美貌のエルフであるレイシャ。 彼女はエターナルアザーという組織に追われていた。それはバンパイヤの長がトップに君臨する世界的に有名な異形の集団。彼女はその組織の元№2。 【レッドニードル】の異名で世を震撼させた怪盗令嬢であった。 レイシャは組織から逃げ続け、百年が経つ。 そんなある日、漂流し北の孤島ブリガンにたどり着く。 レイシャはそこで花屋『エターナル』を開業し、小さな客人や小動物達と理想のスローライフを楽しんでいた。 が、秘密裏に副業で行っていた魔石商がとある王族の目にとまり、その依頼を受けることになってしまって⁉ 元怪盗令嬢レイシャを巡る、ドタバタ物語が今ここに華麗に幕を上げる!
View More目の前に見えるのは真っ赤な炎……。
それが左右にチロチロと蠢いている様は、まるで『炎の精霊サラマンダー』の舌のように見える。
立ち込める煙と熱を帯びた灼熱の炎は、住み慣れていた私の屋敷が燃えていることを否応が無く実感させる。
そんな最中、窓からさしこむ月光とそよ風を受け、私の真紅のネグリジェが静かに揺れるのが見えた。
その揺らめきは、今の私の心情に思える。
そう、私の真正面には静かに佇む圧倒的存在がいるからだ。
「……いつまでも、この私から逃げられると思うなよ?」
その声は静かだが、私は確かな怒気を感じてしまう。
パチン……。
まるでホタルの光のように放物線を描き、火の粉が私の目の前を跳ねるのが見える。
私は口の中に確かな渇きを感じながら「……逃げてはないわ。ただ、追い求めている理想が貴方と違うだけ」と、返す。
再び火の粉が複数跳ねる音が周囲から聞こえる……。
「お前の理想と我の追及する美に違いがあると……?」
勢いを増した真紅の炎はまるで彼の憎悪を駆り立てる様に激しく燃え盛り、彼と私の間を遮る灼熱の壁となる。
「……他人からひたすら奪い続ける貴方達の行きつく先は、美は美でも滅び。即ち滅美よ……!」
やや僅かに間を置き、私は皮肉を込め言葉を放つ。
その私の言葉に対し、炎柱から覗き見える彼の端正な唇は少し歪んで見えた。
彼のまるでルビーのような真っ赤な瞳を見ると決して笑ってるようには見えない。
「……どうやら、これ以上話し合っても無駄のようだね」
彼は静かにこちらに向けて怒気のこもった言葉を放ち、その敵意と共に鋭い牙をむき出しにし、更に鉄槍のような鋭い爪をこちらに向ける。
黒豹のように締まった体を緩やかに前かがみにし、闇夜よりも深い漆黒のマントが優雅にはためくのはなんとも様になっている。
いつでもこちらに飛び掛かれる臨戦態勢、ということだろう。
そのなんともいえない圧のためか、私の額から頬へ一筋の雫がゆっくりと伝うのが分った。
私はその緊張感から静かに生唾を飲み込こむ。
(仕方が無い、やるしかないのかな……)
観念した私はため息と共に、腰元から愛用の武器を素早く抜刀し、それを正中線に静かに構える。
その刀身は真紅の棘のようであり、独特の怪しい輝きを静かに放っていた。
その獲物の名は【レッドニードル】、私の愛用のレイピアになる。
その時、頭上からまるで落雷のような轟音が響き渡り、天井が崩れ落ちるのを私は察知し……た……。
♢
……。
「……ちゃん。ねえ、レイシャおねーちゃんてば!」
「え? ああ、ごめんね。ちょっとボーっとしてて……」
気が付くと、私の目の前には赤いリボンのついた麦わら帽子を被り、赤いワンピースを着ていた小さな女の子がちょこんと立っていた。
彼女は大きな茶色の瞳をぱちぱちさせ、心配そうな顔でこちらを見つめている。
彼女の名前はマーガレット。
私の開いている花屋『エターナル』によく来てくれるお客さん兼お友達で、栗毛のおさげに真ん丸のふっくらとした顔にそばかすが特徴の小さな女の子だ。
