今、新と善は桐生家の親や祖父母たちから最も心配されている存在だった。この二人は従兄弟で、年齢差はさほどない。世間から見ると、善と同年代の人の中には、もう子供が一人、二人いて父親になっている人も多い。いまだに彼女すらもいない善は「残り物」扱いされていた。理仁は申し訳なさそうに言った。「善さんにいい女性を紹介したいんですが、残念ながら、私の知り合いにはあまり若い女性がいないので、お役に立てないかもしれませんね。ただ、妻に頼んでそういう女性がいないか聞いておきます。それとも、祖母に声をかけてみましょうか。祖母は今うちの弟たちにも女性を探しているところです。だから、善さんにもいい人を探してくれるかもしれません」善は言葉を失った。彼は結城おばあさんに会ったことはないが、噂では彼の実の祖母より先進的な考え方で、子供のように悪戯が好きなご老人らしい。理仁が唯花とスピード婚ができたのは、全部そのおばあさんが裏で操っていたからなのだ。「それでは、おばあ様にお願いしましょう」蒼真も理仁にこんなことを頼んでも無理だと思っていた。理仁は篠崎伊吹(しのざき いぶき)と同じタイプの人間で、自分自身の結婚さえも他人がどうにかしないと一生できないのだ。彼らは若い女性が近寄るのを好まないからだ。もし、結城おばあさんに頼むなら、その可能性は高くなるだろう。おばあさんは年も重ねていて経験も多く、人を見る目が確かだから、弟にいい縁を結んでくれることだろう。「祖母はきっと喜んで引き受けるでしょう」おばあさんは縁結びをするのが大好きだからだ。善は思わず口を開いた。「……兄さん、僕の意見を聞いてくれないわけ?」「お見合いの時間が決まったら、お前に教えるよ」善は完全に呆れた。以前、蒼真がまだ結婚していない時、家族みんなは蒼真に早く結婚するよう催促していたのだ。蒼真が長男としてまだ未婚だから、下の弟たちはのんびりしていてもよかった。ところが、蒼真が結婚してから、彼らをかばうこともなく、結婚催促部隊の一員になってしまった。それなら、先に新に催促してくれ!新の方が彼よりいくつか年上なのだ。新がそれを知ったらきっと歯を噛みしめながら文句を溢すだろう。「善、お前は本当に俺の『かわいい』従弟だな!」その時、理仁はふっと姫華のことを思い出した。もし
「自分から打ち明けたほうが、彼女に自ら気づかれたり、他人から知られたりするよりずっといいと思いますよ」それは蒼真が身をもって体験した経験談だからだ。当時、もし彼が最初から自ら遥に身分を打ち明けていれば、彼女はあれほど激しい行動を取らなかったかもしれないと思った。それは、彼女への完全な信頼を示しているのと同然だからだ。洸に先に真実を曝露されたことで、遥は蒼真から信頼されず、警戒されていたと感じたのだ。さらに義母は二人の身分の差を気にして、遥が桐生家からひどい扱いを受けるのではないかと心配し、ひどく反対したのだ。「あなたから話せば、それは彼女への信頼が証明できるんです。他人から知らされる場合は、彼女は他の誰かが知っているのに、自分だけが知らなくて、あなたに騙されていたと考えれば考えるほど不機嫌になるでしょう。あなたが彼女のことを信じてくれず、警戒したって思い込むでしょうね。彼女が怒ったら、きっと長引くことになりますよ」理仁は唯花の性格を考えると、恐る恐る口を開いた。「彼女に、少し探ったことがあります。どんなことがあったら俺から離れるかって聞いてみたんです。それで、私が浮気したり、暴力を振るったり、何度も嘘をついたりしたら離婚すると答えました。私は最初はたった一つの嘘をつきましたが、それを隠すためにまた無数の嘘でごまかしたんです。だから、彼女を何度も騙すことになりました。今回、桐生社長の結婚式に来たのも、出張だと嘘をついて……」蒼真「……とにかく、すべてを打ち明けることをお勧めします。奥さんがどんな反応するか、私も保障できません。同じスピード結婚でも、我々の状況が全く違いますから。結城社長、良いにせよ、悪いにせよ、どうせ避けられませんから、直接に向き合った方がいいのではないでしょうか」理仁は黙り込んだ。「あるいは、帰ってからよく考えて、いいタイミングを見計らって、もっと別のいい方法で彼女に説明したらどうでしょう」理仁は少し考えてから蒼真に礼を言った。「桐生社長の助言本当に助かりました。ちゃんと考えてみます」蒼真は笑った。「人は感情的なものです。真心で相手と接すれば、いつかは自分の気持ちが伝わりますよ。ましてや、今奥さんとすでに夫婦で、少しでも愛する気持ちが芽生えたのでしょう。今はあなたが悩んでいますが、彼女もあなたの
