そんなこんなで数時間後、私達は再び面接室にいた。
私は椅子に座りながらやや意識がまどろむ最中、濡れタオルで顔をふき再びクロウと向き合いながら面接を続けていく。
「ど、どうでしたか……?」
「……ま、満点……」私はこう答えるしかなかったし、流石にこのマッサージテクニックは認めざるを得ない。
「あの、貴方こんな技術があるなら貴族の召使いや、その手のお店で頑張る方向もあったんじゃ?」
私は至極真っ当な正論を述べる。
不器用だけど真面目だし、マッサージだけの腕は間違いなく一流の本物だ。
それに、この天然の魔技にて相手もすぐ寝ちゃうだろうから会話も必要ないし、結果不幸な事故も起きない。
「あ、それなんですけど、実は最近その務めていたお店が潰れちゃって……。というか、不幸にも海賊の砲撃で消し飛んじゃってですね」
「あ、ああ、港町のお店が数店舗消えた事件があったわね……」そう、ダジリン島では海賊と国との争いはもはやお家芸。
さもありなんである。
「代わりに召使として奉公しようと思ったのですが、対象の貴族様達の家はその争いで全て戦死され亡くなりました 」
「そ、それは、ふ、不幸ね……」(力仕事も出来ず不器用だとこのご時世きついよね……)
この子から直接マッサージを受けて分ったのだが、この子「精霊魔法の才能がありそう」なんだよね。というのも手から光のマナが流れ込んできて、めっさ私の体が回復してるのが分った。
(私の体って呪いとかは受けにくい体質なんだけど、何故か逆に光の恩恵とかは受けやすいみたいなのよね)
当の本人は気が付いてないみたいだけど、彼女が俊敏なのは、風のマナの恩恵を少なからず受けてると予想出来るしね。
「あの、気になったんだけど貴方のお母さんは?」
「「レイシャ様!」(そうそう、こんな感じで呼ばれてたっけ……。って、あれ? 本当にクロウの声が聞こえて来る気がするんだけど?) 私が後ろを振り向くと、そこには長い黒髪にピンと張った長い耳、やや丸みを帯びた愛らしい顔の女性が手を振りながら駆け足でこちらに向かって来るのが見えた。 少し濃ゆめの眉、垂れ目で大きな二重瞼、上目遣いで私見つめる透き通った茶色の瞳……。「あ、貴方もしかしてアタナシア=クロウ?」「はい! お久しぶりですレイシャ様!」 漆黒のワンピースを着た彼女はその布地を風ではためかせ、私にしっかりと抱き着いて来て、私達はおよそ百年ぶりの奇跡と感動の再開を果たすのだった。 それからしばらくして、私は「申し訳ないけど昔の客人が来たから」とマーガレット達に帰って貰い、自宅兼私の花屋の2階の応接間でクロウと色々話すことにした。 ソファに元気よく腰かけ、私が出した紅茶を美味しそうに飲むクロウ。「貴方、よく此処が分ったわね」「はい! 丁度仕事でイッカ国に滞在した時、美術館でレイシャ様の姿を拝見したんで!」(そっか、百年ぶりに他国にいったから偶然クロウに見つかっちゃったわけか……) あとは組織のコネクションがあれば、身元なんか簡単に調べがつくだろうしね。 「あ、拝見というか厳密に言えば、魔法感知で探したんですけどね!」「成程、貴方魔法のスペシャリストだからね……」 きっとクロウの事だから毎回仕事で広範囲のサーチを使ってたのだろう。(足を洗った身としては組織の仕事には極力関わりたくないし、正直仕事の内容は知りたく無いので聞かないでおこう) 私は陶磁器のティーカップを静かに自身の口元に運び、そんな事を考える。「……ところでクロウ。目的は私に合うだけ?」(それだけだと助かるんだけどな) 「勿論それがメインですが…&hel
それから数週間後、私は一足先に絵の修復員としてリャン国の美術館に潜り込み、お目当ての絵画の場所や美術館の地図、更には逃亡ルートを探る事になる。 理由は当日決行前に現地に来た長に、それらの情報を私が報告する段取りだからだ。 ただし、長の役目はあくまで私達のサポート役で、実行部隊は私とクロウのみであった。 計画日は警備の薄くなった夜間に決めた。 問題はお金持ちの大国リャン国は当然セキリティに厳しく、美術館及びその周辺の土地に封魔結界が張ってあることだ。 封魔結界は名前通り魔法を封じる結界であり、早い話泥棒対策であった。 