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倉橋
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Novel-novel oleh 倉橋

~スーパー・ラバット~ムーン・ラット・キッスはあなたに夢中

~スーパー・ラバット~ムーン・ラット・キッスはあなたに夢中

「地球を滅亡させる。その任務は月世界セレネイ王国に任せる」  銀河連邦の決定により月からの地球侵略が迫る。 「今こそ我らセレネイ王国が、新たな地球の住人になるのだ」  美しき独裁者、キラーリ公主の下、地球侵略が進行する。  桜花高校一年特進クラスのクラス委員、朝井悠馬は心の優しい少年だったが、それゆえにクラスの雑用係をひとりでさせられていた。  その悠馬の前にひとりの美少女が現れる。  ウサギの長い耳のついた帽子をかぶり、悠馬のフィアンセと名乗り、悠馬を決して離さない。  ひそかに悠馬を見つめる特進クラス一番の成績を誇る如月飛鳥。  若き天文学者、荒川今日華。  美しき女性たちが多数、悠馬に近づく中、地球の危機が迫る。    
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Chapter: ~第二十一話③~ 飛鳥はそれを我慢できない
 真宮子が悪だくみに励んでいた頃、飛鳥と悠馬は校庭のウサギ小屋の陰にいた。 朝のショートルームまでのわずかな時間。ウサギ小屋の周囲には誰もいない。 飛鳥は悠馬の右腕を握ったままだった。「遠山さん、いけないよ。僕、やっぱり駅に戻る。ちゃんとみんなに説明する」 飛鳥はゆっくり首を左右に振る。「遠山さん。お願いだから、腕を離して。卑怯な真似するなんて僕、絶対にイヤだもの」 飛鳥はニッコリと笑った。悠馬を優しい目で見つめた。次の瞬間、飛鳥の両目からは、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。 飛鳥は空いている右の手で涙をぬぐった。「朝井くんはね。いい子だよ。本当にいい子だよ。だから私……」 飛鳥はしっかりと悠馬を抱きしめていた。「私、悠くんのことが大好き。今は私の言うこと聞いてね」 悠馬は茫然とした表情のまま、飛鳥を見上げる。真っ赤になった悠馬の頬を、飛鳥は愛しそうになで回した。「しばらく私とバスで登校しようね。私、遠回りになるけどいい。悠くんと一緒なら構わない」 飛鳥は悠馬のおちょぼ口に、自分の唇をピッタリと重ねたかった。 けれども今は……。 大きく深呼吸してから、真っ赤に染まった悠馬の頬に、そっと唇をつけた。それが飛鳥の気持ち。
Terakhir Diperbarui: 2025-11-01
Chapter: ~第二十一話②~ 三人の女子高校生の陰謀
 列車内は満員に近く、通路に立つ悠馬は殆ど身動き出来なかった。悠馬はよほど空席がない限りは必ず通路に立つようにしている。 この日、悠馬が乗った列車は、空席どころか通路まで、通勤通学の乗客であふれていた。 十五分ほど列車に揺られて「御器所駅」のアナウンスを聞きながらホームに降りた。そのまま改札への階段を下りるつもりだったが、突然後ろから声をかけられた。「ちょっと待ってよ」 振り返ると見知らぬ三人の女子高校生が立っていた。制服から「春日台高校」の生徒だと分かった。悠馬よりは学年が上のようだ。「君ね。満員をいいことにずっと|史緒里《しおり》にタッチしてたでしょう。胸とか、腰とか……」「私たち、ちゃんと見てたんだよ」「絶対許せない」「今から警察呼ぶよ」 史緒里と呼ばれたのはロングの黒髪の女子高校生だった。緊張した表情で下を向いている。ブルブルと全身を震わせていた。 ほかのふたりは何度も言葉につかえながら、悠馬を追求してきた。「すみません。僕、あなたたちに今、初めて会うんです。何かの誤解だと思います」 悠馬は緊張の限界の表情。顔が透き通るくらいに青ざめていた。なぜ突然、身に覚えのないことを言われたのか、悠馬にはさっぱり理由が分からない。「本当なんです。信じてください」 三人の女子高校生も悠馬の言葉を百%信じていた。だが言葉は裏腹。「私、ハッキリ見てたの。どんなに知らないと繰り返したってムダだから」「私も見た。ふたりも目撃者いるんだよ」 追及の言葉はなぜか涙声だった。悠馬は気づかなかったが、ふたりともずっと後ろめたさを感じていたのである。「駅の人、呼んでくるからね」 悠馬は大きくうなずいた。「そうしてください。僕、本当に何もしていません。ちゃんと警察の人にも説明……」 悠馬の言葉が途切れる。いきなり右腕をつかまれていた。「何してるの? 遅刻するよ」 悠馬のよく知っている声が聞こえてきた。飛鳥は悠馬の腕をしっかりと強く握ったまま、悠馬を引きずるように階段を駆け下りていった。 女子高校生三人は、何も出来ないまま、その場に立ち尽くしていた。 すぐに悠馬と飛鳥の姿は見えなくなった。そもそも何が起きたのか? 三人の女子高校生には見当もつかない。「何やってんだよ、バ~カ」 真宮子が大声で叫びながら駆け寄る。「追いかけるんだよ」 だ
