を話して聞かせた。奏は黙ってその言葉に耳を傾けている。 「煌をこのまま忘れろって言われたけど、それは無理だと思うの。彼は、私の恩人で大切な|家《・》|族《・》だから。沢山振り回してごめんなさい。でも、もう迷わない……」 ぎゅっと手を握り、奏に向き合うように顔を上げた。 「貴方が……奏君が好きです」 そう口にすると、大きな腕に包まれた。 「もう絶対に離さないから……!」 震える声でやっと言葉にしたって感じに苦しい程に抱きしめられているが、離してとは言わない。その代わりに奏の背中に手を回し、抱きしめ返した。 奏は今にも泣いてしまいそうな顔を隠すように柚の肩に顔を埋めた。けど、すぐに顔を上げ、柚を見つめた。 真剣な表情にドキッとしたが、自然と顔が近づいていく。 ――温かく優しいキス。 今までの時間を埋めるように、長く熱いキスが交わされる。 「ちょ、奏君……」 「ん?」 「こ、ここ、外……」 「見せつけてやろよ」 「バカ!!」 執拗に口を離さない奏を柚が無理やり引き離した。不満そうに顔を歪める奏を見て思わず「クスッ」と笑みがこぼれた。 「なんか高校に戻ったみたいね」 「制服でも着てみる?」 「結花に驚かれるわよ」 奏に持たれながら、他愛のない話を交わす。このなんでもないような時間が一番落ち着く。 「これから、三人で沢山思い出を作って行こう?今まで作れなかった分、色んなとこ行って泣いて笑って死ぬほど楽しもう」 「そうね。次結花に会う時は先生じゃなくてパパですものね」 「そ、そうなんだよ。結花ちゃん、受け入れてくれるかな……」 「大丈夫よ」 結花は多分、この人が父親だってなんとなく察している。血が繋がった子供ですもの。 そんな事を言い合ってい
Last Updated: 2025-12-26
Chapter: 第72話 桜に連れられて病院へ。 煌は手術を終え、ICUへと運ばれていた。沢山の管に繋がれた煌を見て、再び涙が込み上げてくる。 「なんとか命は取り留めたよ。処置が早かったことと、打ち所が良かった」 「奏君……」 背後から肩を抱かれ、一緒にベッドに眠る煌に目を向ける。 「後は彼次第ってとこかな」 「大丈夫よ。絶対に目を覚ます」 奏の言葉に桜がすぐに応えた。瞳に力強い光を灯し、誰よりも兄を想い信じている顔だ。そうは言っても、心配もしているので「バカ兄貴」なんて悪態付いていなければ、正気じゃいられないんだろう。 「とりあえず、私は着替えとか持ちに戻るから柚も一度戻りましょう。結花も一人にしてきちゃったし」 「そうね……」 本当は残りたいが、結花の事を考えるとそうも言ってられない。 「僕が付き添ってるから安心して行ってきな」 「貴方も帰るのよ。一度帰ってその服着替えなさいよ」 桜に睨まれた奏の姿は、全身血まみれで普通に歩いているだけで通報されるレベル。今まで自分の姿まで確認する余裕がなかった奏は、ようやく自分の姿を確認して仰天していた。 *** 「柚」 病院を出て桜と二人、黙ってマンションまで帰宅していると、桜が声をかけて来た。 「なに?」 「責任とか償いとか、そんな気持ち要らないからね」 「……え?」 「貴女の事だから『私のせいで』とか『私が彼を選ばなかったせいで』とか考えてるんじゃないの?」 「……」 図星過ぎて何も言えない。 「それ、本当要らない。むしろ、その感情が兄さんを侮辱してるから」 「そ、そんなこと――」 「言い切れる?」 「……」 鋭い眼光で睨まれ、言葉を飲み込んだ。 「柚の気持ちはもう固まってるんでしょ?」 「……うん」 「なら、このまま兄さんの事を忘れるのも手だと思う。中途半端に側にいて、気持ちが揺れるぐらいなら二人共切り捨てなさい。振り回される二人の気持ちも考えなさいよ」 キツイ言い方で責め立ててくる。まったくその通りで、言い返す言葉がない。 振り回してるつもりはないが結果的に振り回してしまった。傍から見れば苛立っても仕方ない。それだけの事をしてきた。 こんな状況だけど、もう迷わない。 「ごめん。それとありがとう」 「礼を言われる事なんて一つもなかったけど?」 「
