หน้าหลัก / 恋愛 / キミはまぼろしの婚約者 / シンデレラになる、魔法の一瞬 1

แชร์

シンデレラになる、魔法の一瞬 1

ผู้เขียน: 葉月りゅう
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-21 18:39:26
私が律と衝撃の再会を果たした翌日のお昼休み、購買に群がる人の中でありさとパンを買おうと奮闘していた。 私が狙うのは、いつもすぐに売り切れてしまう、大人気のとろけるチーズ入りカレーパンだ。 今日こそは……!とケースの中を探していると、ひとつだけ発見。よしっ!と内心ガッツポーズをして、手を伸ばしたその瞬間。「あっ!?」 私が掴む寸前で、誰かがひょいっとカレーパンを取り上げてしまった。 唖然としながらばっと顔を上げると、そこにいたのは涼しげな顔をしたキョウ。「ちょっと、それ私の!」「パンは皆のものだろ」 袋の端を摘んで見せびらかすように掲げるこの男に、イラッとした私は頬を膨らませる。「さっきから目でロックオンしてたんですけど」「ちゃんと手にして、初めて自分のものだって言えるんだよ」「なにその小説みたいなセリフ!」 恒例の言い合いをしていると、こちらもパンの袋を手にしたありさが、笑いながら私たちの間に入ってきた。「仲よく半分こすればー?」「「嫌だね」」 声を合わせて、ふんっとそっぽを向く私たちに、ありさは「子供か!」とツッコんだ。 ソフトボール部に入っているキョウは、昼休みはだいたい部活の友達と過ごしているのだが、今日は教室で食べるらしい。 あーだこーだ言いながらもそれぞれパンを買うと、私が真ん中に挟まれるいつもの並び順で教室に向かう。「小夜って昔からカレーパン好きだよな」 カレーパンの他に、もうひとつパンの袋を持つキョウが言った。これらの他にちゃんとお弁当を持ってきていると言うんだから、これまた腹が立つ。「知ってるなら譲ってよね。イジワル」「すねるなって」 ぽんっ、と私の頭に無表情の彼の手が乗せられる。そのままわしゃわしゃと撫でて髪を乱され、私はうがーっとその手をどけた。 そんなことをしながら、私たちのクラスがある二階の廊下を歩いていると、ちらちらとこっちを見る女子ふたりの会話が耳に入ってくる。「……あの子でしょ? さっそく逢坂くんに迫ってたって子」「でもいっつも古畑くんとくっついてるじゃん。男好きだねー」 私に聞こえることも気にしていない様子の彼女たち。こっちは気まずいんですけど……。 どうやらイチャついているように見えるらしい。私たちがこういうスキンシップをしていても、クラスの皆はもうなんとも思わないみたいだけれど、他クラスの子から見れば誤解を招くか……。 でも昔から
อ่านหนังสือเล่มนี้ต่อได้ฟรี
สแกนรหัสเพื่อดาวน์โหลดแอป
บทที่ถูกล็อก

บทที่เกี่ยวข้อง

  • キミはまぼろしの婚約者   シンデレラになる、魔法の一瞬 2

     騒ぎを知らない私たちのクラスに戻ると、和やかな雰囲気ですごくほっとした。いつもの無表情で自分の席につくキョウのそばに、私たちもそろそろと近づく。 なんとなく私と目配せしたありさが、遠慮がちに口を開いた。「……恭哉があんなふうに怒ったとこ、初めて見たわ」 さっそくお弁当を取り出す彼は、前の席の机に軽く腰かけるありさを見上げて口を開く。「惚れたか」「なんでそーなる」 いつもの調子のやり取りに安堵して、私はようやく自然に笑えた。 キョウが私の気持ちを代弁してくれて、少しスッキリした気がする。決して律を責めたかったわけじゃないけれど、自分の中だけであの気持ちを閉じ込めておくのはつらかったから。「キョウ、ありがとう……ってのは、ちょっと違うかもしれないけど」「別に、お前のためだけじゃないし」 ぶっきらぼうに言い放った彼は、小さくため息をついてぽつりと力なく言う。「あいつに忘れられて悔しいのは、小夜だけじゃねぇんだよ」 ……そっか、そうだよね。 自分のことばっかりで、同じ時間を過ごしてきたキョウの気持ちを考えてあげられていなかった。一番仲のいい親友だったんだもん、私と同じくらいショックだよね。 反省しながら謝ろうとすると、キョウはそれを遮り、「それにしても」となにかがふっ切れたような調子で話を続ける。「四年しか経ってないのに、俺たちのこと覚えてないなんて普通じゃねーな。記憶喪失にでもなってなきゃありえないだろ」 ──記憶喪失。さらっとキョウの口から出たそれは、私も昨日から何度か頭によぎっていた。でも……。「本当にそんなことがあるのかな?」「んー……。でも、そう考えれば一番つじつま合うよね」 ありさと一緒に腕を組み、パンを食べることも忘れて考え込む。 記憶喪失だなんて、実際になった人は周りにいないし、ドラマやマンガの中でしか起こらないんじゃないかと思ってしまう。 ふたりで難しい顔をして唸っていると、ありさがなにかを決めたようにパンッと手を叩いた。「よしっ、これから逢坂くんの情報集めよ。そしたら何かわかるかもしれないし」 表情を明るくした彼女は、私の肩に手を置いて、まっすぐ目を見つめてくる。「再会できただけで、小夜はでっかいチャンス掴んでるじゃん。まだ絶望するのは早いよ!」「ありさ……」 前向きなその言葉は、私の心にほのかな希望の光を灯してくれる。 確かに、再会できなかったらあの

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-21
  • キミはまぼろしの婚約者   シンデレラになる、魔法の一瞬 3