Terakhir Diperbarui: 2025-10-26
Chapter: ~第二十一話 悠馬絶体絶命~ 悠馬への魔の手
 列車に乗り、|御器所《ごきそ》の駅で下車。徒歩で桜花高校に向かう。朝井悠馬にとって、いつもと同じ朝のはずだった。 だがこの日はいつもとは違った朝を迎えることになった。 悠馬はいつもは七時三十七分の列車に乗車する。次の列車から車内が混雑してくるからである。改札に向かっていると、突然、作業服を着た五十代後半の老人が話しかけてきた。「すまんがのう。切符売り場はどこじゃ? ア~ウ~」 老人はなぜか大きなトートバッグを両手で抱えていた。悠馬は笑顔で丁寧に教えてあげたが、そのため一本後の列車に乗るはめになった。 だがよくよく考えたら、トートバッグを抱えた老人の行動は不可解だった。悠馬の近くに駅員がふたりいたし案内表示もあったのに、なぜか老人は、わざわざ高校生の悠馬に「切符売り場」の場所を聞いてきたのである。そのうえ老人は切符売り場には行かなかった。 トートバッグの中身を確かめると、「ヒーヒヒヒ。乃木坂のDVDに写真集。みんなワシのもんじゃ」と満面の笑みでつぶやき、「♫ブンブンブン ブンブンブン インフルエンサー ユウキちゃん」と音程のはずれた歌を口ずさみ、スキップしながら駆けていった。 一方、悠馬が改札を通ると、すぐ後から三人のセーラー服の女子高校生が続いた。春樹のマンションで脅されていた三人である。緊張した表情で、悠馬の後をつける。 そしてしばらく経ってから、真宮子が取り巻き三人と一緒に改札を通った。 冷たい目を、階段を下りる悠馬に向けていた。 だが真宮子は知らなかった。離れたところから、真宮子の姿を見ているクラスメイトがいたのである。本来なら、この列車で登校なんかしない生徒だった。
Terakhir Diperbarui: 2025-10-25
Chapter: ~第二十話⑥~ アマンが軟禁! 誰も悠馬を助けられない
 月世界セレネイ王国摂政、実質的な統治者、キラーリ公主。朝井悠馬の優しさに魅かれて地球総攻撃中止に傾く。 だが地球総攻撃の成功で自らのカリスマ性を高めようとするエラリー・スタイン公子は、地球総攻撃を妨害するムーン・ラット・キッス女王を抹殺し、一気に地球総攻撃を開始しようとしていた。 ムーン・ラット・キッス女王の居場所を突き止められないエブリー・スタイン公子は、ムーン・ラット・キッス女王が勝手に婚約者と決めつけている愛しの朝井悠馬を利用し、キッス女王をおびき寄せようとしていたのである。 銀河連邦より緊急の呼び出しを受けたキラーリ公主は地球を去った。だがエブリー・スタインに一切何も行動するなと手紙を残していた。もちろん悠馬を守るためである。 だが巨大な戦闘機「ムーン・レイカー」の司令室では、エブリー・スタインがついにヒールのイケメンという正体を現していた。「この手紙はフェイクだ。オレに手柄を立てさせないために、お前が捏造したんだ。そうだろう、分かってるぞ」 エブリー・スタインが憎々しげな口調で、一方的にフェイクと決めつけてくる。アマンはあわてて首を横に振る。もちろんエブリー・スタインは相手にしない。「銀河連邦一番のイケメンとして! じゃなかった、ムーン・ラット・キッス暗殺の特別任務責任者として、貴様を『国家反逆罪』の現行犯で拘束する」 エブリー・スタインが冷たくアマンを見据える。この残忍な表情こそ、セレネイ王国の貴公子として、女性たちから紙テープを投げられ賞賛されるエブリー・スタインの正体だった。「第一、地球にいる貴様がどうして月世界の姉上より手紙を受け取ることが出来たのだ。子ども騙しのフェイクに誰が引っかかるか?」「キラーリ公主は秘密裏に地球を訪問し、さっきまで私と行動を共にしていたのです。どうか、次の指令が出るまでいかなる行動も差し控えてください」 アマンの必死の叫びもエブリー・スタインには届かない。「司令官の命令だ。さっさと誰か来い」 ドメルらの副官が駆けつける。「国家反逆罪の現行犯だ。牢に収容しろかっこ ドメル副官があわててエブリー・スタインの前に立ちはだかる。「アマン隊長が国家反逆罪などあり得ません。どうか、考え直して頂けませんか?」 エブリー・スタインが鼻先で笑う。「どう考え直すんだ? ドメル、貴様が反逆者なのか?」 