Last Updated: 2025-12-26
Chapter: 第71話 柚の目の前には、頭から血を流し意識のない煌が倒れていた。 「煌ッ!!!!!!」 キキーーッ!というブレーキ音は覚えてる。その音に混じって煌が名前を呼んだのも…… 「うそ……駄目よ……目を覚まして……!」 その場はすぐに騒然となり、悲鳴や救急車を呼ぶ声が飛び交う。あっという間に人だかりとなり、人の間を縫って奏がやって来た。 「柚!」 「奏君、煌が……!」 「頭を打っている!動かしては駄目だ!」 涙で顔を濡らし、医者である奏に助けを求めると、すぐに応急処置に移った。 握っている手が震える。このまま煌がいなくなってしまったら……私のせいで…… 「柚」 奏が呼ぶ声がして、顔を上げた。 「大丈夫だから、絶対に助ける。だから、自分を責めるな」 額に汗を浮かべ、全身血だらけになって必死に煌を助けようとしてくれているのに、私にも気遣う言葉を掛けて…… 救急車の音が近付いてくるのが分かる。 「僕がこのまま付き添うから」 「わ、私も──!」 私のせいで事故にあったんだ。私が一緒に付いて行かなきゃと、名乗りをあげた。 「柚!兄さん!」 背後から桜の声が聞こえた。 「僕が連絡したんだ。君を一人に出来ないから」 桜は血まみれで意識のない煌を見ると言葉を失い、その場に茫然と立ち竦んでいた。 「お願い!私も連れて行って!」 「今の君は冷静じゃない。一緒に付いてきても邪魔なだけだ」 はっきりと言われ『邪魔』と言うフレーズが心臓を締め付けてくる。 医者の顔で言われてしまえば、柚は従うしかない。 「キツい言い方してごめん。絶対に助けるから、僕を信じていて」 その言葉を残し、病院へと向かっていった。 「柚……」 ポンと肩に手を置かれ、振り返ると今にも泣きそうな桜と目が合った。 「……桜……ごめ、ごめん……!私の、せい……!ごめんなさい……!」 とめどなく溢れる涙をこぼしながら頭を下げて謝罪した。殴られても仕方ない。そう思っていた。 「何言ってんの。柚のせいじゃないよ」 頭を撫でながら優しい言葉を掛けてくる。 「聞いたよ。柚を助けたんでしょ?兄さんは柚が事故らなくて良かったって思ってるよ。きっと」 「え?」 「それに、あのバカ兄貴が柚を残して簡単に死ぬ訳ないじゃん」 桜だって心配で仕方ないはずな
Last Updated: 2025-12-25
Chapter: 第70話(散々な一日だった……) 柚は疲れた表情をしながらデスクに肘を付け頭を抱えていた。私と煌の話は会社全体に広まり、もはや収拾がつかない。少しでも煌を邪険に扱えば痴話喧嘩だと周りから茶々を入れられ、よそよそしくしていれば照れていると勘違いされる。(最悪だ)「何してんだ?帰るぞ」 「……誰のせいだと思ってんの?」 当然のように一緒に帰ろうと肩を叩いてくる煌が腹立たしい。疲れた顔で睨みつけるが全く堪える気配がない。「一日中俺の事俺の事考えてたのか?それは喜ばしいな」 「本当、勘弁して」 「使える者は何でも使う。お前が逃げられないようにな」 「……」 周りに聞かれないように、こそっと私にだけ耳打ちしてくる。その表情は愉しげでもあり、捕食者のように鋭い光を瞳に灯していた。「ほら、いつまでそうしてるつもりだ?」 「一人で帰るから大丈夫」 「お前、本当に分かってないな。俺らの関係は周知されてんだ。一緒に帰るのは当然だろう?」 「今日は一人がいいの!」 煌を無視して会社を出ようとするが、当然後ろを追ってくる。こういう時、一緒に住んでいるのが疎ましく思える。「おい!待てよ!」 「しつこいわよ!」 エレベーターを降りても言い合いは続いている。このままではマンションまで言い合いを続けることになる。何か、彼から逃げるきっかけはないか……そう考えながら会社を出ると、道を挟んだ反対側に奏の姿を見つけた。「奏くん――!」 そう名を呼び、駆けだそうとしたが、パシッと腕を掴まれた。「お前、何処に行こうとしてんだ?」 その表情はゾッとするほど恐ろしいものだった。こんな|表情《かお》見たこない柚は、体が恐縮してしまい足が動かない。顔面蒼白になり、恐怖で心臓が痛い程脈打っている。(逃げれない……) そう諦めかけた時