で、今日の私の服装は白色のワンピースにお気に入りのペンダントを身に着け、レンガ色の革靴を履いてたりします。
私は寝ぼけ眼を擦りつつ、「ほう……」と軽くあくびをし、周囲をゆっくりと見渡す。
明らかに先程とは違うその風景。
辺りは、赤、青、黄色などのカラフルな花畑に囲まれた広い広い大草原が広がっている。
見上げると、雲一つない澄んだ青空が何処までも広がっている……。
そんな最中、爽やかな一筋の風が大草原を吹き抜け、緑の草花達はさわさわと波立つ。
(……そっか、どうやら私はこの余りの心地よさに居眠りし、過去の記憶を思い出しちゃったみたいね……)
安心した私はハンモックチェアーに再び腰を深く落とし、自身の両手を静かに胸元に組む。
その時、自身の胸元に付けている『大粒のルビーのペンダント』に偶然手が触れてしまう。
それはまるで太陽のように激しく輝き、圧倒的存在感を放っていた。
「……ねえ、大丈夫お姉ちゃん?」
その様子を見ていたからか、マーガレットは私の顔を心配そうにのぞき込む。
そう、この子は私と違ってすれてない純粋でとても優しい子なのだ。
「あ、ああ! 今日は暖かくて気持ちいいから、少し眠くなっちゃってね?」
「そうなんだ……。あ、話は変わるけど、お姉ちゃんってペンダンドいつも付けているね?」
「えっ! え、ええ……」
(この子、勘がいいからね……)
私はマーガレットの鋭い指摘に少し狼狽えてしまう。
彼女の指摘どおり、このペンダントは毎日身に着けている。
(だって、これは私の大事な……)
私は胸元に付けているペンダントをそっと握りしめ、再び物思いに耽る……。
そう、これは遥か昔の何百年前の私の記憶……。
私の名前はレイシャ。
この名はあの人が付けてくれたもので、その由来は花の名の一部からとったもの……。
そして、この真紅のペンダントはあの人に貰った大事な物だった。
だから……。
「ねえ、レイシャおねえちゃんはこのブリガンに来てどれくらいだっけ?」
「……えっと、5年くらい?」
私はそれをアピールするかのように静かに自身の髪をかき上げながら前かがみになり、マーガレットに目線を合わせる。
「へー、じゃ丁度私が生まれた時なんだね!」
マーガレット。
その名前の由来の通り、彼女が笑うその様は明るく私の心を癒してくれる。
「ああ、ここに来て本当に良かった……」と実感する程にね……。
現在私達が住まうこの土地ブリガン。
ここは世界地図の北東に位置する氷に覆われた島国。
他国からは『風景明媚な国』、『奇跡の島』、『北の孤島』などと言われている場所になる。
それらの所以は氷に覆われた島国ではあるが、火山国であるために冬は平均気温が0度と極めて低く、夏は平均気温が10度となっているからだ。
が、年中寒いわけじゃないし、これらの環境が数々の絶景を生んでいた。
例えば、まるでダイヤモンドのように輝く美しい氷河や、七色に光輝く帯のオーロラが見える大地、厳しい自然が作り出した飄々とした山々などがそれだ。
少し話はそれるが、この世界の中央に存在するガリアス大陸には3強国がある。
その強国たちですら、ここの自然の厳しさに参り、攻め込むのを断念しているほどだ。
(まあ、自然が厳しすぎて、たまに火山が大噴火してしまうのがね……。そのおかげで、天然の温泉があり、それに浸りながら見る絶景がとても魅力的なんだけどね)
そのため、自然に適応出来た人々や種族しか住むことが無いので平和と言えば平和だ。
てなわけで、このブリガンは一部の特権貴族様達が来る観光地となっている。
で、それがこの国の主な財源となっていたりするわけです。
「レイシャおねーちゃん!」
気が付くとマーガレットがまたもや私の正面にふくれっ面で立っていた。
(おっと、いけない。これは悠久の時間を与えられた私達エルフ族の悪い所よね……)
