両親がいなくなって間もない頃。
悠治自身はまだ真相を飲み込んでないのに、雪枝にしつこく問い詰められた。
「お母さんとお父さんはどこ?いつ帰ってくるの?お兄ちゃん!何か言ってよ!」
「どうして何も言わないの?雪枝はちゃんといい子してるの!どうして何も教えてくれないの?」
もともとストレスが溜まっていて、心身ともに限界を超えた悠治は高熱が出して倒れた。
幸い、黒河は駆け付けて、悠治を病院に運んだ。
そして、雪枝に両親のことを適当に誤魔化した。
「だから、お父さんとお母さんはもう帰らないの。お兄ちゃんは雪枝ちゃんを守るために、すっごく頑張ってるの。これ以上お父さんとお母さんのことを聞くと、お兄ちゃんはまた辛くなるのよ。雪枝ちゃんはいい子だから、お兄ちゃんと一緒に頑張ってくれる?」
子供だったけど、雪枝は物分かりが早くて、泣きながら黒河に承諾した。
「分かった!もう聞かない!絶対聞かないから!」
「お兄ちゃん、早く元気になって!」
「雪枝」が入った時、すでにどこか妙な雰囲気を感じた。
両親のことが聞かれたら、悠治は確信を持った。
目の前の人は雪枝ではなく、穂香だった。
そして、穂香の目的は、おそらく……
「退院を祝ってきてくれたのですね。とてもおもしろいいたずらです。ありがとう」
悠治はその話を触れないようにした。
だが、穂香は一歩前に出た。
「悠治さんはもうわかったでしょ?私が悠治さんを接近する目的を」
「俺はあくまでライター、仕事の相談なら、大介に……」
「とぼけないでください!」
穂香は焦って声を上げた。
「知らないというのなら、私が思い出させてあげます!」
「25年前に、私と似たような顔を持っていて、お金好きな女がいた。意気投合な彼氏がいたのに、お金欲しさに、子連れの資産家の二代目と結婚した。でも結婚後、彼氏との関係も密かに続けていて、やがて、彼氏の子供を身ごも
大介は至急に車を出した。穂香がかなり混乱しているようで、電話で詳しい事情を伝えきれなかったが、大介は事情の異常さを悟った。「……私が両親のことで悠治さんに迫ったら、悠治さんはすべてを持って、両親のところにいくって言い出して…そのまま飛び出したのです……こうなるなんて思わなかったのです、悠治さんは、危険なことをしないですね!?」「オレは探しにいく。小日向さんはそこで待ってて、しばらく置いたら、電話を掛けてみてくれ」とにかく、穂香を落ち着かせて、大介は出発した。この前、病院で小日向さんを助けて云々と言われた。あの時から妙だと思った。雪枝とそっくりの顔を持つ穂香が応募しに来たのは偶然なのか?図書館で悠治の両親の件に触れたのは偶然なのか?新聞記者から聞いた悠治の両親のことを考えると、穂香の身分はかなり怪しい。この間まで、悠治の自滅傾向がもうなくなったと思ったが、やつは穂香に悪質な冗談をしないだろう。穂香から聞いた時間を見ると、あの小説が投稿されたのは、悠治が飛び出した後のことだ。いきなり変わった小説の流れ、投げっぱなしのあとがき……人の将に死なんとする其の言や善し、ということわざを思い出させる。どうも不吉な予感がする。そう思うと、大介はもう一足エンジンをかけた。「調べれば調べるほど、ドロドロだったぜ」新聞記者の言葉は大介の脳内で響いた。「男は結婚前にいろいろやらかしたから、言いなりになる女がほしくて結婚したって思ったら、女のほうも負けないくらい気持ち悪いことをしてきた……二人とも相手を利用するつもりで結婚したから、あんな結末になったんじゃない?まあ、確かに子供たちは可哀そう。だから、俺は追い詰めるのをやめたんだ。あんな真実、暴いてもしょうがないじゃない……」「……」「お前さんみたいなクリエイターにとっちゃ、いいネタになるかも知れないが」過去の暗