Terakhir Diperbarui: 2025-10-24
Chapter: ~第二十話⑤~ エブリー・スタインの野望
 キラーリ公主のスマホの振動。これこそが、事態を大きく変えていったのである。「バレリーからだ」 銀河連邦のバレリー広報官の名前が出た。「地球総攻撃について、現時点での私の考えを聞きたい。直ちに銀河連邦本部へ来るようにとラインを送ってきた。恐らく女王の訴えを聞き、私からも意見を聞こうとしているみたい」 キラーリ公主が唇を噛みしめる。「勝手に地球へ来ていることを知られたくない。すぐ銀河連邦の本部へ行く」 「でもエブリー・スタイン公子へ命令を下すのはどうするのです。このままでは必ず公子は悠馬くんに危害を加えます」 「手紙を書くから、すぐにあなたが弟に届けて。私の代わりに悠馬くんを守って。これあなたに頼むのってサ。ものすご~くイヤなんだけど……」 キラーリ公主は慌ただしく地球から去った。アマンにエブリー・スタインへの手紙を託して……。  一時間後のことである。  町はずれの空き地に待機しているセレネイ王国空軍の戦闘機「ムーン・レーカー」。前にも書いた通り、「ブラインドリバーシステム」によって、誰にもこの戦闘機の姿は見えない。  司令室。エブリー・スタインが、キラーリ公主からの手紙を読んでいたのは、わずかに十秒以下。  すぐにキラーリ公主からの手紙は地面に放り出された。靴で踏みにじられた。エブリー・スタインはイケメンにはふさわしくない憎々しげな表情を浮かべた。「この手紙はニセモノだ。アマン、お前がつくったのか? こんなものにオレが騙されると思ったら大間違いだ」 アマンはすぐに反論しようとするが、エブリー・スタインの言葉の方が早かった。上から目線の冷笑が、ストレートにアマンへ向けられる。「オレにフェイクを見せるのは、立派な国家反逆罪だ」
Terakhir Diperbarui: 2025-10-23
Chapter: ~第二十話④~ キラーリ公主も風雲は止められない
「あのね。最初は、サライや女王がそれほど恋焦がれる悠馬くんがどんな人間なのか、好奇心に過ぎなかった。だけど、あの子の心の優しさを知ったら、アマン、あなただって胸のハートが熱くなるのを抑えられなくなるんだから。心のないイケメンなんか、悠馬くんには敵わない」 このとき、アマンはハッキリと悟った。傲慢で自信家の独裁者より、熱く恋を語るキラーリ公主の方がずっと魅力的で大きな事業を成功させる可能性を秘めているということ。もしキラーリ公主が悠馬と結婚したならば、セレネイ王国を銀河連邦最大の惑星に発展させるに違いない。  だがアマンも自分の熱い思いを放棄するなんて絶対に出来ない。恋のバトルは絶対に譲れない。アマンも決意を固めていた。「それで公主は地球総攻撃を今でも諦めてはいないのですか?」 アマンの意地悪い質問。「それを今、言わせるの?」 キラーリ公主のすねた表情。この表情もまた可愛らしい。「好きな人の悲しむことなんて出来ないじゃない」 とうとうキラーリ公主は本音を漏らした。悠馬への思いから、念願の地球総攻撃を中止するとハッキリ認めたのだ。「しかし公主。エブリー・スタイン公子は地球総攻撃に反対するキッス女王を暗殺し、一気に地球総攻撃を進めるつもりです」 「だからキッス女王の情報は弟に伝えていないでしょう」 「公子は既に悠馬くんの存在に気がついています。悠馬くんを利用してキッス女王をおびき寄せようとするでしょう。今のままでは悠馬くんに生命の危機が訪れることになります」 「そうはさせない。弟に直接、命令を下す。これ以上、余計な行動はするなと!」 キラーリ公主は悠馬のために地球総攻撃の中止を決意。弟のエブリー・スタインに「何もするな」と命令すれば、村雨兄弟を利用して悠馬に危害を加え、ムーン・ラット・キッス女王をおびき寄せて暗殺するという計画もボツになるはずだった。  ところが、事態は思わぬ方向に展開していたのである。
Terakhir Diperbarui: 2025-10-22
カノ女と僕の幽霊塔~殺戮の神、大黒天の一族、マハー・カミラに監禁された少年の運命は?

