ログイン共有
第7話
最新チャプター
三度の許し 第12話
その代わりに、蒼はすぐ笑い出した。急いで私を抱きしめた。嬉しい涙を流しながら言った。「陽菜、俺は絶対君たちを幸せにする」私は歯を食いしばって必死に我慢していた。不本意のまま彼に抱かれていた。蒼、よく覚えてくれ。今回のことをここまで発展させるのはお前だ。だから、これから何があっても私に文句を言うなよ。帰国後、蒼は確かに別人のように変わった。雲との関係を断ち切っただけでなく、いつもの冷たい態度を一変し、私たち親子に対して、やけに優しくなった。ほぼすべての要求に満足してくれる。しかし、私も息子も彼のことを一切気にせず、まるで昔の彼のように。帰国の飛行機で、息子は泣き崩れそうになった。特に搭乗の時、この子は蒼の手を噛みつき、私を放させようとした。それを見て、私はとっても苦しかった。しかし息子に説明する機会がなかった。帰国後ようやく機会があって、息子に「ママに少し時間をくれないか、今回こそ必ず決着をつける」と言った。蒼は私の計画を気づかず、私の弱点を握っていると思っていた。故に、彼は昔より傲慢になった。加えて、前の離婚事件は確かに彼にとって衝撃だったので、仕事上には色んな便利をもらった。昔の役職を復帰して、私は仕事ともに、会社の取引先情報を集めていた。そして、雲を監視するために、高額の報酬を払い、探偵を雇った。彼女は蒼を諦めるはずがない。案の定、彼女は半月もしないうちに、すぐに動き出した。彼女は蒼を恨めることができないから、すべての悪意を私に向けた。私たち母子さえ消えれば、自分が取って代われると彼女はそう信じていた。彼女は人を雇って人為的に事故を作ろうとしていることを知った瞬間、私はつい時が来たと感じた。まず、私は車のメンテナンスが必要という理由で蒼に私の車を使わせた。そして「残業」を理由にして、息子を迎えに行ってくれるよう頼んだ。実際私はあらかじめ息子を休ませて、絵画教室に行かせていた。午後四時、事故の報告書が来た。学校からの帰り道でほかの車と衝突。生死不明。病院から連絡を受け、私は引き出しから離婚協議書を取り出して、笑った。元々はその十億円で済むつもりだった。残念ながら、あなたは欲張りすぎたから。医師の診断によるよ、蒼の両足に障害が残り、障害者となっ
三度の許し 第11話
「なぜ私はまだあなたのことを愛していると思うの？」「根拠は一体どこにあるの？」私が近づくたびに、彼は後ずさりして、ソファにぶつかった瞬間、力なくし座り込んだ。彼は私の確固とした姿を見るのは久しぶりだった。あの夜以来初めてだ。ふと、彼は私を面接した日のことを思い出した。「加藤陽菜さん、あなたの履歴はとても優秀とは言えません。しかも業界での経験もありません」「当社を希望する理由は何ですか？」「どうして私たちはあなたを採用するのですか？」私は答えた。「私には学ぶ意欲と忍耐力があります。挑戦も困難も恐れません」「一度の機会を頂ければ、必ずや驚かせてみせます」七年後、私は本当に彼を驚かせた。かつて自信に満ちた少女は七年の風雨を超え、再び彼のまえに立っていた。しかも、昔よりもっと粘り強くなった。だが、女の子は彼を離れた。彼女の抵抗の姿はまるで太陽のように、彼を刺さった。言葉を失った男を見つめながら、私の心の奥にふと浮かんだのは、軽蔑と皮肉の感情だった。軽蔑したいのは蒼、皮肉なのは自分のことだ。こんな男の創り出した悪夢に、七年も溺れていたなんて。七年、この七年間は人生全てをかけたような、十分に長い旅だった。このまま台無しにしたのだ。呆然としたところ、蒼が突然口を開けた。「じゃ、息子は？」「何？」私は突然理解できなかった。蒼は顔をあげた、赤くなった目と歪んだ表情を見て、彼はもう正気を失ったことがはっきり分かった。「俺と離婚するなら、親権だけは渡さないぞ」「そして二度とお前に合わせない。その覚悟はもうできたか？」「あんた」私は彼を睨みつけた。今の彼はまるで地獄からの鬼のように見える。蒼は少し笑った、まるで私の弱点を見つけたように。「戻ってくれれば、今後は君たちのことを大切にするよ。また幸せな家庭を作ろうよ」「陽菜、俺たちの息子に母親を失わせたくないだろ」彼は私を誇らしげにみている。今度は私が動揺した。その時、二階から子供の声がふっと耳に入っていた。「それは不可能だ」息子が二階から駆け下りてきて、かすれた声で言った。「僕の親はママだけ、あんたは僕のパパじゃない」「こんな父親、いらない」彼は指で蒼を指して、蒼と似通った顔には
