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第652話

Author: 雪吹(ふぶき)ルリ
佳子がぼんやりしている間に、彼女を狙っている二人の黒服の男は腰からナイフを取り出し、ナイフを握ってマスクの男に向かって突き刺してきた。

マスクの男は一言も発せず、素早い身のこなしで二人の黒服の男と戦い始めた。佳子は彼の体からあふれ出る鋭い力強さと恐ろしい殺気を感じ取った。

まもなく、黒服の男二人は地面に倒れた。

ちょうどその時、真夕が星羅を連れて駆け寄ってきた。「佳子、何があったの?」

佳子は答えた。「私は無事よ」

佳子は後ろを振り返ってマスクの男を見たが、彼は黒服の男二人を片付けると、そのまま立ち去ろうとした。

佳子はとっさに声を上げた。「あなた、誰なの?」

前方のマスクの男は足を止めたが、振り返ることはなかった。

佳子は彼の背筋の通った姿を見つめながら、さらに問いかけた。「あなた、誰なの?私たち、会ったことがある?」

マスクの男は何も答えなかった。

佳子は続けた。「助けてくれてありがとう……」

マスクの男は何も言わずに立ち去り、佳子には冷たい背中だけを残した。

すでに警察に通報していた真夕は佳子に近づきながら聞いた。「佳子、あの人って誰なの?」

佳子は首を振った。「私も分からないの」

星羅「佳子姉さん、無事でよかった!」

佳子は星羅の小さな頭を撫でた。

真夕「佳子、ここはもうすぐ処理されるわ。佳子を襲うなんて、絶対に黙っておかない。雇い主が誰か、なんとか吐かせてみせる。まずは帰ろう」

真夕は佳子を連れてその場を離れようとした。

しかし、佳子は足を止めた。「真夕、ちょっと用事があるから、先に行ってて」

真夕は彼女の腕を掴んだ。「佳子、どこへ行くの?さっきの男の人を追いかけるの?」

佳子は答えなかった。

真夕「さっきあなたを助けた人、ちょっと……古川くんに似てたわ」

佳子はそのまま振り返って走り出した。

星羅「ママ、佳子姉さんどうしたの?なんだかすごく急いでるみたい」

真夕は迅を知っている。さっきの男は確かに迅に少し似ていた。

佳子は、迅のことはすでに乗り越えたと言っていたし、二人の関係も終わったはずだった。だが、少しでも迅に似ている人を見た途端、佳子は走り出した。三年経っても、佳子は迅を忘れられなかったのだ。

子どもには大人の世界は分からない。真夕は星羅を抱き上げた。「佳子姉さんはね、さっきのお兄さんを探しに行っ
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