カノ女と僕の幽霊塔~殺戮の神、大黒天の一族、マハー・カミラに監禁された少年の運命は?

東京都当麻町ではお人よしの鶴葉下照光さんに対して人々の陰湿ないじめが続き鶴葉下さんは町はずれの塔にこもった。  街の人たちは塔を包囲し嫌がらせを繰り返す。  そのとき、大黒天ことマハー・カーラの一族であり、赤の女神、マハー・カミラが出現。  町の人々を殺戮。  塔を血の如く赤く染めた。  半世紀後、幽霊塔に近づく人もいない現代。  心優しい少年、上杉悠馬の前に、美しく残忍な赤の女神、マハー・カミラが現れた。 「森に近づく者がいないため、奪う命もなく退屈していた。お前を五十年ぶりの生贄とする」  あでやかな死の笑い。  悠馬を生贄にすることしか考えていないマハー・カミラ。  果たして悠馬は、ホラーをハッピーエンドのラブコメに変えられるか!
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Chapter: 大団円
 お話は50年前に赤の森の惨状を目撃した一宮金太さんのエピソードに移ります。 一宮金太さんのお父さんはマハー・カミラに襲撃されて殉職しました。 それから半世紀経ったいま、一宮金太さんは自営業を営みながら、消防団の団長を務めていたのです。 その頃、新聞やテレビは、不思議な日本人の集団について伝えていました。 総勢百人以上の老若男女からなるメンバーで、その中心にいるのは髪の毛のふさふさした紳士でした。 「|鶴葉桂《ツルハカツラ》」という名前でした。 ただ一部の人々のいうところでは、その紳士の髪型は不自然なところがあるのでカツラではないかということでした。 この不思議な日本人の集団については、人気司会者の宮根さんのワイドショーでも取り上げられたほどです。 ヨーロッパやアジアなどの名所を観光し、高級ホテルで豪華なディナーを楽しんでいたのです。 この集団が突然、京都に現れ、京都嵐山の高級旅館を借り切って宿泊していました。 昼は京都観光を楽しみ、夜は旅館の大宴会場で大騒ぎをしていたのです。 一宮金太さんが突然、一通の手紙を受け取ったのはその頃のことでした。<父より 金太よ。 突然だが、お前にもう一度、会えることとなった。 これまでのお前の苦労を思うと父も胸が痛い。 だがわたしは、お前が自費出版した『自分史』を読んだよ。 父として息子のお前を誇りに思うよ。金太! 『負けばかりの人生だったと人は笑うかもしれない。 だが自分は、この人生を後悔していない。 わたしは声を大にして自慢したい』 ありがとう。金太。 だが少しはお前も幸福を味わってもよかろう。 わたしを尋ねてきてはくれないか 鶴葉さんという人たちと共に、京都嵐山の旅館に宿泊している。 頼むから来て欲しい> 封筒には京都までの交通費として十万円が入っていました。 金太さんは半信半疑で、京都嵐山の高級旅館を訪れました。 すると父親の紀夫さんが、昔のままの姿で旅館の受付に現れたのです。 父親に案内された畳敷きの和室に案内されました。 窓から美しい山景色を眺めながら、ふたりは芋棒などの名物料理を味わいました。 亡くなったはずの父親が再び自分の前に現れた。 自分はこんなにも老いさらぼえているのに、父親は別れたときのままの姿なのです。 一体、これは夢なのだろうか? 金太
Terakhir Diperbarui: 2025-08-25
Chapter: ~第十二部②~ 好きだから約束なんか守らない