私はそれを確かめるように、自身の少し尖った長めの耳をそっと触れる。
「ごめんごめん! で、どの花を買うか、もう決まったの?」
彼女はふるふると可愛らしく首を左右に振る。
「……うーん、じゃ私と一緒に決めよっか!」
「うん!」
たちまちぱあっと明るく輝くマーガレットのその笑顔。
……マーガレットは孤児だった。
漁師である彼女の父親は、ある日漁をしている最中、海で屈強な海賊共に出会い殺されてしまう。
で、元々病弱だった母親はそのことが原因でショックで寝たきりとなってしまった。
そんなある日、この国お家芸の火山の大噴火が発生し、寝たきりの母親も命を落としてしまったのだ。
悲しい事に厳しい環境にあるこのブリガンじゃ珍しくも無い光景であり、被害者はマーガレットだけではない。
そんな最中、不憫に思った教会のシスターに拾われ育てられ今日に至ったのだ。
(……そう、今日ここに彼女が花を買いに来たのは、そんな育ての親であるシスターリンへの誕生日プレゼントを買いに来たからなんだよね)
実は彼女と同じ孤児育ちの私。
だから私は、共感の為か彼女に対し「ついつい何とかしてあげたい」と思ってしまうのだ。
……しばらく会話して分かった事がある。 第一王子のラデーニはこのイッカ国の正式な跡取りで、絵に描いたような若き王であるという事。 IQ・EQ等能力などは他の世界の王と比較すると、平均よりちょい上と言ったとこだろう。 性格は温和そうではあるんで、国の民視点としては安泰といったところか。 対して王妃はずっと黙っているので情報はくみ取れず、性格等正直よく分からない。(分かっているのは辛抱強いという事、それにもの凄く賢しこそう) 理由としてはなんというか温和そうで気品があるし、ベラベラ余計な事を喋ったりしないから。 更には一国の王女となると、権力持ちになり多少なりとも気が大きくなるもの。 が、この方からはそんな気配は微塵とも感じとれないのだ。 ちなみに王女のラグシカの姓、このイッカ国の弱小貴族らしいので事前に耳に入れておいた政略結婚説は濃厚である。(この方、もしかしたら誰か別に好きな人がいるんじゃ?) というのも、やや悲壮感漂う雰囲気がアレニー王妃から見え隠れしている。(小次狼さんはどう思う?) 私は、出入口付近で静かに立ったまま佇んでいる小次狼さんに、静かに秘密のジェスチャーとアイコンタクトを送る。 すると、小次狼さんはそうだと言わんばかりに深く頷く。 ちな、今回は小次狼さんは私のサポート役なんで、見張りも含めて出入口付近に待機して貰っているわけです。 これらの役割なんだけど会話の相性次第で当然変わるわけです、ハイ。「あ、では頼まれていたアクセサリーをお渡ししたいのですが、よろしいでしょうか?」 「ああ、これは気が付かなくて申し訳ない。えっと、出来たら詳しい説明を含めよろしくお願いしたいかな」「ええ、かしこまりました……」 私は営業スマイルと共に軽く会釈し、懐から取り出した宝石入れの装飾小箱をテーブルにそっと置く。 対してラデーニ王子も説明を聞く為に、私の対面に移動し腰かける。「ええっ! なにこれ……。凄い……」 すると驚いた事に、今まで反応が薄かったアレニー王妃が急ぎ足でこちらに向い、ラデーニ王子の横に腰かけたのだ。(ええ? なにこの反応? うーん、ま、まあ女性だからね?) うっとりとした恍惚の表情で宝石入れの装飾小箱を見つめるアレニー王妃……。 ちなみにこの宝石入れの小箱、片手で掴める大きさでかつ金の装飾が施さ
