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紫音と魔族③

last update 最終更新日: 2025-06-07 17:00:08

夜も深まってくると町は静まり返る。

暗躍しているリヴァルの部下以外はほぼ寝静まっている頃だ。

町の各所に配置した魔族からの連絡は未だない。

既に町に入ったとの報告以来、まだ一度も次の報告は来ていなかった。

(何かを探しているような動きだな……)

リヴァルは屋敷の屋根の上から町に入り込んだ人間を観察していた。

コソコソと動き回り気配を消しているようだったが、リヴァルには彼らの位置を完全に把握できている。

伯爵級ともなればいくら気配を消したとて看破することは容易い。

(一人明らかに魔力の少ないやつがいる、か。そいつがカナタとかいう男か?)

リヴァルの目ではそれなりの実力者であろう者が二人、自分と同等かそれ以上の者が一人、そして一般魔族にも劣る者が一人いるのが分かっていた。

四人は家々を回って窓から中を覗いている。

その様子があまりに可笑しく、泥棒の真似事かと少しリヴァルも苦笑していた。

しばらく観察していてもつまらないかと、リヴァルは翼を広げて飛び立つ。

向かうは怪しい動きをする四人組の下だ。

背後に音もなく降り立ち声を掛けると四人は驚いた表情を浮かべた。

気配遮断が効いていないとでも思っているのだろう。

リヴァルは一つ芝居を打つことにした。

「おい、お前達何をコソコソと動き回っている」

四人は狼狽えだんまりを決め込む。

それならとリヴァルは魔法を放った。

四人のうち一人が咄嗟に防御魔法を展開しリヴァルの魔法は相殺される。

反応速度は申し分ない。

後は紫音の仲間なのか否かだが、ここでも一芝居打つことにした。

 

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