Last Updated: 2025-12-25
Chapter: 22 ようやく落ち着きを取り戻した、ヴァレンティン邸。静かな夜…月明かりが屋敷を照らしている。その屋根の上に一人の男の姿があった。 「あ~ぁ、今回、俺も結構頑張ったと思うんだけどなぁ」 ボヤきながらその場に寝転び、月を眺めるのはクライヴの影であるセウ。 シャオにいい所を取られた形になったが、この人も今回の功労者。その事を知るのはクライヴと国王であるエミディオだけ。影の存在なので仕方ないと言われればそれまでなのだが… 「影も辛いなぁ」 誰にも知られず、仕事をこなす。自分の選んだ道とは言え、流石に堪える。 「セウ様、セウ様」 感傷に浸っていると、下から自分を呼ぶ声が聞こえた。顔を覗かせて見ると、この屋敷の侍女が呼んでいた。 「なんだい?」 「少しお時間よろしいでしょうか?」 誘われるままに後を着いて行くと、食堂に通された。 扉を開けると、沢山の料理を囲うように屋敷中の使用人が集まっている。 「な、は?」 「旦那様からの言付けです。セウ様を労ってやってくれと」 戸惑うセウに執事長が声をかけた。 「旦那様は少々野暮用で立ち会えませんが、我々が精一杯労わせて頂きますゆえ、お許し頂きたい」 執事長が頭を下げると、セウは「ははっ」と顔を手で覆いながら笑った。 「参ったねこれは…本当に我が主は抜かりがない」 使用人達は優しく微笑みながら、セウを取り囲んだ。 *** 「お、お兄様!?」 「何です?」 クライヴの部屋に連れ込まれ、壁に背中を押しけた状態でクライヴが覆いかぶさる。 甘い香りが鼻に匂ってくる
Last Updated: 2025-08-30
Chapter: 21 ミランダはリッツ家の負債を補う為、あろう事か実の兄であるヴァレンティン伯爵の殺害を企てていた。 隣町まで行くことを薦めたのも、プレゼントを薦めたのもミランダ。 隣町に行くには切り立った崖を通らなければならない。事故に見せかけて殺害するには持ってこいの場所。あの日、雨が降っていたのは想定外だったが、ミランダからすればこれ以上ない絶好の天候だった。 闇市で購入した魔石を地面に埋め込めば、簡単に地面が崩れ土砂崩れとなった。 後は、二人の兄妹を上手く排除出来ればヴァレンティン邸は自分のモノに出来ると思い込んでいた。 シャルロットにシャオを薦めたのも、シャオから融資を募るため。二人が上手く行けば、シャルロットを操っていずれヴァーチュ商会も手に入れようと考えていたと… 全貌が明らかになり、シャルロットは言葉を失い、ただただ茫然とするばかり。 その後、ミランダはヴァレンティン伯爵夫妻の殺人を企てた容疑で拘束された。 夫であるリッツ伯爵は最後まで「俺は知らなかったんだ!」と、全て妻であるミランダの責任を押し付けようとしていた。 *** 波乱の夜会が終わり、数日が経った。 一連の経緯を知ったシャルロットは、あまりのショックに熱を出して寝込んでしまった。 愛していた叔母が、愛する両親の殺害を企てていたなんて知れば当然のこと。だからこそ、クライヴは出来るだけ穏便に済ませたかったのだが、そうはいかなかった。 そうして、シャルロットの体調も戻りつつある本日、リリアン王女が国へと戻るらしい。何故か、見送りの場にクライヴと共に呼ばれて仕方なく赴いた。 「此度は大変お騒がせ致しましたわ」 随分と汐らしい態度に、クライヴは驚きを隠せない。 「ふふふっ。正直、このまま帰るのを
Last Updated: 2025-08-29