数分後、私達は仮面を外し、木扉のアーチ扉前に深呼吸をしながら立っていた。『木扉のアーチ扉に生花が飾られているところが王子達の控室です』 なるほど、執事から聞いた内容からして、ピンクやイエローなどの花々が飾られているこの部屋で間違いなさそうだ。 私は若干汗で滲んだ手で扉を軽くノックし中に入る。 すると、真正面には金髪貴公子の立派な肖像画が、床は真紅の絨毯がひかれ、その上には木製の装飾丸テーブルと真紅のソファーがあるなど、少しこじゃれた感じの小部屋になっていた。「すいません、客室での対応になりまして。初めまして私の名はイッカ=ラデーニ! 隣にいるのが王妃になるラグシカ=アレニーになります」(ああ、それで……。領主の部屋にしては大人しいと思ったのよね) そう、祝いの部屋の様な飾り気があるものはほとんどないのだ。 ソファーから立ち上がり軽くこちらに対し一礼し、こちらに優雅に歩み寄って来る御仁をよく見る私。 ショートヘヤの整った金髪に長身のスラリとした体形が純白の装飾コタルディの上からでも分る。 更にはシャープな眉と端正な顔立ち、更にはこちらを見つめる憂いを帯びたブルーの瞳に艶のある白い肌。 第一印象から見て、絵に描いたような利発そうな若き王子様かなと。 よく見ると、後ろの肖像画はまんまこの王子のものだった。 で、ソファーに大人しく座っているのはきっと婚姻する王妃、即ち花嫁だろう。 白い装飾ドレスにそこからでも体のラインが分る華奢な体つき。 ロングヘアの金髪に、やや丸みを帯びた可愛らしい顔立ちにたれ目のぱっちりとした大きな瞳。 申し訳なさそうにこちらを見つめるエメラルドグリーンの瞳からは、彼女の繊細さが感じ取れ優しい方なのが私には理解出来た。 私は営業モードに素早くスイッチを切り替え、少しの情報から性格などを予想していく。 そう、楽しむことは勿論大事だけど仕事はきっちりやるのがプロというもの。「あ、いえいえお構いなく。私達は対応していただければ正直どこでもかまいませんので!」 凛と答える私に対し、隣で静かに頷く小次狼さん。「今日は快晴だし、いい式日和になりそうですね」「ええ、本当に!」 私の会話に対し、少し顔がほころぶ第一王子。 対して後ろに控える王妃様は相変わらずのご様子。 なお、この方は第一王子であり、仕事を依頼してき
そう、私は冷静とも恐怖ともとれる感情に支配されながら、意識が次第に薄れていくのを感じていたのだ。「……ということがあり、後はやる事はやったけど組織の変革は叶わなかったので、抜けて現在に至るってわけ」 私の過去の経緯を静かに聞いていた小次狼さんは一息置いたのち、自身の手に持っていたグラスに注がれた白ワインをぐいっと飲み干す。「……そうじゃったか。が、その話が本当なら嬢ちゃんもバンバイヤになっているはずでは?」「そこなんだけどね。私の場合エルフの中でも特異体質だったみたいなんで、今のところ髪の毛の色が銀から紫に変色しただけなんだよね」 実際に今こうして真昼間の中に太陽の光をおもいっきり浴びれてるし、そもそも孤島ブリガンに漂流した時も当然海水に浸かってるてたしね。 私は霧やコウモリに変身出来ないし、非力のままだ。 だからか他のバンパイヤと違って、私は血を飲む必要もないし普通に食事して事足りている。(なんというかその、私ってエルフとしてもどうしようもなく欠陥だらけなんだよね) 「おそらくだけど、私の場合魔法が使えない事が起因していると考えてるのよね」「なるほど、特異体質による魔法や呪いの遮断か」 再び、私自身の空いたグラスに白ワインのおかわりを注ぎつつ頷く私。 「そもそもバンバイヤって何?」って話になるけど、この世界では「暗黒神の呪いみたいなもの」って聞くし、正解はバンパイヤの始祖かパンパンヤに詳しい人に聞くしかないかなって思っているのよね。(ま、正直今はどうでもいいかな) それはさておき、小次狼さんにも秘密にしているが、実は私成長が15歳から止まったまんまだ。(元々エルフ自体長寿なんで、気づきにくい内容ではあるんだけどね……) 更には、何故か他人の言っている内容が嘘か本当か分るようになった。(おそらく長から噛まれて得た能力だとは思うけど……) なんにせよ、エルフとして欠陥だらけだった私はこれらの事を「長所が増えた」とポジティブにとって生き抜いてきた。 で、話を過去の話に戻すが、色々とイレギュラーだった私は幸か不幸かその後も長に気に入られ、結果組織のナンバー2として君臨することが出来た。(結局組織の内容は長が変わらない限り変えられなかったので、断念して抜けちゃったんだけどね) 組織をある程度自由に動かせ【世界をまたにかけ