     それからというもの、私は律を見かけるたびに意識を集中させていた。 校庭で体育をしているのが教室から見えると、授業中でも律の姿を懸命に探してしまうし、廊下ですれ違う時は耳までダンボにしている。 彼のそばにはいつも男女問わず友達がいて、それは昔と変わらない明るくて優しい性格のたまものなんだろうなと思う。ただ……。「ねぇ、逢坂くんに会いたいっていう他校の子がいるんだけど、どう?」「んーどうしよっかな。俺、紹介料高いよ?」「え~!?」「可愛いコならまけてあげる」「なにそれー」 律と彼のクラスの女子が、廊下でそんな会話をして笑い合っている。それを横目に、私は心の中で大きなため息を吐き出しながら自分の教室へ入った。 ……軽い。ティッシュくらい軽いよ、あの応対。昔の律は絶対あんなこと言う人じゃなかったのに……やっぱりショック。 どの女子とも平等に仲良くしているけど、私とすれ違っても目すら合わさないし、忘れられているどころか興味もないとしか思えない。 でも、真木ちゃんが仕入れてきた情報によると彼女はいないらしいから、それだけは救いかな。 昔ここの街に住んでいたことがあるというのは話しているらしく、記憶喪失だなんて話はまったくないらしい。本当にただ忘れているだけなのかな……。 ぼけっと考えていると、ジャージが入ったバッグを持つありさが、「体育行こー」と声をかけてきた。私も慌てて準備をして、ミキマキコンビも一緒に四人で体育館へ向かう。「海姫、今度の球技大会は絶対勝とうね!」 スポーツ全般が得意なありさは、同じく運動神経抜群の海姫ちゃんの肩に腕を回して、意気揚々と言った。海姫ちゃんも得意げに口角を上げる。「もちろん。ブザービートで三ポイント決めて勝つシナリオができてるわ」「それめっちゃアツいじゃん! 安西先生もびっくりだよ」「てことで、ありさ頑張ってね」「あたしがやるんかい!」 盛り上がるふたりを、私と真木ちゃんはのほほんと後ろから眺めながらついていく。 気づけばもう五月に入っていて、月末には球技大会があるのだ。 私は、運動は嫌いじゃないけど得意でもない。いや、むしろどんくさい。だから、ありさたちがとっても羨ましいし、カッコいいなと思う。「気合い入ってるなぁ、ふたり」「私はサッカーがよかったです」 ふいに、運動嫌いを公言している真木ちゃんがそんなことを言うから、私はキョトンとする。「え

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-21
  • キミはまぼろしの婚約者   シンデレラになる、魔法の一瞬 4

    4「……律……!」 そこにいたのは恋焦がれる彼で、ドクンと大きく心臓が揺れ動く。 見たところ、今ここには律と私しかいない。ふたりきりだ。 バクバクと鳴る心臓の音が聞こえそうなくらいの静けさの中、私を見た彼も驚いたように目を開いた。しかし、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。「あぁ、君はこの間の……小夜ちゃん、だっけ」 ぎゅ、と胸が締め付けられる。 やっぱり他人行儀であることの悲しさと、ふたりで話せることの嬉しさが混ざって変な感じだ。 複雑な顔をして固まったままでいると、「どうしたの?」と声をかけられた。一応、普通にしていなきゃ。平常心、平常心……。「あ、えっと……体育で足捻っちゃって。先生は?」「会議があるからって、さっき行っちゃったよ。でも、手当てくらいしていっていいんじゃない」「そ、そうだよね」 うわ、絶対私の笑顔ぎこちなくなってる……。無理だよ、何事もなかったように平然と接することなんてできっこない。 ……いや、ちょっと待って。何事もなかったようにする必要なんてないよね、よく考えてみれば。 律に合わせなきゃってなんとなく思っていたけれど、そんなことしなくていいじゃない。あの頃の想いはまだ生き続けているんだから。 私は私のままでいいんだ。律のことを好きな、私のまま。 そう思ったらなんだか肩の力が抜けて、自然と動き出せるし、言葉も出てくる。「……律はなにしてるの?」 湿布を探しながら、呼び方もあの頃のまま変えずに言うと、彼は特に気にした様子もなく笑みを向ける。「ちょっと用事あって、来たついでにのんびりしてただけ。俺、保健委員なんだよね」「そうなの!?」 委員会は強制とかいうわけじゃないし、まだ転入したばかりの律が入っているとは思わなかった。しかも保健委員を選ぶなんて、なんだか意外。 目を丸くする私に、彼は「真面目だろ」と言って口角を上げる。「先生俺に甘いから、こうやって好きなだけ居させてくれるし、ベッドも使いたい放題」 そう言っておもむろに腰を上げた律は、なぜか私に近づいてくる。 ドキッとして硬直すると、彼はどこか色っぽい表情で、とんでもないことを囁いた。「……一緒に寝てく?」 な、ななななに言ってんのっ!? ギョッとしつつ、一瞬で顔を真っ赤に染める私。冗談だとわかっているのに動揺してしまう。「っ……遠慮します!」 口をパクパクさせた後、なんとか声を出してバッと顔を背け

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-21
  • キミはまぼろしの婚約者   シンデレラになる、魔法の一瞬 5

