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桜花桜餅
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Novels by 桜花桜餅

桜の生贄

桜の生贄

穏やかな日常は、唐突に、そして無慈悲に断絶した。  目を覚ますと、そこは見知らぬ閉鎖空間。  戸惑うユーリと大輝の2人の前に立ちはだかるのは、巨大な大鎌を携えた赤い眼の殺人鬼の影だった。  逃げ場のない檻。狂ったルール。   「……ここから、出られるのか?」  絶望の底で、心優しい少年だったユーリの瞳から光が消えていく。  迫りくる死の恐怖と、剥き出しの殺意。  極限状態に追い詰められた少年たちが辿り着くのは、生存か、それとも。  命を懸けた、残酷な脱出劇の幕が上がる。
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Chapter: 第2話 偽りの安息
 調理室を後にした僕たちは、影を潜めるようにして一階へ降りた。  大樹は時折、背後の闇を睨みつけながら、消え入りそうな小声で言う。 「包帯とか消毒液とか、あった方がいいんじゃないか? 傷口に菌が入ったらまずい。」  その声音は努めて落ち着いていたが、握りしめた拳の震えまでは隠せていない。 剥き出しの焦りが、暗がりにじんでいた。  だが、その冷静さに、僕は少しだけ救われる。 調理室で武器としての唐辛子は確保できたが、医療品はまだだ。いつあの巨大な鎌が僕たちの肌を裂き、肉を削ぐか分からない。  ここで次を失えば、もう終わりだ。  保健室。  白い扉を押し開けると、冷たく淀んだ空気と共に、かすかな消毒液の匂いが鼻を刺した。  棚には薬瓶がと並び、包帯も新品同様に積み上げられている。指先で棚の端をなぞってみたが、埃ひとつ見当たらない。  数分前まで血生臭い調理室にいた僕たちにとって、そこはあまりにも清潔で、そして…異質だった。  廃校のはずなのに、まるで誰かが、今この瞬間も主としてここを管理しているかのようだ。 「……ありすぎだろ、これ。」 「うん……まるで誰かが、僕たちが来るのを待っていたみたいだ。」  拭いきれない違和感が胸をかすめる。 「……やっぱり、おかしいよ。」  僕は自分の制服の袖口を見つめた。 「パジャマで寝ていたはずの僕たちが、気づけばこの制服を着せられていた。そして、この保健室だけが、クリーニングしたてのシーツのように不自然に清潔だ。 ……まるで行き届いた管理をされているみたいじゃないか。」 掃除の行き届いた棚の白さが、僕には病院の無機質な壁ではなく、食肉加工場の衛生管理のように見えて、背筋がヒヤッとした。 それでも僕は、ロッカーから見つけた鞄に、調理室で手に入れた唐辛子の粉、棚の包帯、消毒液を詰め込んだ。 その間も大樹は、何かを追い求めるようにベッドの下を探っていた。 「おい、ユーリ。ここ……地下に繋がってるっぽいぞ。」  彼が窓際のベッドを力任せにずらすと、床板の下に隠し扉が現れた。  鈍く光る冷たい金属の錠。 僕はそれに手をかけ、引き上げようとしたが、錠は肉に食い込む歯のように固く噛み合い、びくともしない。  重い沈黙が室内に流れ、諦めかけた、その時だった
Last Updated: 2026-04-24
Chapter: 第1話 日常の終焉
「おーい、ユーリ!帰りにゲーセン寄ろーぜ!」  廊下の向こうから、鼓膜を震わせるような大声が飛んでくる。声の主は山口大樹。 短く刈り込まれた茶髪に制服のシャツをはち切れんばかりに押し上げる分厚い胸板、野球部で鍛え上げられたその体格は、教室という狭い場所ではどこか窮屈そうに見えていた。  「今日も?テスト近いから勉強しないとまずいんじゃないかな……。」  口ではそう答えながらも、僕は苦笑していた。  僕の名前は雨宮優里。みんなは僕のことをユーリと呼ぶ。 高校二年生、十七歳。黒髪の天然パーマに丸メガネ、平均的な身長はあるけれど、線が細く華奢なせいで、大樹と並ぶといつも頼りなく陰に見えてしまう。  そんな日常の風景の中に、彼女はいた。  「ユーリ、何か思い詰めてるみたいだけど、大丈夫?」  ふわりと、蜂蜜と花が混じったような甘い香りが揺らいだ。そして柔らかな声が僕を呼び止めた。 振り返ると、そこには市松人形のようなストレートヘアの漆黒の髪の少女。頬のラインで丁寧に切り揃えられたそのサイドヘアが僕の顔を覗き込んだ拍子に顔の輪郭から離れゆらゆらしている。 その古風な髪型に添えられた小さな桜の形のヘアピンが、控えめな光を反射していた。 彼女の名は、桜田有栖。 彼女が僕を覗き込み、小首を傾げた瞬間のこと、窓からの午後の日差しがその瞳に差し込む。  普段は柔らかな桜色に見えるその瞳が、光の角度によって、吸い込まれるような深い紫色へと色を変える。その神秘的な色彩の変化に、僕はいつも、自分が異世界に迷い込んでしまったかのような錯覚を覚える。 彼女は僕の机に、蜂蜜入りのお茶をそっと置く。  「……ありがとう!」  眩しすぎる笑顔。彼女は誰にでも優しい。大樹と仲が良く、……でも、大樹は以前「俺が好きなのは保健室の先生だ」なんて笑っていたっけ。 その言葉を聞いたとき僕は心底安堵した。 有栖が置いたお茶のペットボトルを僕は握りしめる。 彼女と目が合うたび、僕の心臓は場違いなほど騒がしく跳ねて、丸メガネがずり落ちそうになるのを必死に抑えなければならない。 クラスの誰もが彼女を慕っているけど、僕にとって彼女はそれ以上の意味を持っている。灰色に見える日常生活の中で、有栖だけが唯一鮮やかな色彩を持ってそこにいたから。「……本当に可愛いな
Last Updated: 2026-04-24
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