少女がホストに夢中する理由は、父に見捨てられ、継母にいじめられたからだ。心の寂しさを埋めるために散財したら、やさしい「大介」に出合った。「大介」はその継母に雇われ、少女を堕落の道に導くためのホストだけど、少女の純粋さに惚れて、本気に少女ことが好きになった。最後に、「大介」の助けで少女は継母を追放し、父を引退まで追い詰めて、家の主導権を奪い返した。腐るほどあるつまらない恋愛小説の定番だけど、宣伝に莫大な金額をかけてユーザー層に届いたおかげで、非常に高く評価されている。微かなつまらないと訴える声も熱狂的なファンたちのコメントによってつぶされた。最終話に、作者のあとがきが掲載されている。「!!」その内容を見たら、大介は目から鱗が落ちた。「この作品のヒーローの名前は、無断である友達から借りたものだ。こんなことをしたのは、いたずらでも冗談でもない本気であいつに痛みを付けたいからやったんだ。」「その人はとんでもないお人よし。相手に弱いところを見せられたら、押し付けられた理不尽をどこまでも耐えるような人間、本当は反撃する手があるのに、本気で相手を敵視できない、追い詰めきれない甘い人間、たとえ妊娠偽装の詐欺師に付きまとわされても、万が一本物の妊婦さんだったらなんかバカなことを考えたりして、突き飛ばすこともできない、人間の悪の本性も悟らないバカやさしい人間だ。」「それに、とんでもない正直ものの仕事バカだ。斬新な発想を持っているのに、社会に有益とか、善良な世界観とか、正しい「出し方」とかこだわりすぎる。プライドを捨てて、流行ってるもののパクリでもで作って媚びを売れれば、もっと気楽に売り出せるのに。それに、こんな声がデカいほうが勝ちの時代に、地道に実力で実績を積み上げようとしてる。俺が適当に書いたこのクソ小説を見れば分かるだろ、どんな凡作や俗物でも、お金で盛大なプロモーションをかけれて、これは良いものだ!と受け手を洗脳すれば成功例になる。」「許してほしいなんて
「……」悠治は黙って穂香の話を聞き終わった。両親がいなくなった後、彼は父の書斎からいくつか資料を見つけた。父と雪枝のDNA鑑定と、母の過去の交友関係の調査資料。そして、母の賄賂をもらった病院のスタッフからの謝罪状。そこで、雪枝には双子の姉がいることを知った。穂香が現れたとき、きっと似たような別人だと自分を騙していたが、シナリオ作成する際に、穂香はさりげなく内容を両親絡みの方向に導いた。ついに、図書館で両親の事故のニュースを見せられた。「……あれは、単純な事故だった」悠治は静かに瞼を閉じた。「隠しても無駄です!私はもう知ったの!あれは単純な事故じゃない!母の死はおかしい!」「それは、小日向さんはお母さんを憎んでいるから、思い込みで……」「悠治さんだって同じでしょ!両親にとんでもない恨みを持っていますね!あれは尋常じゃないよ!」穂香に痛いところを突かれて、悠治は少し後ろめいた。「恨みは恨みだけど、あの二人はもういなくなったから、過去のことを追い詰めても意味がないよ……小日向さんは雪枝の姉だったら、俺の妹にもなります。二人を守る義務があります」「なら教えてよお兄さん!お母さんはどうして死んだの!?あなたのお父さんに殺されたんじゃないの!?」「!!」ようやくあの質問を穂香の口から聞いた。雪枝がそれを聞いてい来る悪夢を何度も見たけど、そっくり顔の別人から聞いたのは別の意味で悪夢が現実になったような気がした。「どうしても教えてくれないなら、私は雪枝さんに教えます」穂香さんは思いきり携帯を出した。「!!」「私たちには、両親の本当の死因を知る権力があります!……っ!」番号をかける前に、悠治は穂香の手をから携帯を叩き落とした。「……」悠治は目線を伏せて、表情を前髪に隠したまま、低い声で呟いた。「小日向さんも、雪枝も、何も知る必要はない。俺はすべてを持って
両親がいなくなって間もない頃。悠治自身はまだ真相を飲み込んでないのに、雪枝にしつこく問い詰められた。「お母さんとお父さんはどこ?いつ帰ってくるの?お兄ちゃん!何か言ってよ!」「どうして何も言わないの?雪枝はちゃんといい子してるの!どうして何も教えてくれないの?」もともとストレスが溜まっていて、心身ともに限界を超えた悠治は高熱が出して倒れた。幸い、黒河は駆け付けて、悠治を病院に運んだ。そして、雪枝に両親のことを適当に誤魔化した。「だから、お父さんとお母さんはもう帰らないの。お兄ちゃんは雪枝ちゃんを守るために、すっごく頑張ってるの。