     片足でぴょんぴょん跳ね、とりあえず律から離れようとしていると「そこ座りなよ」と声をかけられ、動きを止めた。 振り返ると、片手をポケットに入れた律が、もう片方の手でベッドを指差している。 ぽかんとする私に、彼はさらにこんな一言を告げる。「で、脱いで」「……はぁっ!?」 ぬっ、〝脱いで〟!? 冗談でもありえない! さっきの発言だけであれだけ動揺したのに、そんなグレードアップしたことを言われたら頭はパニックだ。 瞬間湯沸かし器みたいに一気に沸点に達する私を見て、律はぷっと吹き出した。そして、なにやら棚の引き出しを漁ると、なんとか笑いを堪えながら取り出したものをこっちに掲げてみせる。「脱ぎなよ、靴下。俺が手当てしてあげるから」「へ……?」 意外なひと言に、私は目をしばたたかせる。 律が手に持っているのは、湿布と白いテーピングらしきもの。も、もしかしなくても、私がはやとちりしただけ……?「なに考えたの? やらしーね」 いたずらっぽく右の口角を上げるチャラい王子様を前に、私は湯気が出るくらい顔を熱くしながら、「もぉ~~っ!」と牛のごとく叫んだのだった。 捻挫の時は湿布を貼るということくらいの知識しかない私は、律に任せてみようと思い、言われるがままベッドに腰かけた。 紺色のソックスを脱ぎ、湿布を袋から取り出す彼を眺める。 心底湧いた恥ずかしさはやっと落ち着いてきたものの、今度は緊張感が襲ってきてハンパじゃない。 律の手が、私の足に触れる。ただそれだけで、心臓がはち切れそうなくらいドキドキしてしまう。 「腫れはたいしたことないな、大丈夫」 私の前にしゃがみ、足首を観察する彼から優しい声がした。その手が、いたわりながら撫でるように滑るから、これだけで痛みが引いていくような気さえする。 とはいえ、緊張がほどけることはない。紛らせるために、なんでもいいから会話を続けたい。「ホームルーム、出なくていいの?」「もう終わったんだ。今日は特別早くて」「そっか」 たわいない話をして早鐘を打つ胸をなだめている間に、ひんやりとした湿布の上からテーピングが巻かれていく。 それを見下ろしながら、私は手際の良さに感心していた。「上手だね。さすが、昔からサッカーやってただけある」「そうかな、これくらい誰でもできるだろ」 なんてことない、といったふうに軽く笑って、手を動かす律。 伏し目がちな顔もとっても綺麗で

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-21
  • キミはまぼろしの婚約者   仲を深めよう作戦 1

     ねえ、律。 今度会えた時は、デートらしいことをしたいな。  映画を見に行ったり、水族館に行ったり……っていう定番のデートに憧れてるの。 一番行きたいのは遊園地。アトラクションではしゃいで(お化け屋敷以外)、いっぱい写真撮って、最後はやっぱりお決まりの観覧車ね。 なんて、ありきたりなデートを夢見てるけど、結局ふたりで一緒にいられるならどこでもいいんだ。 そんな日が来るのは、いつになるかな……。 * * * 捻挫した足首もすっかり良くなって、球技大会が間近に迫ったある日のお昼休み。私は購買でゲットしたカレーパンを持ったまま、キョウとありさにあることを話していた。 それを聞いて、私の前の席を借りているありさが、驚きと困惑が混ざったような顔をする。「逢坂くんが、本当はふたりのことを覚えてるかもしれない……!?」 私が言ったことを繰り返す彼女に、小さく頷いた。 今話したのは、以前保健室で律と交わした会話で感じた、あの引っかかりのことと、私の推測。 すでにご飯を食べ終えているキョウは、窓枠に寄りかかって腕を組みながら言う。「言われてみれば不自然な気もするけど、それだけじゃ証拠不十分だろ」「そうなんだけど……でも今もあったの。あれ?って思うことが」 それは、このカレーパンを買いに購買へ行った、ついさっきの出来事。 運よくひとつだけカレーパンがあるのを見つけて手を伸ばしたら、前方から誰かの手が伸びてきた。 まさか、またキョウ!?と思いバッと顔を上げると、そこにいたのは同じく顔を上げて目を丸くする律だったのだ。 あっ、と思った瞬間、律はカレーパンに伸ばしていた手を隣にスライドさせた。 そして手にしたのは、こちらも美味しいあんバタサンド。ぽかんとする私に、彼はにこりと微笑んで、軽く手を振って去っていったわけだけど……この行動も違和感がある。 だって、昔から律はあんこが苦手なはずだから。 もしかしたら克服したのかもしれないけれど、私にはカレーパンを譲ってくれたように思えて仕方ない。私の好物を律もよく知っていたから、そのせいじゃないかって。 「……それもいまいち説得力ねぇな」 真剣に話したっていうのに、キョウの間延びした声にムッとする。「律は、私が甘い菓子パンよりカレーパンが好きだってことを知ってたんだよ」「〝太るからやめとけ〟って忠告だったのかもしれないじゃん」「だとしたら律はすっ

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-21
  • キミはまぼろしの婚約者   仲を深めよう作戦 2

     その数日後、キョウは四組の前の廊下に律を呼び出していた。私とありさも、一応彼の後ろにくっついている。 やってきた律は、私たちを怪訝そうに見て口を開く。「なんのご用で?」「謝罪と勧誘をしに」 ぶっきらぼうに言うキョウは、無愛想なまま腕を組んでさらに続ける。「この間は急にキレて悪かった。おわびに、〝俺たちとサニーサイドランドへ行こうの集い〟に誘ってやる」「……謝ってくれてるんだよね?」 なぜか上から目線のキョウに、律はぎこちなく笑い、私とありさも目を見合わせて苦笑した。 なんでこんな誘い方になるかなぁ……やっぱりついてきてよかったよ。 すると、ありさがひょこっとキョウの隣に並んで笑顔を見せる。「あたし、棚橋ありさっていいます、よろしく。サニーサイド行ったことある? 逢坂くんもどうかな?」 さすがありさ、フレンドリーだ。 助け船を出してくれた彼女を頼もしく思いながら、律の様子を伺う。予想はしていたものの、その表情はあまり気が乗らなさそうだ。 「……せっかくだけど遠慮するよ。俺、君たちとそんな仲よくないし」「仲よくなるための計画なんだよ」 間髪入れずに、キョウが言った。律は悩むように目を伏せる。やっぱり難しいかな……。 半ば諦めモードでいると、キョウがこんなひと言を口にする。「球技大会、どうせサッカー出るんだろ? 律のチームが俺たちに勝ったら来い」 ……ん? 〝勝ったら来い〟って、なんかおかしくない? 律も微妙な顔で首をかしげる。「そこは普通、〝負けたら来い〟って言うとこなんじゃ?」「負けたりなんかしねぇだろ、お前は」 ……ああ、そうか。キョウは律が勝ちに行くと信じているんだね。だから〝負けたら来い〟なんて命令は意味がないのだ。「……どうしても来てほしいみたいだな」 ふっと呆れにも似た笑いを漏らした律は、小さく頷くと、挑戦的な瞳でキョウを見据える。「絶対勝ってやる」「臨むところだ。ま、俺はソフトボールだから出ないけど」「出ないのかよ」 肩透かしをくらった律のツッコミに、私たちは思わず吹き出してしまった。つられたように律も笑って、一瞬昔にタイムスリップしたような感覚を抱いた。 この和やかな雰囲気、すごく懐かしいし、嬉しい。これからも、こうやって笑い合っていられたら幸せなんだけどな……。

