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episode.32

作者: 甘寧
last update 公開日: 2026-04-27 13:00:00

優弥に背中を押され、仲佐さんと話す事とになったが……

(沈黙が重い……)

いざ面と向かってしまうと何を話していいのか、頭が真っ白になって言葉が出てこない。

空に浮かぶ雲を眺めて、気持ちを落ち着かせようと深呼吸を何度もするが、落ち着くどころか緊張感が増してくる。

「……ごめんね」

か細い声が重い空気を打ち破った。

「……え?」

何が?とは聞けず、空気が抜けた様な声しか出ない。

「不安にさせちゃったね……」

「!」

眉を下げて弱々しく微笑む仲佐に、紗千香は戸惑いを隠せない。その言葉の意味が分らないほど馬鹿じゃない。

「君にはしっかり話さなきゃいけないと思いつつ、何も聞いてこない君に甘えてしまっていた」

項垂れ、頭を抱えている。
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  • その声、独り占めしてもいいですか?   episode.32

    優弥に背中を押され、仲佐さんと話す事とになったが…… (沈黙が重い……) いざ面と向かってしまうと何を話していいのか、頭が真っ白になって言葉が出てこない。 空に浮かぶ雲を眺めて、気持ちを落ち着かせようと深呼吸を何度もするが、落ち着くどころか緊張感が増してくる。 「……ごめんね」 か細い声が重い空気を打ち破った。 「……え?」 何が?とは聞けず、空気が抜けた様な声しか出ない。 「不安にさせちゃったね……」 「!」 眉を下げて弱々しく微笑む仲佐に、紗千香は戸惑いを隠せない。その言葉の意味が分らないほど馬鹿じゃない。 「君にはしっかり話さなきゃいけないと思いつつ、何も聞いてこない君に甘えてしまっていた」 項垂れ、頭を抱えている。まるで、懺悔している様に…… 「……噂通り、香里とは男女の仲だった。お互い、いい歳だからね。結婚も視野に入れていたんだけど、ちょうど仕事が忙しくなり始めた頃でね。仕事と恋愛の両立が出来ずに別れてしまったんだ」 「……」 「香里も納得してくれた思っていた。……けど、今頃になって寄りを戻したいと言って来た」 ドキッと胸が跳ねる。答えを聞きたいけど、聞くのが怖い。 「大丈夫。聞いて?」 私の様子に気が付いて、手を握りしめながら真っ直ぐに目を見てくる。いつものように穏やかで優しい瞳。たったそれだけの事なのに、安心感を得られた。 「香里の事は愛していたし、別れたばかりの時は後悔もした。いつまでも考えていても仕方ないと、忘れるように仕事に打ち込んでいた。しばらくすれば、香里の事も忘れ仕事ばかりの日常に戻った」 昔を思い出しながら語る仲佐さんは何処か寂し気だけど、愛おしそうな表

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  • その声、独り占めしてもいいですか?   episode.30

    「この後、時間ある?一緒にランチなんてどうよ?」 そう、亜美に誘われるがまま、ファミレスへとやって来た。「ごめんね。子供がいると小洒落たカフェは入れなくて」「ううん。私もファミレスが気が楽だし」 子供をあやしながら、私の事まで気にしてくれる。母親は偉大だと言うが、本当だと実感する。「ほら、何食べる?イチゴあるよ」 メニューを開き、まだ読み書きのできない娘に指をさして何が食べたいか問う姿は、母そのもの。小さい頃から知っている人が、お母さんしている姿は、見ていて不思議な感じがする。 嫌な感じではなく、新鮮でほのぼのとする。「亜美も立派なお母さんね」「そうはいうけど、子育てってホント大変よ?言うことは聞いてくれないし、部屋は散らかってばっかり。この間も、買ったばっかりの服、汚されたんだから」 怒ったような口調で話すが、顔は全然そんな事ない。あまりにも態度と言葉がちぐはぐだもんだから、思わずクスッと吹き出した。「もぉ!紗千香も早く結婚しなさい!」「いや、私は……」「優弥がいるじゃない」 絶対出てくると思った……「あいつほど紗千香の事知ってる人いないでしょ。学生の頃からずっとアンタ一筋だし。浮気の心配はないでしょ?」「……」 今の私には、物凄く刺さる言葉。一途に想われているのは嬉しいが、その反面、ちゃんと向き合わないといけないというプレッシャーがある。「それとも、他に気になる人がいる感じ?」「!!」 黙って肩を震わすと、目ざとい亜美はニヤッと口角を吊り上げた。「──へぇ?それは知らないなぁ?何処のどいつだ?うちの紗千香の心を奪ったのは」 楽しげに詰め寄ってくる。こうなった亜美は執拗い。話すまで問い詰めて来るのが目に見えている。「……怒らないでよ……?」 そう前置きした上で、仲佐さんに対する気持ちや関係……香里さんの事に至るまでを話して聞かせた

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    優弥から貰った包みには、見せつけるように見せてきた同じネックレスが入っていた。 「アイツもこんなことするんだ」 ちょっと意外。お揃いのものなんて付けるような奴じゃない。それは裏を取れば、私となら一緒のもの付けてもいいという事になる。 「……独占欲丸出しじゃん……」 呆れながら、ネックレスを眺めた。 どこかで、優弥と一緒になった方がいいんじゃないかって思いもある。けど、その度に仲佐さんの顔が浮かんでくる。まるで私によそ見するなと言い聞かせているようで…… 「自分の方こそよそ見してるくせにさ……」 クッションを抱きしめながら呟いた。 それでも、忘れられないんだから私も大概だと思ってる。チラッとスマホに目を向ける。通知はなく、画面は真っ暗なまま。 向こうが連絡をくれないなら、こちらからすればいいだけの事。そう思ってはいるが、返事がなかったら?拒否されていたら?そう思うと怖くて、手が動かない。 「今何してるんだろう……」 香里さんと一緒?私の事なんて気にもしていないのかな…… (……) 考えれば考えるほどマイナスな考えしか思い浮かんでこない。 「このままじゃ駄目だ!」 勢いよく立ち上がりながら声を上げた。 「こんな部屋にいるから要らない事ばかり考えちゃうんだ。いい天気だし、散歩にでも行こうかな」 近所に池のある公園があることに気が付き、軽く羽織れるものを手に家を出た。 *** 公園に着くと、平日のお昼だと言うのに人が多くいることに驚いた。ほとんどは子連れだが、それにしても多い。 子供は無邪気でいいなぁ……