「桐生社長は経験者ですから、アドバイスをいただければと思いまして。当時、桐生社長はどうやって奥さんに正体を教えたんですか。奥さんは本当の身分を知った後、どんな反応でしたか。そして、どうやって奥さんに完全に受け入れてもらって、外部からの影響を受けないようにしたんですか」蒼真はようやく理仁がどうして悩んでいるのかを理解した。スピード婚した妻に本当の身分を打ち明ける勇気がないのではない。ただ、すべてを打ち明けることで、妻を傷つけることを恐れているのだ。そして、神崎家のお嬢様の存在も、確かに厄介な問題だった。きちんと対処しないと、神崎家のお嬢様が嫉妬し、二人の関係が壊れ、敵対するかもしれないからだ。それは、理仁と妻の関係にも悪影響を与えるだろう。お茶をひと口を飲んでから、蒼真は言った。「結城社長、私とあなたの状況は違います。当時、俺は妻と確かにスピード結婚をしましたが、それは俺の策略でした。俺は妻に十一年も片思いしていたので、チャンスを逃さずいろいろと仕組んで彼女と一緒に結婚届を出したんです。この点からすれば、私たちは確かにスピード結婚ですが、旧知の間のスピード婚でした。なにせ、十一年も知り合いだったんですから。うちの遥は当時の俺をよく知りませんでしたが、俺の方は彼女のことをよく知っていて、目的を持ってわざと近づいたんです。結城社長と奥さんは本当の意味で全く知らぬ相手とスピード結婚してしまって、二人の間にそれ以前には何の感情もなかったんですよね。結婚当初、結城社長は絶対奥さんに対してすごく警戒していたでしょう。おそらく、契約書まで用意したのでは?」理仁はますます気まずそうになった。さすが同じ道を歩いてきたスピード婚同志、契約書のことまで見抜いてきた。彼は声を低くして説明した。「俺は確かに妻を誤解して、長い間ずっと警戒し、契約書まで用意しました。その契約書の内容はすべて彼女を縛るもので……唯一彼女に有利なことと言えるのは、離婚した場合は、今一緒に住んでいる家と今使っている車を彼女に渡すことで、バツイチになる損失を賠償するというものですかね」蒼真は彼に尋ねた。「その契約書はまだ残っていますか。俺は遥とも契約をしていましたが、その契約書は俺が処分しました。やっと彼女と結婚できましたから、そんなものに縛られるつもりはないんですけどね」
「スピード結婚してから、お二人はうまくやっていけましたか?」蒼真は興味深そうに尋ねた。彼は確かに遥と同じようにスピード結婚したが、実は結婚する前、すでに十一年の付き合いのある知り合いだった。お互いに旧知の仲だったわけだ。それに、遥は彼が最初から選んでいた女性だった。その時、遥がまだ若すぎたから、彼はずっと自分の感情を抑え、表に出さなかっただけだ。その後、遥は家族から家に帰りたくなくなるほど早く結婚するよう催促されて、仕方なく蒼真を仮の彼氏として雇ったのだった。彼はそのチャンスを逃さず、契約して結婚までしたのだ。彼と遥は元から旧知の仲で結婚まで行ったので、理仁のような本当の見知らぬ相手とのスピード結婚とは全く異なっている。だから、蒼真は自分の好奇心を抑えることができなかった。「結婚する前、私も祖母にはっきり言いました。彼女と結婚しても構わないけど、結婚してから彼女とどう接するかは私次第で、祖母には何も口を挟むなと。私も本当の身分を隠し、日常生活から彼女の人柄を試したかったんです。彼女は本当に祖母の言ったような自立した素敵な女性かどうかを。最初の頃……お互いにやはり慣れなかったですね」スピード結婚したばかりの頃、彼はよく自分には妻がいることを忘れていた。彼女も夫がいる生活に慣れなかった。些細なことで不愉快になったこともあるが、話し合って解決してきた。「しかし、一緒に生活して時間が経つと、結城社長は彼女の存在にどんどん慣れて、恋も芽生えたってことでしょうか。慣れというのは確かに恐ろしいものですね」相手の存在に慣れてしまうと、失うことを恐れるようになるものだ。理仁は頷いた。「今は私たちの仲がどんどんよくなってきました。認めるしかありませんね。私はもう彼女のことを愛するようになったんです」当時、彼は絶対妻の機嫌を取るなんて絶対しないと言っていた。今思えば、気まずくて穴に入りたいくらいだった。「一番悩んでいるのは、私は自分の本当の身分を自ら打ち明けるべきかどうか、ということです。それと、もし本当に教えたら、彼女が怒って私の傍から離れてしまうのではないかと心配なんです。それに、彼女の従姉が以前俺のことが好きで、何も隠さずアプローチして俺を追いかけたことがあるんです。妻はまだ私の正体を知らないから、その従姉に私