Chapter: 20 リリアンに責められ、顔面蒼白で蹲るミランダ。 そんな妻の様子を見たリッツ伯爵は、ゆっくりと後退りし、この場を逃れようとしたが、後ろに控えていた騎士に両腕を拘束され、項垂れるように肩を落としている。 この異様な雰囲気に、シャルロットは呆然としたままミランダを見つめていた。 「リッツ夫人」 次に口を開いたのはクライヴだった。 「貴女は叔母としてシャルロットを愛してましたか?」 クライヴの言葉に、ミランダもシャルロットも目を見開いた。 「な、何を言うの!?そんなの当たり前じゃない!」 「そうですか?私にはそうは見えませんでしたね」 「は!?」 クライヴに食ってかかるようにミランダが声を上げる。 「血の繋がらない紛い物が知ったような口を聞くんじゃないわよ!幼い頃からシャルロットの面倒を見てきたのよ!私にとっては娘同然なの!」 「その娘を自分の私利私欲の為に、道具にしようとしたのはどなたです?」 声を荒らげるミランダに対し、クライヴは冷静沈着に問いかけた。 「な、何を言っているの…?」 声を震わせ、動揺しているのが見て取れる。 「調べはついているんですよ」 ミランダの目の前にドサッと置かれた書類の束に目をやると、大量の借用書やリッツ家の財産目録。見る限り、リッツ伯爵家が随分困窮しているのが分かった。 そして、その中にはシャルロット達の屋敷であるヴァレンティン伯爵邸の相続登記まである。 「叔母様…これは…」 これではまるで、ヴァレンティン邸を叔母であるミランダが管理すると言っているようなもの。 証拠を突きつけられたミランダは、悔しそうにギリッと歯を食いしばりクライヴを睨
Last Updated: 2025-08-28
Chapter: 19 扉を開けた先には、煌びやかな装いをした貴族達がおだやかな雰囲気の中、ガヤガヤと賑わいを見せていた。 「あらぁ?シャルロットちゃんじゃないの」 真っ先に声をかけてきたのは、叔母であるミランダだった。その隣には、いかにも紳士という風貌の男性、ミランダの夫であるリッツ伯爵だ。 「御機嫌よう。叔母様、叔父様」 軽く会釈して挨拶を交わした。 「驚いたわぁ。あの男がエスコートを貴方に譲るなんて」 「ははっ、まあ、お願いされちゃったらね?」 チラッとこちらに目配せしてくる。そんな意味あり気にすれば、どんな馬鹿でも察しがつく。 現に、ミランダは「あらぁ?」なんて顔をニヤつかせている。 「やっぱり、噂は本当だったみたいね」 「噂?」 「あら、シャルロットちゃんは知らない?リリアン王女とあの男の婚約の話」 「え?」 一瞬、心臓が止まったかと思った。 「陛下直々の縁談だったようで、断りきれなかったのねぇ。今日はその報告も兼ねているって話しよ?」 ミランダが続けて話してくれるが、耳に入って来ない。 「リリアン王女には兄弟がいない。あの男は必然的に婿として彼女の国へ嫁ぐことになる。貴女もそこの彼と一緒になれば、あちこちの国を回る事になる。そうなると、ヴァレンティンの屋敷は人がいなくなってしまうわねぇ?」 「そうだ、私達が――」そう、切り出したところでワッと歓声が上がった。 「ああ、団長様のご登場みたいだね」 シャオの言葉で顔を上げると、クライヴとリリアンの姿が見えた。 クライヴの腕にリリアンが身体を密着させて手を絡ませている。二人で目を合わせて楽しそうにしている。 (ああ……そう言う事……) 自分以外にそういう表情を見せているという事は、そう言う事なんだろう。 頭の何処かでは疑っていたが、こうして目にしてしまうと現実を見せつけられているようで、悲しさよりも腹が立って仕方がない。 正直、涙の一つでも流れると思っていたが、殴りたい衝動を必死に抑えているのが現実。 「大丈夫?」 「何が?」 前を見据えて微動だにしなくなったシャルロットを心配したシャオが耳打ちしたが、間髪入れずに睨みつけられた。思わずシャオも苦笑いを浮かべていた。 「皆の者に報せがある」 国王であるエミディオが、クライヴとリリアンの隣で声を上げる