当然身体強化も無効、変身も無効、逃亡のテレポートも無効と単純で強力な物である。 しかも、この封魔結界はかなり強力で力技で簡単に破れそうにないわけで、己の体のみでなんとかしないといけない模様。 で、セキュリティの二つ目が関係者以外立ち入り禁止! これは修復員で潜り込んでいる私がいるので解決済みだし、私は本物の絵画修復免許を持っていたりする。(免許関係って持っていると色々応用が利くから、当然といえば当然よね) 更にセキュリティ三つ目は大国だけに凄腕の格闘家や剣技に長けた者が警備についている事! 魔法が封印されている以上当然そうなるし、勿論俊足自慢の警備員も配置されている。 けど、私が色々シミュレートした結果、クロウに俊足でかなうものは誰もいないそうなのだ。(ま、そこがチャンスということになるかな) 作戦のざっくりとした内容はこうだ。 幸い目的の絵は背に担いで走れるレベルの小型ものであるので、まず最初に「信頼を得た私が目的の絵画を美術館の外まで運搬し、そこに変装したクロウが港までそれを運ぶと見せかけて何処かに逃亡する」予定だ。 締めとしては、「組織一俊足の長がクロウを追尾した後合流し、そのまま一緒に組織のアジトに帰還する」というシンプルなものであった。 長が闇夜に紛れ静かに見守るそんなある日、ついに作戦は決行される。 当日は雲が空を覆う漆黒の
そんなこんなで数時間後、私達は再び面接室にいた。 私は椅子に座りながらやや意識がまどろむ最中、濡れタオルで顔をふき再びクロウと向き合いながら面接を続けていく。「ど、どうでしたか……?」「……ま、満点……」 私はこう答えるしかなかったし、流石にこのマッサージテクニックは認めざるを得ない。「あの、貴方こんな技術があるなら貴族の召使いや、その手のお店で頑張る方向もあったんじゃ?」 私は至極真っ当な正論を述べる。 不器用だけど真面目だし、マッサージだけの腕は間違いなく一流の本物だ。 それに、この天然の魔技にて相手もすぐ寝ちゃうだろうから会話も必要ないし、結果不幸な事故も起きない。「あ、それなんですけど、実は最近その務めていたお店が潰れちゃって……。というか、不幸にも海賊の砲撃で消し飛んじゃってですね」「あ、ああ、港町のお店が数店舗消えた事件があったわね……」 そう、ダジリン島では海賊と国との争いはもはやお家芸。 さもありなんである。「代わりに召使として奉公しようと思ったのですが、対象の貴族様達の家はその争いで全て戦死され亡くなりました 」「そ、それは、ふ、不幸ね……」(力仕事も出来ず不器用だとこのご時世きついよね……) この子から直接マッサージを受けて分ったのだが、この子「精霊魔法の才能がありそう」なんだよね。 というのも手から光のマナが流れ込んできて、めっさ私の体が回復してるのが分った。(私の体って呪いとかは受けにくい体質なんだけど、何故か逆に光の恩恵とかは受けやすいみたいなのよね) 当の本人は気が付いてないみたいだけど、彼女が俊敏なのは、風のマナの恩恵を少なからず受けてると予想出来るしね。「あの、気になったんだけど貴方のお母さんは?」「
これは私が怪盗組織エターナルアザーで幹部として活躍していた頃の記憶の物語。 ある日、私と似たような風貌をした新入りが組織に自ら志願して入ってきた。 なんでもピンと尖った耳、やや丸みを帯びた愛らしい顔に、エルフとしては珍しい長い黒髪らしい。 この組織に志願者として入ってくる者は少なくは無い。 理由はリスキーだが実力があればそれなりの生活が保障されるから。 なによりも裏世界ではずば抜けて知名度は高かったし、その為はぐれ者や貧しい者にとっては憧れの職ではあった。 もっともモラルを除けばの話ではありますが……。 幹部になっていた関係で採用面接の面接官として私が呼ばれ、その子の面接をすることになる。(問題はその子の本当の動機なんだよね……) そんな事を考えながら私はトランス城の狭い個室で静かにため息をつきながら、その子を待つ。 ドアをノックする音が聴こえ、私は「どうぞ」と答え、入室許可をする。「し、失礼します!」 どぎまぎとしながら、上目遣いで私見つめる透き通った茶色の瞳に垂れ目で大きな二重瞼、眉が少し濃ゆめではあるが……。 私はそれらの情報から、その少女がとても純粋であると感じ取れた。