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-21
  • キミはまぼろしの婚約者   仲を深めよう作戦 3

     球技大会当日、私たち女子四人組は、自分たちの試合の合間にサッカーの試合を見に来ていた。キョウがけしかけた、あの約束が懸かっている試合だ。 コートの中では、白いTシャツとジャージの姿も爽やかな律が華麗にボールを操っている。「さすが、逢坂くんカッコいいですね」「ほんとほんと。サポーターの歓声が一気に黄色くなったわ」 真木ちゃんと海姫ちゃんが、腕組みをしながら感心したように話している。黄色い声援は送っていないけれど、目をハートにしているのは私も同じ。 律がサッカーをやっている姿、久々に見た……本当にカッコいい。「あれでサッカー部入ってないなんて、もったいないねぇ」 ありさの言葉に、私も心底同意する。 少し前に真木ちゃんから聞いていたのだが、律は高校ではサッカー部に入っていないらしい。理由まではわからないけれど。 私はずっと続けるものだと思っていたから、ものすごく意外だ。「でもなんか、ちょっと手を抜いてるような気が……」 なんとなくだけれど、動きにキレがないように思えて、そう呟いた。 時々怠そうにしているし、あまり走り回ってもいない。足を気にするような仕草も見せている。 足が痛いのか、具合でも悪いのかな、と少し心配しながら彼の姿を追う私に、海姫ちゃんは軽い調子で言う。「彼にとってはお遊び程度なんじゃない? うちのクラス、とびきりサッカーが上手な男子ってそんなにいないし」「あー、そっか……」 五組でサッカー部に入っているのはひとりだけ。四組には数人部員がいるし、確かに律が本気を出すまでもないのかも。 納得していると、ありさが私にコソッと耳打ちしてくる。「それもあって恭哉はあんな挑発をしたのかもね。余裕で勝てるってわかってたから」「それ、うちのクラスの男子にかなり失礼だけどね」 少し離れたところで、友達と試合を眺めているキョウをちらっと見やり、私は苦笑いした。 結果はキョウの思惑通り、三対一で律のクラスの勝利。これで、私たちは四人で遊びに行くことが決定したわけだ。 望んでいたことなのに、ちゃんと決まると急に緊張してきてしまう。いったいどうなるだろう……。 球技大会から約二週間後の、六月中旬の土曜日。薄い雲がかかった空はそれほど日差しも強くなく、外で遊ぶにはちょうどいい。 今日の目的地は、サニーサイドランドという私たちの街から一番近くにあるテーマパーク。 遊園地をメインに、

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-21
  • キミはまぼろしの婚約者   仲を深めよう作戦 4

    「あ、ふたり早ーい!」 そこへ、ショートパンツから細い脚を覗かせるありさがやってきた。彼女の隣には、今日も無愛想なキョウがいる。「一緒に来たの?」「まさか! コンビニ寄ってたら会っちゃった」 ありさと笑って話している横では、キョウが律と向かい合う。「ちゃんと来たな」「来なかったらまた教室に乗り込んでくるだろ」  冗談っぽく返す律だけれど、キョウは満足げな笑みを浮かべていた。 さっそく電車に乗った私たちは、程よく混んでいる車内の隅に立つ。こんなふうに皆で出かけるのは久々だ。わくわくしているのは私だけかな? 流れる景色を目に映していると、ありさがなにげなく言う。「サニーサイドって、なんかゆるキャラみたいなマスコットいたよね」「おひさまの妖精、サニーレ」 キョウがすぐ解答して、私もありさも「それそれ!」となぜか盛り上がる。サニーサイドとサニーレタスをかけているらしい、キモかわいいマスコットがいるのだ。「おひさまっていうくせに見た目レタスみたいなんだよな」「なんだそれ」 キョウの説明に、律が笑いながらツッコんだ。 無邪気な笑顔を見せる彼にまたキュンとしていると、ありさが「逢坂くんはサニーサイド初めて?」と問いかけた。律は少し考えるように、目線を斜め上にさ迷わせる。「いや、すっごい昔に行った……けど、中がどんなだったかはもう覚えてないね。その頃はそんなレタスの妖精もいなかった気が」「おひさまの妖精な」 珍しくキョウが即座につっこみ、私たちは爆笑した。 律も楽しそうに笑っていて、私は心底ほっとする。いつの間にかわだかまりはなくなっているし、このまま楽しい一日を過ごせたらいいな。 今日は律の昔のことに関してはなにも話題にしないようにしようと、前から三人で話していた。なので、質問するのは当たり障りないことばかりだったけれど、それでも確実に打ち解けてきているのを感じていた。 三十分ほど電車に揺られた後、最寄り駅からさらに十分ほど歩いてサニーサイドランドに到着。家族連れや、私たちと同じような学生らしき集団で賑わっている。「久しぶりに来たー! なにから乗ろう~」「まずは腹ごしらえじゃね?」「もう!?」 わいわいと話すありさとキョウの後ろで、私はポケットに片手を入れて歩くモデルのような律を見上げる。「律は絶叫系は平気?」「実はあんまり」 そうなんだ、これは初めて知った。ちょっと意外。 苦