Last Updated: 2025-08-25
Chapter: 18 ある日、シャオが訪ねてきた。 「おや、随分雰囲気が変わったね。団長様と何かあった?」 顔を見るなり唐突に言われて、言葉に詰まった。 正直、この関係を何と説明していいのか解らない。兄妹だが、兄妹よりも深い仲。付き合っているのかと聞かれれば、それはノー。 シスコンだのブラコンだのと言われたら否定できない部分はある。 「ははっ、一歩前進と言った所かな。まあ、まだそんな感じなら僕の隙いる間もあるって訳だ」 「まだそんな事言ってるの?」 「僕は諦めが悪いんだよ。欲しいものは何としてでも欲しい性分なんだよね」 面倒臭い者に目を付けられた… そんな事を思いながら、用意されたお茶に手を伸ばした。 「そんな君に朗報。今度、舞踏会が開かれるのは知ってるね?」 「?ええ」 それは三日後に行われる城での催し物。リリアン王女が滞在中に是非にと、早急に日程を決めたらしい。 私達兄妹も招待されているのだから、知らないはずが無い。 「団長様は例のお姫様と参加するらしいよ?」 「は?」 足を組み、優雅にお茶を啜るシャオの言葉が上手く聞き取れなかった。 「だから、君の兄上でもある団長殿は、リリアン王女のエスコートをするんだって」 もう一度聞き返して、ようやく頭が理解した。 鈍器で頭を殴られたような衝撃だったが、すぐに「ふ~ん」と、自分でも驚くほど冷静になれた。 今回の舞踏会の話は義兄であるクライヴから直接聞き、その場で私のエスコートは自分がすると自らが宣言していた。当然、私もそのつもりでいた。 (な・の・に・だ) この裏切り。 人間は、怒りが沸点を超えると冷静になるんだと、今知った。それと同時に、|クライヴ《あの人》に振り回される自分が馬鹿らしく思えてきた。 「私のエスコートは貴方にお願いするわ」 真剣な表情でシャオに向かって言った。 「ええ~?そんな急に?僕のエスコート待ってる子結構いるんだけどなぁ?」 困った風を装っているが、顔がほくそ笑んでいる時点で嘘だと言っている。 「そう。それなら、他を当たるわ」 「あ、ちょっと待って!空いてる空いてる!僕にエスコートさせて!」 私が縋るとでも思っていたのか、あっさりと切り捨てるとシャオが慌てて引き止めてきた。 「ふはっ!貴方、そんなに焦らなくても嘘だって分かっ
Last Updated: 2025-08-27
Chapter: 17「…ん…んん……!」 シーンと静まり返った部屋に、荒い吐息と水音が響いている。 ベッドの上でシャルロットを組み敷くクライヴの姿が影となって床に映る。 「お、お兄…ん…ッ!」 口を開けば唇で塞がれ、舌を絡め取られる。 どうしてこんな事になったのか…何故、この人はこんなにも嬉しそうなのか… 見せつけるかのように濡れた唇を舌で舐めとる姿は、妖艶で官能的。このままでは雰囲気に飲まれる…! 「ちょ、本当に待って…!」 必死に押し退けようとするが、両手を拘束され執拗にキスしてくる。唇、頬、首筋とこちらがいくら待てと言っても聞きゃしない。 「いい加減に………しろッ!!!!」 舐めまかしい雰囲気を払拭するゴンッ!という鈍い音と声。 我慢の限界を迎えたシャルロットが渾身の頭突きをかました。 この場合、仕掛けた本人も痛みを伴うが、貞操が守られるのならこの程度の痛み…! 「とりあえず、弁解があるようようなら聞きますが?」 痛む額を誤魔化すように、蹲るクライヴを仁王立ちで睨みつけた。ここまでして、ようやく正気に戻ったのか、か細い声で「すみません」と呟いたのが聞こえた。 「ロティが…」 「私が?」 「リリアン王女に嫉妬したと聞いて嬉しくて、つい…」 「は?」 赤らむ顔を手で覆いながら言われた。 嫉妬?誰が?誰に?この人は何を言っているの? シャルロットは困惑しながら、クライヴを見つめていた。 「──ですが、嬉しい反面、憎さもあります」 腕を引かれ、再び押し倒さ
Last Updated: 2025-08-23