 バス停。 次のバスが来るまで十分くらい。 僕、スマホを取り出す。 バス停にたったひとり。 回りには田園が広がる。その奥に僕が一週間過ごした赤の塔が見える。 バス停にたったひとり。 だけど人の気配を十分感じてた。 マハー・カミラさんって神様だけど、時々、子どもみたいな失敗するんだもの。「春奈ちゃん。うん!いまから帰るね。すぐ春奈ちゃんの家に行く」 人の気配がだんだん近づいてくる。 春奈ちゃんの声、わざとスピーカーで流してみる。「ユウちゃん。相談だけどね」 なんだかウキウキした声が聞えてきた。「わたしの家に住まない。両親も認めてくれた。ユウちゃんさえよければ、正式に婚約したいの」 そんなこと言って……。聞いている人がいるのに。「婚約は、いますぐでなくてもいいけど……。とにかく今夜は、わたしんちに泊まって。頭のおかしい赤の女神が、またユウちゃんにひどいことしないか心配だからね」 激しい息遣いが聞えてくる。間違いなく怒ってる。「明日、学校休んでお寺にお祓いに行こうよ。二度と変な神様にひどい目に遇わされないようにね。だいたい神様なんていってるけど、ただのヘンタイおばさんじゃない」 またスマホが消えた。 すぐ後ろにマハー・カミラさんがいた。 さっきからいるって分かってましたけれど……。「ユウはお前のような悪党の顔は二度と見たくないと、わたしに助けを求めてきた。さらばだ」 春奈ちゃんの怒りの声もすぐ聞こえなくなった。 マハー・カミラさんったらスマホ返してくれなかった。 僕を後ろから抱きしめる。  次の瞬間。 十分前と同じように、赤の塔の一室にいた。 マハー・カミラさんに後ろ手に縛られた。僕はされるがままにしていた。 もしかしたらこうなることを、心のどこかで願っていたのかもしれない。「やめる!」 マハー・カミラさんったら、僕の体を自分に向けさせる。「ユウちゃんはね。ずっとこの塔でわたしと一緒にいるんだから。分かった?」 おごそかに宣言。「ユウちゃんが言うことを聞かなければ、春奈と家族は皆殺し。日本は一日で滅びることになる」 そうですよね。 だから僕って、ここにいなきゃいけないんですよね。  僕の目から涙が流れた。 マハー・カミラさんったらね。僕が悲しんでるって思ったんだ。 困ったように顔をしかめた。「
Terakhir Diperbarui: 2025-08-25
Chapter: ~第十二部 上杉悠馬の手記より さよなら マハー・カミラさん?①~ 波乱のお別れ
 塔の一室。 マハー・カミラさんと僕が向かい合って立ってる。 マハー・カミラさんはおなじみの赤いブレザーの制服姿。 僕らの間にはたくさんの紙袋。 いくつもの有名デパートの名前が印刷されてる。「このシャツは一着三万したんだからね」  マハー・カミラさんが突然、可愛らしい口調に変わった。 紙袋の中身をひとつひとつ説明して、ブランドものだということ、高価だったことを詳しく説明してくれた。「ぜんぶユウちゃんの家に送っておくけど、忘れちゃだめだよ」 マハー・カミラさんが僕の肩に手を置く。「ぜんぶわたしが買ったんだからね。ストーカーでお節介の春奈じゃないからね。忘れるないで」「はい」「帰ったからといって、わたしのこと忘れないで」「はい」「神は人間と恋が出来ない。そんなの不公平だよ」 マハー・カーラさんの声って、だんだん小さくなっていった。 「じゃあ、バス停までわたしが瞬間移動させるから。ちょっと待ってて」 マハー・カミラさんが部屋を出て行く。 僕、黙って見送る。 スマホを立ち上げた。 ロック画面って、春奈ちゃんと僕の2ショット。 黙ってスマホの画面見ていた。 ふいにスマホが宙に浮いた。 いつの間に入ってきたんだろう? 後ろにマハー・カミラさんの姿。 右手に僕のスマホ、握ってる。 スマホの電源を切って僕に返す。「一週間に一日、金曜日。授業終わったらわたしのとこに来てね。バス停に着いたらすぐ迎えに行くから」 えっ?急にそんなこと。 でも僕、おとなしくうなずいていた。「はい。週に一日でしたら」 マハー・カミラさんがイライラしたように叫ぶ。「やっぱり二日にして。月曜日と金曜日。必ず来て」 血走った目。 僕、おとなしくうなずいた。それしかないみたい。「はい。週に二日でしたら」 マハー・カミラさんが首を大きく振る。 不機嫌な顔で部屋中歩き回る。 最後に僕のところへ戻ってくる。 腕をしっかりつかまれる。「やっぱり三日にして。月曜日と水曜日。金曜日。必ず来て。約束だよ」 どんどん帰宅の条件、変わってきている。「覚えておいて。わたしがこの塔の外に出たら必ず日本に異変が起こる。やがて動乱になる。わたしのパワーのこと、ユウちゃんは知ってるもんね」「はい」「ユウちゃんがいるから、わたしのパワーがプラスの方向に調整