三度の許し 第10話
「やっぱり、まだ嫉妬していたよね」「俺たちは今まで七年間一緒に暮らしたから、チャンスを与えよう。今すぐ帰国すれば前のことをなかったにする」コーヒーを注ぐ私は本当にその沸騰したコーヒーを丸ごと彼の顔に浴びせかけたくなった。彼はどれほど恥知らずのかを試してみたいからだ。だが堪えた。この屑のために刑務所に入るなんて、割りあわない。カップを置き、引出しから印刷済みの離婚協議書を取り出した。紙が滑る音で思い出した。かつて蒼もよく書類を私に投げつけていたこと。パーキンソン病かと思ったほどだ。今立場が逆転した。確かに心地よくなる。蒼は不快になったが、結局床から書類を拾い上げた。『離婚協議書』のタイトルを見た後、彼の傲慢さはようやく消えた。「陽菜、お前本気か？」私は頷いた。「当たり前だろ」彼は心の焦りを隠しながら、無理に落ち着いたふりをして笑った。「陽菜、もういいだろう。あなたはまだ雨宮雲のことを嫉妬しているの？」「約束する。戻ってくれれば二度と彼女とは関わらない」本心のように聞こえた。しかし、そんなことはどうでもいい。離婚協議書の最後のページを開いた。「私はサインした。共有財産は要求しない。私名義の不動産と十億円以外はすべて放棄する」「これから私も息子も絶対あなたの新生活に邪魔しない」これほどの譲歩なら彼も満足するだろう。金で縁を断ち切れるなら、双方にとって最善の策だ。しかし、蒼はさらに怒り、離婚協議書を奪い取って引き裂いた。「離婚は認めない。加藤陽菜、あなたは一生俺から逃げられない」彼の怒りで赤くなった目を見て、今まで考えなかった可能性が出てきた。「まさか、私と離れたくないの？」口にした瞬間、自分ですら笑いたくなった。蒼は沈黙した。唾を飲み込み、まるで偽装が他人に見破られたように、彼の心がすごく動揺した。沈黙に重ねて、彼はようやくそのことを認めた。私は突然笑い出し、笑いながら涙が溢れた。私はまるで世界一の戯言を聞かされた気分だった。「深津蒼、あんたは私のことを好きなの？」「私のことを好きだと？」「お前が、私を好きだというの......」彼が唇を噛み締めながら、手を差し出した。「触るな」私はその手を激しく振り払った。「深津
三度の許し 第9話
正直に言うと。アメリカに来る前に、私は離婚を考えすぎた。蒼から離れて、私は心が張り裂け、悲しい毎日を過ごすかもしれない。だが米国について突然気づいた。男の帰りを待たなくていい生活が、これほど嬉しくて、軽やかなものだということ。もう早起きして蒼の朝食を作る必要も、彼の冷たい言葉に耐える必要もない。服に残った他人の香水の匂いを気づいて、怒りを抱えて洗濯機に放り込む日々も終わった。離婚って、こんなに爽快なものだったのか。かつて蒼に懐いていた息子でさえ、食卓での温かい料理を見た後に、こんなことを言った。「ママ、もっと早くおじさんの元を離れればよかったね」その言葉に私は笑ったが、胸が痛くなった。蒼は実に最低の男だ。父親としての責務を一度も果たしていないくせに、「父親」という立場を利用して私たちに指図した。例えば、お菓子を食べてはいけないし、食事中の会話も禁じられている、箸で皿を叩くな......等々。もしこの子はそのルールを破ったら、彼は必ずこういう。「加藤陽菜、お前は母親である自覚を持っているのか？最低限の身だしなみもできないのか？」昔の私は彼に打ちのめされ、こういう時はただ「ごめんなさい」と謝るだけだった。今、彼のことを愛していないから、彼に言いたいのは一言だけ。「でたらめを言うな」そう思うと、私は息子の頬にキスをした。希望に満ちた笑みを浮かべた。「新、私たちの未来はきっと輝いているよ」息子は頷き、前歯が一本抜けたまま、屈託のない笑顔を見せた。「僕もママを信じてる」その時、インターホンが鳴った。それと共に蒼のかすれた声も外から出た。「陽菜、ドアを開けろ」一瞬で、私たち母子の笑顔が消えた。彼が早々に居場所を突き止めたことに驚きはなかった。離婚手続きはまだやっていないから、多くの資産は共有のままになっている。息子は不安げに私を見つめ、小声で言った。「ママ、おじさんが......」私は彼の頭をなでて言った。「ママとおじさんと話があるから、少しだけ二階で遊んでいてくれる？」息子は少し躊躇ったが二階に行った。息子が上がった後、私はドアを開けた。蒼の顔色が悪くて、うまく寝なかったように見える。唇の周りにも髭が生えている。いつものエリートイメー