蒼真が間もなく東屋にやってきた。「桐生社長」理仁は立ち上がった。彼は「申し訳ございません、こんなめでたい日にお邪魔してしまいまして」と謝った。理仁は今夜星城に戻る予定だったので、厚かましいと思いながらも訪ねてきたのだ。蒼真は笑った。「大丈夫ですよ、結城社長、どうぞお座りください」理仁を座らせると、蒼真は弟に執事に連絡してお茶と茶菓子を用意するよう伝えさせた。「で、結城社長のご相談とは?」理仁の端正な顔が気まずそうに揺らぎ、少し照れくさそうに口を開いた。「桐生社長、実は私の個人的な問題で、桐生社長に聞きたいことがありまして、私も桐生社長と同じくスピード結婚を選んだものですから」蒼真はこの時まだ、理仁がスピード結婚をしたということを知らなかった。善は家族に話していなかったのだ。理仁の話を聞いて、蒼真は意外そうに理仁を見つめた。結城理仁のような冷徹そうな男でも、スピード結婚を選ぶものなのか。「結城社長は結婚されてからもうどのくらい経つんですか。その、スピード婚相手、つまり奥さんのことをもう愛されているんですか?」と聞きながら、実は蒼真はもう心の中に答えがあった。もし理仁がその奥さんに対して何も思っていなかったら、こんなに悩んだり、蒼真が新婚の二日目に訪ねてきたりしないはずだ。「結婚して三ヶ月になりました。彼女は祖母の命の恩人なんです。祖母を助けてくれたから、うちの家族全員彼女に感謝したんです。祖母は特に彼女のことが気に入ってしまって。おそらく、うちは私の世代に女の子がいなかったからかもしれません」少し間を置いて、理仁は言った。「これに関しては、桐生家も似たような感じですかね。男ばかりで、女性が少ないっていう。私は以前彼女に会ったことがなくて、彼女についてなにも知りませんでした。ただ祖母を助けてくれた恩人として、心から感謝はしていました。しかし、状況がその時からガラリと変わりったんです。祖母は私の前でいつも彼女を褒めて、彼女を結城家に迎えたいと言い始めたんですよ」結婚届を出す前に祖母が毎日耳元でうるさくしていたことを思い出しながら、理仁は言い続けた。「うちには私世代の若者が九人もいます。末の二人は確かにまだ若くて結婚に向いていませんが、他なら誰でも彼女と結婚することができると思っていました。結局祖母は私
理仁はすぐ口を開かず、少し離れたところにある東屋を見て、そこへと歩いて行った。東屋の周りに装飾として人工雪がたくさん敷いてあり、まるで真冬の雪景色のようだった。彼は東屋の石製のテーブルの席につくと、周りの人工雪を見回し、なぜかひんやりとした気分になった。そして彼は善に褒め言葉を送った。「ここの人工雪の景色は非常に素敵ですね。季節感があります」雪の降る地域なら特に風流が感じられる。例えば望鷹市なら、今頃は確かにいたるところに雪が積もっていて、特に寒い。それが星城だと人工雪で雰囲気と景色を無理やり作るしかないのだ。「もうすぐ正月ですから、何かしら装飾して、みんなに正月気分をしっかり味わってもらいたいと思いましてね。うちの山荘のスキー場にも本物の雪がありますよ。結城社長、スキーに興味がありますか。ご案内しますよ」理仁は淡々と答えた。「いいえ、私は北国のスキー場でスキーを楽しむほうが好きなんです」善は笑った。「奇遇ですね、僕もそう思いますよ。また時間があれば、一緒に北の方へ雪を見に行ったり、スキーとかしに行きましょう。北国の景色をじっくり楽しめます。ところで、結城社長は、もしかして恋愛関係の問題で悩んでいらっしゃいますか?」善は独身だったが、非常に目が鋭い。兄夫婦の結婚式で、彼は理仁がずっと上の空な様子だと気づいていた。確かにインスタで一度のろけたことで、結城グループの社員はようやく彼が結婚したということを知ったが、完全には公表していなかった。善もそのことを知っていたが、理仁が完全に外部に公表していないから、知らないふりをしていたのだ。理仁は善を見つめた。「そんなにわかりやすいですかね」善は笑いながら説明した。「結城社長をよく知らない人なら気づかないでしょうね。結城社長は普段からいつも無表情で威厳のある方ですが、悩み事がある時、特に厳しくなりますよ。僕を信用してくれるなら、話してくださいませんか。でも、僕はまだ独身の身ですから、話くらいは聞けますが、解決策を出せるかどうか保障できませんが」彼には彼女すらいないのだ。学生時代にクラスの前の席に座っていた女の子に好意を抱いたことがあるが、卒業後二人は別々の大学に進学してしまった。最初は時々連絡を取り合っていたが、相手に彼氏が出来てから、善はもう連絡を取るのをやめたの