Terakhir Diperbarui: 2025-08-25
Chapter: ~第十一部②~ 大黒天は友だちだ
 シャンデリアが明るく輝く大きな宮殿。 赤い光が横切ります。 赤い髪をなびかせ、赤い顔に赤いドレス。赤のミニスカートから赤くスラリとした脚を伸ばし赤いブーツを履いたマハー・カミラでした。 宮殿の明るい照明にけげんそうな顔をしています。 もっとけげんそうな表情になったのは、黒い頭巾をかぶり、宝物の入った大きな袋を背に打ち出の小槌を手にしたマハー・カーラの姿を見たときでした。 二メートルくらいの背の高さとなり、優しくて頼もしいナイスミドルの表情も、マハー・カミラを驚かせたのです。「伯父上」 マハー・カミラが膝をついて挨拶します。「一体、これは?」「つまりだな。イメチェンだ」 マハー・カーラが珍しく口ごもったのです。「クビラの賢弟に勧められた。つい今しがた、日本から帰って来た聖徳太子殿の意見でもある。『人間と友人になる必要はない。だが強きをくじき、弱きを助ける厳しくても頼りがいのある神であるべきだ』 全く、その通りかと思う。だいたいお前たちはな。そのな。マハーの神の考えを誤解しておるぞ」 マハー・カーラは気まずそうな顔を向けてきます。「あのな!わしはな。人間たちにこう申したかったのだ。己の欲望のためにマハーの神の力を頼りたいなら厳しい修行をせよ」 マハー・カーラの説明にマハー・カミラは耳を傾けます。「例えばだ。なんの修行もせずに|己《おのれ》ひとりの栄耀栄華を願い出るような|輩《やから》は虫が良すぎるというものだ。そのような者には厳しく神罰を与える」「もっともでございます」「だが世のため、|他人《ひと》のために神の力を借りたいなら、我ら神は無条件で助けよう。わしは人間にはだれでも厳しくせよと申したことはない」「おっしゃる意味、よく承知致しました」「しかしだ。いまはわしの教育方針を心より反省している。お前が多くの|無辜《むこ》の民を傷つけた責任はわしにもある」 マハー・カミラは恐縮して頭を下げ、恭順の意を示します。 「中国、日本で広まった大黒天のイメージは、わしにふさわしくないと考えていた。だがな。よくよく考えると、心の正しい人間には頼もしい神であるべきかもしれぬ」「確かにその通りでございます」「これからは、このかっこうでいく。聖徳太子殿が、わしのイメチェンにいろいろ協力してくれた」 宮殿の中に美しい歌声が流れました。
Terakhir Diperbarui: 2025-08-25
Chapter: ~第十一部 日本の危機終結①~ 悠馬が日本を救う
 ここで再び、わたしたちは、悠馬少年の手記から離れ、国会議事堂の大会議室に物語を移します。 時刻は夜の十時過ぎ。 川野内閣の閣僚以下、警察庁長官、警視総監、野党代表、有識者代表のほか、松山警部、獅子内記者といったおなじみのメンバーが集まっています。 そして聖徳太子も、窓の外の光景をじっと見つめていたのです。 ほかの面々はといえば、壁の大きなテレビ画面を真剣なまなざしで見つめていたのです。 テレビ画面ではニュース番組の最中でした。 アナウンサーの澄んだ声が響きます。「青森県でリンゴの実が突然、みかんに突然変異した異変は、今夜九時過ぎ、再びみかんがリンゴの実に戻ったことで解決しました。 そのほか、日本全国で起きていた異変は収束に向かっています」 大会議室に集まったメンバーの間に喜びの色が浮かびます。「羆が熊のプーさんに突然変異した事態も元の姿に戻りました。ただ羆のアレンドリーな性格は変わらず、いまも山寺宏一によく似た声で、『オッハー』と人間たちに挨拶しているそうです。