(ええっ! 何故こんな子がこの組織の志願に?) これが私の初対面のその子に対する考えだった。 黒色の動きやすい麻の服を着ている事からやる気は十分に感じられし、華奢な体と俊敏な体重移動はきっと天性のもの。 髪が黒毛なのできっとハーフエルフなのだろう。 理由はこの世界では金、銀、赤以外は純粋種の遺伝ではないから。(顔立ちもいいし、他にも適切な職が沢山あるだろうに) そんな事を考えながら、私は書類に目を通しながら面接官としての職務を果たしていく。「……アタナシア=クロウ。単刀直入に聞くけど、貴方は此処に何を求めてきたの?」
それから数時間後……。「ではまた来ます! 今日は色々ありがとうございました!」「うん、マーガレットによろしく言っといてね!」 シスターリンは迎えに来た同業者達と一緒に、山ほど購入した花々を抱えながら本島に向かう船乗り場へ向かって去って行く。 私はその姿を手を振りながら見送るのだ……。 過ぎ去っていく彼女を確認し、私はふと真正面に広がる景色を見つめる。 海とはまた違った、眼下に広がるブルーの絶景に癒され、私は思わず静かに深呼吸してしまう。 ルピナスの花だ。(幸運な事に私の住んでいる場所は割と温暖な場所にあるのよね……。まあ、活火山が近くにあるからからそりゃね) 実際過去に何回か噴火してるし、私も命がけでここに住んでいたりする。 私は静かに近くの名も無き山を眺め、静かにそんな事を考えるのだ。 それはさておき、太陽が丁度真上に昇ったことから結構温かくなってきた。 (さて、たまには一人でのんびりお昼にしますか……) 私は自室に戻り、先程シスターリンから頂いたサンドイッチ入りのバケットを手に持ち、見晴らしがいい場所まで緩やかな斜面をのんびりと下っていく。(うん、此処がいいかな!) 眼下に広がるは先程も見た青色のルピナスの花、更にはそれとの境にまるで線で区切るかのように緩やかなカーブを描く小川が静かに流れているのが見える。 その川を渡った先には、青色のルピナスの花以外の白い花々が散在して咲いているのが見え、更にその先には例の活火山が静かにそびえたっているのだ。 ひと言で感想を述べると絶景で、私に絵心があればきっと筆を取り、夢中で風景画を描いていたに違いない。 (でも残念ながら私にはそれは無いし、今あるのは食欲のみ! キリッ!) そんな馬鹿な事を考えながら、私は手早く座るための敷物を敷いて行く。 なお、小次狼さんから頂いた竹筒の水筒にはダジリ
「それじゃ、また後日の」「またね……」 私は小次狼さんに軽く手を振り、花屋の外まで見送りを済ませ、再び2階に戻る。(さてと、次はシスターリン用のプレゼントを加工しないとね!) 私は気合を入れる為に背伸びをし、作業机の上で真紅の怪しい輝きを放つ大粒の魔石を見ながら、どんなペンダントをプレゼント加工しようか真剣に悩むのだ。 そして翌日の朝になり、花屋エターナルの開店と同時に一人の若き女性が私の店を訪れる。「おはようございます!」「あら、いらっしゃい!」 ドアを開くと、元気な声と共に黒の修道服を身に纏った若い女性が立っていた。 ゆったりとした黒いフードから覗くサラリとした赤毛。 修道服の上からも分かる華奢な体つき、それに少し丸みを帯びた愛らしい顔立ちに二重のぱっちりとした大きな目。 彼女は澄んだエメラルドグリーンの瞳でこちらを見つめている。 うん! 間違いない、シスターリンだ。「昼から持っていこうと思っていたんだけど……」「す、すいません! 待ちきれずにきちゃいました! あ、これお礼の差し入れです!」「あ、どうも……」(何かしら?) 私はシスターからバケットを手渡され、その中を確認する。「あ、サンドイッチだ、嬉しい! 丁度お昼をどうしようかなと迷ってたのよね!」 よく見るとそれとは別にバケット内の片隅には、カットされたリンゴなども丁寧に添えられている。 ウサギ型に丁寧にカットされたそれは、彼女の細やかな性格がにじみ出ている。(ここら辺の気遣いが子供達に大人気なんだろうな……) 「どうぞ中に入って」「あ、ありがとうございます。すいません急に押しかけて。や、やはり仕事の邪魔になりますか?」「え? ああ、まあ気にしないで……」 正直私の店に花目的で朝一で来