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土屋千秋
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Novels by 土屋千秋

若と忠犬と黒瀬組

若と忠犬と黒瀬組

黒瀬組の家で育った律と蓮は、血は繋がらなくても互いの生活の一部だった。 学校でも家でも、律が行けば蓮がついてくる。それが当然で、疑う余地もなかった。 しかし夏の事件で、蓮が見せた激しすぎる感情に律は初めて足を止める。 あれは“家族”の怒りなのか、それとも――。 境界線を知らないまま育った二人が、自分でも気づかなかった想いに触れた時、日常は静かに形を変えていく。
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Chapter: #2 忠犬の当たり前と若の日常
 朝、律は六時半にセットした目覚ましで起きる。 進路の問題が表面化した頃から多少寝起きは悪くなったものの、基本的に一度のアラームで目を覚まし、寝巻のまま部屋を出て離れのキッチンでグラスに水を注ぎ、そのまま縁側で水を飲みながらしばらくぼんやりとする。そうしていくうちに体が新鮮な空気に満たされて脳みそが覚醒していく。そんな習慣を十三歳くらいから続けている。早起きをして筋トレをするわけでも朝活をするわけでもなく、ぼんやりしているだけで、父には「爺みたいだ」と言われ、蓮には首を傾げられるが、律にはこの習慣がすっかり馴染んでしまっている。唯一、修治だけが「いい習慣です」と言った意味は、律にはまだわからない。 七時を過ぎた頃に律は縁側から立って、水を飲んだグラスを片付け、蓮を起こしに行く。──蓮は律が起こしに行かないと起きない。 からりと蓮の部屋の戸を開けて、頭まで布団をかぶって眠っている蓮のベッドの端に腰かけて律は少し笑う。「れーん、朝だよ。起きて」 いつものように布団の上からぽんぽんと蓮の肩辺りを叩く律の声は柔らかだ。丸まった布団の塊がもぞもぞと動いて、寝ぐせだらけの伸ばしっぱなしの癖っ毛が半分顔を隠した蓮が顔を出すが、まだ寝ぼけているのもいつものことだ。「やだ……まだねみー……」「いいから起きて。朝ごはん、間に合わなくなるよ。朝から父さんに小言言われんの嫌でしょ?」「それは……めんどー……」 まだはっきりと覚醒しないまま、蓮は律の声に半分自動で反応するように起き上がった。大きなあくびをして、いまにも布団に逆戻りしそうだが蓮は普段から活発なだけあって起き上がりさえすれば大丈夫なことを律は知っている。 律はすんなりと蓮のベッドから立ち、部屋を出ていく。「あとでね」と言い残して。 それから律は洗面所に直行し、顔を洗い、歯磨きをし、自室に戻り制服に着替える。スマホの充電とかばんの教科書類を確認して身支度が終わるころには蓮も着替えを済ましている。玄関を通るには母屋を経由するからかばんを肩にかけ、部屋を出るとちょうどいいタイミングで制服に着替えた蓮がいた。 並んで母屋に向かい、外廊下に面した食堂──和室の大きな座卓で父と律と蓮を含めて十人以上の黒瀬家の住人が食事をする場所なので、食堂という表現の方が的確だと律は思っている──に入ると、数人の男たちが座卓に料理
Last Updated: 2026-01-11
Chapter: #1 ダルい若と距離感バグ
 黒瀬律。 十七歳、高校三年生。暴力団、黒瀬組組長黒瀬竜一の一人息子。進路、未定。  相良蓮。 同じく十七歳、高校三年生。六歳の時に母が病死し、愛人であった竜一に引き取られ、黒瀬家で律と同じく息子として育てられた事実上の養子。進路、律の行くところ。 将来を決めるリミットまであと5か月。***** 春の気配を残した、湿度を含む風が開け放した窓から入ってきて律の黒髪をさらりと揺らした。 やや俯いた黒瀬律は興味なさげに机を挟んで対面で話をしている担任の声を聞いていた。進路指導。高校三年になって通常であれば最終確認段階だというのに、律の進路は白紙のままだった。「──黒瀬は成績はいいから国立だって狙えるんだがなぁ。なんかないのか。流石にこの時期に白紙はまずいぞ」 担任教師は困り果てたようにぼやいている。律の事情も多少は察しているだろうに、もちろんそのことには触れない。「じゃあ、コロンビア大」「は? 黒瀬。それは無茶だろ。それに海外の大学は試験の時期も──」「先生。進路、なんでもいいからあればいいんでしょ」 適当な、しかも行く気もない大学の名前を出して、律は「じゃあ」と言って席を立ち、進路指導室を出ていった。背中に担任が盛大な溜息をついている気配がしたが、無視した。戸を閉めて、廊下を教室まで歩く。足取りはのんびり、ゆっくりというよりも重い。二年の半ば、自然と進路の話題が出てから律の憂鬱は増すばかりだ。 開いていた教室の後ろの入り口から中に入ると、蓮だけが残っていた。蓮は机に突っ伏してぼんやりしているのか転寝しているのかどちらかだろう。変わらない足取りで律は蓮の傍まで行って、ぽんと片手を頭に乗せた。「蓮。終わったよ。帰ろう」「んー……。お疲れ、律」 蓮は律の方に顔を向けて半分眠そうな声で返事しながら笑う。いつもと変わらない。律が頭の上に乗せた手を下すと、蓮は上半身を起こして大きく伸びをした後、しなやかな動きで椅子を蹴飛ばして立ち上がった。茶色の少し長い癖っ毛が揺れてライオンのたてがみのように見えて、律は少し笑った。「律はさぁ、なんでそんなに進路決めたがらないの? 親父は好きにしていいって言ってんじゃん」 教科書もろくに入っていない軽いかばんを引っかけて蓮は首を傾げる。「そうだけど……。でも、蓮は僕が一人暮らしするようなとこに行ったら嫌でしょ?
Last Updated: 2026-01-11
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