今後、北海道知事を座長に、羆と共存をめざすプロジェクトが発足します」 そのとき、獅子内記者のスマホが鳴りました。獅子内記者がスピーカーボタンを押します。「作吉さんか?」「嬉しいニュースです。大阪の異変が収束しました!」 作吉記者の明るい声が部屋に響いたのです。「わたしはいま、新大阪の駅にいますが、大阪弁が飛び交っています。聞こえますか?」 スマホからは、「アホッ、アホッ」「ボケッ、ボケッ」とけたたましい声が響き渡りました。「いま、入ったニュースですが、二十四時間営業の安売りスーパーでビフテキ用牛肩肉を試食に出していたところ、大皿を持った千人以上の買い物客が殺到して奪い合いになり、最終的に警察が駆けつける騒ぎになったということです」 作吉記者の言葉を聞いた会議室のメンバーから喜びの声があがりました。「よかった。大阪の異変が収まった」「大阪のバイタリティが戻ってきた」 拍手が飛び交いました。 大阪出身の藤本議員が、獅子内記者としっかり握手を交わしました。 石田総理大臣が聖徳太子に深々と頭を下げました。「三重県の異変も収束しました。太子。これで非常事態宣言を出さずに済みそうです」 閣僚たちが続けます。「やはりこれも上杉悠馬君という少年の働きということで
Terakhir Diperbarui: 2025-08-25
Chapter: ~第十部②~ マハー・カミラさんの謝罪
 目が覚めたらベッドの上。 だけどまだ縛られたまま。 マハー・カミラさんが僕の横に膝をついて座っている。頭や頬を何度もなでてくれている。「ユウちゃん!」 エエエーッ……。 マハー・カミラさんに、そう呼ばれてしまった。 僕の心は世界で一番幸せだった。 僕はプイッと横を向いた。「頼む。怒らないでくれ」  困った声。困った顔。「縛ったまま、ほどいてくれません」「だってユウちゃん。わたしから逃げようとするだろう」「マハー・カミラさんのことキライです。早く僕の命奪ってください」 マハー・カミラさんが頬ずりしてきた。 僕、少し心が落ち着いた。 けれどもやっぱり涙が出てきた。「ずっとひどいことされました」「すまぬ。最初から助けるつもりだったのだが、伯父上にユウちゃんを痛めつけている様子をだな。映像を送って信じさせる必要があったのだ。ユウちゃんをコンサートに呼んだことなんか、とっくに知られてた。一族の誰かが密告したんだ」「僕、怖かった」「ユウちゃん、ごめん。みんなあの蛇たちが悪いんだ」 マハー・カミラさんの声って涙声。 (嘘ッ。まさか) マハー・カミラさんの顔を見る。 「側近の夢、あきらめたくなかった。だけどもういいんだ。マハー・カーラの側近にならなくてもいい」 衝撃の告白だった。「そこまで言ったぞ。ユウちゃん、信じてくれ。アイスクリームだって好きなだけ食べさせてあげる。ディナーはなにがいい?」 マハー・カミラさんったら声まで優しくなっている。「洋食、和食、中華食。エーーイ、ローストビーフにトロにツバメの巣のスープでどうだ。こんなにわたし、優しいんだぞ」  マハー・カミラさんがひたすら弁解「だって僕の前で残酷なことばかりしました。マハー・カミラさんのこと大キライです!」  僕、わざと背を向けてやった。 だけど本当はマハー・カミラさんの顔を見ていたかった。「ま、待て。あれはだな。伯父上にかっこいいとこ見せるための演出なんだ。あのシーン、映像で送ったんだ」  なに言ってるんだろう。 僕、だんだん悲しくなってくる。 マハー・カミラさんのあんな残酷な姿みたくなんてなかった。 マハー・カミラさんが残酷だってことは分かってます。 だけどやっぱり僕にとっては、一緒にステージに上がるマハー・カミラさんのイメージでいて欲しか
Terakhir Diperbarui: 2025-08-25
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