これ以上お父さんとお母さんのことを聞くと、お兄ちゃんはまた辛くなるのよ。雪枝ちゃんはいい子だから、お兄ちゃんと一緒に頑張ってくれる?」子供だったけど、雪枝は物分かりが早くて、泣きながら黒河に承諾した。「分かった!もう聞かない!絶対聞かないから!」「お兄ちゃん、早く元気になって!」「雪枝」が入った時、すでにどこか妙な雰囲気を感じた。両親のことが聞かれたら、悠治は確信を持った。目の前の人は雪枝ではなく、穂香だった。そして、穂香の目的は、おそらく……「退院を祝ってきてくれたのですね。とてもおもしろいいたずらです。ありがとう」悠治はその話を触れないようにした。だが、穂香は一歩前に出た。「悠治さんはもうわかったでしょ?私が悠治さんを接近する目的を」「俺はあくまでライター、仕事の相談なら、大介に……」「とぼけないでください!」穂香は焦って声を上げた。「知らないというのなら、私が思い出させてあげます!」「25年前に、私と似たような顔を持っていて、お金好きな女がいた。意気投合な彼氏がいたのに、お金欲しさに、子連れの資産家の二代目と結婚した。でも結婚後、彼氏との関係も密かに続けていて、やがて、彼氏の子供を身ごも
「……」「…………」「………………」悠治が大介の続きを待っていたら、30秒もかかった。「どうした?まだ不満か?」「名前を消す、だけ?」そして、大介に催促されてから口が開くまでもう20秒がかかった。「どうせ、削除しろと言っても、お前は自由表現とか著作権とか騒ぐだろ」大介は固い表情を解いて、もう一回短いため息をした。その想像よりもはるか弱い主張に、悠治はちょっと取り乱した。「それは、そうだけど……お前、交渉の基本って分かる?普通に、まずハイレベルの要求を出して、相手が拒絶してから……」「それは普通の場合。お前は普通じゃないんだ」「……」「……」「やっぱり、お人よしか……」悠治は頭をだらんと下げて、独り言のように呟いた。「そんなつもりはないと言った。お前の人間の敵みたいな思考を何とかしろ」大介の抗議に聞こえなかったように、悠治は独り言を続けた。「だから、悠子はお前を……」「悠子はオレを……?」その妙な呟きを、大介は聞き逃さなかった。でも悠治はその話に触れずに、交渉の話題に戻った。「……それ以外の条件がないなら、俺からもう一つ追加する――」大介に是非を答える時間も与えず、悠治は条件を述べた。「お前がどんなことを聞かされたのか、どんなことを知ったのか、俺には関係ないことだ。だが、お前はそれを雪枝に教えてはいけない。そしてもう一つ、小日向さんにも黙っていてほしい」「小日向さん…&h
「…………?」意外な言葉に、悠治は思わず布団を掴む力を緩めた。「妹たちに迷惑をかけたくないのが分かるが、お前が倒れたら、かえって大きな迷惑をかけるんじゃないか?彼女たちに心配させたくないなら、まず自分のことを大事にしろ」「……ベタな説教か」「そのベタなこともできない人間には必要だと思うけど」「……一体何しに来たんだ?」大介の態度が妙だと感じて、悠治は布団からちょっとだけ頭を出した。布団の出口で彼を待っているのは、開けられたフルーツゼリーだ。しかも、彼が一番好きな黄桃のもの。はちみつも入っているのか、甘い匂いが溢れている。「お見舞いと言っただろ。聞く耳を持て」大介はスプーンをゼリーに差し込んで、カップを悠治に押した。「……」悠治はもくもくとゼリーを食べ始めたら、大介はチョコレートの箱を片付けた。そして、さりげなく悠治に話をかけた。「前回言いそびれたけど、シナリオの件は悪かった。急ぎじゃないと一言を添えるべきだった。徹夜で修正しただろ」「……」また思わぬ言葉を聞いて、悠治は一度動きを止めた。「……別にお前のために修正したんじゃない。それに、悠子様が決めたことだから、言いたいことがあるなら悠子様に言え……」悠治は目をつぶってスプーンをガリガリ噛んだ。「お前が拒否したら、悠子は勝手に修正できないだろ」「いいえ、俺は決定権がないんだ」「……そう考えたほうが楽かもしれないが」大介はもう一度ため息をついた。「オレから見て、お前も悠子も、同じ目的を持って行動する同じ人間だ。その時に都合のいい人格を出すだけだ」