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-21

บทล่าสุด

  • キミはまぼろしの婚約者   まぼろしのIove you 2

     両親への挨拶が済んだ後、私たちはふたりで借りたアパートへ向かった。 部屋に入るとどっと疲れが出て、ふたりしてソファに座り込む。「あー……よかった。ふたりも認めてくれて」「ああ。おじさんたちも、小夜とそっくりで素敵な人たちだって再確認したよ」 嬉しいことを言ってくれる律は「あ、もうお義父さんになるのか」と呟き、私は幸せな笑いがこぼれた。 手を繋ぎ、彼の肩にこてんと頭を乗せる。「これからずっと一緒にいられるなんて、本当に幸せ」「俺も」 幼い頃の約束をずっと実現させたいと思っていたけれど、実際にそうなると夢みたいな気分。 愛しさが膨れて、ふいにキスをしたくなって彼に顔を向けたら、同じことを考えていたのか視線が絡まった。 自然に唇を寄せ、温かな口づけを交わすと、律は私の髪を梳きながら熱っぽい瞳で見つめる。「……抱いていい? 改めて小夜の大切さを実感したら、全部欲しくなった」 心臓がときめきの音を奏でる。大人になった彼は、色気がありすぎてくらくらするほど。 私は頬が火照るのを自覚しながら、こくりと頷いた。「私も、律にいっぱい触れたかった」 正直に返すと、彼も少し頬を赤らめ「可愛くてたまんない」と微笑む。もう一度唇を寄せると、タガが外れたように濃密なキスをお見舞いされた。 私たちが抱き合える日はそんなに多くない。ふたりきりになれるのは週末だし、律の体調や仕事のタイミングで叶わない時もあるから。 だから、私は毎回緊張して、ずっとドキドキしているのだ。 ソファでたくさんキスをした後、ベッドに移動して身体中を甘く愛撫する。「愛してる」と何度も囁き合い、十分に慣らされてから熱く滾る彼を迎え入れた。 重なる肌からも、自分の中の奥深くでも、彼が生きていることを感じられる。 こんなに幸せなことはないと、とろけそうな意識の中で思いながら汗ばむ背中にしがみついた。 それから数日後、私の誕生日に、律とふたりで海に来ていた。夏真っ盛りで暑いけれど、手を繋いでゆっくり砂浜を歩く。 こうしているなにげない瞬間、一分一秒が、私たちにとっては宝物だ。「キョウは来月こっちに戻ってくるんだっけ?」「ああ。『早く帰りたい』ってそればっかり言ってるよ」 穏やかな波音に、私たちの笑い声が混ざり合う。 あれからキョウは自動車メーカーの営業マンに、ありさは調理師になった。別々の道に進んでも、相変わらず連絡はとっている

  • キミはまぼろしの婚約者   まぼろしのIove you 1

     小夜、今までありがとう。 高校を卒業してから約五年。辛いことも楽しいことも、全部ふたりで分かち合ってきたけど、 終わりにしよう、俺たち。 * * * 高校を卒業して、早くも五年が経った。 律が飲む薬の量はそこまで変わらず、普通の生活を送ることができている。むしろ、だいぶ症状に慣れてきた分、以前よりも充実した毎日を過ごせていると思う。今はお互い社会人として精一杯生きる日々だ。 私は大学に進学し、理学療法士の資格を取って総合病院に就職した。この道を選んだのはもちろん、律を支えていくために勉強し、その力を存分に使いたいと思ったから。 リハビリのサポートは大変なことも多いけれど、患者さんとのおしゃべりは楽しいし、『あなたのおかげでこんなことができるようになったよ』と感謝されると心から喜びを感じられる。新たなやりがいを見つけられたので、私も律に感謝だ。 律はITのスキルを学べる専門学校に進み、今は大手のインターネット企業でデスクワークをしている。病気に理解があり、リモートワークもできる職場なので、自分のペースで無理なく働けているようだ。 大人になりスーツを着こなす律も当然カッコよくて、会社の女性社員に狙われやしないか、私は内心不安だったりするけれど。 私が就職してからアパートも借りて、週末はそこでふたりで過ごす半同棲生活を送っている。 これは律からの提案だった。『お互い実家暮らしじゃ、思う存分小夜に触れられないから』という、なんとも赤裸々な理由で。 こぢんまりとした部屋に好きな家具や雑貨を置いて、一緒にご飯を食べて寄り添って眠る。この平凡な生活がなにより幸せで、心を満たしてくれる。 ケンカはめったにしない。律が少し無理をして、それで私が怒ってしまう時がたまにあるものの、すぐに謝るから。 時に意見がぶつかって、仲直りしてまた笑い合う。その繰り返しで、私たちには誰よりも強い絆が出来上がっていると自負している。 ──しかし、私の二十三回目の誕生日を約一週間後に控えた今日。この日ばかりは、私と律はお互い固い表情で、あまり言葉も交わさずに隣り合って座っている。 私の家のリビングで、向かい合っているのは私の両親だ。〝話がしたい〟とだけ伝えてあったのだが、おそらく内容は予想できていただろう。 さらに、スーツを着ている律を見て確信したはず。私だけでなく、両親も緊張しているのがわかる。