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    今日も紗千香ちゃんからの連絡はない…… 仲佐はメッセージの届いていないスマホを手に、溜息を吐いていた。 こちらから何度も連絡を入れようとした。だが、俺が何を言っても言い訳にしかならないから、今はそっとしておいた方がいいと香里から言われた。確かにその通りかもしれないと、連絡できずにいる。 「なぁに?しけた顔して」 「……誰のせいだと思ってる」 「あら、人のせいにしないでくれる?紗千香ちゃんから連絡ないのは、普段から疑われる行動をしていた貴方のせいじゃない?」 「……」 香里の言葉に何も言い返せない。疑われるような事をした覚えはないが、それは俺が思っているだけで、紗千香ちゃんがどう思っているかは分からない。 そもそもあの日は、香里がアポもなしでやって来た。全身は何故か泥に塗れていて、シャワーを貸してとせがまれ、仕方なく部屋にあげたに過ぎない。 紗千香ちゃんが帰ってくる前に追い出すつもりだったが、タイミングよく鉢合わせしてしまった。 状況的には最悪。誤解されてもしかないが…… 「はぁ……」 項垂れる仲佐の姿を香里はほくそ笑むように見つめ、スマホを手にした。その画面には『優弥』と表示されていた。 *** 紗千香と別れた優弥は、自分のスマホが鳴っていることに気が付いた。 「はい」 『あ、優弥君?私』 「ああ、香里さんですか?」 電話の相手は香里だった。 『そっちはどう?上手くいった?』 「まあ……そっちはどうなんです?」 『まあまあってところかしら』 飲み会で会った日、香里の口車に乗せられた感じで二人の仲を割く計画を立てた。

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    「お待たせ」 次の日、優弥は時間通りに家にやって来た。ラフな格好のように見えても清潔感はしっかりあって、女性ウケの良さそうな車に、助手席のドアを開けてエスコートしてくれる。 恋愛対象として見た事無かったから気づかなかったけど、これは…… (女子が黙ってないわ) これが俗に言うスパダリってやつなのかと、しみじみ感じた。 「なんだ?見惚れた?」 「馬鹿じゃないの?なんで私が優弥に見とれんのよ」 「えぇ?そんなこと言って、結構図星なんじゃないのか?」 ハンドルに手を掛けながら、揶揄う様な言葉を投げてくる。確かに、少しぐらいは見惚れたかもしれないが、悔しいから絶対に言ってやんない。 「どこに行くの?」 車がゆっくりと動き出すと、優弥に問いかけた。 「ああ、隣の市に大きなショッピングモールが出来たんだよ。俺もまだ行ったことないからさ。一緒にどうかと思って」 「へぇ、知らなかったな」 「そりゃそうだろ」 車の中は終始笑い声が絶えず、1時間ほどの距離もあっという間だった。 目的地に着いてからも、優弥は「疲れないか?」なんて、私の事を気遣っては声をかけてくれた。こういう気遣いも昔から変らない。 一緒に買い物をして回って気が付いたが、私と優弥の趣味は結構似ているらしい。 「ええ!?学生の時は気付かなかった!」 「そりゃお前、俺なんて眼中になかったんだろ?ひっどい奴だよな」 「そんな事……あった?」 「お前さぁ、そこは嘘でも否定するところだろ!」 「あはははは!ごめんごめん!」 怒った風を装い、手を振り上げる優弥から笑いながら逃げる。年甲斐もなくはしゃいでる自覚はある。それだけ楽しいって事なん

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  • その声、独り占めしてもいいですか?   episode.13

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  • その声、独り占めしてもいいですか?   episode.8

    仲佐さんと共同生活を始めて、一月ほど経った。 最初はどうなる事やらと思った共同生活だったが、慣れとは怖いもので、最初の頃に感じていた緊張感も不安も徐々に薄れ、今では仲佐さんと目を見て話せるようになった。 そのおかげもあり、アフレコも順調に進んでいる。 『樹ちゃん、キスして欲しい……』 『お強請りが上手くなったじゃねぇか』 『言わないとしてくれないじゃないですか!』 『俺は馬鹿だからな。ちゃんとどうして欲しいか言ってもらわねぇと分かんね

  • その声、独り占めしてもいいですか?   episode.22

     ガヤガヤと賑いながら酒を酌み交わしているのを目にしながら、何故私はここにいるのだろうと問わずにはいられなかった。 隣には不機嫌で仏頂面の優弥。反対側には不気味なほど笑顔の仲佐さん。更にその隣には香里さんまでいる。他にも数人知った顔はいるが、酒の席なのであまりこちらを気にしていない。「ごめんねぇ。ここはおじさんが驕るから、好きなもの頼んでよ」 小柴さんは罪悪感からか、優弥を気遣って声をかけてくれている。「いいですよ。紗千香の仕事知るきっかけにもなりますし。……まあ、遠慮なく驕ってもらいますけど」「あ

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