ダジリン島……。 私達が現在住んでいるブリガンと対極に位置する島であり、世界の北西に位置するもう一つの孤島であった。 ブリガンと違うのは全体的に温暖な気候であったため、海域での海賊とのいざこざが多かったという事。 悲しい事に、歴史上恵まれた大地には争いごとは絶えない。 その為、幸か不幸か争いごとに強い一族が必然に王として君臨することになる。 これがダジリン島王家が世界最強の海軍を持つ所以であった。 また、人族の王はダジリン島に住まうエルフ達とも同盟を結んでいた。 理由は現状味方をつけないと、人だけではやっていけないと聡い人族の王は理解していたからだ。 結果その聡いダジリン一族が島を統治した関係で、この島の名前はダジリン島と命名される。 なんでも私達エルフはこのダジリン島の豊かな森林を拠点として暮らしており、無益な殺生はしないとか肉は食べない堅物とか聞いたことがある。(ちなみに私は生粋の森林育ちでは無いから肉も魚も大好物です) 話をエターナルアザーに変えるが、組織の長はなんとあの伝説のバンパイヤだ。 ちなみにバンパイヤとは吸血鬼やドラキュラという別名もあり、人の生き血をすすりコウモリなどに変身する超強い不死の異形生物の事だ。 走る速さも狼並み、鉄の棒も軽く一ひねりできる怪力を持ち、モンスターヒエラルキーの中でも頂点に近い存在らしい。 ただし、太陽の光や聖なる十字架、聖水更には水に弱く、何故かニンニクも駄目らしい(謎)。 で、このバンパイヤ、何千年という古い歴史の中でこのダジリン王家との戦争に敗北した一族、つまり元は人であったという噂も聞く。 何はともあれ、そのダジリン島から少し離れた更に小さな孤島に【エターナルアザー】の居城はあった。 私がこの居城に連れてこられたのは、さらわれたとも捨てられていたとも聞くが真相は定かでない。 なにしろ私は生みの親を見たことが無いのだから。 ただ、理解出来ていたのはこの組織での生活はそれなりに充実していたという事。 で、周囲はもれなく組織の関係者だし、私が理解しているのは「組織の長の言う事は絶対だ」という事で、「長に気に入られるためには、金銀財宝に対する目利きやそれなりの戦闘能力が必要」だった。 そう、その理由は私達の組織【エターナルアザー】は世界を相手にする怪盗集団だったからだ。 アジ
真っ赤な情熱的なドレスを身にまとった煌びやかな貴婦人をブルーの燕尾服を纏ったスタイリッシュな紳士がエスコートする場面などなど……。 よく見ると大半の方々がそれぞれお気に入りの仮面をつけているのが散見されていた。 ということで、私達もそれに習い各自用意していた装飾仮面を懐から取り出し、静かに身に纏う。 ちなみに小次狼さんは龍を模した仮面を、私は右寄りに赤薔薇の飾りがついたベネチアンマスクを身にまとった。 それぞれ昔のコードネームを模しているので、それなりに意味はあり、小次狼さんは【禅国の雷龍】、私は【レッドニードル】だったりする。 てなわけで、準備が整った私達は紳士淑女それぞれが片手にワイングラスを持ち優雅にざわつく会場内を颯爽と歩いて行く。 そう、まるで優雅なワルツを踊るように軽やかに……ね。 え? 「何故場慣れしてるか」って? そりゃ、わたくし昔怪盗業をやっていた身なので、昼間は堂々とこんな感じで現地の下見とかしてましたからね……。