  • キミはまぼろしの婚約者   愛する君と、誓いのキスを 3

     一般公開が終わった後は後夜祭が行われる。その時に会おうと、律と約束していた私は、クラスの後片づけが終わると四組に向かった。 しかし、教室に律の姿はない。「逢坂なら、古畑と一緒にどこか行ったよ」「えっ?」 律とよく一緒にいる男子が教えてくれて、私は目が点になった。 律がキョウと? なにか話があったのかな。どこに行ったんだろう……。 少しだけ考えて思い浮かんだのは、以前彼に連れられて行った屋上に繋がる階段。なんとなくそこへ向かってみると、上のほうから話し声が聞こえてきた。 思わず忍び足になり、そうっと近づいてみると、聞き慣れた男子の声が聞こえてきた。「病気だなんて知らずに、いろいろ言って悪かったな」 この声に内容……やっぱりキョウが律に言っているようだ。 邪魔はできないけれど話も気になって、私はその場で静かに耳を澄ませる。「いいんだよ、そんなの。言われても仕方ないことをしてたのは俺なんだから。……ていうか、キョウのおかげで思い直すこともできたし」 キョウのおかげ? やっぱり私が知らない間に、ふたりは話していたのだろうか。「病気になってから、いろんな考え方がネガティブになってて。〝頭はしっかりしてんのに、どうして身体が言うこときかないんだ〟、〝俺は人に迷惑かけるばっかりだ〟ってずっと思ってたんだよ」 胸がきゅっと締めつけられるのを感じていると、彼は「でも」と続ける。「今は〝制限のある自分は、大切な人になにができるかを考えるためにこの頭があるんだ〟って思えるようになった。だから、ありがとな」 律の声は、明け方の空みたいに澄んでいて、私の胸の苦しさも和らいでいく。 キョウがなにを言ったのかはわからないけれど、律の気持ちを変えるくらいの影響力があったんだろう。さすが、親友だね。「……ようやく気づいたか」 キョウがふっと笑い、穏やかな声色で言う。「でも、律がそうやって考えてるってことが、小夜にとっては一番幸せなんじゃねーかな」 彼の言葉は、私の心にも優しく流れ込んでくる。 キョウの言う通り、私はなにもしてもらわなくても、律のその気持ちがあれば十分嬉しい。 姿が見えなくても、ふたりの和やかな雰囲気を感じる。昔よりもっと絆が深まったようで、私も自然に表情がほころんでいた。「……あ?」「ひゃっ!」 突然、階段を下りてきたギャルソン姿のキョウが現れて、私は飛び跳ねそうなくらいびっくりし

  • キミはまぼろしの婚約者   愛する君と、誓いのキスを 2

     こんな賑やかな始まりを迎えた二学期、私の心は澄み渡っていた。 律の体調は気がかりだけれど、彼のクラスの仲よしな友達も、病気をカミングアウトして以来気遣ってくれているらしく、特に問題は起こっていない。 以前までのチャラチャラした雰囲気はまるで消えているし、女子たちは不思議がっているかもしれない。 そして、あっという間に文化祭を迎え、今日は一般公開二日目。 うちのクラスのコスプレカフェという名の出し物も、まあまあな盛り上がりだ。奇抜なコスプレをしている人もいる中、私はフリフリのレースがついたちょっとだけゴスロリっぽい服を着ている。 休憩の時間になると、ありさと一緒に比較的静かな体育館の横にやってきた。 なぜか海賊のコスプレをしている彼女、めちゃくちゃ似合っている。うっかり惚れてしまいそう。「なんか女子から熱い視線を感じるんだよね」「だって、ありさカッコいいもん!」 同じく熱い視線を送る私に、ありさは呆れ顔をする。「でも裏方の手伝いしてる時、料理の手際の良さに感心してる男子も結構いたよ」「そぉー? ま、あたしの魅力に気づいてくれる人がひとりくらいいてもいいか」 無邪気に笑ったありさは、美味しそうにクレープを食べ始めた。 私も種類の違うクレープを味わい、しばらくするとありさが神妙な顔をして言う。「それにしても、まさか逢坂くんが難病患者だったとはねー……」 つい先日、ありさとキョウにも、律が病気のことを打ち明けていた。 ふたりとも驚きを隠せない様子だったけれど、もちろん受け入れてくれている。「サニーサイド行った時に、意外と歩くのゆっくりだなぁとは思ったけど、それも病気のせいだったんだ」「うん……言われてみれば、って感じだよね。いつもは全然普通だし」 時々信じられなくなる。こんなに元気なのに、必ず動けなくなる時が来るなんて。 でも、いつか訪れるその時も、私は彼に寄り添っていたいと思う。「律は私たちに迷惑かけたくなかったみたいだけど、私は逆にもっとそばにいたいって思うようになっちゃったよ」 なにげなく口にしたけれど、恥ずかしいことを言った気がして顔が熱くなってくる。 照れ隠しで大口を開けてクレープを頬張ると、ありさがふふっと笑った。「でも、逢坂くんが離れようとしてたのも、小夜との将来をちゃんと考えてたからでしょ。それってすごいことだよね」 ありさの言う通りだ。 私はずっと当たり

  • キミはまぼろしの婚約者   愛する君と、誓いのキスを 1

    「おはよー」「あー眠い……」「ねぇ、数学の課題やった?」 いつもと変わらない、クラスメイトの雑談が飛び交う新学期の朝。私はこれまでと少し違った気持ちで教室に入った。 自分の席に荷物を置いたありさは、満面の笑みを浮かべながら私の席にやってくる。「いやーもう本当によかったねぇ、小夜~!」「お前それ何回目だよ」 一緒に登校したキョウが、ありさに呆れた声を投げた。でも彼女はそんなこと気にせず、私に抱きついている。「だって嬉しいんだもん! 小夜の長かった恋が報われてさー」「ありがとね、ありさ」 私もすっごく嬉しいよ。律とまた気持ちが通じ合えたことも、ありさがこんなに喜んでくれることも。 夏休み中に、誕生日を祝ってくれた皆には律とのことを報告していた。病気については律が自分から話すと言っていたので、キョウとありさにもまだ打ち明けていない。 こうやって会うのは久々だから、ありさはテンションが上がっているらしい。私はそんな彼女からキョウに目線を移して微笑む。「キョウもありがとう。いっぱいお世話になりました」 うやうやしく頭を下げると、相変わらず無愛想な彼はちょっぴり意地悪なことを言ってくる。「またどっか行っちまわないように、鎖でもつけといたほうがいいんじゃねーの?」「もう大丈夫!」 自信を持って答えると、キョウの顔にもふっと笑みが生まれた。 思えば、キョウは事あるごとに私を助けてくれていた。今があるのは彼の力も大きいので、「本当にありがとね」と告げた。 満足げで、でもなぜか少しだけ寂しそうにするキョウに、真木ちゃんが近づいてくる。「新しい妻は、この海姫様なんていかがでしょう?」「へっ?」 まぬけな声を合わせ、キョトンとする私たち。真木ちゃんの後ろから姿を現した海姫ちゃんは、なにやら艶やかな笑みと仕草でキョウの肩に手を回した。 ギョッとする彼に、海姫ちゃんが色っぽく迫る。「たまには同学年もアリかーと思ってね。ぽっかり空いた隙間を埋めてあげるわよ、恭哉クン?」「……色気あるお姉様タイプもいいかもな」 顎に手をあてて真剣に言うキョウに、私たちは吹き出した。お互い冗談なのかどうなのか、すごく微妙だけれど。 そうして皆で笑い合っていると、急に教室内がざわめき出す。なんとなく周りに目を向けると、うちのクラスにはないオーラを放つ人物が中に入ってきた。「律……!?」 あれ、なんで律が? 彼がこの教