三度の許し 第8話
ご褒美って。私と息子を躾けることをご褒美とする。でも、今私と息子はこの家を離れた。予兆もなく。振り返りせずに。蒼は手を顔にあてて、その場にへたり込んだ。今すべてが崩れてしまった。携帯が再び鳴った。蒼は飛び起きて、電話に出た。「陽菜、お前......」「蒼？」電話の向こう側にいるのは雲だ。蒼の態度は一変し、かつての優しさは消えていた。「何の用件だ」雲はちょっとためらったが、話しを続けた。「自宅の排水管が破裂して、今空と困っているのよ。どうしたらいいのか分からなくて、助けてくれない？」「どうする？」雲は少し恥ずかしそうに言った。「あなたの家に......しばらく泊まられてもらえないか？」「ふん」「よくもそんな都合のいいことを考えているよね」蒼は笑って、その声は氷のように冷たかった。私と息子はこの家を離れた今、雲は何の利用価値もない。彼もこれ以上仮面をかぶり続ける意味はなかった。「雨宮雲、お前は賢い女だと思ったが」電話の向こうに明らかに混乱になった。「蒼、あなた、ど......どうした？」蒼は壁の子どもの落書きを見上げ、低い声で言った。「裏切った女を俺が受け入れると思うか？」「それに、お前はすでに使い古されたものだから」物が落ちる音が、相手の動揺を伝えた。「待って、それは......」蒼は聞き流し、電話を切った。そのまま床に横たわり、夜明けを迎えた。ようやく眠りにつくと、会社からの着信で目を覚めた。「社長、大変です。この前加藤さんが担当した案件ですが、取引先が急に態度を一変しました。今その案件は停滞しています」「私たちはどうすればいいですか？」蒼は眉をひそめ、反射的に言った。「だったら加藤さんに電話して、対応させろ」部長が一瞬黙り込み、小さな声で答えた。「加藤さんはすでに退職されて......」「現在、連絡が取れません」彼は目を開いて、唖然とした。「退職だと？」「誰が許可した？」「なぜ報告がないんだ？」一連の質問に部長も混乱した。「ご主人が米国で働かれているので、家族と暮らすためにアメリカに行くと言いました」「そして辞表は提出して、規定通りに審査されましたが、社長はご存じなかったのですか
三度の許し 第7話
彼が私の気持ちを無視すればするほど、私はより卑屈になる。こんな手段、彼は七年間使い続けた。信号が青くなって、蒼の目が鋭くなって、車は交差点を離れた。会社に戻って休んだところに、携帯が光った。今回はショットメールだ。【お幸せに】差出人は加藤陽菜。トン。蒼は隣のサイドテーブルを蹴り倒して、怖い顔をした。【陽菜、どういうことだ】【正気か？】【誰がお前にそんなことを許した？】返事はない。蒼は駐車所へ駆けながら私に電話した。「おかけになった電話をお呼びしましたが、お出になりません」「畜生」悪口を言って、彼はドアを開けた。【早く電話に出ろ】でも返事はない。夜の風は強かったが、蒼の心の恐怖を消し去ることはできなかった。30分経っても応答なし。結婚してから七年間で初めてのことだ。かつては深夜でも彼の電話一本で、私はすぐ起きて彼のところに駆けつけた。例え知らない女のところから彼を引きずり出す時も同じだ。今夜のことを思い出して、彼は唇を噛み締めて考えた。もしかして、やりすぎたのか？彼は少し安心して、思わず笑みをこぼした。どうやら今回は本気で嫉妬しているらしい。仕方ない、今回だけが頭を下げて、機嫌を取ってやるか。ただし、今後図に乗らないように少しの懲らしめは必要だ。別荘が近づくにつれ、彼は高揚の気分を抑え込み、いつもの冷淡さを装った。庭に立ち、灯りの消えた建物を見て彼は笑った。今回はなかなかうまく演じてた。ドアを開けて、男の声が別荘で響いた。「陽菜、俺が帰ったぞ」応答なし。蒼は不安になったが、彼は必死にその不安を抑えて言った。「もういい加減にしろ、陽菜」「まだ降りてこないなら、ただじゃ済まないよ」……「陽菜」彼はついにその不安を堪えず、階段を駆け上がり、寝室のドアを開けた。「陽菜」誰もいない。「くそ」新の部屋のドアを開けた。ここにも誰もいない子供部屋の床に転がっていたのは、未完成のレゴブロックだけ。去った者の未練のなさを物語っていた。よろめくようにレゴに近づき、蒼は思い出した。これは息子の六歳の誕生日後の九日目に、彼が贈ったものだった。いつものように、蒼は息子の誕生日にわざと友人とバー