(もうかれこれ百年以上も昔の話だけどね……。私、なんせ長寿のエルフなんで……ええ) 隣を歩いている小次狼さんも忍びの元統領だし、威風堂々としてるもんです。(よくよく考えると、私と小次狼さんって元裏家業のツートップなのよね) 今は孤島でのんびりモフモフスローライフで、花屋と魔石商やらせていただいてますが。 それは兎も角、今は少しの運動と頭を使ったからか丁度小腹が空いている。 ということで、私達も白テーブルに置かれているとても美味しそうなワインとコックが運んできた出来立ての料理を食べていく。「あ、この貝のパスタとても美味しい!」「そうじゃな、ここは海辺近くだし、川も近くに流れているしの。イッカ首都は海産物や川辺の美味しい物が食べられる場所で有名じゃしのお」「芸術の国であり、海産物料理が美味しい国か……。なんともオシャレな国……」「そうじゃの、だからこそ戦争の歴史が長くはあるの……」「栄華の頂点に争いの歴史あり……か」(それが嫌だから私は組織を抜けたのよね……) 私達は見晴らしの良い城の最上階から見下ろした海辺や草原などの極上の風景をつまみに、美味しい白ワインを飲み干していく。 そして思うのだ、だからこそ今は真っ当に生きたいと思い、コツコツとこの仕事を私は頑張っている。(これは言い訳にしか
「彼は嬢ちゃんの知り合いか?」「いえ、全く心当たりがないわ……」 その様子を静かに見守っていた小次狼さんは私にそっと尋ねる。(本当に心当たりが無いのよね。組織の知人の誰にも該当しないし……) ただ、気になるのは先程銀髪の青年が身に着けていたペンダント……。(でも、あれは彼が身に付けているお気に入りの物だし、多分類似品だろうと私は予想してるけど……)「しかし、爽やかな青年じゃったな……」「あ、小次狼さんもそう感じました?」「ああ、嬢ちゃんに近づいてきたのも本当に挨拶目的じゃったしな」「うん、純粋で邪気を感じなかったしね」 お互いの顔を見合わせ、感じた情報交換をしていく私達。「ただ、分っているのは青年の言う通り、城内で再び会うということか」「ええ、そうでしょぅね」 私は先程の青年の笑顔に何故か懐かしさを感じてしまい、そこが妙なもどかしさを感じてしまっていたのだ。「ねえねえ! あの陶磁器色艶が凄かったね!」「ああ、曜変天目のまるで星のような煌めきに宇宙を感じれたしのお……」 私達は目を輝かせ興奮し、語り合いながらラウヌ美術館を出ていく。 そう、『仕事は遊び、遊びは仕事』これが私達の仕事のスタンスであり、これらの話し合いは客観視した仕事としてのインプット後の大事なアウトプット作業の答え合わせなのだ。 こうして私達は目の前の円状の大噴水を眺めながら、しばし語り合った後、晴天の最中真上に昇る太陽を見つめ、イッカ城へ向かうのだ。 それからしばらくして……。「うーん、流石に見事なお城ね……」「ああ、そうじゃな」 私達は目の前に見える、幻想的で超巨大な白亜のお城を眺め思わず感嘆のため息をついてしまう。 というのも今、私達は吊り橋を渡ってやや遠くからイッカ城を眺めているのだが、海辺に建てられたその様子が本当に凄すぎて……。(天気が良いからか、水面に写った白城がまた何とも言えない味がでていて、もうね……) お陰で私達は時間を忘れ、その素晴らしい情景を楽しみながら目的地である城内に辿り着くことになる。「本日はようこそいらっしゃいました。ささ、どうぞ城内へ。婚礼の間には私が案内させていただきます」 流暢な動作と共に私達に礼をするのは、見た目二十歳前後の体格の良い黒服金髪のミドルヘア男性執事。 彼にまぬかれ、私達は大人2人分はあると思
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