  • キミはまぼろしの婚約者   曇った未来に幸せひとつ 6

     えっちゃんから話を聞いた後、彼が「どうぞ」と言うので、私は律の部屋に入らせてもらった。 顔色はさっきよりも良くなっていて、穏やかに寝息をたてている彼を見て、少し安心する。 夕日でオレンジ色に染まる、シンプルで男らしい部屋をぐるりと見回してみる。 小学生の頃は、サッカーボールやユニフォームが目につくところにあったけれど、今は見当たらない。チームの皆や、私たちと撮った写真ももう飾られていなくて、寂しい気持ちになった。 本棚には律が好きらしい漫画が並んでいて、その一番端に、漫画ではない本が何冊かある。 背表紙には、彼の病名が書かれている。病気についての解説書や、患者さんの闘病記のようだ。 律もこの病気の患者なのだと改めて思うと胸が苦しいけれど、私ももっと詳しく理解したい。 少し目を通してみたくて本を拝借しようとした時、その本の隣に見覚えがある箱を見つけて、私は動きを止めた。「これ……」 思わず小さな声を漏らして、お道具箱みたいなそれにそっと手を伸ばす。 可愛らしい赤いチェック柄のその箱は、律が引っ越す前に私やキョウがあげたものだと、すぐに思い出した。 確かこれにお菓子を詰めて、餞別のつもりであげたのだ。それをとっておいてくれたなんて。 懐かしさが込み上げつつ、今は中になにが入っているのか気になる。ちらりと律を見やるも、まだ起きる気配はない。 ……ちょっとだけ、見てもいい? ちょっとだけだから! 好奇心が勝ってしまった私は、心の中で勝手に律に断りを入れて箱に手を伸ばす。そっとふたを開けてみて、目を見開いた。 中に入っていたのは、これまた見覚えがある封筒の束。私が送った、手紙の数々だった。 全部、大事にとっておいてくれたんだ……。 嬉しさを噛みしめるも、ひとつだけ気になるものがある。たぶん私のものではない、ぐしゃぐしゃに丸められた紙だ。これはなんだろう。 どうにも気になって、また〝ちょっとだけ!〟と心の中で言い、ゆっくり開いてみる。 綴られた文字を見て、驚きで心臓が飛び跳ねた。シンプルな便箋には、【緒方小夜さま】と書かれていたから。 うそ……これ、律が私宛てに書いた手紙!? 信じられない気持ちで文字を追うと、私の名前の下には【十五歳の誕生日、おめでとう】と書かれている。 十五歳って、えっちゃんのふりをして手紙をくれたのと同じ、中学三年の時だ。どうしてそんなものが……と不思議

  • キミはまぼろしの婚約者   曇った未来に幸せひとつ 5

    「サッカーができなくなっちゃったのも、それで……?」「そう。激しい運動はやっぱりやめたほうが良くてね。でも律の場合まだ症状は軽いし、薬を飲んでいれば日常生活には支障ないよ」 えっちゃんは私を安心させるように微笑んだ。日常生活に問題はないとわかって、少しほっとする。 とはいえ、大好きなサッカーができなくなって、律はどれだけ悔しかっただろうと思うと、やり切れなさでいっぱいだ。 えっちゃんもすぐに表情を曇らせて、声のトーンを落とす。「でも、今日は特別調子が悪かったみたいだね」「あんなふうになることはよくあるの?」 さっきの律の姿を脳裏に蘇らせて、胸の中に不安と心配が渦巻いたまま問いかけた。 彼は「そんなことないよ」と否定したものの、表情は浮かない。「薬の服用のタイミングや量が合わないと、いろんな副作用が出るんだ。人によって症状は違うみたいだけど……律は足が動かなくなっちゃったみたいだね。今日の状況を聞くと」 だから、踏切の真ん中で立ち止まったまま動けなくなってしまったんだ。あの時、私が彼を見つけていなかったらと思うとゾッとする。「ついこの間、薬の種類が変わったからそのせいかもな。少量の違いで症状が出るから、コントロールが難しいんだ。いつ、どれくらいの量を飲むのか、律が自分自身でちゃんと把握して、うまく付き合っていかなきゃいけない」「そんなに難しい病気なんだ」「ああ……。まあ、今日は暑さにやられたせいもあるかもしれないけど。これだから出無精は困るよ」 口を尖らせているけれど、弟想いなのが伝わってきて、少しだけ笑みがこぼれた。「じゃあ、薬を飲んでいれば症状は抑えられるんだよね?」 そんなに副作用が出てしまうのは怖いけれど、気をつけていれば大丈夫なのかな。完治はしないとしても……。 えっちゃんは、ほんの少し口角を上げて答える。「薬が効いている間は、普通に生活できるよ。寿命には関わらないから、他に病気や事故に遭ったりしなければ長生きできるし」「そうなんだ……!」 余命があるようなものではないと知って、私はあからさまに安心してしまった。 しかし、えっちゃんの声は明るくならないまま、「でも」と続ける。「症状は確実に進行する。何年もかけて、すごくゆっくりとだけど。何十年先かわからないけど、将来寝たきりになるのは避けられない」 その事実を聞いた瞬間、目の前が暗くなる感覚がした。 律の身体

