江口透、バツイチ。綺麗なひと~大学院生、論文調査のつもりでした

江口透、バツイチ。綺麗なひと~大学院生、論文調査のつもりでした

last updateTerakhir Diperbarui : 2025-06-29
Oleh:  中岡 始Tamat
Bahasa: Japanese
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大学院生・真壁湊が「個人生活と孤独」をテーマにした論文調査の対象として選んだのは、隣人の江口透。37歳、バツイチ、無職。飄々とした関西弁の陰に、ふと見える静かな影と生活の美しさに、湊は言葉にできないまま惹かれていく。 最初は記録だった。冷めていくお茶、交わされる短い会話、煙草の火。 「綺麗だ」と思ってしまった瞬間から、取材ではなく恋になった。 真っ直ぐな言葉に透は戸惑い、湊は声にした瞬間に傷つく。 すれ違いと沈黙のなか、それでも、ふたりは記録を超えて、もう一度“伝える”ことを選ぶ。 これは、恋だと気づいたときにはもう遅かった、 それでも届かせようとした、静かな恋の軌跡。

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Bab 1

論文と再構築

薄曇りの午後だった。大学の図書館には冷房の微かな風が流れていて、棚の間に篭もる埃っぽさだけが、空調の無機質さを際立たせていた。長机に並ぶ学生のノートパソコンのタイピング音が、周期的な雨音のように断続的に響く。湊は一番奥の窓際、壁を背にした席に腰を下ろし、目の前のモニターとにらめっこを続けていた。

画面には、Wordの文書ファイル。仮タイトルには『離婚男性の生活再建支援に関する考察』と打ち込まれていた。文章はすでに三千字ほど進んでいて、「司法制度における支援の在り方」や「家庭裁判所調停制度の限界点」など、それらしい見出しが整然と並んでいた。中には、自分でも「よく書けてる」と思える段落もある。だが、カーソルが点滅するそのすぐ下にある言葉が、湊の目に違和感を残していた。

「社会的孤立の指標」

誰が決めた指標だろう。数字で定義された孤独を、本当に人は生きているのか。

湊は背もたれに体を預け、静かに息を吐いた。目を閉じてみても、頭の中には図表や調停件数の年次変化グラフばかりが浮かんでくる。自分が書いているのは“文章”だ。けれど、どこまでいっても“人の生活”にはなっていない気がする。

支援の理論も、制度の仕組みも、文献にあたればいくらでも出てくる。だが、それで何が再構築されるのだろう。孤独な人間が、再び立ち上がって暮らしていけるようになるとは…本当に、誰かが思っているのだろうか。

「再構築って、なんだよ…」

独りごとのように、唇が動いた。周囲に気づかれないように小さな声で呟いたつもりだったが、自分の耳には妙に反響して聞こえた。カタカナで定義された制度用語が、途端に手触りのないものに変わっていく。

湊は手元の文献に視線を戻した。『家族法における離婚後の父親支援―事例分析を通して―』。ページの余白に鉛筆で「当事者インタビュー不足」と書かれたメモが、かつての自分の筆跡で残っていた。事例不足。そう書いたとき、自分は何を「不足」だと感じていたのか。

再構築された生活とは、支援された“結果”なのか、それとも“過程”なのか。法律的に正しく離婚し、調停を経て子どもとの面会が調整されたとて…生活は、再構築されたといえるのか。

湊は再び文書ファイルを開いた。カーソルの位置を調整しながら、何度も何度も読み返してきた一節に視線を移す。

「社会的孤立の指標としては、地域活動への参加頻度、交友関係の範囲、生活満足度の主観的評価などが用いられることが多い」

一文としては、確かに正しい。だけど、それを読む誰かに、何が伝わるというのだろう。自分自身が、心のどこかでこの言葉に納得していないのを、湊ははっきりと感じていた。

視線を落とした先には、自分の指があった。爪の脇に小さなささくれができていて、いつの間にか無意識にそれをちぎっていたらしく、白く薄皮がめくれていた。傷にはなっていない。けれど、今にも沁みてきそうな痛みの予感があった。

「……文章にはなる。でも、人の生活にはなっていない気がする」

思ったままの言葉が、静かに口からこぼれた。湊は目を伏せたまま、文書ファイルをそっと閉じると、図書館の机に置かれた紙コップのコーヒーに手を伸ばした。温度はすっかり冷めていて、飲んでも何の味もしなかった。まるで、自分の書いている論文そのものみたいだと、湊は思った。

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