  • キミはまぼろしの婚約者   曇った未来に幸せひとつ 4

     電話で言った通り、十分足らずで来てくれたえっちゃんの車に乗り込むと、律は安心したのかすぐに眠ってしまった。 ほどなくして着いたのは、えっちゃんも一緒に暮らしているというマンション。彼は律を抱き抱えて一階の部屋に運び、私をリビングに上がらせてくれた。「悪かったね、迷惑かけて」「ううん、私は全然」「たまたま俺が休みでよかったよ」 苦笑するえっちゃんは、あまり動揺した様子はない。私はすごく心配したけれど、病院に連れていくほどでもないみたいだし……。 やっぱり、ちゃんと律の身体のことを知りたい。律が寝ている部屋のほうを眺めていると、キッチンに回ったえっちゃんが「なにか飲む?」と問いかけた。 お言葉に甘えて飲み物をもらうことにした私は、リビングのソファに座って彼を眺める。 その姿はすっかりカッコいい大人の男性だけれど、優しい雰囲気は昔のままでなんだか落ち着く。おかげで、四年ぶりだというのにまったく違和感なく話せる。「はい、おまたせ」「ありがとう。あの、おじさんたちは?」 琥珀色の液体の中で氷が揺れるグラスを受け取りながら聞くと、えっちゃんは私の向かい側のソファに座って説明してくれる。「引っ越してからは母さんと三人で暮らしてて、親父だけ仕事の関係で向こうに残ってる。律を診てくれる病院はこの街が一番よくて。俺もこっちで就職したから面倒見れるし」「そうだったんだね……」 ということは、おじさんだけ単身赴任している感じなんだ。律が病院に通いやすいように、この街に引っ越してきたということらしい。「今日は母さんも親父のとこに泊まりで行ってるから、小夜ちゃんも遠慮なくいてくれていいよ。律はまだ起きないだろうし」 穏やかに微笑んで、グラスに口をつける彼。私もアイスティーをひと口飲んで、気持ちを落ち着けてから口を開く。「……えっちゃん、律はどんな病気なの?」 核心を突くと、えっちゃんは少しだけ表情を曇らせて苦笑を漏らした。「律は隠したがってたけど、もう今日のことで小夜ちゃんも気づいたよね」 目線を上げた彼は、意を決したように真剣な表情でこう言った。「律は、身体を動かしにくくなったり震えたりして、運動がスムーズにできなくなる病気なんだ。今は進行を止める治療薬がなくて、難病に指定されてる」 難病……その重々しい単語を耳にして、ドクンと鈍い音が身体の奥で響いた。「高齢者に多い病気なんだけど、若くし

  • キミはまぼろしの婚約者   曇った未来に幸せひとつ 3

    「はあ……よかったぁ」 一気に力が抜けて、へなへなと倒れ込みそうになるも、私の横には倒れたまま動かない律がいる。うつぶせで横に向けた顔は青白く、苦しそうに歪んでいる。「律っ! ねえ、大丈夫!?」 どうしよう、どう具合が悪いんだろう? あそこで動けなくなるくらいなんだから相当なはず。 まだパニックは治まらず、軽く律の肩を揺すると、彼の唇がかすかに動く。「さ、よ……」「え?」「ごめん……小夜……」 ──四年ぶりに〝小夜〟って呼んでくれた。こんな時なのに、感極まってじわりと涙が滲む。「危ない目に、遭わせて……ほんと、情けない……」 荒い息をしながら途切れ途切れに言葉をつむぐ彼に、私はぶんぶんと首を横に振った。「いいの、私は大丈夫だから。それより救急車──!」 とにかく電話するためバッグからスマホを取り出そうとすると、律がゆっくり手で制した。その手が震えていて、言葉に詰まってしまう。 なんとか上体を起こした彼は、はいつくばるようにして道の脇へ移動しようとする。よく見ると足も震えているみたいだ。 いつもの律から想像できない姿に困惑しながらも、とにかく今は彼を助けようと身体に腕を回して支えた。 あまり人目につかない木陰に一緒に座ると、律はポケットから取り出したスマホを震える手で私に差し出す。「越に、電話……」「えっちゃんに?」「ボタン……うまく、押せなくて」 それを聞いて、さらにぐっと胸が苦しくなった。 この状態を見ていれば、もう一目瞭然だ。律は、きっとなにかの病気を患っているんだって──。 髪で表情が隠された、頭を垂れる彼を見つめて、私は唇を噛みしめる。泣きそうになるのを堪えて〝逢坂 越〟の名前を探し、電話をかけた。 えっちゃんは、私が名乗るとすぐにわかってくれた。今の状況を伝えると、『十分くらいで着くから』と言ってもらえたので、ひとまず安心する。「えっちゃん、すぐ来てくれるって。もう少し待ってられる?」「ん、ありがと……さっきよりマシ」 いくぶんか表情が和らいできた律にほっとしながら、スマホを返した。「でもつらいでしょ? 私に寄りかかってて」 返事を聞くより先に、少し強引に彼の身体を抱き寄せる。律は抵抗せず、おとなしく私に寄りかかり、肩に頭を乗せた。 私の右側に触れている、柔らかな髪、温かい身体。無意識のうちにしっかりと手を握って、ただじっと彼の存在を感じていた。「……小夜

สำรวจและอ่านนวนิยายดีๆ ได้ฟรี
เข้าถึงนวนิยายดีๆ จำนวนมากได้ฟรีบนแอป GoodNovel ดาวน์โหลดหนังสือที่คุณชอบและอ่านได้ทุกที่ทุกเวลา
อ่านหนังสือฟรีบนแอป
สแกนรหัสเพื่ออ่านบนแอป
DMCA.com Protection Status